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アートマガジンLR(エル・アール)

林 有維 yui hayashi

「女の70年代 1969-1986 パルコポスター」展をみて

 

東京都写真美術館で2001年6月26日(火)〜7月18日(水)まで開催された「パルコポスター展」は、主催が「女の70年代」実行委員会だけあって、1970年代の日本社会の消費について、パルコのポスターを通 して考えさせられるものであった。  

PARCO誕生の由来は、カタログによると、「明るく華やかで陽気で小粋」といったイメージと「すぐれた個性の統一集団」を基本テーゼとし、21才の独身OLを対話の対象とする「ファッション・プロムナード」として、名称をイタリア語で「公園」を意味するPARCOとしたということである。  

会場を入って左の壁面 には、こちらをみつめる巨大な両眼のポスター(1975年、AD.力石行男、Ill.山口はるみ)があり、キャッチは「24日OPEN! パルコは三越の前です。」という、挑戦的でなおかつ分かり易い宣伝も兼ねるものとなっている。その両眼はこちらを見つめているようでありながら、焦点は定まっておらず、強烈な視線のように見えながら、曖昧な印象も与える。  

今では何の不思議もなく、他の個性的な店舗に混じって、渋谷や池袋などの町に溶け込んでいるPARCOだが、1970年代当時としては非常に前衛的な試みを行っていたということだ。  

その目的を、カタログで上野千鶴子氏が「女(おんな)という思想」という文の中で述べている。  

「PARCOはいまだ存在しない強い女性消費者へ向けてみずからマーケットを主導的に形成していくという、ことばのオリジナルな意味におけるベンチャー(賭け)に出た。」(カタログより)

PARCOは「イメージ化された一定の空間」であり、従来の消費者のニーズに対応しての供給ではなく、消費者を「育てて」マーケットを開拓する戦略がとられたことは興味深い。  

1973年の「パルコ感覚は遺伝するか、しないか」(AD.石岡瑛子、Ill.山口はるみ、CO.長沢岳夫)という作品ではキッチュな格好をしたショートカットの女性が妊娠しているらしい絵が使われている。生み出す主体としてのPARCO、生み出される消費者のイメージが要約されている図像ともいえるかもしれない。

具体的な展示作品を見ていくと、見られる女性(客体)から見る女性(主体)へ変化の呼びかけを見ることができる。  
PARCOは当時「三人娘」と呼ばれた三人の女性を起用している。イラストレータ−の山口はるみ、コピーライターの小池一子、アートディレクターとしての石岡瑛子である。  
会場を一回りしてみてまず感じたことは、欧米人の表象が多いことである。「和装」の日本人や、黒人、ほかアジアの種族、インド、イスラム、アフリカの人物も出てくるが、これらの「異民族」的表彰は欧米から見たエキゾチズムとして位 置づけられるように思われた。欧米人にとっての他者が日本にとっても他者であるという意味付けを感じられた。  
そして、もうひとつ特徴して挙げられることは、身体が強調されていることである。  
これは、ポスターに限ったことではなく、絵画のモティーフとして古来からヌードは多様されているが、この時代、ポスターにおいて身体が強調されることはどういう意味が持つのか。これは、欧米人の表象が多いこととつながる問題かもしれない。欧米の軸にたって消費のイメージが形成されていくということは、「洋服」を中心に販売していくのだから、当然のことでもある。しかし、身体は日本人である。「洋服」を素敵に着こなすためには欧米的理想的身体を手に入れたいという欲望や、さらに身体を手に入れることで精神的にも欧米人と重なろうとしている時代が感じられる。  

また、露出しても失わない主体性の獲得が、山口はるみの作品や、石岡瑛子の1975年の「裸を見るな。裸になれ。」という作品に見ることができる。しかし、当時このポスターは多くの男性からも狙われた。上野氏がカタログで述べるように「男の視線を意識したものではない。という言い方は正確ではない。「男の視線を意識しない」というイノセンスの記号のもとで、女が自分の身体を臆面 もなく露出することへのエキュスキューズを与えたというべき」という指摘は適切であろう。露出する自由とは見られる対象となることとの一枚板とも言える。(最近続く、キャミソール人気などに見られる、露出を前提とするファッションはその系譜ともいえるかもしれない。)  

また、他に興味深いのは、パルコのポスターと別 の壁面に西武劇場のポスターが展示されているのだが、パルコポスターと比べて、絵画的な陰影をつけられている作品が多い。  

展示は86年のポスターで終わっている。吉見俊哉氏によると、パルコは80年代末から失速し、今までの戦略とは対極ともいえる、無印良品の宣伝へと切り替わっていくそうだ。「個性」から「日常」への戦略の転換である。吉見氏は「無印の戦略の先には、たとえば今日の「ユニクロ」のグローバル化戦略があることは言うまでもない。」と述べているのは興味深い。91年にバブル崩壊がありその方向を受けての戦略転換とも考えられる。  

「女性」と「消費」を表象することは、ある意味一番社会構造の変化を知る上で分かり易いかもしれない。ここでは「男性」も消費の対象となっており(沢田研二のヌードポスターなどがある)、「消費を通 じての自己実現」(吉見氏による)が、社会全体に行き渡っていることを示しているように思う。この展覧会では、時代の先端を切り開いた宣伝活動の戦略をポスターを通 して見ることで、需要と供給の新しい関係を提示したパルコの新しさを感じ、現在における消費の問題についても考えさせられる契機を与ええられるものであった

 

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