BALANCE OF GAMEDESIGN
 


 実のところ私には、一般的に流通している概念「ゲームバランス」という言葉がわからない。
 卑しくも演算可能な機械を用いてプレイするゲームで、「ゲームバランスが悪い」というのは、一体どういう事であろうか。
 世の中のコンピュータの大多数は、バランスを保つために用いられている。マイコン炊飯ジャーの内圧を適正に保ち、飛行機の翼面を制御しているのは、一体なんなのであろうか。
 ゲームの進行中、回復可能量より急速にライフを失うのを避け、攻撃係数の増大がライフを最大値近くで安定させることを妨げる、言ってみれば、ゲームバランスなんてたかだか数個のルールを満足するように幾つかのパラメータを運用するだけである。
 パラメータを静的に決めうちするのはいい(私だったら絶対、動的に制御するが)。だが、その安定点を手作業で探すなんて、そんな馬鹿な話があるだろうか。
 ゲームデザイナに制御屋はいない、という事なのだろう。フィードバックループに未知要素(即ちプレーヤ)が絡むので現代制御の領域になるが、可能なのは確かだ。ゲームバランスを制御の対象として捉えることで、ゲームバランス云々のセリフは、恐らく永遠に消滅する。

 もう一つ言えることは、雑誌などで見る限り、ゲームの開発に必須と思われる、幾つかの手法、ツールが、現実には使われていない、という事だ。

 まず、テストパターン。これは、FPGA/ASIC開発者ならすぐにピーンと来るだろう。ユーザの可能な全ての、もしくは選ばれた入力を網羅的に機械的に行い、機能を検証するための入力パターンだ。これは開発初期に、仕様と同時に作成するべきものである。
 勿論、ゲームの大多数は、将来選択可能な手が非常に短期間で爆発する。また、リアルタイム入力が可能なゲームでは、選択という概念すら希薄だ。
 しかし、解空間の広さを見積もっておくことは重要であるし、上位のオブジェクトで、テストパターンを適用可能としておく、というような開発手法を採れば、開発は大幅に合理化されるだろう。合理化しなければ大規模開発が不可能であることは、ASIC開発の例から見て明らかだ。

 次に、論理検証ツール。これは、ゲームのルールを検証する。どのようなゲームでも、ゲームの面白さを決定付けるルールは幾つかに絞ることが出来る。特に、取っ掛かりの容易さが重要視されるコンシューマゲームでは、ルールに相互の連携が希薄で、その数も少なめである。

 そして、APIの標準化。通常、業界が大きくなれば、コンポーネント、オブジェクトの調達の容易さを求めて、APIの標準化の動きが出てくるものだと思うのだが、そういう話が、ゲーム業界に限っては聞こえてこないのは不思議である。
 簡単にコンポーネント化出来るものとしてすぐ思いつくのは、例えはギャルゲーの登場人物だ。所詮人間(もしくはそれに毛とか耳とか生えただけ)なので、インタフェイスは簡単に標準化可能である。
 勿論、キャラクターを派生オブジェクトとして実装している、という場合、このようなコンポーネント調達要求は低いだろう。

 更に、将来重要となると思われるテクノロジを並べてみよう。

 
私の信じるところによれば、平均的な質問者が質問を5分した後で正しい同定を行う機会が70パーセントを超えないように上手にイミテーション・ゲームをすることができて、およそ109の記憶容量をもつ機械のプログラムを作成することは、およそ50年もたてば可能である。
 「計算機械と知能」アラン・チューリング
 キャラクタークラスライブラリ
 暗算ですぐに判ることだが、109とは、たかだか128メガバイト程度である。この128メガバイトの、人まねをする基本的なライブラリの構築に成功すれば、ゲームの登場人物は全て、このライブラリの差分、派生オブジェクトとして実装可能である。
 ギャルゲーとは、チューリングテストの一変種でなくて何であろうか。

 NURBSモデリング
 完全にデザインされた曲面によるモデルを3Dで運用するためには、演算によるNURBSモデルの実時間アニメーションこそが理想的である。
 実装することは割と容易である。OpenGLで既にAPIが用意されている為だ。但し、ハードウェアアクセラレーションは当分期待できないのが難点であるが。

 リアルタイムレイトレーシング、物理演算
 髪の毛も、一本一本描く時代が来ようとしている。2年以内に、数千本程度なら、滑らかに表示できるようになると予想する。

 形態素解析
 自然言語の文法を解析するこの技術は、アドベンチャーゲームを、選択肢方式から会話形式へと回帰させる可能性を持つ。

 ゲームデザインもまた、テクノロジと開発工数と面白さのバランスの上に成り立つゲームである。一人勝ちしたら負けの、終わりなき戦いなのだ。
 ゲームというものは、奥深い、実に奥深いものなのである。





 
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