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タイムマシン パート2 |
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金森 賢 |
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「できた!!」 オレは、大声でそう叫んだ。 いつものことながらオレの研究所にはオレ以外誰もいない。まわりに誰もいなくて も声を出して自分自身にいい聞かせるように話すのはオレの癖だ。はたから見るとち ょっとおかしいんじゃないかと思うかもしれないが、オレはこれで30年間やってき たのだから今さら直せといわれてもできない相談だ。 それはさておき、ついにオレは人類の永遠の夢、タイムマシンを完成させたのだ。 思い起こせば、10年前、タイムマシンの構想を練りながら風呂に入っていたオレ は、石鹸に足を滑らせバスタブに思いきりひたいを打ち付けてしまった。 そして、その時、オレの頭に閃いたのが……。 「そう、このハイパータイムエボリューション回路だ!」 どこかで聞いたような話だな、というヤツがいるかもしれないが、これが事実なの だから仕方がない。 あれから10年間、ひたいの傷を心の支えとして、全てをなげうってオレは、この タイムマシンの完成に力をそそいできた。 いままで、タイムマシンは、SFの中でしかお目にかかれなかった。あのドクター ・ブラウンが開発したタイムマシンは、自動車であるデロリアンを改造したものだっ た。 あのタイムマシンが、いわば可搬型であるのに対して、オレが開発したタイムマシ ンは、据え置き型だ。 「この目の前にある装置がそうだ!!」 「ザ・フライ」に出てきた転送装置を思い浮かべてもらえばよい。 このカプセルの中に入り、タイムトラベルしたい時間を指定しスイッチを押すと、 カプセル内の物体をその時間に送り込むことができるのだ。送り込む場所は、今いる 場所と同じところだ。 基本的にドクター・ブラウンの開発したデロリアンと同じだ。ただし、デロリアン は、タイムマシンそのものも一緒に、時間を超えて移動するのに対して、オレのタイ ムマシンは、カプセル内の物体をその時間に飛ばすだけで、タイムマシンそのものが 時間を超えるわけではない。 タイムマシンそのものを時間移動させるのは理論的に不可能なのである。何故不可 能なのか、説明すると長くなるので省略するが、デロリアンはSFだから、フィクシ ョンだからこそできたのである。 「現実の世界では無理だ!!」 では、早速、タイムトラベルを楽しむこととしよう。 どこに行くか。 それはもう決めてある。 それは、あの10年前、このハイパータイムエボリューション回路を閃いた記念す べき日。 「あの日に行くんだ!!」 オレは、その指の先に遠いあの日があるかのように宙を指さして叫んだ。 オレは、カプセルの中に足を踏み入れ、中央に立つと重いドアを閉めた。さすがの オレも緊張感から胸の動悸が高鳴る。 そして記念すべき日をインプットした。 後はスタートスイッチを押すだけだ。 「何か問題はないだろうな」 オレはつぶやいた。最後の最後で大変な失敗をしでかすヤツがいるものである。オ レは慎重にひとつひとつをチェックした。 「10年前、ここは何もない野っ原だったはずだ。だから何もじゃまする物はない。 オレは10年前の野っ原に投げ出されるのだ。そう、何もない……ン!?」 「何もないだって!!」 オレは、親指が触れかけていたスタートスイッチからあわてて手を引いた。 「危ない、危ない。なんてことだ」 オレは、息苦しくなって荒々しくドアを開けると、カプセルから飛び出した。そし て、一度、二度と大きく深呼吸をした。心臓が飛び出しそうなほど大きな音を立てて 鳴り響き、冷や汗が頬をつたった。 「危うくオレは帰れなくなるところだった」 さっきもいったように、このタイムマシンは据え置き型なのだ。10年前に時間を セットしたら、オレだけが10年前にほおり出されるのだ。 「この時代に帰ってこようにも、タイムマシンはない!」 10年間、オレがタイムマシンを完成させるまで待たなければならないのだ。 危なかった……。 「さて、そしたらどこへ行ったものか……」 少なくとも戻ってくることを考えると未来へ行くしかない。 「そうだ! 未来だ! このタイムマシンが世間に発表され、大々的なセンセーショ ンを巻き起こし、オレが人々の尊敬の的として、脚光を浴びている明るい未来を見に 行こう!!」 未来ならそこにあるこのタイムマシンで帰ってくればいい。 同じ場所に移動されるのだから、オレの気が変わらず、この研究室がこの場所にあ り続けていたら、未来のこのカプセルの中に移動することになる。 「まてよ……。その時、何かがカプセルの中に入っていたらどうしよう……」 何が起きるのだろうか……。 例えば「ザ・フライ」のように蠅がカプセルの中に入っていたとしたら。 「……そうか! 何も問題ないじゃないか!」 そうなんだ。未来のオレは、いつ今のオレがタイムトラベルしてくるか知っている んだ。今からタイムトラベルしていく時間を覚えておいて、未来のその時間になった ら未来のオレがカプセルの中に何も入れないようにしておけばいいんだ。そうして、 未来のオレは、今のオレがカプセルの中に現れるのを待っていればいいんだ。 「よし、今度こそ問題ないな」 オレは、そういうと再びカプセルの中に乗り込んだ。 タイムトラベルの行き先は、半年後にしよう。 オレは、時間をセットした。 「……落ち度はないな」 オレは、もう一度繰り返しチェックした。 「よし、問題ない」 ついにオレは、スタートスイッチを押した。 「9」 「8」 「7」 カウントダウンが始まった。 5秒前にドアが自動ロックされた。 もう止めることはできない。 「3」 「2」 「1」 「0」 「明るい未来へ!!」 カウントゼロに合わせてオレは叫んだ。 次の瞬間。 オレがほおり出された未来は真っ暗だった。 あたりを見渡せば遠くに輝く太陽が見える。 「しまった!! 地球は太陽のまわりを公転しているんだった!!」 その声は暗黒の宇宙空間では声にならなかった。 タイムマシンが物体を移動する先は、移動前と同じ場所だったんだ。 半年前、オレの研究所が、あのカプセルがあった同じ空間にオレは投げ出されたの だ。 ただ、半年の間に地球はあの太陽の向こう側に移動してしまっている……。 「デ、デロリアンはどうやってこの問題を解決したというのだ……」 宇宙空間に投げ出されたオレは、薄れゆく意識の中で生まれた新たな疑問の答えを 見つけることができず消えてゆく自分自身をとても哀れに感じていた……。 |
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