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ほんほん堂の本棚その2

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千野始「自選詩集」

千野 始 自選詩集
1997―2001
320円+送料90円

 

 

詩集・唄から
ラグタイム

 

「さりともと待ちし月日ぞうつりゆく心の花の色にまかせて」

 

気がつけば
いずこも同じ「秋の夕暮れ」で
袋小路のど真ん中じゃあないの
「眼を後につけて前を歩く」と云いながら
陽気に口笛吹いて
肩で風切って路上を歩いていた
とっぽい兄ちゃんたちは とっくに
この世にオサラバ あの世に消えてしまって
残っているのは愛したくもない
善人ばかりじゃあないのか

きょうの恍惚の風に吹かれて
お偉いジジイがまたお説教をたれている
血圧があがり 耳鳴りがして良く聞こえないが
つまり 情報化社会とはガセネタ社会のことで
幼い魂がすみやかにかつ衛生的に汚染される
社会ってことか

「地球を守れ」だって?
悪い冗談やめてくれ ゆるしてくれ まけてくれ
そんなふざけたことを云っているのは
排気ガスをまきちらしながら
車内禁煙とかやらかしている
すかした連中のことじゃあないのか
なに 健康に悪いって?
馬鹿屋郎
歳をとるのは体に悪い
生きているのは体に悪いことなんだぞ

オジサンは悲しい
オジサンの欠点 金と若い女に弱い 勝負にも
革命の幻影は野の朝露と消えてしまって
ローンと過労死が走らせる 世界の果てまで
オジサンの悲しい心は浜辺の松のようによじれ
千々に乱れ 砕け 引き裂かれて
トロトロ走る高速道路の信号機のあやしい点滅の色彩に
いつも蒸発への夢を情熱的にさそわれているんだ

教えてくれ
五月のこの夕暮れよ たのむから
どんな回転扉の中にはいっていけば
匂うがごとき朝日のような
新鮮な世界に出会うことが出来るのだろう

海底のように青い夕暮れの その
奈麻余美の甲斐の五月のみ空よ

答えてくれ おれにさし示してくれ
この「涙の谷」をどう歩いていけばそこに
たどり着けるのだろう

答えてくれ さし示してくれ

嘘でもいいから

                    

・「」内 式子内親王・古今和歌集

 

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