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八巻香澄 kasumi yamaki  

バレンタイン・デーは美術館で

 

鰯の頭も信心から。
恵方巻を丸ごと齧り、
「鬼は外」と豆をまく。
節分というのはよく分からないイベントです。
だけどやっぱりせっせと豆をまいてしまう。
それが日本人。

そんな日本人の季節感だの風物誌だの歳時記だのと
全く関係ない世界、
それが美術館。
今どきコンビニだって鬼のお面つきの豆を
売っているというのに。

美術館や博物館には、民俗資料や
年中行事を描いた絵画作品・工芸作品が
たくさんあるのに、それじゃあまりにももったいない。
そんな美術館と、日本の行事をうまくリンクさせたら
いいんじゃないの?という提案が、
ヤマ印メールマガジン【2002.2.8号】の
ぷっちコラ「日本の行事と美術館ってペアになれる?」
に掲載されました。

となれば当然、節分の次はバレンタインデー♪
題して「商業主義の行事と美術館ってペアになれる?」
すなわち、バレンタインデーをフィーチャーして
若いカップルの集客を見込むという企画です。

そりゃもうあれこれ考えました。
二人組みで体験するメディア系アートはデート向きかもとか、
横トリに出品されていたフェリックス・ゴンザレス・トレスの 「気休めの薬」はキャンディーじゃなくて
チョコレートでもいいだろうかとか、
醤油画美術館じゃなくてチョコレート画美術館はどうだろうとか、 最後はヘレン・チャドウィクの「カカオの泉」で うんざりしてもらおうとか。

しかしイマイチ気合が入らないのです。
なぜでしょう。

つまるところ、きゃぴきゃぴラブラブなカップルが
美術館に大挙して押し寄せることには
ワタクシ自身、ためらいがあるのです。

人影のまばらな展示室を
通ぶって訳知り顔で闊歩したい。
「王様のブランチ」(若者向け情報番組)で
紹介されたからって見に来るようなミーハーと
一緒にされたくない。
っていうかデートはデート、美術鑑賞は美術鑑賞。
デートスポットとして軽〜い企画をやるくらいだったら
客なんか来なくてもいいっ!

というスノッブさ、頭の固さが
ワタクシの中にも巣食っていて、
ワタクシの思考をして滞らしむ。
いかんな、そんなことじゃ。

美術館のお客さん、または潜在的なお客さんとして
美術館が想定しているのは、
学生、主婦、家族連れ、子ども、
リタイア後の方などなど。
美術館の利用のされ方として謳っているのは
生涯学習。
なーんとなく、カップルでデート♪という需要は
無視されているのですよ。

美術館は基本的に誰に対しても開かれているもの。
でも多くの人に見に来て欲しいと思ったときには、
そのターゲットはどんな人たちなのか、
そのためにどんな展示をし、
どんなサービスをするのか、
そしてそれをどのような媒体でPRするのか、
を一つ一つクリアにする必要がある。

美術館は、実はそういうことを考えないまま、
漠然と「お客さん」を待っていたのかもしれない。

だけどまず美術館の敷居をまたいでもらうことを
狙うのであれば、
情報に敏感でフットワークの軽い
若いカップルというのはいいターゲットなはず。
バレンタインデーをフィーチャーする企画も
アリでしょう。
(今のところ聞いたことないですけど。
 海外の事例については、
 稲庭佐和子さんの記事をチェック!)

というわけで商業主義の行事と
美術館がペアになるには、 時間と情熱、
もの分かりのよい上司、だけではなくて
ラブラブカップルを見ても石を投げたくなったりしない
広い心と、柔軟な思考が必要なのでした。

(ヤマ印メールマガジン【2002.2.15号】 「ぷっちコラ」から加筆修正) 

 

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