Ma Ville
高崎裕
考えてみたら、もう半年になっていた。
10月26日に到着した時は、秋、その後ユウウツな冬。雨が続き、寒く、確かに小生北陸の出身で天気の悪いことには慣れているつもりだったが、
仕事になれる前で失敗も多く、天気の悪さで更にユウウツ度が増し、おまけに朝は9時を過ぎても日が出ておらず、出勤時は未だ真っ暗、
会社に行くには、「喝」を入れるべく熱いシャワーを浴びてからでないと、行けない始末だった。
ボストンに暮らしていた頃には、そのしんどさを余り感じなかったのは、どうしてだろう。
年齢のせいで耐性がなくなっているからか、それともパリは本来華やかで、冬が余りに寂しいからか。
3月になってくると、漸く「春めいて」くる。
それまで止まっていた噴水は轟々と水を上げ、何の用もなく散歩する人が増えてくる。これも鳥のようなもので、天気が悪くなると、
全く人気がなくなり、雨が上がると即、また多く出始める。
異常気象だという人も居たが、20度を超える快晴の日が続いたこともあって、気分が高揚してくる。どうもパリの人たちは、
春になると全く変わってくるようだ。アパートの家賃の領収書は大家から郵送されてくるが、それに付く一筆箋まで言葉が踊っている。
それまでは、「有難うございました」しか書いてなかったのに、「思う存分春をお楽しみください」なんて書いてあるのだから。字の大きさもなぜかやや大きく見える。
仕事に慣れてきた頃がちょうどこの頃で、小生も何の用もなく散歩したりした。休日に近所の植物園やLuxemburg(リュクサンブール)公園、
パンテオンなども歩いていくことが出来るので、散歩にはもってこいだ。帰りに、市場の近くで惣菜とワインを買って、
その後、家で食事というのもなかなか楽しい。
この国は、最近つくづく実感するのだが、生活そのものは楽しいが、それを維持するのが「大変」だ。3月になり、生活に慣れてきたところで、
「滞在許可証」が下りた。この国は、Visaは入国するだけのもので、外国人は上述の滞在許可を取るため、警察署で手続きをする必要がある。
これが思い出した頃に出来上がる。たしか11月に申請したのだから、4ヶ月かかった。これでも駐在員仲間で話すと、短いほうだという。
これが終わったら、小生は会社代表者なので、それを称する「商業手帳」を申請しないといけない。それで必要な書類を聞いて今、あちこちに行って集めている。
中には「無犯罪証明」なんていうのもあり、日本大使館に行って指紋を取られた。
「大変」というのは、面倒だという意味だけじゃない。仕事そのものも慣れたとはいえ、毎日が新しいことが続く。フランス人の性格に悩む、バカンス前には道が混む。
パリも250万人くらいの人口があるので、結構な大都会だ。それに顧客は郊外の工業団地にもあるので、一人で回るのも大変、それに会社代表としての顔は大変だ。
なんだかここに暮らしていると、嫌なことが起きると続けて起きるような気がして、「呪われているのではないか」なんて考えることがある。
小生の仕事は輸送の仕事なので、遅れたり、破損したり、盗まれたりといろんな事故があるが、ここ2週間でつづけて2件の事故があった。そんなときに限って、
車に僅かな傷をつけてしまった。交差点で止まっていたら、いきなりトラックがバックしてきて接触。小生の車のボンネットの上に、そのトラックのバンパーが当たったというもの。
信号が見えなかったらしい。こちらも慌ててしまい、ナンバーを控えられなかった。おまけに、その場は輸送の事故の調査と謝罪に行く途中。遅れるわけに行かないので、
この程度の傷では追いかける気もなかった。最近、トヨタのAvensisセダンを入れたばかりで、未だ1ヶ月だったので、ショックは否めない。
(この車種は日本にはないが、型はカルディナがベースらしい。こちらではこの車種は4ドアセダン、5ドア、バンの3タイプがある。さすがヨーロッパ、5ドアが一番人気らしい)
最近の近況を書いてきたが、Ma Villeで何が言いたいかをそろそろ書いてみたい。
フランス語には、名詞に男性、女性があるのはご存知だろうか。そのため、例えば車はune voiture,で女性、コーヒーは un cafe で男性という具合だ。街はVilleといい女性である。
そのため、私の街というにはMa Villeとなるわけだ。
余談だが、国を表す際も性別がある。「フランスで」、というのは、en Franceだが、「日本で」はau Japonである。英語ではどちらもInで済むが、この区別も面倒だ。
ヨーロッパ諸国は概ね女性、アジアは中国、インド、韓国などは女性、アメリカはカナダ、合衆国は男性という具合だ。 「野蛮な国は男性」という区別をする人もいるが、
それだと日本は野蛮だということか。
2月に日本に出張をした。久しぶりというには短いブランクだったが、それはそれで楽しい懐かしい東京だった。3月にベルギーに出張した。プライベートでもその他、
パリを離れて地方に何度か行った。そのたびに思うが、パリに帰ってくると、なんだかほっとするのだ。
こんなに「つれなくされている」のに、「コロコロ天気も変わる」のに。
まるで、恋する女性に対する感情なのだろうか。片想いというより、遊ばれている感覚だ。わがままだけど、逃すには余りに「いい女」なのだ。
どうしてか分からないが、飛行機で旅行のときは市内に入ってきたとき、車で旅行に出たときは環状線が近づき混沌が目に付き始めたとき、そして、
最も顕著なのが、新幹線(TGV)の旅行のときでパリの駅に帰ったときだ。
悔しいが、パリはいい女だ。
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