この異同は、主たるものです。
- 第二回「入(は[い]る)と」
- 第五回「の」
原稿では「へ」となっているが、初出・初版・全集では「の」と訂正されている。
- 第十一回「が」
原稿では「が」となっているが、初出・初版・全集では「か」と訂正されている。
- 第十二回「う」
原稿では脱落している。文意が通じないので、明らかな書き誤りである。
- 第十二回「に」
原稿では「に」はない。脱落とも考えられるが、なくても文意は通ずる。初出・初版・全集本では「に」が補われている。
- 第二十回「は」
原稿では「は」が欠落。ちょうど原稿用紙の終わりであり、新しい原稿用紙に移った時に書き漏らしが生じたのである。
初出・初版・全集本では「は」が補われている。
- 第二十回「ち」
原稿では「ち」が欠落。初出・初版・全集本では「ち」が補われている。
- 第二十三回「け」
原稿では「け」が欠落。初出・初版・全集本では「け」が補われている。
- 第二十三回「は」
原稿では「は」が欠落。初出・初版・全集本では「は」が補われている。 ただし、初出・初版では〈取扱(とりあつか)はれ勝(がち)〉となっている。全集本では〈取扱(とりあつ)かはれ勝(がち)〉となっている。
- 第二十七回「。」
原稿では「。」で結ばれており、初出もそれに従う。初版・全集本ではカギ括弧"」"に改める。
- 第三十五回「詰(め)めた」
原稿では「め」とルビがふってある。初出・初版・全集本では「つ」と改める。
- 第四十回「差(す)すやうに」
原稿では「す」とルビがふってある。初出・初版・全集本では「さ」と改める。
- 第四十三回「悪(あし)し」
原稿では「あし」とルビがふってあり。送りがなにも「し」とある。初出では「あし」というルビがあり、「し」という送りがなはない。初版・全集では原稿通りになる。
- 第四十七回「今(いや)」
原稿では「(いや)」とルビがふってある。初出・初版・全集本では「(いま)」とする。
- 第四十九回「浣腸(など)」
原稿では「浣腸」の「腸」に「(など)」とルビがふってある。初出では「浣腸」に「(くわんちやう)」のルビがふられている。初版も同様。全集本ではルビを削除している。
- 第五十回「遠かつたのである。」
初出は「遠かつたのである」(句点なし)。初版では「近(ちか)くなかつたのである。」と改められた。全集本では、原稿の表現に戻す。私の兄への微妙な心理的懸隔を示す表現が、このように変更されている。こういった点を無視して「作者の死」を宣言できるのであろうか。
- 第五十一回「イゴイストの意味」
初出は、原稿通り。初版では、「イゴイストといふ言葉の意味」と改められた。全集本では、原稿の表現に戻す。
- 第五十六回「若過ぎたのです」
初出は、原稿通り。初版では、「若過ぎたからです」と改められた。全集本では、原稿の表現に戻す。
- 第五十九回「所置」
初出で、「処置」と改められた。初版でも同様。全集本では、「所置」に戻す。
- 第六十回「返(か)した」
初出で、「返(かへ)した」と改められた。初版・全集本でも同様。
- 第六十二回「物足(ものた)りなか[つ]た」
初出で、「物足(ものた)りなかつた」と「つ」が補われた。初版・全集本でも同様。
- 第六十三回「。然し私は無邪気にそれを断(ことわ)つたのを後から考へて見て、多少快(こヽろ)よく思ふのです。」
- 初出では、「然(しか)し私(わたし)は無邪気(むじやき)にそれを断(ことわ)つたのを後(あと)から考(かんが)へて見(み)て、多少(たせう)快(こヽろ)よく思(おも)ふのです。」と総ルビとなる。
- 初版本では、前文から続いて「が、後(あと)から考(かんが)へて見(み)ると、それを断(ことわ)つたのが私(わたくし)には多少(たせう)の愉快(ゆくわい)になると思(おも)ひます。」と改められる。
- 全集本では、原稿に戻す。
第六十四回「今(いま)では電車の通路になつて、」
初出では、「今(いま)では電車(でんしや)の通路(つうろ)になつて、」とルビがふられる。初版本で、「今(いま)では」が削除され、「電車(でんしや)の通路(つうろ)になつてから、」と改められた。全集本では、原稿に戻す。
第六十四回「ずつと趣(おもむき)が」
初出も同様。初版本で、「又(また)ずつとあの西側(にしがは)の趣(おもむき)が」と改められた。全集本では、原稿に戻す。
第六十四回「今日(こんにち)でも」
初出も同様。初版本で、「いまだに」と改められた。全集本では、原稿に戻す。
第六十四回「其頃の」
初出は「其頃(そのころ)の」とルビがふられる。初版本で、「其時分(そのじぶん)の」と改められた。全集本では、原稿に戻す。
第六十七回「[は]」
初出で「疑(うた)がはれる位」と「は」が補われ、初版本・全集本でも同様。
第六十七回「済(す)まないやうな」
初出は原稿通り。初版本で「又済(す)まないやうな」となる。全集本では原稿に戻す。
第七十回「帰(かへ)つてしまひました。」
初出は原稿通り。初版本で「帰(かへ)つてしまふのが常(つね)でした。」となる。全集本では原稿に戻す。
第七十二回「後姿(うしろすがた)だけて」
初出で、「後姿(うしろすがた)だけで」となる。初版本・全集も同様。
第七十二回「昨日(きのふ)買(か)つた反物(たんもの)の端(はじ)を」
初出は、同様。初版本では、「一昨日(おとヽひ)買(か)つた反物(たんもの)を」と改められる。全集本では、原稿に戻す。
第七十三回「振り廻(かへ)る」
初出で、「振り返(かへ)る」となる。初版本でも同様。全集本では、原稿に戻す。
第七十五回「傷(ぎづ)つけるに」
初出で、「傷(きず)つけるに」となる。初版本でも同様。全集本では、「傷(きづ)つけるに」とする。
第七十六回「進(すヽ)む積(つもり)だたと」
初出で、「進(すヽ)む積(つもり)だつたと」となる。初版本・全集本でも同様。
第七十六回「さうしや」
初出で、「さうして」となる。初版本・全集本でも同様。
第七十八回「それを自覚してゐた私は、今それをKのために応用しやうと」
- 初出は、「それを自覚(じかく)してゐた私(わたし)は、今(いま)それをKのために応用(おうよう)しやうと」とする。
- 初版本では「それを自覚(じかく)してゐたから、同(おな)じものを今度(こんど)はKの上(うへ)に応用(おうよう)しようと」と改められた。
- 全集本では、原稿に戻す。
第八十二回「其所(そこ)から北条に行(ゆ)きました。北条と館山は重(おも)に学生の集(あつ)まる所でした。さういふ意味から見て、」
- 初出は、「其所(そこ)から北条(ほうでう)に行(ゆ)きました。北条(ほうでう)と館山(たてやま)は重(おも)に学生(がくせい)の集(あつ)まる所(ところ)でした。さういふ意味(いみ)から見(み)て、」と総ルビになる。
- 初版本で、「其処(そこ)から富浦(とみうら)に行(ゆ)きました。富浦(とみうら)から又(また)那古(なご)に移(うつ)りました。総(すべ)て此(この)沿岸(えんがん)は其時分(そのじぶん)から重(おも)に学生(がくせい)の集(あつ)まる所(ところ)でしたから、何処(どこ)でも我々(われ\/)には丁度(ちやうど)手頃(てごろ)の海水浴場(かいすゐよくぢやう)だつたのです。」と地名を中心に書き改められた。
- 全集本では、原稿に戻す。
第八十三回「私達は三四日してから北条を立(た)ちました。」
初出では、「私達(わたしたち)は三四日してから北条(ほうでう)を立(た)ちました。」と総ルビと
なる。初版本では、この一文が削除される。全集本では、原稿に戻す。
第八十四回「、」
初出で、句点「。」になる。初版本でも同様。全集本で、原稿に戻す。
第八十五回「しないだううと」
漱石の誤記。初出で、「しないだらうと」と訂正される。初版本・全集本でも同様。
第八十五回「私に欠(か)けてゐた事(こと)を」
初出では、「私(わたし)に欠(か)けてゐた事(こと)を」と総ルビとなる。初版本「私(わたくし)に欠(か)けて居(ゐ)たのだといふ事(こと)を」と改められる。全集本では原稿に戻す。
第八十六回「奏したのです。」
初出では、「奏(そう)したのです」とルビがふられる。初版本で「奏しました。」と書き改められる。全集本では、原稿に戻す。
第八十七回「食(く)ひ込(こ)むやうに私は感じ出(だ)しました。」
初出では、「食(く)ひ込(こ)むやうに私(わたし)は感(かん)じ出(だ)しました。」と総ルビとなる。初版本では、「食(く)ひ込(こ)むやうな感(かん)じがしました。」と改められる。全集本では、原稿に戻す。
第八十七回「行かないのです。」
初出では、「行(ゆ)かないのです。」となる。初版本では、「行(ゆ)きません。」と改められる。全集本では、原稿に戻す。
第八十七回「行かなければなりません。」
初出では、「行(ゆ)かなければなりません」となる。初版本では、「行(ゆ)かなければならないのです。」と改められる。全集本では、原稿に戻す。
第八十七回「私は柳町(やなぎちよう)の通りへ出(で)ました。然し何処(どこ)へ行(い)つて好(い)いか自分にも分(わか)らなくなりました。何処(どこ)へ行(い)つても面白くないやうな心持(もち)がしました。」
初出では、総ルビとなる。初版本で、「それから柳町(やなぎちやう)の通(とほ)りへ出(で)た私(わたくし)は何処(どこ)へ行(い)つて好(い)いか自分(じぶん)にも分(わか)らなくなりました。何処(どこ)へ行(い)つても面白くないやうな心持(もち)がするのです。」と改められる。全集本では、原稿に戻す。
第九十二回「悪(わる)とは」
初出で、「悪(わる)いとは」と改められる。初版本・全集本でも同様。
第九十二回「飲んだのです。」
初出では、「飲(の)んだのです。」とルビがふられる。初版本で、「飲(の)みました。」となる。全集本では、原稿に戻す。
第九十四回「気が散(ち)つ[て]」
漱石の脱字。初出で「気(き)が散(ち)つて」と訂正される。初版本も同様。全集本では、「気が散(ち)つて」とする。
第九十七回「なら[な]くなるのです。」
漱石の脱字。初出で、「ならなくなるのです。」と補われる。初版本・全集本も同様。
第九十八回「[な]らないと」
漱石の脱字。初出で「ならないと」と補われる。初版本・全集本も同様。
第九十八回「縁(うち)」
漱石の誤記。初出で、「縁(ふち)」と訂正される。初版本・全集本も同様。
第百一回「御目(め)[出]たう」
漱石の脱字。初出で、「御目出(おめで)たう」と訂正される。初版本も同様。全集本では、「御目(め)出たう」とする。
第百二回「い[ふ]」
漱石の脱字。初出で「いふ」と補われるされる。初版本・全集本でも同様。
第百二回「見えませんでした。」
初出では、「見(み)えませんでした、」となる。初版本で、「見(み)えません。」と改められた。全集本では、原稿に戻す。
第百二回「回避(くわひひ)したのだと気が付(つ)きました。」
初出で「回避(くわいひ)したのだと気(き)が付(つ)きました。」と改められる。初版本で、「回避(くわいひ)したのだといふ事(こと)に気(き)が付(つ)きました。」と改められる。全集本で、原稿に戻す。
第百三回「仕切(しき)の」
漱石の脱字。初出で、「仕切(しくり)の」と改められる。初版本・全集本も同様。
第百四回「一息(いといき)に」
漱石の誤記。初出で、「一息(ひといき)に」と改められる。初版本・全集本も同様。
第百四回「迸(ほと)ば[し]つたものと 」
漱石の脱字。初出で、「迸(ほと)ばしつたものと」と改められる。初版本では、「迸(ほとばし)つたものと」とする。全集本では、「迸(ほと)ばしつたものと 」とする。
第百六回「理由(りゆ)は 」
初出も、「理由(りゆ)は」とする。初版本で、「理由(りいう)は」とする。全集本は原稿に戻す。
第百七回「Kと、 」
初出・初版本、ともに「Kと」とする。全集本は原稿に戻す。
参考文献
- 初出 玉井敬之・鳥井正晴・木村功編『夏目漱石集「心」』,和泉書院,平成3年12月30日.
- 初版 名著復刻全集編集委員会編『こゝろ』(夏目漱石),ほるぷ,昭和49年11月20日.
- 全集本 夏目金之助『漱石全集第九巻』岩波書店,1994年9月9日.