ガルベスの投じた一球
                                野球評論家・堀内一三
 巨顔に愛嬌のあるベロ出しで親しまれた読売巨人軍・バルビーノ・ガルベス投手が無期限出場停止となった。「子供に見せられない」云々の乱闘是非論が余りに馬鹿げているとしても、今回のガルベスの行為は非難は免れ得ないだろう。が事は一外国人選手の帰国に留まらない。
 日本には野球審判員の養成システムが確立されておらず、大半は元選手、それも通算80勝の久保田(東映−巨人)の様な例外を除けば、若くして選手生活を断念し、それでも野球で飯を食うためにはまず審判、というケースが大半である。
 従って審判のステータスは低く、今騒動の主役が外国人選手であったから一過性の「発作」の様に片付けられたが、内心審判団に同様の不信感を抱き、同情を寄せる向きも少なくなかろう。果た又これが日本人スター選手であったなら処分の内容も微妙だったろう。

 もとより完全無欠の判任官など望むべくはなくとも、審判の技術力向上が第一の対策ではあるが、単なる精神論に留まらず、実質的な審判の権威向上策を講じるべき段階に来ているのではないか。
 選手出身の審判がいけないという訳ではない。子供の頃から一身を投じた野球を棄てるに忍びなく、せめて審判でも野球に関わりたいという心根は充分理解できる。然れども当の審査対象である球団を解雇された人物が2〜3年で再びグラウンドに現れるのでは、やはり選手から見下されるのは避けられない。

 米大リーグの審判に高い地位が与えられているのは、端から審判専門の教育を受け、かつ選手同様に下位リーグからの厳しい選抜を勝ち抜いてきたからであり、まず日本でも二軍で充分な修行を積んでから一軍に登用されるシステムを構築する必要がある。併せて柳川事件以来の長い冷戦状態の雪解けを迎えつつある、アマチュア界からの人材登用も一考の余地があるだろう。
 勿論その為には線審を無くし4人制をとってもなお絶対数の足りない現状から見直す必要がある。審判希望者を増加させ、一軍審判員の競争力を高める為、畢竟、コミッショナー事務局は至急、審判員の給与の大幅向上に着手すべきではないか。放送権収入の一部プール制でも、商標権の有効活用でも、まとまった財源投入を真剣に検討すべきだろう。

 かつて横沢三郎、二出川延明、島秀郎といった超一流のプレーヤーがその後も審判界の重鎮として長く権威を保った様に、現役を引退した名選手の第二の人生が監督、コーチ、ましては解説者に限られず、高給なアンパイア職が選択肢のひとつに加わるならば、現状は大きく変革されるに違いない。
 俄に人気の浮上したサッカーに範を取るのは癪に障るが、実際国際審判の高いステータスには見習うべき点も多い。また、名力士が勝負審判として控え、かつ誤審騒動からビデオの導入に踏み切った大相撲に学ぶべきこともあろう。

 ガルベスの投じた一球が、一審判員に向けられるだけでなく、審判員全体の待遇向上に結び付くことを切に期待したい。
                          (文中敬称略/御感想はこちらへ)
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