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高崎めぐみ megumi takasaki
記事作成:2002.1.15

アートの引力 
変わりつつあるボランティア 1

2001年、横浜トリエンナーレにおけるボランティアは、募集人数に対し、約3 倍の応募があったという。その中で特に人気が高かったものは、作家アシスタント、 制作アシスタント、そしてイベント運営、エデュケーションなどであった。この現象 は、ボランティアとしてアートに関わることに多くの人々が感心を寄せていることを顕著に表している。

作家のたまごや美術愛好者たちは、「アートにより深く関わる場」としてボランティ ア活動に参加する。単に美術が好きであるのならば、制作し、入館料を払って美術館 へ行けばよいではないかと思われるが、これらの人々はボランティアとして アートに関わることによって、それまで味わってきた喜びを異なる角度から経験することにな る。

例えば、作家と制作のプロセスを共有した場合、作家にとってボランティアは強 力なサポーターであり、ボランティアにとっては、制作に携われるということ自体が 学びであり、喜びであるかもしれない。

また来館者に作品を解説するボランティアは、 言葉で作品を表現することの困難を乗り越え、共感する喜びを味わうかもしれない。

しかし上に挙げたように全てがうまくいくわけではない。美術への造詣が深い分、関わり方への期待も大きいという厄介な点である。「私は○○がしたい」という意志を 明確に持っている。また様々な専門性を生かしたいという欲求がある。これらを完全に消化させられているボランティア・グループは、日本ではまだ少数ではないだろう か。

また、「美術のことがよく分からないから」という理由でボランティアに参加する ケース。これらの人々は、その裏側に「美術のことをもっと分かりたい」気持ちを確実に潜ませている。誰よりもボランティア活動を新鮮な目で捉えるであろうし、これ らの人々の「なぜ?」に応えることが、将来的にボランティアの質をより向上させる のではないかと考える。彼らにとっては、ボランティア活動が、先に挙げたタイプの 人々との「出会いの場」となることも利点である。双方のコミュニケーションによっ て、アートを取り巻く今日的な問題は、自ずと浮き上がってくる。

他方、これまで美術に関心がなく、触れる機会も少なかったような主婦や学生、仕事をリタイヤした人々が「 人のために役立ちたい」と思い立ち、偶然にも近所の美術館や、アートイベントの開催に伴うボランティア募集を知り参加するというケース。

これらの人々の目的は、前者とは大きく異なるが、活動を体験したことを境に、 その 後もアートに足を踏み入れるようになる とするならば、そこにアートの魅力を解明す る手がかりが隠されている。  

ボランティア活動を通 して得られる喜び、達成感がアートシーンで繰り広げられる ことは、アートの世界に活気をもたらすひとつの方法ではないだろうか。人々が生き 生きと輝く瞬間、それはアートの新しい味わい方を知る瞬間でもある。ボランティアの中でもとりわけアートに引き寄せられる人々の関心を明らかにすることは、今後アートに関わるボランティアの活動をより豊かするのではないかと考え、 今後は、より具体的に報告を行いたい。

 

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