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石井 千恵 chie ishii

ミュージアムと学校

 最近、ミュージアムにおける「教育普及事業」に注目が集まってきている。 学校の夏休み期間に企画される子ども向けの展覧会やワークショップ、1年 をとおして行われる一般向けの様々な講座やイベント。だが、もともと ミュージアム(日本でいうところの博物/美術館)が、社会における教育施設 であることを考えると、この日本各地に存在する大きな箱が、あらゆる人々 にとっての「学びの場」となることは自然であるし、今後もますますこうした試 みが充実していくことを願わずにはいられない。

 こうした教育事業への取り組みが活発化した背景には、ただただ「モノ」を集 めて保存し、研究するという第一世代のミュージアムから、展示、公開を中心 とする第2世代、さらには市民の参加を志向する第3世代の社会教育施設へと ミュージアムが変わりつつあること(注1)、また、2001年から施行された 国立博物/美術館を対象とした独立行政法人化により、改めて、社会における ミュージアムの存在意義が問われ始めたことも影響しているのかもしれない。

 1980〜1990年代に、現在の日本のミュージアムが直面 しているような状況を経験 してきたイギリスのミュージアムは、社会からの自由な「学びの場」としての ニーズが高まるにつれ、館独自のコレクションをもとにした多様な教育 プログラムを開発しながら発展を遂げていった。学校団体を対象とした教育 プログラムも、そうしたもののうちの1つである。 学校団体がミュージアムを利用しやすいように開発されたプログラムの多くは、 ミュージアムのコレクションをもとに、学校の授業に取り入れやすいよう 「ナショナル・カリキュラム(日本の学習指導要領と類似したもの)」に沿った 内容になっており、その取り組みからは学ぶ点が多い。

 それぞれのミュージアムが独自に持つコレクションは、小さなものから大 きなもの、博物系からアート系まで多種多様である。こういったコレクション すべてに共通していることは、それらはどれも「リアル オブジェクト (ホンモノ)」だという一言につきるだろうか。本物のアート作品、本物の遺跡 から発掘された昔の道具、世界中から集められた民族衣装、紀元前の人々の 生活の様子が記録されているドキュメント、過去に開発された科学薬 品・・・・。

 実際にこういった「ホンモノ」にふれる機会は、何ものにも替えがたいほどの 力を持つ。教科書、コンピューターによるバーチャルな映像、録音された音、 どれをもってしても、「ホンモノ」に接するほどの体験を提供することは難 しい。だが、ミュージアムでは子どもたちにこういった体験を提供することが 可能なのである。まさに、ミュージアムとは、子どもたちにとっての理想的な 学習環境であるといえるだろう。またさらには「ミュージアム」と子どもたちが 毎日のように通う「学校」とが協力しあうことによって、教育の可能性 はさらに広がっていくかもしれない。

 「ミュージアム」と「学校」という2つの組織が協力する上で必要 となってくるのは、両者がお互いを理解しあうこと、つまり 「コミュニケーション」かもしれない。なぜなら、両者がパートナーシップ をもつことで目指しているゴールが異なれば、目的達成のための手段にも差 がでてくるかもしれないし、また、お互いに協力して活動を続けていくことさえ 困難になるだろう。さらに、「ミュージアム」と「学校」がパートナー としてその関係を発展させていくためには、ミュージアムのスタッフと教師 はいうまでもなく、2つの組織の体制自体についても理解しあう必要 があるかもしれない。なぜなら、より深い理解はより幅広い活動の可能性を生 み出していくからだ。

 このシリーズでは、どのようにすればミュージアムが学校団体を対象とした教育 プログラムを開発することができるか、また、プログラムをより良いものへと 改善していくには何が必要か、について述べていく。

(注1)伊藤 寿朗「ひらけ、博物館」岩波ブックレット188

 

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