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構想十数年、未だ完成せず 各務博之
その昔、十数年前、私はSF作家になることを強く熱望していた時期がありま した。(いまもないとはいいませんが) そんな時期の、旅先での出来事です。 そこは、海岸に面した温泉街で、季節は冬でした。 私は、ひとり温泉街の閑散とした通りを歩いていました。人通りのない道の両 側には、土産物屋が明かりを並べ、店の中では、手持ちぶさたなおばさんが何を するわけでもなくぼんやりと立っていました。 私は、通りを抜け、夜の砂浜へと足を運ぶのでした。 砂浜を取り囲んだ防波堤を越えると、夜の海が静かな波音を立てて広がってい ました。 昼間見た海とは違う、穏やかな波が、砂浜に押し寄せ、静かに音を立てて砂の 中に染み込んでいくのでした。 空を見上げるとそこには、暗い空一杯に、冬の星座が瞬いていました。 私は、しばらくの間、ぼんやりとその光景に見とれているのでした。 そして、その時、いくつもの星のきらめきの中を、流れ星が一筋の線を引きな がら夜空を横切っていくのでした。 その瞬間、私の頭の中に、幻のSF超大作「星に願いを」のストーリがふつふ つとわき上がってくるのでした。 今日は、構想十数年、未だ完成せぬ幻のSF超大作「星に願いを」を紹介した いと思います。 主人公は、もちろん女子高校生です。容姿はもちろん美しくなければいけませ ん。 この主人公には、病気の母親がいます。とても重い病気です。現代医学ではと うてい治せません。仕方がなく、親子ふたりで海辺の温泉宿で保養をしているの です。 ところが、現代医学でも治せないような重い病気が、温泉の保養で治るはずが ありません。最初のうちは、気分転換のため少し病状がよくなったかに見えたの ですが、次第次第に病状は悪化し、今夜持つかどうかというところまできてしま ったのでした。 主人公の女子高校生は、長い看病生活に疲れ、床で苦しむ母親の姿を見るに耐 えかねて、冬の夜の砂浜へと足を運ぶのでした。 夜の海は、優しい音を立て、彼女の足下に波を運ぶのでした。 見上げれば、満天の星空です。冬の正座のきらめきが、彼女の疲れ果てた心身 を癒やします。 その時、流れ星が星空を明るく照らしながら横切るのでした。 思わず彼女は、胸の前で手を合わせ、目をつぶり流れ星に祈るのでした。 「お母さんを助けて!」 彼女が目を開けると、流れ星は、もう夜空から消えていました。 彼女は、満天の星空を名残惜しそうに、母親の待つ宿へ戻るのでした。 それから、彼女は、母親の枕元に座り、最後の苦しみに耐える母親の顔を涙を 流しながら見ていました。 そして、夜も更け、看病疲れのためついつい彼女はうとうととしてしまうので した。 その時、突然、窓の外が眩いほどに光り輝きました。 窓のカーテンの隙間から差し込んだ眩い光に彼女は目を覚まします。 彼女が、おそるおそる窓を開けるとそこには、一機の宇宙船が明るい光を発し ながら窓の外でホバリングをしているのでした。 実は、砂浜で彼女が見た流れ星は、この宇宙船だったのです。この宇宙船は、 宇宙の果てから凶悪な宇宙人を追ってきた正義の味方だったのです。 そしてその凶悪な宇宙人が、この地球を乗っ取るために既に地球に降り立ち活 動を始めていたのでした。 正義の宇宙人は、その活動を阻止するために地球にやってきたのですが、お約 束通り地球の大気が彼らには合わず、彼らは地上で活動することができないので した。 それで、正義の宇宙人は、自分たちになり代わって地球を守る戦士を捜してい たのです。その戦士になるための条件は、彼ら宇宙人と同じ波長のオーラを持っ た人間だったのです。 そして、夜空を飛行中、彼女の強烈な祈りの波長をキャッチしたのでした。そ れはまさしく彼らが探し続けていた波長でした。それで、彼女を正義の戦士とす べくこの夜彼女の前に宇宙船は現れたのです。 そんな話を彼女は聞かされました。ところが彼女は自分が夢を見ているようで とても信じることができませんでした。 正義の宇宙人は、彼女が正義の戦士になる代わりにお母さんを助けてあげるこ とを約束しました。 次の日、彼女は、窓から降り注ぐ朝日に目を覚ましました。 昨夜のことは夢だったのかしら、そう思ったときでした。 開け放たれた窓から降り注ぐ朝日の中に、眩しそうに朝日を見上げるお母さん の姿があったのです。 正義の宇宙人は、約束を守ったのです。 そして、昨夜のことが、本当の出来事だったことを彼女は悟ったのです。 ということで、ここから、彼女と悪の宇宙人との壮絶な戦いが繰り広げられる のです。 やっぱり、彼女は正義の戦士として戦うときは、変身するんでしょうね。 そして、同じように正義の宇宙人に声をかけられた同士が現れてきます。 それも、やっぱり女子高生に限りますよね。 こうしてみると、まるでテレビアニメのセーラームーンのようですが、忘れて はいけませんよ、私のこの構想は、十数年前に既に考えられていたのですからね。 いいですか? セーラームーンが登場する数年前から、密かに私は構想を練っていたのです。 で、このお話をとある雑誌社の新人賞に応募した私は、見事大賞を獲得し、こ のお話は本として出版されるのでした。そして爆発的な人気を得るのでした。そ して、このお話はシリーズ化され、次々とベストセラー作品となります。 もちろんテレビアニメ化もされますし、映画化もされます。 ぬいぐるみやカード、変身小道具などがグッズとして売り出されますし、テレ ビゲームもでます。 そして、社会的現象として取り上げられ、経済効果3,000億円とまでいわ れ始めます。 テレビアニメでは、効果を出すための過激な光の映像により、子どもたちが意 識障害を起こすというハプニングも起きますが、それを乗り越え、このシリーズ は不朽の名作として、後の世に語り継がれるようになるのでした。 ということで、作者である私は、その後、左うちわの幸せな日々をおくるので した。めでたし、めでたし。 と、その夜、夜の砂浜で流れ星を見た私の脳裏には、以上のような壮大な人生 設計が打ち出されたのですが、構想十数年、未だにこのストーリは完成せず、左 うちわとはほど遠い生活を続ける今の私がいるのでした。 最近、巻頭言に重みがなくなったと思いつつ、巻頭言を終わります。
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