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3月
自分の場合、出かける=ちょっと遠いところの場合が多いので、特に何も告げずに出かけてしまうのだが、多分、祖父の方は何も聞かないが一体何?と思っているに違いないが、祖母には何かを考える余裕はないだろう。
ただ、数日いない、ということは気がついていた様子。
「ただいま」と言いに行くと「あら、覚えてますよ。ここんちの若い方」。。。。あのーーそれって覚えてないに等しいんですけど。
あ、ちなみに、祖父はわたしが時々午後に仕事に行き、たまに明け方近くに帰ってくるのにも、すこーし疑問を感じているらしい。
いやぁ、やっているのはいわゆる夜の仕事よりはるかに単価の低い仕事ですよ。かなしいことに。
会社には、旅行の主旨について説明するのがめんどくさいので(ライヴを見に各地に行くらしい、と分かると休む度にいちいち言われるので面倒になってきた)おみやげは気が向いた時にしか買わないのだが、家にはとりあえずなんだかんだと毎回3000円位のおみやげを買ってくる。今回は、郵送料含めて8000円。
老人にはちんすこうと黒砂糖を買ってきた。
「沖縄のおみやげ」と祖父にいうとさすがにびっくりしていたようだが。
黒砂糖は体にいいんだよなーーと思ったけど、ただ袋詰めになっているだけだと一瞬のうちになめつくしてしまうのが目に見えているから、いちいち個別包装になっているのを選択。
わりと、ばくばくとたべにくいものを選んだハズなのに、今日の夜祖父にあったら、全部食べてしまった、という。
まぁねぇ、普通の人間ならばもうすこし待つということもあるだろうけど、今食べないとあとどうなるか分からないのも確かだから、仕方ないのだけど。
まずい、昨日天気がよかったからと縁側の窓を開けて、すわらせて風をあてておいたのがまずかったのか、と本当に焦ってしまった。
横になっていたい、というのを強引に起こして座らしたのもまずかったのか?。
これからは、後悔しない程度に動かすことにしようと思った。
お医者さんが見に来て、このままひどいようだったら入院しましょう、病院を紹介しますよ、というところまでいったらしいのだが、今日の午前中から、母親がポカリスエットを大量に飲ませた結果、午後くらいから、すごく汗がでて、急に熱が引いたとのこと。
今日は早く帰れそうだから、何か買っていくか?と家に電話して母親に聞いたところ、一気にいろいろしゃべり出すから、どんどん公衆電話の10円玉が落ちていく。
早く帰るっていってるのに。家で一人で様子を見ているっていうのは、本当に心細いものなんだろう。
「ロールケーキとかパンとか買ってきて」祖母はそういうものなら食べれるらしい。
ところが帰りによった、大型スーパーは明日が定休日ということで、パンの売り尽くしをしていて、閉店2時間前だというのにロールケーキやカステラもなし、食パンもないのには驚いた。
コンビニいった方がよっぽどいいじゃん。のこっているのは、だんごだけ。(もう人気も下火なのか)
でも強引に風呂に入れる。
背中は洗うけどあとは自分であらって、と石鹸のついたスポンジを渡すが、もっぱら自分の顔を手で洗うのみ。そんなに顔が気になるのか。
とりあえず、浴槽につけて、それほど時間が経たないのに、もう出る、というからめずらしいと思ったら、着替えて自分の部屋にもどったとたんにトイレに行きたい、と言った。
なるほど、だから早く出たかった訳か。
足のツメをみると割れているのがある。最近マメに切ってないせいか、たまにみると良く割れている。
どうしようかなぁと思って、ふと昨日買ったばかりのアナスイのマニキュアがものすごく質が良いのを思いだし、ぬって見ようと思いついた。
マニキュアってすぐはがれるし、乾きにくいし、キレイに塗れない、という印象が強く、あまり使っていないのだが、アナスイはすごい!そんなに高くないのに、すぐ乾いて、頭あらって、祖母を風呂にいれても全然はがれない。まぁめずらしくパールが入ったのを買ったせいもあるかも知れないが、ライチっぽい匂いも含めてものすごく気に入ってしまった、これを祖母の足のツメに塗ってみることとした。
「あれ、こんなお化粧して」と驚いているが、全くいやだと言うわけではないらしい。
でも足だけ。手はちゃんと落としてやらないといけないだろうし、その時にリムーバーをつかって手を水洗いさせるのが面倒だからやらない。
靴下を脱いだりはいたりするたびに、ちょっと気にしてるっぽい。
次は、お化粧療法でも試してみるか??とふと思った。
しかし自分もろくに普段はしてないくせに、年寄りにはわざわざやってやるのも変だけど。
つまり、元気なので、夜、這って部屋から出てくる可能性が高くなる、というのだ。
確かに昨日は夜しっかり食べていたせいか、2回も部屋を出てきて、一度はトイレの直前まで来ていた。
トイレに入ってもスリッパはけないからダメなのに。
そして、部屋にもどして、ベッドの隣の障子を開けてポータブルトイレを見せると「あらーーここにあった」といかにも今発見したような口調。
2度目は部屋を出てすぐに発見したが、ポータブルトイレに座らせようとして、ふとみるとすでにズボンが半分下がっている。何処で排泄しようとして、下げたのか、まぁあまり考えないことにしよう。
夜、祖母が夕食の後に、あまりにヒマそうなので、座っているところを後ろから肩をつかんで強く数回揺すったところ、「あーーー」とかなりコワイ声を上げ、目を閉じてしまったのだが、そのつぶった目がけいれんしていた。
そのままうつぶせになって落ち着くまでに1分はかかったか。
後で父親にやってみたところ、「あんただって、いやがるはずだ」と言われるほどに強く揺さぶっていたらしい。
もし、今晩祖母が引きつけでも起こしたら、私のせいなのか。。。
後ろから脇のしたに手を入れて立たせようとすると、軽々と立ち上がる。
そして、全然私が手に力を入れていないのに、すいすいと歩き出した。
こわい、いつもなら支えてやっとなはずなのに。
ポータブルトイレに座るのも補助なしで出来た、立ち上がる時だけ手を貸せばいいくらい、安定している。
夜なので尿とりパッドをあてて、ズボンを上げる、そのあと膝の後ろを押すようにしないと低いベッドに上がれないのに、すいすいと上がっていく。
とりあえず一件落着。
しばらくして、祖父の声が聞こえたので、見に行くと、ベッドの上で祖母が起きていて、今からポータブルトイレに向かうといったところ。
座らせてから、ふとズボンがしめっぽいのに気がついて、「これ、替えるねー」と明るい口調で脱がす、次にパンツ型おむつを見るがこちらは濡れていない。
あれ?なんでだろ??でもポータブルトイレの周りは濡れてないし、おそるおそる布団の上を確認するけれど、濡れていない。
あたらしいズボンをはかせているうちに、さっき確かにあてたはずの尿取りパットがないことに気がついた。
たまにベッドの下や布団の間から発見されると聞いていたので、とりあえず寝かしてから考えようと思い、寝かして布団を掛けたところで、発見。
ポータブルトイレの反対側に、尿取りパットとカーペットが濡れている部分とを発見した。
紙も結構落ちている。
それらをまとめてひろって、素早く捨てるが、捨てながらパットが分解されて周りに白いものが落ちているのに気がついた。
ふやかしたゼラチンみたいな・・・・・あ〜〜〜これが、あの「おむつほぐし」なのか!と気がついた。
以前に母親が介護の話を人としていたら、老人が紙おむつをほぐすという話が出たらしい。「うちはそれはやってない」という話をして帰ってきたら、祖母がまさに紙おむつをほぐしていた、ということで、(あまりにも予言的でコワイ)以来、かなり良くある事らしいのだが、最近は明け方にほぐしているらしく、朝一番のチェックは母親が行っているため、私は見たことがなかったのだった。
しかし、誰に教わったわけでもないのに、痴呆の人はもれなくほぐすということみたいで、本能的な部分で反射的に行っているのか、なかなか興味深い事象です。
そのあとぽろぽろと落ちている「ふやかしたゼラチン」を捨て、カーペットも少し拭くが面倒になって新聞紙をかぶせて、電気を消して寝かすことにした。
「こんなに呆けてすまないねぇ」と、ほぐしてしまったことを気にはしてるらしい祖母の反応、「じゃぁおやすみ」と部屋を出ようとすると「もともとボケてるけど」と付け加える。こう、ボケられると、どこまでがボケでどこまでが呆けなのか、最後に付け加えた言葉はいいわけなのか、ボケなのか、なんなのか考えるのも面倒になってくる。
でも、やっぱりほぐすのは、呆けの証拠に違いない。
誰か家にいるときじゃないと、って私の力も期待されているらしい。
結局母親と父親が、祖父の家まで言って中のものをとったり手配するのに出かけていった。
そして、先に運送屋さん登場。
自分はただの留守番で、出かけてしまおうか、と思っていたのだが、そうだ、期待されていたのだった。
親は、祖父の家の鍵をしめてからこちらにくる訳だから、うけとり人が必要が必要だし、と思ったら、運んできたのは女の人が一人、、、当然私は仏壇移動要員としてかりだされる。
仏壇の木の台があって、その上に載せないといけないのだが、仏壇をしまうスペースの上につかえてしまい、いれられない。
もぞもぞとしていると、となりの老人部屋(その1)から祖父が待ちかねたように出てきた。
そんなコトでうまく設置できず悪戦苦闘していると、どこからか祖母ののーてんきな声。「あら、どうも」。寝ながら、仏壇が入る方向を見ようとしている。
祖母のいる老人部屋(その1)からふすまをあけると、仏壇をおく部屋が見えるのだ。
ここは祖父が寝ている部屋でもある。
その後無事仏壇設置。ほっとしていると、仏壇をみせようと、椅子にすわらせておいた祖母が突然「タオルもってきて。あたらしいタオル」とはっきりいった。
いつも排便などたのむときは「お願いしますーー」というのが定番だったのだが、「お願いします」でなく、完全命令口調。(←お願い、も内容的には実は完全なる命令に等しいのだが。)
仏壇を拭くのに必要だと思ったらしい。
タオル、どれをやるか、「おかーさーん」どこかにいるであろう母親を呼ぶと近くの祖母が「はいーー」と答えた。
仏壇にこだわっているのは祖父だけだと思っていたが、かなり祖母も気合いはいりまくっているみたい。
おかあさん、ではいと返事をするか。ずっと前から家にあったアイテムを持ち込んだことで記憶が呼び覚まされたようだ。
しかし、いままでたまに祖父は月命日に仏壇をあけに自分の家にいっていたのに、その大きな目的が減ってしまったことで、気力をなくしたりしないかとすこし心配でもある。
ま、放って置く方が心配か。
母親は「じゃあ土日だけか9時以降にしてもらおう」と言っていたのだが、また今日も線香の匂いがする。
老人部屋を見に行くと、祖母がいきいきと目をさましている。
「どうせなら起きてお参りすれば」とおこしかけると、やけに意欲的に起きあがり、ベッドに腰掛け、遠くの仏壇をみるととたんに手を合わせた。
うーーん、宗教は強い!。
というか先祖は強いのか?去年の墓参りといい、仏壇といい先祖がからむと祖父も祖母もものすごく生き生きとする。
気のせいか、二人とも調子がよさそうに見えるのだが。
圧倒的に死後の世界だとか宗教だとかに興味のない自分であるが、興味のある人間のほうが長生きできるようだ。
当人は宗教や先祖のおかげと思っているかもしれないけど、そういう形のないものに対して「存在する」と思えること、がこの形あるものの存在する現世界においてままならぬ状態になったときにも、絶対にくつがえされることのない、自分だけの真実となって、いきるちからをあたえてくれるのだろう。
今回の場合「仏壇」というアイテムの存在は必要であったようだが。
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