パリのドライブ
高崎裕
 来仏して、はや2ヶ月を過ぎた。
 パリで頭を悩ますのが、誰もが思いつくのが、フランス語の世界であることなのだが、何と言っても車の運転が、暮らす人間にとっては、フランス語と同じくらい、むしろそれ以上に頭を悩ませる、と、気がつくまでにはそれほどの時間は要らなかった。慣れてしまえば、どうと言うこともないのだが、慣れてしまっても、気を抜いてはいられない。
 皆さんのイメージでは、一方通行が多い、横の車が割り込んでくる、歩行者が飛び出してくる、等と思うが、パリは、一時の旅行者には、メトロ(地下鉄)やバスが発達しているので、意外に詳しくドライブのことを記したガイドブックがない。日本人の一人として、「地球の・・・」などのガイドに詳しく出ていれば、僅かでも安心するのだろうが、どの本でも、ドライブのことは1-2ページしか出ていないのが、現実だ。
 住んでいる者にとっては、車はなくてはならないものだ。パリから離れると、電車は1時間に一本来るか来ないか、と言うところも少なくない。それに、たぶん名古屋のようなのかもしれないが、駐車場に困ることは少ない。たとえ、シャンゼリゼの駐車場であっても、地下4階、5階とあるので、満車になることは、殆どない。だから、天気の悪いこともあって、車で動くことは少なくないのだ。
 そんなわけで、ドライブをするようになって滞在期間とほぼ同じ約2ヶ月の、道を覚えるためでもあり、未だ妻が来仏していない間の「独り者」の楽しみでもある、ちょっとした経験を書いてみようと思った。

 ご存知の通り、ここは左ハンドル、「右側通行」であるが、パリだけでないと聞くが、欧州は「右側優先」と言うことを知らなければ、ひどい目に遭う。そのお陰で、事故が起きない(実際は譲り合わないために、よくあるのだが)のだと思う。
 写真(左/合流)を見てもらうと理解してもらえると思うが、「右側優先」とは、即ち自分の右側が優先であると言うことなので、このような事態となる。真ん中のシルバーの4駆が突っ込んでいっているように見えるが、これはこの車に優先権があるから問題はない。そのため、本流とも言える左側は、これをやり過ごすため、停止してもやり過ごす必要がある。
 逆に言えば、自分の左側は見る必要がない、といっても過言ではない。せいぜい、バイクが突っ込んでこないかを見極めるだけでよいのだ。
 ロータリーから出たいときは、ウインカーを出すなどして、しっかり「出ますよ」の意思表示をしなければ、右に割り込んで出て行くことは難しい。しかも、あまり内側に入っていると、出ることは無理である。右側から飛び込んでくる車に横っ腹を当てられてしまわないとも限らない。それだから、どこで出るのか知らなければ、「ぐるぐる回る」悲劇を生む。

 こんなにやりにくいのだから、交通整理をする人がいれば、と思うかもしれないが、これは、間違い。凱旋門にも写真(右/交通整理)のような「おまわりさん」が良く現れるが、かえって渋滞の原因となるようである。どうしてなのかと考えてみたが、多分、本当は「行ける」のに、必要以上に「止まれ」を指示してしまうからなのかもしれない。
 この町に渋滞が多いのは、ご存知かもしれないが、この「おまわりさん」だけでなく、他にも原因がある。それは、交差点の真ん中を空けて止まる習慣がないことだ。「右側優先」なのだから、右から車が来たら止まればいい、とでも思っているのだろうか、自分の進行方向が詰まっているのなら、自分の前の左右の動きが流れるように空けておけばいいのに、かえって詰まらせている。自分が空けて通してやったとしても、隣の車でブロックされて動けない、即ち自分も動けない、と言う事態も少なくない。
 この事態を受けて、止せばいいのに、あちこちにこの「おまわりさん」登場で、ますますパリの市内は渋滞する。特に平日18時頃は昼間だと15分で行くところも1時間掛かる、と言うこともよくある。(この「おまわり」の態度も酷いもので、「いけよ!」「止まれって言ってんだろ!」的に目をひん剥いて向かってくるのである)

 あと、信号という写真を見て欲しいのだが、何気ないこの写真、あることに気が付いたら大したもの。それは、信号が直前の真横にしかなくて、止まる位置の先には全く無い。これは美観を損ねるという理由で、パリの街の美しさを優先したものらしいが、ドライバーにとっては不便。何故なら、信号が赤から青に変わるときには、自分の真横の信号を見ていなければならないし、何より、通過するだけでもわざわざ、青かどうか真横を見ないとならない。自分の頭上に有れば、目線を動かす必要が無いのに、これは面倒でとても危ない。

 話は戻って、「右側優先」であるが、一部の高速などには、逆三角形の標識が立っていて、逆に自分に優先権が無いことを示しているので、アメリカ等と同じ要領で合流すればよいが、パリを取り巻く高速の環状線(Peripherique:ペリフェリックという)のランプは東京に首都高速と比べても極端に短いリーチで本線に乗らないといけない。逆に「右側優先」なので、殆ど自分の左側を見ないで飛び込まないと、かえって本線の車になめられてしまう結果となる。見ないで飛び込めば、後ろの車は徐行してでも、必ず入れてくれる。これに慣れるまでにはかなり掛かった。最初は、必要ないのに恐怖のあまり、止まってしまい、後ろからはクラクションの嵐ということもあった。

 最後に、矢張り思ったことは、マニュアル車でないとならないこと。フランスにはオートマチックがあまり走っていないし、私の愛車オペルも、マニュアル車だ。最初は面倒で、止めたくなったが、これでなければ、グンと加速できないことが分かる。ダッシュできなければ、割り込まれてしまうのだ。必要以上に、飛ばすことは危険だが、出るときは出なければ、進めないのだから、仕方が無い。(右写真は愛車)
 パリは、住んでみるといろんなことが見えてきて、虜になる人も多いようだが、こんな短い間でも、意外な楽しみを見つけることが出来て、満足。年が明けたら、また会社は車で行くよ、それなりに安全運転で!
 (もうじきして妻が来て、仕事にも慣れてきたら、あれこれ人間関係も広がるだろうから、もうちょっと人間臭いところを書きたいと思います!)
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