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藤田千織 chiori fujita

ミュージアムと9月11日

 

NYの世界貿易センタービル跡の近くに、
2本の光の柱でメモリアルを表現するプロジェクトが 実現するそうです。
http://www.asahi.com/international/update/1124/009.html

光なら瓦礫の撤去作業も邪魔しないし、ということのようですが、
貿易センターのゴーストみたいで、心を乱され、
見てもいい気持ちのしない人はたくさんいると思いますが…

また、つい最近やはりセンタービル跡地に、
緩やかな歩道橋のような仮設展望台が設けられ、
連日訪れる人々で混雑しており、
とうとう整理券を朝配るようなことになってきました。
NYタイムズに、ワシントンDCにある ナショナル・
ビルディング・ミュージアムで行われた 超高層ビルについての
シンポジウムの記事がありました。

http://www.nytimes.com/2001/11/12/arts/design/12SKY.html?todaysheadlines
抜粋:
「超高層ビルはアメリカのシンボルである。
それは経済的パワーの象徴であ るとともに、ヨーロッパの広場、
大通り、宮殿などに代わってアメリカの都市を特 徴づけるものなのだ」

「超高層ビルは我々の自信を象徴しているがために、
9月11日の出来事は、より アメリカ人にとって
ショッキングだったのだろう」等。

建物という存在を通して 今回のテロ事件の影響が伝わってくる記事です。

NYにあるクイーンズ美術館は、
もともと1964〜5年に開かれた世界博覧会で
NY市のパビリオンとして使われていた建物が利用されています。
その時の呼び物、 「NY市の200分の1の巨大模型(パノラマ)」が
そのまま展示として残されているのです。

http://www.queensmuse.org/exhibitions/
(この中の “Panorama of the City of New York” をクリックすると展示の拡大写 真が載っています)

模型は92年時点の情報に基づいてアップデイトされているので、
もちろん世界貿易センターも建っています。
9月11日の同時多発テロ事件の後、
パノラマの中のツインタワーを現実に合わせて 撤去するのか否かが
話題になっていました。
事件二日後、ミュージアム内の話し合いで、 撤去する、そのまま残す、
または何らかのメモリアルとしての 意味合いを加えて残す、
という3つの選択肢を話し合った上で、
結局3つめの案に決定しました。

薄暗い中、ミニチュアのツインタワーには スポットライトが当たり、
ビルの上部にアメリカの国旗の3色、赤、青、白で
無限大∞の形につくられたリボンが飾ってあります。
そのすぐ脇の通路には、 ツインタワーのシルエットを模したかのような
2本の柱のような解説パネルが建っており、
ツインタワーの歴史、建築、建設に使われた技術について、
そして9月11日に飛行機が衝突して壊されたことなどが
簡潔に説明されています。

事件後比較的早い時期(10月5日)につくられたので
テロ犯人の特定もできていなかった(一応今もですが) ということ、
そして恐らくミュージアム側のスタンスとして、
あまりテロの惨劇などにはフォーカスしないことに決めたので
こういった客観的な内容になったのではないかと思います。
(但しこれはあくまでもメモリアルであって、
展示としては世界貿易センタービル はもう存在していない
という事実に即していないので、
いつまでこのような形で展 示を続けるのかは不明です。)

事件後、ニューヨーク市の5つの独立区
(マンハッタン島、ブルックリン、クイーンズ、 ブロンクス、
スタテン・アイランド) では、
トンネルや橋を使う他の区へのフィールドトリップ
(遠足や博物館見学など)を禁止しました。
さらに学区によっては子どもを団体で動かす フィールドトリップ自体を
自粛しているところも多いため、
たくさんのミュージアムから 学校団体の子どもの姿が消えています。
これはミュージアムにとっては収入激減も意味するわけで、
どのミュージアムにとっても観光客が減ったことと並び
問題になっています。

グッゲンハイム美術館の経営状態悪化

http://cnn.co.jp/2001/SHOWBIZ/11/20/guggenheim.nytimes/index.html
も、これが原因の一つでもあるようです。

クイーンズ美術館も、NY市の教育指導要項で社会科の中に
「NYについてのカリキュラム」があるため、
いつもたくさんの小学生がNYのパノラマを見に、
社会科見学に訪れていました。
それが美術館の収入源を支えてもいるのですが、
テロ事件後はキャンセルが増えたようです。

しかし面白いことに、キャンセルする学校があると同時に、
予約を入れるグループもいるようで。
こんな時だから、このNYパノラマの展示を使って
9月11日のことについて皆で話すいい機会だ、
ということかもしれません。

学校団体以外にもNYのパノラマに今もたつツインタワーを
見に訪れる一般の入場者もあり、
9月11日以降、意外に来館者が多いのです。
そういう意味では、ミュージアムが思い出をシェアしたり、
皆で話をしたりする場になっているのですね。

事件後にクイーンズ美術館のパノラマを取り上げたローカル紙では、
美術館側のコメントとして
「ツインタワーを残しておくことは、
いまだに9月11日に起こったことや ニューヨークシティと
自分達との関係について 熟考することを必要とする人々を
助けることにも つながると考えています。」
とありました。
今回はアートと直接の関係はありませんが、
ミュージアムと同時多発テロ事件の関連についての報告でした。

 

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