わかばだい天文同好会
蛍−光害の生態系への影響
1.前書き
わが国での蛍といえば、夏の風物詩でもあり、夜空をおおう光の乱舞を記憶される方も多いと思う。では、他のアジアの国では、この小さな生き物はどのようにとらえられているだろうか。
フィリピンでは、やはり愛される生き物のようだ。子ども達は、蛍狩りに出かけ、家に持ち帰ってはその光を楽しむという。ただ、人々が大人になるにつれ、忘れられ、気にもとめられなくなるという。それだけまだよく目にする生き物のようだ。これは首都ではなく、バギオという避暑地での話だ。
スリランカでも同じように「可愛い物」、「愛すべき物」として扱われる。ただ大人達は、忙しくて気にもしないそうだ。そして蛍は、どこにでも沢山いる。
中国でもだいたい同じように「愛すべき物」として扱われている。
2.蛍と人工照明
わが国では、蛍の姿を偶然見ることはもうあまりない。なぜ蛍がいなくなったのだろうか。
水質汚染、農薬の多用、河川の護岸工事等、蛍が生きる環境が悪くなっているのと同時に、人工照明が蛍の生息を不可能にするというもう一つの大きな原因があるからだ。横須賀市自然博物館の大場信義先生によると、強力な人工照明は:
- 蛍のコミュニケーションを撹乱・妨害する
- 飛翔発光活動を抑制する
- 広範囲の雄を誘引したり、撹乱させたり
- 配偶行動を阻害する
- 特に、蛍の幼虫は、僅かな照明によっても発光活動を停止する(背光性)
(以上出典は光害通信より)
等の影響があることを実証されている。また、「人間が生活する場と蛍が生育する環境は、基本的に整合性を持たない。」とされている。
3.蛍の住む環境を守る
蛍と共存する事が不可能にしても、蛍の住む環境を守り、保護して行くことは出来る。そのためには、蛍の生育地やその近辺では、人工の照明に対して十分な配慮が必要であることも分かっている。人工の光が不要な所へ漏れないような工夫、不要な照明をしない等の配慮が必要になってくる。これは、アマチュア天文家やプロの天文家が進めている「光害」対策、あるいは、「星空を守る活動」と共通するところが多い。
近年では、水田での農薬使用の抑制、水辺の汚染対策等がある程度進み、場所によっては蛍の生育復活を望める場所も増えてきている。ここで、もう一つの人工照明への配慮を実施し、この誰からも愛される小さな生き物をより多くの場所で守る事が可能になる。
4.人工照明の問題
現在よく一般に使われている人工の照明の多くは、次のような欠点を持っている。この欠点のほとんどが蛍の生育に影響する欠点でもある。
- まぶしさ: 視野に直接入り、目をくらませ、視認性を低下させる。蛍に対しても同じように問題となる。
- 迷光: 望みもしない場所に光が入り込むこと。街灯の光が、部屋の中やベランダを明るく照らすこと。
- 夜空を明るく照らすこと: 人工の照明が本来照明を必要としない夜空(上方)を照らすこと。
以上のように、人工照明の欠点は、蛍の生育に直接影響を与える欠点でもある事が分かる。「まぶしさ」、「迷光」、「夜空を照らすこと」のどれをとっても上に上げた蛍の習性に影響を与えるものだ。満月の夜は、蛍の発光活動が抑制される事からも、いかに蛍にとって光が影響しているかが分かる。
同時にこれらの欠点を持つ照明は:
- エネルギーの無駄になる:
- 夜空を照らしたり、まぶしさになったり、部屋の中に入り込む光は、エネルギーの無駄になる不要な照明だ。
- 景観の破壊:
- 無秩序に設置された照明は、環境を破壊する
5.その他の光の自然への影響
人工照明の生態系への影響は、蛍への影響ばかりでなく他にも報告されている。
- 稲、菊、ほうれん草など農作物への影響
- 街路樹への影響
- ウミガメへの影響
また、渡り鳥が人工の光に誘導されたり、高層ビル街に迷い込む例も報告されている。
不用意な照明が気付かない間に、色々なところで自然にたいし影響を及ぼしている具体的な報告がここにある。
6.計画的な照明の設置
省エネルギー、環境、そして生態系への影響を考えれば、人工の照明は十分な計画の元に設置されなければならないことが分かってくる。明るく照らせば良いという不用意な照明の設置は、人間の生活の便宜を図るという目的以上に、沢山の影響が出ることを気付かなければならない。人間の便宜、環境(景観の保全、生態系への影響等を含む)、そして省エネルギー、星空を守る事等を総合的に考慮し、照明の計画そして具体的な設計が進められるべきであろう。
環境庁、照明学会、国際照明委員会(CIE)そしてIDA等の機関で屋外照明に関するガイドラインの作成、基準を作る動きがある。この様な公的な動きとともに、自治体、コミュニティー、地域の中で照明に関する意識を高め、適切な照明の計画を必要とする。この様な地域社会に生活する我々が主体になり、具体的な行動を起こさなければ、効果は少ないし、そして時間がかかる。我々が毎日関わって行く生活の場で、地域の中で光害の認識を広げ行動につなげて行く事が効果がある。
7.まとめ
蛍を守る、星空を守るという活動は、その効果を考えれば非常に共通点の多い活動であり、互いに恩恵を受ける事が多い。ここで強く主張したいのは、この様な照明に対する新しい要求は、一部の自然愛好家や天文家達の狭い、身勝手な活動では無いことである。これらの活動を通して学ぶことの多くは、直接人類の大切な資産、つまり自然の保護、そして人類の生活を守る事に直接深くつながっている。
6月は、蛍の季節である。梅雨の長雨の後、突然空一面をおおう蛍の乱舞、その美しさは、星空を眺めるのにとても良く似ている。農家では、菜の花から菜種を採った菜種殻を箒に使う。この菜種殻の箒をもって、蛍狩りに出かけるのだ。子ども達が声を上げて蛍を追う姿は、アジアの国々では共通するようだ。
そう言った自然との共存は、我々に課せられた、楽しい、愛らしい仕事であろう。
この資料の著作権は、わかばだい天文同好会にあります。光害を無くす活動で非営利目的の利用には、わかばだい天文同好会の著作権を明示した上で、自由に使用して下さい。
御質問については、わかばだい天文同好会へ連絡願います。
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Last update: February 22, 1996