花と星の物語 続編
                           神野 優
 あれから何年かがたち、アリカは一六才の美しい少女になりました。
 星になったショウに見守られて、アリカは幸せな日々を過ごしていました。
 そして、今日もいつもの様に、ショウの星に向かって願い事を語るのでした。
「初めて恋のお願いをするわ。隣町のカイのことが大好きなの。なんとかカイが私の 方を振り向いてくれるようにして下さい」
 今まで、アリカの願い事を全てかなえてきたショウでしたが、今度の願い事にはち ょっと戸惑ってしまいました。
 今でもショウはアリカのことが好きで仕方がないのです。
 もちろん、今のアリカにはショウの記憶は残っていません。
 でもショウには、楽しかったアリカとの思い出で一杯なのです。
「夜の神様、ボクはもうダメです。これ以上アリカの姿を見ていることができません」
 ショウは、天に向かって叫びました。
「なぜあの時、罰としてボクに死を与えなかったのですか。どんどんボクから遠ざか っていくアリカの姿を見続けることが、こんなにも辛いことなんて」
 ショウは、涙を流して見えない夜の神に向かって叫びました。
「もう一度、おまえたちにチャンスをあげよう」
 どこからか声がしたかと思うと、ショウの星は、流れ星になり西の空に流れて行き ました。
 しばらくしたある日、冬の木枯らしが舞う 寒い日のことでした。
 あの桜の木の下に一人の若者が、寒さに震 えて横たわっていました。
 その若者は、みすぼらしい身なりをしたシ ョウでした。
「なぜボクはここにいるのだろう。」
 夜の神は、星になったショウを再び人間に 戻してくれたのです。
 しかし、ショウの記憶からはアリカとの思 い出は全て消し去られていました。
 ただ、懐かしさに誘われて思い出の桜の木 の下まで来たのですが、なぜ自分がここまで 来たのかもわからないでいるのです。
 そこへアリカが現れました。アリカは恋人 のカイと一緒でした。
 桜の木の下に倒れ込んでいる人影を見つけ たアリカは、走り寄ってその顔をのぞき込み ました。
 その時、アリカの心の中にキュンと音がし ました。
「そんな乞食ほっとけよ」
 そんなカイの声に、後ろ髪を引かれるよう にアリカはその場を立ち去るのでした。
 寒さのために、気を失っていたショウは、 気が付くとあたりを見回しました。
「きれいな女の子が、ボクのことを見ていたような気がする」
 その時、ふと同じ様なことが遠い昔にもあった様な気がするのでした。そして、名 も知らぬ女の子に対する恋しさが心に募ってくるのでした。
 
 家に帰ってからのアリカは、あの桜の木の下で見つけた若者のことが気になって仕 方がありません。
 その夜、アリカはいても立ってもいられなくなり、家を出て桜の木の下まで走りだ しました。
 日が落ちてから降り始めた雪が、辺りをうっすらと白くおおい始めていました。
 アリカが桜の木の下まで来ると、あの若者は、昼間と同じ様に、桜の木に身を寄せ て倒れ込んでいました。
 アリカは、若者を抱き起こしました。身体はすっかり冷たくなっています。
「このままでは凍え死んでしまうわ」
 アリカは、抱きかかえました。
 アリカにはどうしてそんなことを自分がしているのかわかりません。
 でもそうせざるを得なかったのです。
「神様、もしこの私の姿を見ているのでしたら私に力を与えて下さい」
 アリカは天に向かって叫びました。
「何故だか私にはわかりません。でも、私はこの人を助けたいのです。この人を一目 見たとき感じたのです。私はこの人を好きになってしまったんだって」
 アリカがそういった瞬間でした。
 目の前がクラリとしたかと思うと、アリカの脳裏に、今まで忘れ去られていた妖精 時代の思い出や、ショウとの楽しかった日々の出来事が鮮明に思い出されるのでした。
 
 アリカにはしばらくの間、自分が誰なのかがわかりませんでした。
「ショウ!」
 全てを察し、我に帰ったアリカは抱きかかえたショウの顔を見ると叫びました。
 静かに目を開けたショウは、目の前のアリカの姿を見て言いました。
「アリカ、なのか?」
 ショウにも、アリカとの楽しかった思い出がよみがえっていたのです。
「アリカ、ショウよ」
 その時、天から声が響きました。
「私は夜の神だ。ショウの願いに、私はおまえたちにもう一度だけチャンスを与えた のだ」
 夜の神は続けて言いました。
「私は、ショウからアリカの記憶を消し去り、地上に戻したのだ。そして、それでも おまえたちが、この広い地上で再び巡り会い、再び愛し合うことが出来たら、全ての 記憶を呼び戻し、おまえたちを許してあげようとな」
 アリカとショウは顔を見合わせました。
「そしておまえたちは、私が与えたチャンスをものにしたのだ。幸せになるがよい」
 夜の神の言葉が終わると、アリカとショウは、再び互いを見つめ会いました。
「これでようやく二人して幸せになれるんだね」
 そういうとショウは、アリカを抱きしめるのでした。
(イラスト 星川千秋)