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アートマガジンLR(エル・アール)

山吹 善彦 yoshihiko yamabuki

えむびぃえ−奇譚-最終 

ゑむびぃえ−奇譚-最終

 5月に受けられなかった試験がやっと終了し、けっこう長かったストレスからは開放されようとしています。まだ修士論文を仕上げないといけないという別の課題は残っていますが、これは日本での調査などを経て、ある程度きちんとまとめたいと思っています-もう少し時間がかかりそうです・・・。

最後の旅行
 7月の末には、友人(フランス人とカナダ人のカップル)の結婚式参加のため北フランスまでいってきました。新郎については2年前からの知り合いの若いフランス人。1年目は同じグループで喧々諤々っていました。新婦は去年から1年コースのMBAに参加。ほぼ完璧なプレゼンテーションを一緒にやった仲でした。

 午後に市役所に書類を届け、教会での結婚式。英語とフランス語の混じったなかなかユニークなスピーチも、厳粛だけれどもどこか和やかな雰囲気をかもしだしていました。披露宴は、地元の公民館のような会場で、生バンドが演奏するなか、素晴しいワインや珍しいチーズも含め十何品かのご馳走で構成された「食事」が中心的な役割を果たします。一品ごとの合間に1時間ぐらいのダンスタイムがあり、ひとつ食べては踊り、踊り終わったら次のメニューへと・・・結局夜の8時くらいから朝方3時まで宴は続きました。

 ベルギー・フランダースでは、ネロほどは感動できなかったまでも、ルーベンスの絵画を鑑賞、ブリュッセルの町並みを駆け足で楽しみました。ルクセンブルグでは、その不思議な地形と、それ故なのか、どうも根無し草的な文化状況について垣間見させてもらいました。2泊3日の旅という事で、あいかわらずの慌しさではありましたが、メインの結婚式については十分堪能させてもらいました。

 この旅行を最後に、鉄道のレールが熱で曲がってしまうという理由で電車がキャンセルされてしまうような暑さ(日本に比べればかわいいもの・・・)のなか、いそいそと試験勉強をやっていました。

これから
 今後については、色々考え、多少動いてみた(アプライ・紹介など)あげく、日本に帰ることに決めました。もう少しビジネスに繋がったネットワークづくりをしたいということで、イギリス滞在を希望していたのですが、ふと振り返ると、それにしてもいったい自分が何をやりたいのか?について、実はよく分かっていないということに気づきました。

 自分の専門性・やっていることに確信がない状態で、ネットワークもなにもあったものではありません。むしろ、日本である程度の実績をあげ、その成果をもって海外を廻った方が、接する時間は短いかもしれませんが、密度の濃いネットワークを作れる可能性があるはずです。

 選択肢を準備するのは上手いので、投資(SRIやCSR)に関連する事業、美術あるいは独立行政法人下でのマネジメント(評価基準の設定)、環境関連の事業(バイオマス・林業)、起業、などなど関心があることは簡単にあげることができます。しかし、それらをどうやって関連づけ、展開していくのか。将来的に、広島の過疎地をベースとしていったい何が実現していけるのかについては、まだまだ白紙状態です。とにかく、どこかから取り掛かり、一つずつ整理していく必要があるのですが、そのはじめの一歩がまだ踏み出せていません。

 その踏み出す場所としては、実は今の日本という場所はなかなか魅力的です。外から眺めていると、ほとんど孤立した/取り残されているような状態なのですが、豊かで技術力もあり、どの分野にも積み重ねられてきた経験も知識も存在します。何かが少し変わるだけで、大きく変わっていく可能性は十分にあります(もっともこの触媒の役割は日本ではおそろしく大変そうですが・・・日産・ゴーン、竹中平蔵、長野・三重・鳥取などの知事、etc)。規模や分野の違いはあるし、影響力のある事柄しか伝わらない・拡がらないという問題はあります。それでも、各種のML情報、HPでの情報発信そのものが、いい意味での触媒になっており、草の根レベルでもこの動きは着実に進行していることを感じさせられます。

 何がやりたいのか、どんな貢献ができるのか、我ながらよく分からないのですが、めぐり合わせということもありますので、とりあえず目前のやるべきことから一つずつ片付けていければと思っています(まずは修士論文か・・・)。


MBA私見
基本的に2つの要素からなる
1.現実の仕事に関連した事柄、具体的な事例:Case study, presentation, groupwork, business game etc.
2.理論・方法論あるいは体系的な枠組み:様々なケースや調査によって整理された考え方・ポイントを理論として学ぶ。その理論や考える手順(framework)を具体的な事柄へ適応。ケースに当てはめながら、別の解決策やよりより今後について検討。

イギリス(少なくともBirmingham)Business schoolの問題:
● 具体的な事例が弱すぎる(極端に古かったり、余りにもマイナーであったり、似たような業種の有名な会社の話しかでてこない)。1年目はまだ目新しく面白かったが、2年目から飽きてしまった。もともとリアルなbusiness経験が乏しい身なのだから、せめてそういったシミュレーションを通じてでも現実世界に接点をもてればよかったのだろうが、残念ながらそこまで一生懸命取り組みたいcaseに出会えなかった(唯一面白かったのが、皮肉にもNissanのケースで、1999年のHarvard出典。そ
の後の展開を独自に調べ、分析)。
● 理論や方法論を批判的に検討する(academism)のはいいが、結局のところ重箱の隅をつつくような、まさにアカデミックな議論・理論中心となり、現実問題に対処していくための泥臭さや、リアリティが伝わってこない(実はbusiness school自体のマネジメントこそ変えなければいけない・・・。
● 集まった学生について、今ひとつ物足りなさがあった。幸いにも韓国人の友人に出会え、ある程度の議論をすることはできたが、あまりにも大人しいか、妙な勘違いをしているかのどちらかで、ベテランのbusiness personあるいは博識な学生が絶対数として少なかったことは残念。決して人種差別をするわけではないが、集まっている学生の大半がまだ発展途上国の優秀な人たちであるだけに、アメリカや日本のバックグラウンドとはどうしても開きがある。その違いを乗り越えて、より統合されたbetter ideaに向かおうとすることは、理論的に正しいのだが、それは全面的に学生の質・モチベーションによってくる。物足りないというのは、アメリカ型のビジネスに対抗するようなアイデアを生み出していこうとする輩が、余りにも少なかったからともいえる。自国に帰ってやらなければならないこと、求められる事が山のようにある状況では、他の先進国で当たり前となっていることを、少しでも早く修得し、それらしく使いたいという願望の方が強いようで(まあ実践がともなっているわけではないので、机上の空論に近いともいえる・・・)、新しい事に挑戦しようとする気概については余り感じられなかった。単にhigh salaryの企業に就職すること目指すだけでなく、もう少しギラギラしていてもよかったのだろう・・・。グループワークが十分に楽しめなかったのは、ちょっと悲しいことである。

よかったこと:
● 徹底して批判的に物事を考えていくということは、学問の領域だけでなく実社会でも有効である-ある程度、物事を多角的に見ることができるようになる。
● 英語というbusiness 言語を使うことにより、ある程度雰囲気、その意味することを理解する事ができる(アメリカとイギリスのコンテキストには、若干の違いがあるけれど)。
● 少なくともマルチナショナルに集まった学生・business peopleと接することで、よくも悪くも、揉まれる。
● アメリカの悪しきキャピタリズムに浸からなくても済んだこと。企業の社会責任をまるでコマーシャルの如く使い、その企業活動を正当化させつつ、容赦なく弱い国に資本主義を持ち込み、それらの国の資源を「搾取」していく。自由経済と効率主義の名の下、どんな国にも当たり前のように「アメリカ」を広げていく(global standard)。そんな悪しき資本主義に没頭しなくてもよかったことはせめてもの救いかもしれない。OxbridgeがMBAを始めたのがつい最近ということを考えても、イギリスではbusiness活動はけっこう屈折している。経営者にしても、自己利益を追求することで権威的に振舞うというよりも、最終的にsirなりnightなりの称号を得られるように、博愛的な紳士になっていく。あるいはそういった社会的な責任を自覚した上で、business 活動を行っているようにもみえる。それが、国際競争力をなくしている理由でもあり、またイギリスらしさ(妙な偉そうな態度)を保っている理由でもある。もっともそれでは、この社会で勝ち抜いていくことはできないのも明白なのだけれど・・・。

 アメリカのbusiness schoolであればいいというものではないが、結局のところ日本人にとっては、アメリカのトップ10なり、有名校で揉まれるのが一番いいというのが、私なりの結論。

 英語力の問題や、business 経験殆どナシといった自分の状況を鑑みると、Birminghamで2年間じっくりと取り組めたことはよかったし、これ以上の選択肢もなかった(アメリカのトップ10に入学するのも大変だろうし、入ってからはもっと大変だったはず)。ただ、本当にbusinessを実践していこうと思ったときに、苦労して有名校に入学し、高い志を持ったメンバーと時間をともにする方が、内容がどうというよりも、勉強する環境・あるいは将来的なネットワーク構築の一環として有効だし、実際やっていて刺激になるのだと思う。

 ともあれ、私にとっては、まさにスタートラインに立たせてもらったという感じなので、まさにこれからが勝負となる。Businessに向かない性格も、根本的な考え方の違いも、十分に認識させられたが、それを自覚した上で、skillの一つとして、この2年で学んだ事を役立たせる場を探す必要がある。ただ、その場があるかないかは、そんなに大きな問題ではなくて、なければそれをつくるという事が私のこれまでの活動でもあるし、これからの活動にもなっていくのだと思う。


 最後の最後まで長くなりました。
イギリスに来て当初から足掛け3年半。勝手にこちらでの報告をお送りしていました。また、様々なところでお世話になることと思います。これに懲りずにお付き合いいただければ幸いです。

それではまた


山吹善彦

p.s. 5日に荷物を出し、6日の朝早くに今の寮を出て、コーンウェルのエデンプロジェクトに向かいます。イギリス南部に集中している知り合いのところを廻って、10日にBirminghamから関西空港に向けて出発します。少なくとも修士論文が終るまでは、広島の実家に滞在予定です。
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