1996年春、地球に大接近した百武彗星は、優雅な姿を見せて、天文家だけでなく沢山の市民を興奮させました。わかばだい天文同好会でも、のべ100人を越える人に、この珍しい宇宙の放浪者を見てもらう事が出来ました。しかし、残念なことに、この彗星の本当の素晴らしさを見ることが出来たのは、都会から遠く離れた、光害の少ない場所を訪れた人だけだったのかもしれません。
環境庁では、大気の状況を調査するために、年に二回のスターウオッチング・ネットワークを主催しています。これは、光害の影響を知る全国的な試みです。
ここでは、一般にまだよく知られていない、光害について説明するとともに、地方行政組織、我々が所属する地域の自治会や住宅管理組合、その他の組織で具体的にどんな事が出来るか、そしてやらなければならないかを説明します。
光害の作り出す主な問題には、どんなものがあるでしょう(参考資料− 光害に関わる天文の問題 ):
人々の視野に直接入り、目をくらませ、視認性を低下させる犯人です。現在使われている照明、例えば、高速道路の照明、街灯のほとんどがこの欠点を持っています。夜間に車を運転する人は、道路の照明が、逆にまぶしいことはありませんか。
望みもしない場所に光が入り込むことです。例えば街灯の光が、部屋の中を明るく照らすことです。遮光カーテンが必需品になっているのは、ご存じでしょう。部屋に居ても、ベランダに出ても、目を射るような、強烈な光が入り込んできます。このような光は、騒音公害と全く同じで、防がなければなりません。
天の川が都市近郊でも見えたのは、そんなに遠い昔のことではありません。例えば横浜市の北部に位置する旭区では、今から10数年位前までは、微かですが夏の天の川が観測できました。最近では、全く不可能になっています。現在、旭区では、星の等級で3等星から4等星を見つけるのがやっとです。暗い空では、6等星を確認することが出来るというのに。これは、6倍から16倍も見えにくくなっている事になります。この原因は、人工の照明が夜空までも(本来照明を必要としない上方を)照らして、微かな、微かな星の光の邪魔をし、見えにくくするからです。
夜空を照らしたり、まぶしさになったり、部屋の中に入り込む光は、エネルギーの無駄になる不要な照明です。その量は、少なく見積もっても、照明に使われるエネルギーの30%を下ることはありません。この無駄なエネルギーの費用を、アメリカの場合で試算すると実に10億ドル、つまり日本円にして約一千億円を年間に浪費している事になるといいます。(IDAの参考資料− なぜ175ワット水銀灯がよくないか )日本でも同じような試算をしてみてはどうでしょう。きっと信じられない額になるはずです。(注:日本の電力費用は、アメリカの2倍から3倍です)
無秩序に設置された照明は、住宅地その他の生活空間の環境を破壊します。品の悪い、ぎらぎらした光、まぶしさ、本当に我々に必要なものでしょうか。
3.対策は何か
対策は、ごく常識的な照明の改善または、使い方の変更です。つまり:
廊下の照明、階段の照明を夜間は極力消し、通行するときだけ点灯するよう心がける事で省エネルギーに貢献できます。スイッチの横に「使わない時は消して下さい」という表示をするだけで、相当な効果があるはずです。
階段の照明、廊下の照明には、タイマーを使い、点灯後何分か経過したら自動的に消える方法があります。
街灯などには、上手に傘を付けて、横方向や上方への光を遮断しましょう。傘の内側を反射面にすれば、使用するランプを小さくできます。広告の照明は、下から上を照らすのでは無く、上から下を照らす方法をとります。
最もエネルギー効率のよい光源です。消費電力も少なくなり、上手に傘を組み合わせると、更に省エネにつながります。
4.夜の環境保全、安全、防犯に付いて
以上の議論は、夜間の照明に反対しているわけではありません。逆に上に掲げた対策を実施することで、より安全で快適な環境、防犯対策の強化にもつながる照明が確保出来ます。なぜなら:
光害の問題は、まだ一般にほとんど気付かれていないという状況です。この資料を読んで頂いて是非問題解決への御協力を御願いします。
現在、30代か40代以上の多くの方は、子どもの頃、満天の、降るような星空を見たことがあると思います。星空は、決して天文家の為だけの特別なことでは無くて、我々が森や林を、海や川を守るのと同じです。百武彗星があれだけ注目されたのも、多くの人が星空をこよなく求めている一つの証拠ではないでしょうか。この貴重な、人類の資産を守って行く必要があるのでは無いでしょうか。そして今、全員の行動が必要とされています。この問題を多くの人に知ってもらい、具体的な行動を起こすこと、不要な照明を消し、質の悪い照明具を取り替える事です。
御質問については、わかばだい天文同好会へ連絡願います。