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川嶋 ベルトラン 敦子 atsuko kawashima-bertrand

来館者調査・展示評価のすすめ 第3話
番外篇:「お客さまはウソをつく?」

これは、先にお話した「近代美術と現代美術、 どちらがお好き?」の調査から得られたオマケ情報です。

先の調査では、美術館で、息をひそめて、 お客さんの動きを観察しました。 何十とある展示室のうち、人はどこに入るのか、 部屋の中では何回立ち止まるのか、 どのくらいの時間いるのか、といったことを調べました。

でも実は、これと同時に、お客さんにも尋ねてみたのです。 どの展示室を見ましたか? どのくらいの時間を過ごしましたか? どうしてここに来ましたか?などなど・・・

お客さんの「口から出た」意見をまとめてみると、 かなりの人が全て見て廻った、見残したものはない、と答えていました。 ん?でも、なんか変。 観察結果を見てみると、ほとんど人が入って来なかった 展示室ってのが、結構あるんです。

つじつまが合わなくなってくるのは、 過ごした時間についても同じです。館内平均滞留時間をだしてみると、 お客さんの言い分を聞いた場合、67分、 実際に測った場合だと、49分、変ですねぇ・・・

どうしてここに来たのかという質問、 来館動機の場合はどうでしょう。意見のトップは、「学ぶため」「味わうため」でした。でもねぇ、実際、展示室で立ち止まった回数というのは、 メディアン(中央値)2回と、かなり少ないんです。「学ぶために」「味わうために」来た人たちが、学んでいるとすれば、それは通り過ぎながら学んでいる ということになってしまいません?

まぁ、作品1点をじっくり見て、後はバイバイという こともあるかもしれませんから、断言できませんが・・・

いずれにせよ、ここで気づいてほしいことは、 「お客さまはウソをつく」かもしれないということです。
ウソとまでは言わずとも、「サバ読んで答える」と いうことでしょうか。お客さんだって、ええかっこしたいんですよ。 だから、あんまり律儀に信じ込まないで、 調査をいくつか組み合わせて、ウソ対策を施しましょう。

調査では、性悪説をとりましょう・・・ ということを、下の調査は教えてくれています 。

Gottesdiener, H., Ameline, J.-P.
"Le public du Musee National d'Art Moderne :
Une enquete sur la reception des collections permanantes". Les cahiers, 38, 1991, pp.114-121.              

(無断転写 ・転送・転載不可)


 

来館者調査・展示評価のすすめ 第4話
「解説文は、じゃまな存在?」

 

1992年のある日、ルーヴル美術館のスタッフと 大学研究員G氏は、白熱した議論を展開させていました。

作品解説文(キャプション)ってのは、作品鑑賞のうえでは、 あまり好ましくないんじゃないかなぁ・・・

いや、解説は大切だよ。 作品が作られた背景とか、時代とか、 そういった情報があるとないでは、鑑賞にも差がでる!

いや、そういう情報は、あくまでも補足的知識であって、 芸術作品は、ある意味では自己完結したものだから・・・

でもね、ほら、例えば、こんな人いるじゃない。食い入るように解説を読んで、そのあと、 頭を持ち上げたかと思うと、作品はちらっと一瞥して、ハイ、サヨナラって人。

ああいうのを見ると、キャプションってのは、 お客さんの作品への注意をそらすことになってると思うんだけど・・・

議論白熱、しかし、一向に結論をみません。そこで、G氏発言。
では、いっそのこと実験しましょう。

手順は以下です。 美術館のある一室の絵画7点を選びました。 実験のために、解説文をあらたに書き、長さ、内容を討議。 作品の横に添え、お客さんの行動をじーっと観察。

お客さんは、作品の前で立ち止まるか? キャプションを読むのか? そして、どのくらいの時間、絵を見ているのか? チクタク、チクタク・・・調査終了。

そして鑑賞時間のデータを、二つのグループに分けました。解説を「読んだ」場合と、「読まなかった」場合。 このふたつのグループで、絵を見ている時間に 差があるかどうか比べました。

もしも、「読んだ」場合の方が、絵を見た平均時間が「長い」ということになると、 キャプションは、絵を長〜く見てもらうために、役立っていると考えようというわけ。わかるかな?

反対に、「短い」ということになると、こりゃ大変。解説はあまり威力ないんじゃないの!と考えるわけ。 さっきの例じゃないけど、お客さんは、 キャプションに引き付けられすぎて、肝心の絵には、気もそぞろになる、とも考えられるわけです。

ははぁ、結果 はどうだったのでしょう。どうやら最悪の事態は回避できたようです。7つあった作品のうち、5つは、「読んだ」場合でも、「読まなかった」場合でも、平均時間には差が無し。残りの2つについては、「読んだ」場合の方が、 絵を見ていた時間が「長かった」ということになりました。 (統計解析の一手法、「tの検定」を用いています)

つまり、一応、ここで用いたキャプションは、 お客さんの作品への注意を、逸らす恐れがあるとは 言えない、ということになります。

詳しい考察を知りたい方は、以下をお読みください。


Gottesdiener, H., "La lecture de textes dans les musees d'art", Publics et musees, 1, 1992, pp.75-89.              
(無断転写・転送・転載不可)

 

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