光害対策ガイドライン

上方光束比について


平成10年3月に環境庁が「光害対策ガイドライン」を発表しました。国の機 関が発表する光害対策としては、世界で初めてのものです。世界に先駆けたガ イドラインを良く理解した上で、光害対策活動を実施することで、効果のある 結果を生み出す事が出来るようになります。

光害の被害をもっとも受けて、問題を一番良く知っているアマチュア天文家が ガイドラインの特徴を良く理解し、実際の照明の改善に取り組む推進力となる 事が一つの大きな鍵となるはずです。

この理由は、ガイドラインの推奨する屋外照明の「選択範囲が広く」、選択次 第では、光害対策の効果は大きくも、小さくもなってしまうからです。


上方光束は光害の原因とエネルギーの無駄

ここでは、ガイドラインに出てくる「上方光束比」について、ガイドラインの 図6−1を見ながら説明します。

上方光束と下方光束

照明器具から水平以上に出る光束を上方光束、水平以下に出るものを下方光束 と呼びます。上方光束は、照明器具から水平以上(90〜180度範囲と言い ます)に出る光束ですから照明として役立つものではありません。無駄な光と なり、しかも上空に向けられていますから光害の原因にもなります。無駄であ りエネルギーの浪費につながります。

漏れ光と照明領域に出る光

「漏れ光」とは、照明器具から出る光で、その目的とする「照明対象範囲外」 に照射されるものです。図の「照明領域」に照射される光が本来の目的に使わ れる光となります。 漏れ光には、上方光束の全てとグレア(眩しさ)や不快光となる下方光束の一 部が含まれています。

水平の方向から下へ向かって15度までの範囲(この範囲を90〜75度と言 います)で出る光は、歩行者や車を運転する人に遠くから見えます。そして明 るいランプが直接見る角度ですから、グレア(眩しさ)の原因となります。こ の範囲で出る光も出来るだけ抑え、眩しさを少なくすることが大切です。

夜間照明として、本当に役立つ光は、照明から真っ直ぐ下ろした線から上へ約 75度(0〜75度)までの角度で出る光で、図の中で照明領域に効果的に使 う事の出来る光です。


以上の事を良く理解した上で環境庁の光害対策ガイドラインを見てみましょう。 次の様に書かれています;

6-2 「街路照明器具のガイド」
6-2-4 上方光束比
(1)「あんしん」(注参照)の街路照明器具は、設置された状態で、上方光束比 が5%以下であることを推奨する。
(2)照明環境III及びIV(注参照)の状態において、「たのしみ」(注参照)の 照明器具は、設置された状態で、以下の上方光束比であることを暫定的に許容 する。
   ・短期目標としての指針  0〜15%(照明環境III)
                0〜20%(照明環境IV)
   ・行政(率先実行)による公共街路照明整備に関する指針
                0〜15%(照明環境III・IV)

注;照明環境区分I「あんぜん」が適用される場所のイメージは、自然公 園、里地、田園です。同様に、区分II「あんしん」が里地、村落、光害型住宅 地、III「やすらぎ」が地方都市、大都市周辺市町村、都市部住宅地、IV「たの しみ」が都市中心部、繁華街、商店街、都市部幹線道路沿いとなっています。

(以上ガイドライン3-b照明環境の類型についてより)

つまり、一番少ない例で上方光束が0〜5%、そして照明環境IVに該当する都 市部で0〜20%の上方光束、つまり最大20%の水平以上に出る光が残る事 になります。もし、20%の上方光束を残した場合、光が上方に向かう角度は 水平より30度以上にもなり、大きな光害の原因が残る事となります。


何故上方光束が残っているのでしょうか

では、何故エネルギーの無駄になり、光害の原因になる上方光束がガイドライ ンで許されているのでしょうか。その理由は、上方光束をゼロにする事が照明 器具メーカとの間で了解が取れなかった事、そして上方光束を全くゼロにする 事の現実的な難しさ(照明器具設計上の)がある為ではないかと想像できます。

最大20%のエネルギーの無駄です

もし、あなたの車が20%、或いはたとえ5%でもガソリンを無駄にしながら 走っているとしたら、あなたはどうするでしょう?修理工場に出してエンジン の調整をやり直してもらうのでは無いでしょうか。もう一つ例を上げるなら、 水道の蛇口から水がポタポタもれていたら、あなたは蛇口を閉めようとします ね。
同じ様な対策を照明についても実施する必要があることを気付いて下さい。

ガイドラインを上手に使い、光害を出来るだけ少なくし、同時に電気エネルギ ーの無駄を無くするためには、 照明環境の区分にこだ わる事無く、上方配光率を出来るだけ「ゼロ」に近づける事が大切です。 更に、眩しさになる光を少なくするためには、75〜90度の範 囲に出る光も出来るだけ少なくすることも必要になります。


外国では、上方光束ゼロのフルカットオフ器具 が増えています。

我が国の照明器具メーカが上方光束の少ない、或いはゼロの器具を作るために は、メーカの深い理解と同時にかなりの時間が必要です。しかし私たちは、あ くまでもよりよい器具の開発を主張し続ける必要があると思います。諸外国、 特にアメリカでは、沢山のメーカが上方に光の出ない器具(このタイプの器具 をフルカットオフ器具と呼びます)を提供出来ているからです。

光害対策ガイドラインを良く理解し、本当に私たちが実施しなければいけない 重要なエネルギーの無駄を無くすことにも気付き、市町村へ意見を出し、照明 改善に努めてください。


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Last update: 1998 May 6