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伊藤 香織 kaori ito  

フランスでの解説員の雇用

 フランスでボランティアが美術館にいないと以前書いたが、だとしたら解説員はどんな人がなっているのだろう?国立美術館連合RMNのギャラリ−・ト−ク部門責任者ジャノウスキー氏にインタヴューした。

 フランスでギャラリ−・ト−クが始まったのはだいたい20世紀の半ばころ。80年代までは文化省の美術館部門がこの部門を管理していた。一応試験があって、ヴィジットごとに時給が払われていたらしい。それが変わったのは1992年。文化省から国立美術館連合にこの部門の管理が移管されたときのことだ。このときから、解説員はめちゃくちゃなるのが難しい、憧れの職業となるのである。

 解説員にはどうしたらなれるのか?
コンクールを受けなければならない。条件は、美術史を4年以上修めた者で英語で仕事ができること。しかし実際の応募者の学歴ははるかに高い。書類選考・面 接・語学試験・美術史試験のふるいにかけられる。一番の難関は最後の美術史試験で、1時間の面 接時間内に専門30分専門外30分の二つの試験が行われる。それぞれについて、くじであたった3枚のスライドをもとに二人の試験官の前で模擬解説をおこなうのである。250人の応募者は最終的に15人にまでしぼられる。

 解説員の一日はどうなっているのだろう?
7時間15分の勤務時間のうち、4時間半がギャラリ−・ト−クに、2時間15分がその準備、1時間30分が研修に割り当てられている。研修時間はためておいて、例えば一年に2週間の研修を受けることができる。プログラムは3種類用意されていて、第一に、子供や身体障害者・外国人などの特別 な観客層の対処の仕方。先生は心理学者や社会学者だ。第二に美術史の知識や外国語の授業。第三に、発声や姿勢矯正などの身体的トレーニング(解説員に腰痛はつきものなのだ…)。

 ギャラリー・トークを聞くには、美術館の入館料のほかに600円から800円相当の料金を払う。回数やテーマはおのおのの美術館に任されている。だいたい中規模以上の美術館では、さまざまなテーマが各年齢対象ごとに用意されている。英・西・伊・独などの外国語のヴィジットも前から予約すればOKだ。 

 この解説部門は、言うまでもなく赤字部門である。10年のキャリアをもつ解説員はだいたい年収が21万フラン(400万円)ほど。現在フランスに150人の解説員がいて、全国各地の国立美術館で常勤として働いている。彼らの給料を払うのには、一回のシークエンスで大人を25人(子供や学生料金ではなく大人料金を払う人)集めなくてはならない。しかしながら一回のヴィジットには、まあ25人は集まらないのである。その上料金が格安の子供や学生対象のヴィジットが大部分を占めるのである。細かい数字は外部秘なのでここには書けないが、大赤字部門だということは言っておこう。ではこの大赤字部門がなぜ存続できるのか?

 ジャノウスキー氏はこう答えた。

 「美術館の解説員の使命は、教員と似たようなものなんですよ。美術館体験を深め知識を与え、人生を豊かにするんだから。だからこそ、私たちはプロとしての解説員の質にこだわっているんです。たしかにお金もかかりますが、雇用の保証もそのためには必要なんですよ。あなたは、たとえば公立の学校の先生の経済効率を計算しますか?1年に何人の子供に読み方と計算を教えたら経済効率はいくらだ、なんて?」

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