光害対策ガイドライン策定に関する質問 星空を守る会及び国際ダークスカイ協会は、環境庁と日本環境協会が作業して いる光害対策ガイドラインに関して質問状を提出しました。長い内容ですがこ こにその全文を紹介します。技術的な事も含まれ、分かりにくいところもあり ますが星空を守る会(会長古在由秀博士 − 前国立天文台台長)の真剣な活動 と照明に関わる環境という大切な問題を知っていただくことが出来ると考えま す。 (質問の全文) 環境庁大気保全局大気生活環境室室長殿 日本環境協会光害対策手法検討会委員殿 事務局殿 題目:光害対策ガイドライン策定に関する質問 環境庁及び光害対策手法検討委員会が検討されている屋外照明のガイドライ ンについて、平成9年10月14付けで「星空を守る会」提案を委員会事務局へ 提出させていただきました。その後事務局殿より委員会宛に質問を提出するよ うご連絡いただいております。 ここに「星空を守る会」よりガイドラインの内容或いは策定方法等について添 付の質問をお送りいたします。 星空を守る会は、国際ダークスカイ協会とも連絡を取りながら、屋外照明の改 良を通して、誰もが利益を得る「省エネルギーの推進」、「障害光・漏れ光の 低減」そして「夜空の明るさを低減する」活動を続けております。どうぞ当会 の質問に対してご回答を宜しくお願いいたします。                    1998年1月29日                    星空を守る会                    国際ダークスカイ協会日本セクション       光害対策ガイドライン策定に関する質問 質問−1 照明と区域分けについて 検討会のガイドラインでもCIE(国際照明委員会)のガイドラインと同様に「地 域分け」あるいは、「環境区域」を分けたガイドラインを検討されていますか? 地域を分けてガイドラインを考えることに次の弊害があると考えておりますが、 検討委員会ではどのようにお考えですか? 1.照明を「環境」と「照明に使う電力エネルギーの総量」の問題として、省 エネルギーを考える時、照明密度の高い都市部の改善が必要ではないでしょう か?「省エネルギーの効果」は、都市部での照明改善によって初めて現れます。 全ての区域、特に都市部で「省エネルギーの効果」を期待できるガイドライン が必要ではないでしょうか? 2.遠方まで影響を及ぼす光の問題を区域毎のガイドを適用することで逃れる ことは、不可能です。なぜなら; 日本の狭隘な国土では、国立公園の近くに都市があり、影響が大きくあります。 具体例では; (1)美しい星空を看板としている岡山県美星町でも水島工業地帯等から約二十キ ロの距離にあり、南方向の空は光害の影響を受けています (2)富士山でも御殿場市、富士市等近隣の都市照明の影響を大きく受けています。 富士箱根伊豆国立公園は、これらの都市からわずか10キロの距離にあります。 (3)外国でもロスアンジェルスのMt. Wilsonがその問題の好例であり、ロスアン ジェルス市が積極的に問題に取り組んでいます。 質問−2 上方光束値について 米国等で広く使われるようになったフルカットオフ(水平以上に光を出さず、 かつグレアゾーンの光を抑制した)照明器具を一般照明に採用する可能性はあ りますか? 水平近くに出る光について次の二つの事が指摘出来ますが検討会のお考えはど うでしょうか? 1.障害光の問題 米国、イタリア等の照明条例と法案を見ると上方光束比はほとんどが0%となっ ています。米国Lighting Research Center (LRC)では、さらにグレアを低減す るために75度から90度の角度に出る光の量を4%以下とする事を推奨してい ます。グレアゾーンの光を抑制し、障害光を低減する事が、歩行者や車を運転 する人の安全にとっては重要と言われています。 御参考:米国IESNA (The Illuminating Engineering Society of North America)では、「カットオフ」照明の上方光束比を2.5%以下とし、更に「フル カットオフ」照明器具の規定を現在検討中です。 2.水平近くに出る光は特に光害に影響する 米国天文誌Sky & Telescopeは、次の様に述べています; (http://www.skypub.com/backyard/lightpol.htmlを参照) (1)水平から10度の角度で出る光は、真っ直ぐ上に出る光に比べて5.6倍の大気 を通過します。その間に光害の原因となります。 (2) 真っ直ぐ上に出る光は20-30%が大気に吸収されるか散乱されるだけで、残 りの光は無害に宇宙に放出されます。それに比べて、水平から5度の角度で出 る光はその90%が大気に吸収されるか散乱され、光害に貢献します。つまり3 倍から4倍光害に貢献しています。 (3)現在使われる照明の一部は、既にこの真っ直ぐ上に出る光を防いでいる照明 器具がありますから、光害の大きな問題は、低い角度で出る光を如何に抑制す るかにあります。 (4)少なくとも以上の問題は、照明が設置されている場所からかなり離れた場所、 特に過去20年で大きな被害を受けた都市郊外で問題となります。 質問−3 商業用の照明につて 宣伝等の商業用照明に対してのガイドラインはどのように考えられていますか? 星空を守る会は、現段階では商業用の照明に対してはCIE TC4-21の"Guidelines For Minimizing Sky Glow"を適用する事を提案しますが検討委員会のお考えは どうでしょうか? またご参考までに幾つかの具体的な照明については次の様に考えております; (1)看板の照明は、上から下に向けて照明する事、及びそれぞれの照明がフルカ ットオフの照明器具を使うこと(米国アトランタ市の条例) (2)内照式看板については、使用電力の上限値を、また看板の装丁を暗い背景に 宣伝用の文字を明るく「ぬく」方式を提案します。(米国ツーソン市の照明条 例参照) (3)道路や住宅地、公園などに近接して設置される照明は障害光・漏れ光を出さ ないもの (4)閉店後及び深夜は商業用の照明の消灯を行うこと 質問−4 省エネルギーについて 屋外照明の無駄になっているコストを幾らと試算されていますか?同時にどれ だけのコスト削減を目標とされますか? ご参考までに星空を守る会の試算では、屋外照明で無駄になっているコストを 約2000億円としています。これは、IDA(国際ダークスカイ協会)の試算が米 国で約10-20億ドルであること、人口比が米国の半分、電力コストが3倍であ ることから推測した値です。 (電力コスト:米国8セント/kWhに対し日本では約24円/kWh) 地球温暖化への影響については、屋外照明に使う電力は、米国の統計で全体の 0.63パーセント(下記参照)と言われており、屋外照明だけを議論し地球温暖 化への改善を結びつけることは簡単ではありません。米国では、屋内照明、建 物及びビルの省エネ対策を同時に推進している米国EPAのグリーンライトプロ グラム及びエネルギースターに見る様、総合的な活動を提案しています。 屋外照明の電気使用量等(1988 study by Competitek-米国の統計)については 次の調査があります; 屋外照明の電気使用量は: 全電気使用量の0.63% 照明全体でも: 全電気使用量の25% 注:全ての高速道路と商業用の照明についての統計 質問−5 電力業界との協力について 電力業界のメンバーが検討委員会の中に入っておられますか? この質問の背景は次の通りです; 屋外照明に使用する夜間電力の使用量を例えば50%削減したとしても、それが 直接エネルギーの削減につながる事は、現在の発電システムでどこまで可能か 分かっていません。現在の発電システムは、安定した出力を持続することで効 率が高くなるように設計されています。夜間の照明電力を削減し、その余った 電力を揚水発電所等のシステムに蓄え、日中の負荷に備えるようなシステム作 りを電力業界とともに社会的基盤として構築する必要性があると考えています。 その為にも電力会社との協力は検討されていないのでしょうか? 質問−6 時間による消灯、タイマー、感知器について 光害対策委員会では、時間による屋外照明の消灯、タイマー、感知器(Motion Detector)及び屋内照明についてはどのように検討されるのでしょうか? また、具体的な質問ですが、アパート、マンション等の住宅の廊下灯、階段灯 さらには駐車場などの照明のガイドラインはどうされるのかお聞きしたとおも います? ご参考までに; 添付の写真に見られるよう高層住宅では、廊下と階段を夜間連続して照明する 物がほとんどとなっています。蛍光灯を使っていますが、数量は多くなってい ます。 ヨーロッパ特にドイツ、イタリアでは、アパート等の集合住宅のホール、廊下 には必ず「タイマースイッチ」が取り付けられ居住者が通行する前にスイッチ に触れると点灯し、しばらくすると消灯する仕組みとなっています。 このような、このような良いシステム、良い習慣の啓蒙のご検討はどうでしょ うか?