戦国時代
                           金森 賢
「要するに、私がまだ若いってことが問題だというのですか!」
 その若い学者は、机を拳でたたきつけると、大声をあげた。
 ざわめいていた会議室が一瞬シーンと静かになった。
「そうはいってはおらん」
 白い髭をたくわえた白髪の老学者が、嘲るような笑いを浮かべていった。
「若い時期は誰でも効をあせるものだ、という一般論をいったまでのことじゃ」
 若い学者は、老巧な老学者の態度に新たな怒りを覚えていた。
 会議室内の他の学者たちは、皆一様に腕を組み、二人のやりとりを聞いていた。
「古代史は、情報が少ない、特にニッポンの様に極地の国の出来事は、ほとんど情報 がないといっていいじゃろう」
 そういって、老学者がパチンと指を鳴らすと、会議室中央の空間に映像が浮かび上 がった。そこに現れたのは、紙でできた古ぼけた古文書の映像であった。
 老学者は続けた。
「だからこの古文書が発見されたとき、我々は充分議論した末、今の定説を立てたの じゃ。まだ、君はその頃生まれてなかったじゃろ」
 権威のある老学者の発言に他の学者たちは大きくうなずいた。
「私が生まれていたかいないかは、この議論とは関係ないじゃないですか!」
 いらいらしたように若い学者はいった。
「私は、その定説が全て間違っているといっているのではありません。ニッポンには 確かに戦国時代はありました。同じ国の中で同じ国民が争うなんてとても愚かなこと です。でも、それは長い歴史の中のほんの短い期間にすぎなかった、といっているの です。ほんの16世紀後半の一時期にすぎず、定説にあるように20世紀後半まで、 そんな長い期間戦国時代は続かなかったといっているのです」
「待ちたまえ」
 老学者もいささかうんざりしたように、若い学者の言葉を遮った。
「この古文書には年号がはっきりと記載されていることは、知っているんじゃろ」
 その言葉に、若い学者は言葉を詰まらせた。
「聞くが、その古文書はいつ書かれたんじゃ?」
「そ、それは、西暦2021年10月19日、今から約2000年前です。」
「そう、そして、そこには確かに争いの記録が残されている。違うかな?」
「そ、それは、確かに認めます」
 若い学者は、渋々小さい声でそうつぶやいた。
 その姿に、老学者は勝ち誇ったように続けた。
「この古文書によると、その当時、日本は、そう、10から20の小さな国に分かれ ていたようじゃ。そして、毎日のように争いを繰り返していたのじゃ。そして、最後 には、アメリカによってヒロシマとフクオカに原爆が投下され、戦国時代は終わった。 そのこともこの古文書から容易に推測される」
「フクオカじゃなくてナガサキです」
 若い学者は、小さくつぶやいた。
「ふんっ」
 再び、老学者は、嘲るような息をもらした。
「古代、ニッポンの南端、キュウシュウはフクオカが統治していたんじゃ。ナガサキ もフクオカの一部だったというのは常識じゃろう」
 若い学者は、顔をふせ、拳を握りしめて老学者の嘲りの言葉を受け止めていた。
「もうよい。古代史には、裏付けが必要じゃ。君の説を裏付ける遺跡でも掘り当てる ことじゃな。さっ、会議も長くなった。この辺でお開きにしようじゃないか」
 老学者の言葉に、他の学者たちは立ち上がり、ぞろぞろと会議室から出ていった。
 若い学者は、ひとり残され、悔しさに身体をふるわせていた。
 目の前では、問題となった古文書の映像がまだ映し出されていた。
「この、この古文書さえなければ」
 若い学者は、恨めしそうに古文書に目をやった。
 その古文書には、こう書かれていた。
 
 
   1999年プロ野球戦国時代を広島カープが征す!
   日本シリーズ天王山、福岡ダイエー総力戦で戦うも
   広島カープ投手陣の前に玉砕!!
   広島カープが1999年の天下を取る。
   あとは、アメリカ大リーグとの戦いを残すのみ!!