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観客の学校・甲府校リポート
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■■第2回
2002年8月1日(木)
第2回観客の学校の参加者は23名。新しいメンバーも加わり、このころからだんだんと学校のスタイルが見えてきた。日時だけ定期的に決めておいて、都合のつく人が参加する。いろいろな方をゲストでお呼びしてお話をしていただく。あるときは先生だった人も別の日には生徒になり、生徒だった人も先生になる。つまり講師と観客がスイッチする方式で、講師代なしの代わりに参加費も不要。そして、それぞれの得意分野の話をするのだから、話が面白くないはずがない、といった感じ。というわけで、今回のスピーカーは3名。内お一方は、ゲストとして看板絵師の小池一豊さんをお迎えした。
■1時限 芸術の森見学ドキュメント・おもしろい美術館のアートボックス
山本育夫(「つなぐnpo」主宰)
まずは山本さんから、甲府市「芸術の森」のツアー報告。その内容は前掲のツアーリポートをお読みいただくとして、ともあれここでは、メンバーたちの頭の中で「文学散歩+文学館見学ツアー」や「ツールやセルフガイドなど、簡易キットを使った美術館ツアー」の実現化に向けて、プランづくりがはじまった、とだけ報告しておこう。なにしろ、本日は3時限目まであるのだ。
■2時限 ランデブー取材ツアー記 わたしの、○△□町の楽しみ方
大平宏典(「つなぐnpo」スタッフ/「P.S.1」主宰)
2時限目を担当した大平さんは、山本さん編集の山梨のまち見物雑誌『ランデブー』のライター兼デザイナー。山梨県下部町の取材にあたり、下部温泉を訪れた大平さんは、若山牧水など多くの歌人や井伏鱒二ら文学者が訪れた温泉郷の歴史に魅かれ、文学巡りをすることにした。ちなみに下部町は、町中に立てられた歌碑・文学碑の数は日本でもトップクラスだそうで、町の観光局からは専用のマップも出されている。
さて、下部駅から温泉郷までの道沿いの町並みは、平成から昭和、さらに大正・明治までと、時代を溯るような風情のあるもので、大平さんの旅心を大いに誘ったようだ。しかも、歌碑を読む楽しみのほか、そこここに誰某ゆかりの店や場所があるらしい。とりわけ釣りが大好きだった井伏鱒二は下部に縁が深かったそうで、井伏ファンであれば、井伏が釣り談義に花をさかせた床屋さん「やまめ床」(今のご主人は2代目)を訪れて散髪してもらうもよし、井伏もかつては立ったであろう川辺に降りてみるもよし。
そしてこの文学巡りのクライマックスは、井伏の定宿だった源泉館。先代だったお父さんが文学好きだったこともあり、現おかみさんは、子どものころに東京の井伏のお宅まで訪れたことがあるという。おかみさんが気さくに語る思い出話を聞き、サイン入りの初版本や手紙、井伏の人柄を忍ばせるスナップ写真などを拝見すると、本の中でのみ知っていた文学者がグッと身近に感じられる。そして最後に、井伏が泊まっていた3階の部屋にあがらせてもらえば、井伏が使ったであろう調度を目にし、井伏が見たであろう窓からの景色を堪能できるわけだ。
「井伏と同じ空気を吸った気分」という大平さんの言葉が印象的で、写真を見せてもらいながら、みんなの旅心も大いに誘われた。ツアーにこだわるメンバーたちは、ただちに次の校外学習のため、下部ツアーを計画しそうな雰囲気であった。
■3時限 山梨の看板絵師・小池一豊さんのお話
小池 一豊(看板絵師/「甲府美術宣伝」
社長)
本日のゲスト・小池一豊さんは、かつて映画の看板絵を描く看板絵師として活躍されていた。今では写真にとって変わられてしまったが、映画館入り口に大きく掲げられていた看板絵は、ある一定の年齢より上の人にとってはひどく懐かしい。青春時代の思い出と重なったりするのだ。小池さんによれば、昔は建前のときに鶴亀のカブラ絵を描く大工さんがいたり、楷書の筆字を書く看板屋さんもいたそうだが、今ではそういった職人さんのほとんどが廃業している。
だが、小池さんは「絵を描くこと」はやめなかった。看板とはちがって小品だが、昔の映画スターのポートレートや風景画などを描きためていらっしゃるのだ。この日はそのうちの何点かをおもち下さったが、写真を見ながら擦筆を使って克明緻密に描いたスターの肖像は、今すぐ額に入れて展覧会をしてみたいと思うほど魅力的だ。
また仕事の上でも小池さんは、「宣伝」の世界から離れがたく、現在は発砲スチロールを使った立体のモニュメントの製作なども手掛けているという。このオブジェ製作、工程をシンプルにすれば、
子どもたちのワークショップで試してみても楽しそうだし、看板絵も現代風にアレンジしてポスターにできるかもしれない。おもちいただいた作品を前にして、そんなこんなで随分と話が盛り上がったことはいうまでもない。
ちなみにこの日は、小池さんの奥様も観客の学校に参加してくださった。小池さん一家は家族4人で津軽三味線の公演を行うこともあるとのこと。いろいろな活動をされているゲストの話は圧倒的に面白い。次回もまた別のゲストに、またちがった面白いお話をおうかがいする予定だ。
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