CIEのガイドラインは本当に光害を少なくすることが出来るだろうか?
1.概要
国際照明学会 International Commission on Illumination (CIE)が作成したレポート"GUIDELINES FOR MINIMIZING SKY GLOW"にもとづいた屋外照明のガイドラインが検討されている。強い規制を重要な天文台の近辺にあたえ、都市部には相対的にゆるい規制を与える「ゾーニング」をもとにした屋外照明のあり方が提案されたものだ。
この天文台を守る事を主体にした「ゾーニング」を色々な角度から見ると、照明に関わる多くの問題を残すことが分かった。それは、主に障害光とエネルギーの問題に関わるものであり、これらの問題を同時に解決するガイドラインの作成が急務である。
2.ゾーニングの持つ問題
ゾーニングは、照明に関わる問題を天文を主とした視点で見るため経済(エネルギーの無駄)、環境、更に障害光の問題を残す事が指摘できる。つまり;
- 都市部で30%以上のエネルギーの無駄を起こす
- 障害光特に「眩しさ」と「漏れ光」の問題が解決されない
更に天文に関してさえも次の点を指摘できる:
- 都市部及び都市近郊の天文活動が軽視されている
- 低い角度で出る光が都市から離れた場所の空の明るさに影響する
以上のことを一つ一つ詳しく見てみよう;
3.エネルギーの無駄
ゾーニングに規定されるゾーンE1〜E4の「上方光配光率(UWLR)」から導き出されるエネルギーの無駄を表3−1に示した。これを見ると最も多くの屋外照明が使われる都市部において、最大38%のエネルギーを無駄にする事を許している。上方に向けられた光は、不要でありエネルギーの無駄につながることは言うまでもない。また、眩しさの原因になる障害光も同様である。
表3−1(注1)
ゾーン 上方向配光率 エネルギーの無駄 水平より上に出る角度
(%) (%)(注2) (度)
E4 25 38 30
E3 15 29 16
E2 5 21 5
E1 0 17 0
注1. 表に示す値はいずれも最大値を示す。
注2. エネルギーの無駄には、75度〜90度のグレアゾーンに出る光も含んだ。
屋外照明が出す費用の無駄は、IDAの試算で米国において10億ドルから20億ドルに相当する。これは、費用だけでは無くCO2、NOx、SOx等の排出にも勿論影響している。(添付資料-2参照)わが国でも同様の費用の無駄が発生していることは、容易に理解できる。
4.障害光が解決されない
光源から75度〜90度(図4−1参照)の角度で出る光が人に取って眩しさの原因となり、光を必要としない場所(例えば隣家の窓の中など)に届くことにより、本来の人の便宜をはかる照明が障害になる事が指摘されている(CIE)。この問題を「障害光」と呼ぶ。これは、CIEのリポートにもまぶしい光が車の運転に危険であることが説明されている。
図4-1(図はPHOTONプロジェクト提供)
既にJISにおいてカットオフ型の照明の規定があるように、障害光を少なくする事が照明の大きな課題である事は言うまでもない。上の表3−1に明らかなようにCIEのゾーニングに従う配光では、75度〜90度の角度の光がまったく規制されていない。障害光の問題の解決がなされていない、或いは考慮されていない事になる。
5.都市部及び都市近郊の天文活動が軽視されている
5.1都市照明の影響
わが国の天文台の多くは、都市部及び都市近郊に位置している。都市から離れた遠隔地にある天文台でも都市部からわずか数十キロの距離が限度である。
下記に著名な天文台の都市からの距離を例として示す;
- 国立天文台(三鷹):新宿(13)、渋谷(13)
- 国立天文台(岡山):玉島(7)、笠岡(10)水島工業地帯(13)
- 国立天文台(野辺山):甲府(35)、前橋(70)、八王子(80)
また、首都圏の近くで国立公園に指定され、美しい星空を唯一眺められるはずの富士山でさえも、近隣にある都市の照明の影響を受け、空はどんどん明るくなっている。
- 富士山:御殿場市(8)、富士市(15)、秦野市(40)、厚木市(50)、横浜市(76)
都市照明の影響を受けない天文に適した場所を確保する事は、非常に困難になりつつある。都市部での照明の改善が最も望まれる事が分かる。
5.2低い角度で出る光
IDA (米国Sky&Telescope誌1996年11月号)によれば、光源から水平より5度上を向いた低い角度で出る光は、その約90%が大気に吸収されるか拡散され、真っ直ぐ上に向く光に比較して3倍から4倍空の明るさに貢献する事が報告されている。また低い角度で出る光は、都市部から離れた場所で影響があることも報告されている。つまり都市から離れた場所であっても低い角度で都市照明から出る光の影響により、夜空は以前として明るくなる危険があることが分かる。
つまり、表3−1にある水平以上に出る角度にあるようCIEのガイドラインでは、0〜30度の範囲で出る光が残り、特に最も多くの照明が使われる都市部から30度の角度で出る光についての影響をなくさない限り、離れた場所においても都市の影響を受けることが予想される。
これは、実際に「星空を守る会」の行った調査でも明らかになった。都市から100キロメートル以上離れた北海道の平野部での空の明るさは、兵庫県の山間部よりも明るかった。つまり、遮蔽物のない平野部では、都市から低い角度で出る明かりが離れた地点まで影響していることが分かった。
6.結論
照明を天文を主体にして規制することは、多くの問題を残す。照明は、エネルギー、環境、CO2削減、夜間の安全、障害光、視認性等々非常に多面的な問題を含むものである。ここに上げた照明の問題は、より人口が多く、より多くの屋外照明が使われている都市部でこそ適切な対策が実施されなければならない事を示している。
また、ここに上げた問題を解決する適切な照明は、同時に上方への光を抑制するものであり、天文にとっても良い結果をもたらす事につながる。エネルギーを有効に利用し、障害光の少ない照明は、誰にとっても、天文家にとっても利をえる照明であることを考慮し、ガイドラインが作られることが必要である。
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国際ダークスカイ協会日本セクション(IDA Japan Section)幹事
Last update: 1997 October 11