クローン
                           金森 賢
 長年の研究のすえ、ついにオレは、クローン人間を作りあげる装置の開発に成功し た。
 クローン人間とは、髪の毛でも、つめでもいいから、その人間の遺伝子情報を持っ た物質から、その人間の複製を作り上げてしまうというものだ。
 オレが開発した装置というのがこれだ。
 この高さ二メートル、直径一メートルのガラスのカプセルの中は、クローンを作り あげるための培養液で満たされているのだ。
 この中に、複製を作りたい人間の遺伝子情報を持った物質を入れ、ある一定周期で 電気的な信号を送り続けることにより、その物質は細胞分裂を繰り返し、やがてその 人間の複製ができあがる仕組みだ。
 さて、いよいよ今日は、実際にクローン人 間を作る実験である。
 そこで問題になるのが、誰のクローンを作 るかということだが、それは、オレがこの研 究を始めたときから既に決まっている。
 そう、長年、恋こがれていたあの娘のクロ ーンを作るのだ。
 勘違いをしては困るが、オレは別にスケベ 心でいっているのではない。
 誰だって、男ならこういう状況になったら 一番に、恋しい女の子の複製を作るに違いな い。
 十人の男に聞いたら、十人そう答えるはず だ。もし、違うという奴がいたら、そいつは 嘘つきに違いない。
 運良く、さっきたまたま彼女と道ですれ違 ったとき、彼女の髪の毛を思いっきり引っこ 抜いてきたのだ。
 突然の出来事に、彼女は、目を剥いてオレ を睨みつけたが、これも、このオレの欲望を 満足、いやいや、人類の壮大な研究のためだ から仕方がない。
 オレは彼女の髪の毛をカプセルの中に落と し、装置のスイッチを入れた。
 髪の毛は培養液の中をゆっくりと漂い始め た。
 しばらくして、顕微鏡で観察すると、髪の毛はものすごい勢いで、細胞分裂を始め ていた。
 まず、第一段階は成功だ。
 ここまで来れば、後は時間の問題である。
 オレの計算では、一ヶ月後には、彼女のクローンができあがっている筈である。
 オレは、自動スイッチを入れ、部屋の明かりを消すと、実験室を出た。
 後は、一ヶ月待つだけである。
 
 そして、一ヶ月後、オレは、期待に胸を膨らませ、実験室にはいった。
 部屋の明かりをつけ、カプセルの中をのぞいたオレは愕然とした。
 カプセルの中には、全長一七〇センチ、直径三〇センチに成長した、でっかい髪の 毛があったのだ。
(イラスト 星川千秋)