東大和天文同好会ライトダウンキャンペーン


ライトダウンに思うこと


このローカルインフォメーションシートは、東大和天文同好会の報告より許可を得て作成しています。著作権は、東大和天文同好会にあります。
ことの始まりは1月12日だった。Uさん、H君とHale-Boppの本年初観測に出かけた我々は、八ヶ岳周辺のスキー場の灯りに圧倒されてしまった。何しろ明るい。真昼のよう、という表現が決してオーバーではない程だ。

スキー場に手紙を書いてみよう、という考えは、こうして帰りの車中でUさんと自然発生的に生まれたのです。さて、どのように手紙を書いたら相手が協力してくれるでしょうか。私はパソコン通信や雑誌で目にした「ライトダウンキャンペーン」のことを思い出しました。確か百武彗星の時も話に出ていたようだったし、Hale-Boppの際にもやるらしい・・・もしかしたら既に他の人がスキー場にライトダウンを働きかけているかもしれない、きっとライトダウンに取り組んでいる団体と連絡を取り合えば、単発で手紙を書くよりも効果的ではないだろうか、という考えに至りました。

ちょうどそのときUさんから連絡がありました。「Yさんから連絡が来て、横浜のわかばだい天文同好会からライトダウンへの協力要請を受けたがどうしようか?」とのこと(ほしぞら137号参照)。早速わかばだい天文同好会(略称わか天)とのメールでのやりとりが始まりました。わか天のホームページはライトダウンへの取り組みが非常に盛んで、資料も豊富で驚きました。こんなに熱心に突っ込んで活動しているグループがいたのを始めて知ったのです。

1月26日の定例会で、ライトダウンについてかなり真剣に話し合いました。内容はHASレターにもある通りですが、もう一度紹介しましょう。

  1. 4月1日付けの市報に載せ、市民に呼びかける。
  2. Hale-Bopp彗星の観望会を行い、実際に星空を仰いで、光害を認識してもらう。
  3. スキー場に手紙を出し、ライトダウンの協力要請をする。
  4. 藤橋村の松本さんに問い合わせて百武彗星の時に岐阜などで行ったライトダウンのことを聞いてみる。
  5. 多摩地区としてできることはないか
    1. 他の同好会と連絡を取ってみてはどうか。 
    2. アサヒタウンズ(朝日新聞の地域版)に載せてもらう。
こうしてHale-Bopp彗星接近までの残り少ない時間の中で、私達のライトダウンキャン ペーンがスタートしました。

最初に私が取り組んだのはスキー場への手紙書きでした。スキー場の位置、規模、ナイターの有無などを調査するためにスキー場ガイドを買ってきて検討。結局、どうせやるなら八ヶ岳周辺の全スキー場に出そう、と決定。ナイターの有無によって2パターンの文面を考え、環境庁のチラシのカラーコピーとUさんが撮った直焦点の写真、返信用の切手付封筒を同封して2月中旬に、21カ所のスキー場に郵送しました。

返事が来たのは9カ所。来なかったところは「協力できない」ということなのでしょうが、返事を是非聞きたかったのでちょっと残念でした。返事の内容は好意的で、「可能な限り協力したい」「夜間の照明は使用していない」の内容がほとんどでした。「観望会を開きたい」「観測の際には風邪など引かぬよう」「観測が成功されるようお祈りします」など嬉しい文面が多く、なかにはリフト券を送ってきてくれたところもありました。

特に重要だった野辺山ハイランド、キッツメドウズ大泉・清里の2箇所は、いずれも希望日をあらかじめ連絡すれば、スノーマシンの夜間稼働を極力他の日時にずらしてくれるという嬉しい返事。キッツメドウズの担当者とは電話で直接話しましたが、非常に誠意を持って応対してくれました。この取り組みの成果は、3月8、9日の野辺山での観測で表れました。

8日は真っ暗。気象条件も最高だったため素晴らしいHale-Boppを拝むことが出来ました。この日の夜明けの気分は一生忘れることが出来ません。9日も普段の夜より明らかに照明を抑えており、観測に支障が出ない程度でした。

これらの協力してくれたスキー場に対しては再度お礼の手紙と写真を送りました。次回何か天文現象がある時に今回の実績が生きてくると思います。

スキー場対策が「即効薬」とすれば、地元での取り組みは「漢方薬」的な、じっくりとした長期的なものではないかと思います。私が思ったのは、趣味の天文を通じて何か社会にメッセージを送りたい、このキャンペーンを単なる「星が見たい人達のわがままな要求」で終わらせたくないということです。灯りを消して星を眺めることを通していろんなことを感じてもらえたら、と思ったのです。百武彗星の時は、暗い空と晴れ間を求めてあちこちに出かけましたが、地元の人達になんにもしてあげられなかったことをかなり後悔しました。彗星が去った後で、「興味はあったんだけど探し方が分からなくて・・・」という話を聞く度に、「もっとなんとかならなかったのだろうか」と自責の念に駆られました。市民に彗星を見せてあげるのは僕らにとっての「義務」だと言っては言い過ぎでしょうか。

僕は、ライトダウンそのものよりも、一般の人に広く星空を仰いでもらい何かを感じてもらう機会づくりが、大切なのではないかと感じています。天文ファンなら誰でも光害が無くなることを望んでいると思いますが、一般の人に説明しても、理屈で分かっても実感としてとらえることは難しいと思うのです。それより市民観望会などを通して実際の星空を体験してもらい、さらに、星を調べることで地球の起源や未来など身の周りの話題につながってくることに興味を持ってもらうのが一番大きな力になるのではないでしょうか。渡部潤一さんの本(彗星、地球へ大接近! ヘール・ボップ彗星がやってくるの2冊)を読んでその思いをますます強くしました。

2月1日。郷土博物館の星空観察会。星空の解説に加えて、ライトダウンについての説明を行いました。

アサヒタウンズ、マイテレビへの取材要請。アサヒタウンズからは返事無し。マイテレビからは是非取材したいとのこと。3月23日の定例会での収録となり、28〜30日にかけて放送されました。南街と野辺山で同条件で撮った135mmでのガイド撮影の写真が活かされました。朝日新聞の立川支局にも送りましたがボツになったようです。

ライトダウンと彗星観察のパンフレット作成。これは後述の駅前観望会用に作りました。私が忙しくて手が回らず、これまた多忙のUさんに頼み込んで作成してもらい、2人で相談しながら完成しました。自画自賛ですが、非常に良い出来になったと思います。

Mさんから問い合わせの返事が届く。Uさんと2人で検討した結果、「間に合わなくてダメモトでもいいから、市長に手紙を書こう」。ライトダウン週間まであと1週間の時点のことです。必死でワープロを打ち、その晩のうちに市役所の夜間窓口に預けに行きました。元市議会議員で衆院選では菅直人氏の要請で出馬した中野しのぶさんにも手紙を出しました。Mさんと中野さんとは昔から交友関係があることを、実はこの時点で私は知りませんでした。

通行人の多い駅前での観望会の企画。毎日やりたいくらいだが、参加できる HASメンバーがあまりにも少ない!3月24、30日の2回。好天に恵まれ、駅前からでも肉眼で尾が見え、通行人のなかには感激して屋台のたこ焼きをおごってくれる人とか、いろいろ面白いリアクションが見られ楽しかったです。パンフレットは2日で75部配り、目的は果たせたと考えています。スケートセンター所長の小野寺さんは、星の良く見える地方出身とのことで我々に理解を示してくださり、大変お世話になりました。

郷土博物館の彗星観察会。3月26、27日は、曇。26日はUさんが参加、27日は誰も協力できないという惨状でした。晴れれば大盛況になったことと思います。4月12日の星空観察会は、申込がわずか2日間で定員突破し、その後断った人の数知れずの空前の状況となりました。この日もHAS参加者はU、YA、Oの3名のみで、150人近い市民に応対するのにヘトヘトになってしまう程でした。Nさんもてんてこまいでした。博物館の屋上に上がったみんなにハンドマイクで解説。「月の右に見えている星が、カペラという一等星です。カペラの下の方をみてください。ちょっとぼんやりして普通の星とは違うでしょう?あれがヘール・ボップ彗星です」見つけた一同からどよめきが起こり、私はその反応に不思議な興奮と感動を覚えました。「やっててよかったな」と感じる瞬間です。この日は、中野しのぶさんも駆けつけてくださり、星空の下でいろいろ話をすることが出来ました。中野さんは気さくな方で、今後も出来ることがあれば是非協力しましょうとのことで、非常に嬉しく心強い限りです。

以上、長々とライトダウンへの取り組みの経緯と経過を紹介してきました。今回のことに関しては、私個人の思い入れも強かったため、個人でやるか会として取り組むかは、初期の段階から随分悩みました。「会としてやろう」といってくれたUさんをはじめとするメンバーの皆さんには本当に嬉しく感謝しています。また、スキー場の宛名書き、文面のチェック、駅前観望会への参加などいろんな労力を惜しまず協力してくださった皆さんにこの場を借りてお礼をさせてください。特に忙しい最中にパンフレットを作成したり、ほとんど連日のように打ち合わせ等につきあってくださったUさんにはいくら感謝しても足りないほどです。

本当に、みんなありがとう。

1月12日が全ての出発点でしたが、その後試行錯誤を重ねていくうちに気づきました。私自身が天文を通して本当にやりたかったことは実はこれではないかと。星空を眺めることを通じて、いろんな人と感動や考える材料を分かち合い、共有すること、これです。「感動」を「夢」とか他の言葉で置き換えても構いません、ちょっとクサいセリフになってしまいますが・・・ですから、いつの日か東大和で満天の星空が見られ、星空観察会で天の川を眺めながら「これは我々の銀河系の中心部を見通しているんですよ!」などと解説できる日がやって来ることを夢見て、ライトダウンを進めていきたい。

不可能だからやらない、のではなく出来ることから、小さなことから始めればいいじゃないですか。

今後の展開ですが、地域活動としてもっと市民との接点を持ち、市民に星空への関心を持ってもらえるような会の活動はできないものかと考えています。そのためには、市内在住の会員がもっといて欲しいな、というのが正直な気持ちです。たとえ知識や技術は無くても、星を観てみたい・星のことを知りたい、という熱心な新入会員が入って地域での行事等に参加してくれれば、いろんなことが実現できると思うのです。

それから、わか天でスマートライト(過剰な照明を減らすこと)についてのワークショップを行う予定があるそうです。今回のライトダウンの呼びかけに応じた約20団体を集めて行いたいとのことです。光害は星空だけでなく、生態系などの環境にも重大な影響を与えています。エネルギーなどの資源問題にも結びつきます。星空を仰ぐことで、いろんなことを考えるきっかけにしてもらいたい、そのナビゲーターに私達がなれるとしたら、ちょっと素敵なことだと思いませんか?興味のある方は是非参加してみてください。


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Last update: 1997 April 28