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6月
母親に聞くと、朝ご飯を食べる頃には機嫌が悪く、ちょっとおかしかったらしいのだが、強引につれていこうとする。
後ろから支える姿勢でつれていこうとすると、途中、柱をつかんでもう片手でふすまを開ける、ちょっと支える力を弱めても立っているではないか。
あまりにぼけすぎで「歩けないどころか、たつこともおぼつかない」ことを忘れたらしい。
ぼけっておそろしい。
どうやら、左右にてすりさえあれば、つかまってあるけるようなのだ。
そのまま風呂につれてゆく。
体をざっとあらったあと、浴槽につけこむのだけど、最近は、ちょっと脇のしたに手をいれて、もちあげる風を装うと、力をいれていなくてもすっと、立ち上がり、あとは膝をまげてやれば半分下に埋め込んだ形の浴槽に入って行くようになった。
この辺、心理的な安心感があるのとないのとじゃだいぶ違うようだ。
前は母親と二人がかりで、やっと持ち上げていれていたのに。
それが、今日は、浴槽の縁をしっかりと握り、ほんのちょっとおしりを持ち上げるだけで、膝をたてて、浴槽の中に自分で足をあげてするりと入っていった。
正座の形でお湯につかっていて、いつもならば、片手で体をこすりながらももう片手は、浴槽の縁につかまっていないと不安定だったのに、今日は、入った時の安定感そのまま、両手をお湯につけて、体をこすっている。しかも全然倒れない。
そして、ぼーっとつかっているのが好きなのに、さっと両手で浴槽の縁をつかみ立ち上がりかける。
「もうでるの?」と聞くともう出たい、という。
しっかりしているので、いつもならば浴槽から脇の下に手を入れる形で引き上げるところ、ちょっと手を貸してふつうの人が風呂からでるような体制で上がれるかためしてみると、すいっと立ち上がった。
部屋に戻るときも、壁を手で触るようにする程度でちゃんとあるける、足の裏もかかともしっかりついて、すごいなぁと思っていると「トイレ」と声がする。
なるほど、祖母が早く浴槽から出たがったのは、前にもあったのだけど、トイレに行きたかったからだったのだ、帰りにしっかり早く歩いていたのも。
火事場の馬鹿力みたいなもんか?ま、あれが本当に寝ぼけ&ぼけているときにでると、服を脱いだり、徘徊したり、ってパワーになってしまうのだけど。
しかし祖母の穏やかさに比べると最近めっきり体力のなくなった祖父の方が本当は心配である。
一緒に風呂に入るわけにもいかないし、だましだましおむつ(リハビリパンツ)をはかせるわけにもいかない、なんか粗相があってもおこるわけにもいかない、この辺、祖父と祖母とでは、同じように扱えない、ところが難しいところだと思う。
寒さに弱い老人だが暑さに鈍感なはずなのに、さすがに弱っているようだ。
暑いので昼にそうめんをだしたら、祖母は、はしをしっかりもてないまま、ひっかけるようにして、器に顔をちかづけて、ぼろぼろとこぼしながら口に運んでいる状態。
しかし、「なにもしていないのにおなかがすく」と言っていたぐらいだから、食べる気はあるようだ。
ここんとこずっと食べることに関してはなんの問題もなかったのに、何か様子が変。
しかし、血圧には異常がないと往診に来たお医者さんはいっていたらしい。
最近、ポータブルトイレにトイレットペーパーをよく落とすらしい。母親がまたしてもトイレットペーパーが見あたらないので「どこにやったのよ」と愚痴をこぼしながら、バケツに入った尿を、捨てに行こうとしたときに、たまたま祖母の前に私がいた。
祖母はひそひそ話をするような口調で、「あんたがいたからおこられずにすんだ」というのだ。
なんか悪いことしたの?と聞くと、なんもしていない、という。
悪いことだとはわかっているのだけど、指摘されるとおもしろくないらしい。この辺の心理状態はぼけとはちょっと違うような気がする。
でもかなりぐったりと弱ってきているようだ。
しかし本当に弱っていてやばいのは祖父。体力がない。頭はものすごくしっかりしているのだけど。
事件だ!ととびあがって見に行くと、ポータブルトイレと折り畳みベッドの間に祖母が尻餅をついた格好になっていて、あたり一面が水浸しだった。
ちょうど、縁側にポータブルトイレがあり、、部屋との間の障子の下までが濡れているが、部屋の中までは濡れていない。
水浸しと書いたが、もちろんそれは尿である。
ただ、最近すずしいせいか、たくさん出ている、そのかわりにおいがあまりない。
いつも下着が濡れた程度ならば、ポータブルトイレに腰掛けて着替えるのだが、今回それもできそうにない、かといって、ベッドの上に上げるのもなんかイヤだ。
そこで、濡れた足をふいて風呂につれていくことにした、やっと降りてきた母親は、そこまでやるの?といった表情。私もすこしサービスがすぎるな、と思いながら、祖母を立ち上がらせると、すっと立ち上がってほぼ自分のちからで歩き始めた。
完全に一人ではないが、自分の力ですすんでいる。
服を脱がせているときもしゃっきりと立っている。
「足が滑って、びっくりして出た」というが、まぁ祖母の頭のなかではそうなのだろう。
風呂に入るなり「これでかけるの?」と洗面器をとろうとする、普段にはない積極的さ。
そして、お湯をかけて、どうしようかな、と思っていると、浴槽に向かって「入るの?」と聞く。
う、よく考えたら妹がまだ入ってないよ、ごめん、と思いつつ、ちょっと手を貸すと、つるっと浴槽に入っていった。
普段は、一人きりにしておかないのだが、下着をとりに部屋にいってから戻ってみると、ちゃんとつかっている。
「でる」といって、出ようとする、いつもならあがる方向に対して平行なまま、あがる方向に対して直角の浴槽の縁に手をかけるまでなのに、いきなり、あがる方向に体の向きをかえ、ふつうの人が風呂からでるように、両手であがる方の向きの浴槽の縁をしっかりとつかんで足をあげようとしている。
足があがらないのを手でちょっとだしてやるだけで、一人の力で風呂から上がってそのまま風呂から出ていく。
むむむ、なんてことだー、というか、前にも書いたけど、あまりにもぼけすぎて、歩けないのを忘れたのだろうか。。それともそれだけ元気になったのか??
母親がぬれたところを掃除し終わったようなので、祖母を部屋にもどす。
しばらくすると、祖父の声が。見に行くと、さっき大量に尿をだしたはずの、祖母がトイレに行きたい、と部屋のすみまで這ってでてきていた。
すごいはやさ。
もちろんトイレにいかせる訳にもいかないので、ポータブルトイレを使ってもらう。
ほんとにでるの?と思ったが、本当にでた。
あとで、紙をよけいにほしがるので、どうしたのかと思ったら足の裏をふいている。
足のしたが、ちょうど障子の下にあたるのだが、そこはまだ濡れていた。
祖母をベッドにあげて、拭いたのだが、拭いても拭いても濡れている。思い切って障子をはずしてみると、そのへこんだ部分全部が濡れていた。
毛細管現象で、伝ってしまったらしい。部屋のすみまで、水浸しで、その先にある押入までぬれそうな勢いだった。
そういえば、以前にやはり水浸しになったとき、今回よりももっと後ろの方が被害にあったのだが、そのとき、大きくて置き場がないので、縁側に置いてあった、雛壇の段ボールにまで伝っていた。中身はどうなっているんだろう?さびたりしていたらちょっとさみしい。
とりあえず、祖母の周りはとんでもなく汚い、だが、あんまりきにならない自分がこわい。
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