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高梨 智子 tomoko takanashi

展覧会観察

 「垂直の時間 彫刻−過去・現在・未来−」
 会期:2001月10月11日(木)〜28日(日)
 会場:東京藝術大学大学美術館 陳列館
 観察日:10月28日(日) 雨

大学の彫刻科主催の展覧会。97年、99年に続く3番目の企画ということ。  

カタログには「木という素材を横軸に、時間という概念を縦軸にして、木彫芸術 の未来へつながる歴史を再検証しようという試み」などなどカタイ言葉が並べられ ているけれど、ものすごくセンスのいい展覧会だった。観に行って良かった。  

同じくカタログのあとがきに書かれていた「見た方々の個々の内に遠い世界や未 来を感じてしまう「時間」が出現することを願っている」という意図は見事に成功 していたと思う。  

会場となった「陳列館」という名前の響きも良くて、「展示じゃなくて、陳列か 〜。」と思うと妙に楽しげな気持ちになったりして・・・というのはたぶん私だけ でしょう。ホホホ。  

展示は、大学収蔵品である飛鳥から明治時代の仏像など9点と、現代の作家11 名(藝大彫刻科出身作家9名)の新作という構成。  

飛鳥・天平のものはさすがに破損が激しく、「月光菩薩座像」などは胸から腰ま でが無くなっていたけれど、そんなことが気にならないほどの目をみはる美しさ。 神々しいとは、まさにこういう作品の為にある言葉じゃなかろうか。展示数は少な いと言っても、「大学美術館の4万5千点の収蔵作品の中から」選んだものという ところがまた贅沢だなあ。

現代の作家の作品には、やっぱり、”今あえて木で彫刻作品を作る意味”という 事を考えさせられたりしました。  また、いろいろと対比させて観ることもできたと思います。  

「百合」(須田悦弘)は、小さい仏像の右肘から下の「仏像断片(仏手)」(平 安時代)に存在感が似ていました。金箔の残る、華奢だけど、しっかり自己主張し ている強さのある「仏手」。本当に壁から生えているようなリアルさがあって、壁 の向こうまで想像をかきたてる「百合」。精密で、木でできているというのも気に ならなかったりするけれど、須田さんの彫刻は他の素材では逆にこの生々しさは出 ないかもと思う。須田さんの作品は、今までなかなか間近で見ることがなかった事 もあって感激する。  

圧巻だったのは、「KID X」(清水淳)。入り口に外に向かって立っている 、高さ2m50cmの怪獣の彫刻。陳列館の看板と並んでいるのがまた妙。チラシだ けだと変な胸騒ぎを覚えただけだったけど、実物を観て、目の位置から角が出てい るのが不気味なんだということが分かる。目が無いのである。体のウロコや手足の ツメも生々しく、恐がりの子供は近付けなくて泣きだすかも。

パッと見、ウルトラマン(直感でウルトラセブン)の怪獣なんだけど、どこか違 う。ゴジラにも似ているけど、怪獣としてはどこかステレオタイプ。
作家は75年生 まれ。ふと、村上隆氏がオタクの方たちの支持を得るべくデザインした、フィギア 作品のような作り方ではないかと思ったりする。  

全身アクリル絵の具で彩 色されている。わずかに口の中の彫りあとで、木ででき ているという事がはっきり分かる。  

この彫刻が木でならなければならないのは、それが想像上の生きものだから。木 であるために、一緒に展示されていた獅子(平安時代)や狛犬(鎌倉時代)と強力 に結びついてくる。もしかしたら、何百年もたって、雨風にさらされすり減って、 裂けて、色が剥げ落ちて、生きてくるのはこういう作品かもしれないね。未来の人 たちの想像を、大いにかきたてることでしょう。  

しかし、何で彩 色がフランスの国旗のようなトリコロールなんだろ。フランスの 核実験で生まれたのかしらん。   
他に「そりのあるかたち2001」(澄川喜一)と「ユビュラ」(磯崎有輔)も好き でした。「ユビュラ」は展示されている空間と、ライトアップが良かった。(雨も 降っていて暗かったし)  

奈良さんの作品は、昔のメーデルちゃんを思い出すと、正面 に立つと見おろされ ちゃって、「ずいぶん大きくなっちゃったなあ」という想いがしました。  

頭がずいぶんささくれだっていた。頭はくりぬ いて軽くしてあるんでしょうか、 あのバランスで立っているのはすごいと思った。「やっぱり木よ〜」とか言われて おばさま方にコンコン叩かれていました。すかさず監視のおねーさんが飛んできて 注意していたけど。  

樟と書いてあったので、監視員の目の届かないところで顔を近付けて香を嗅いで みた。上腕部に楕円の丸が目立って「BCGの後みたいで、リアル」とか思ったけ ど、楔だったのかな。  

BURUTUS(2001/9/1号)のインタビューで、理想の女性像を吉祥天か弁財天と答 えていた奈良さん。今展では「ハートに火をつけて」の向かいに「花園に遊ぶ天女 」(橋本平八)があって、偶然にしても面白いなと思う。本人喜んでいそう。  

この展覧会は無料でした。カタログを買った時、雨が降っていたので袋を所望し たところ、「初めのころはあったんですけれど、無くなっちゃったんです。身内で やってるもんで、すみません。」と言われてこちらが恐縮してしまった。会期も短 くもったいない気もしましたが、それだけに貴重な展覧会(陳列会?)だったと思 います。  

隣の美術館では「デザインの風」展をやっていて、それは1200円もした。建 物も立派で、展示も凝ってて、美術館のスタッフもホテルの従業員みたいにパリッ としていてスキが無い。他の美術館とは一味ちがってましたけど、ちょっと高すぎ たなー。

 

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