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コスモアイル羽咋見学

real spacecraft

通信衛星”モルニア”シリーズ。長楕円軌道を巡って高緯度地域に通信サービスを提供する、1965年に旧ソ連によって実用化された最初の3軸通信衛星。

一般に3軸衛星は70年代に入ってから実用化されたのですが、ここに例外が一つ。パドルを開いて姿勢制御をする2トン級衛星モルニアは、衛星設計というものを考えるときに、とても気になる存在でした。

という訳で調べているのですが、とにかく資料が少ないのです。世間ではモルニアというとその特異な軌道ばかりがクローズアップされ、ハードウェア設計に対する興味がほとんど感じられません。

自分は実際の衛星開発に参加した経験から、太陽指向スピン制御がどれほどシンプルで信頼性が高いか知りました。その上で3軸制御をしようとするとき、気になったのがモルニアの姿勢制御でした。モルニアは、安価な小中型衛星の姿勢制御方式に関して、新しい知見の鍵となると思っています。

で、調べてみると、日本にモルニアがあると判明。能登半島なので遠いのですが、機会を待ちつづけて先日、ようやく機会を得ました!


これは2004年7月31日におこなった、コスモアイル羽咋見学の見学記録です。



JR七尾線を金沢から普通電車で740円。田園風景の中、いつのまにか線路は単線になっていました。

およそ一時間後に降り立った駅は、実家の田舎の駅を連想させる寂れかたをしていました。羽咋って、市、ですよねぇ。でも、隣の南羽咋駅は無人駅。


駅の裏手歩いて5分ほど、のどかな田園風景の中にコスモアイル羽咋はありました。

cosmoile
redstone

レッドストーン・マーキュリーの模型が目印です。細部までよく出来ていますが、所詮模型。

中は三階建てで、一階に受付と市立図書館、二階に展示室、三階に映写室があります。

目当ての展示室へは入場料を払うと渡されるカードを機械に通して入場します。係員に言えば再入場も可能なようですが、係員はいないことが多いので注意されたし。


肝心の本物の宇宙機は三つ。偵察衛星Zenitの再突入カプセルとモルニア二号予備機、そしてルナ24号予備機です。

施設の解説では、1979年2月20日に打ち上げられて7日間軌道周回して帰還したものとあり、本当なら中越国境紛争がらみで打ち上げられた機体ですが、該当する機体は存在しません。

外観はZenit6U/8相当の機体に見えます


その上で、何故か内部にヘンなものを詰め込んでヴォストークだとぬかしていました。うわ。後生だから止めとくれ。

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特徴的なカメラ用開口部。この機体は開口部2つですが、Zenitの他のバリエーションにはカメラポート三つのものや四つのものもあります。

で、カメラポートから、無人である筈のカプセルの内部に宇宙飛行士の足が見える訳です。

カプセル本体とカメラ用開口部の突出部の継ぎ目の処理。

アルミテープのようなものが貼ってあるように見えます。ベルクロの跡があるので、カプセルはサーマルブランケットに包まれていた事が判ります。

zenit3
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生物実験衛星ビオンのカプセルと同じ位置にコネクタポート がありました。コネクタそのものは同じオス50ピンタイプですが、指し間違いをしないようにか、数本抜いてあるようです。

コネクタそのものの数も違い、ビオンより多くなっています。

その代わり、ビオンに見られたロッドアンテナやセンサ状構造などは見られません。生命維持の必要が無いためだと思われます。

パラシュートハッチのガス圧駆動ボルトです。ビオンのものと同一のものであるようです。

ハッチは、ボルトが四本抜けていました。ビオンとは内部の機構が少しだけ違うようです。

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カプセル表面にはいくつも亀裂がみられました。筑波のビオンでも同じ症状がみられましたから、これは地上での(おそらくロシアでの)保存状態の悪さに起因する劣化でしょう。


これ本当に再突入を経験しているのでしょうか?



さて、本命のモルニアです。

説明ではモルニア二号予備機だとありましたが、微妙に隠したあとがありました。何でしょうこりゃ。もし本当なら技術史上重要な機体です。

説明ビデオがあったけど、モーメンタムホィールを軌道安定のためだと誤解していました。

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内部の照明は暗く、展示の細部の観察には全く適していません。

特にモルニアは酷く、かなり高い位置に吊されているので細部を観察することができません。

機体は三本のワイヤで吊って固定されていました。衛星実機を三本のワイヤで逆方向から引っ張って吊るす、このような拷問的な展示方法には再考を促したいものです。

ハイゲインアンテナの先端には、なんと地球センサがあります。

合理的といえば合理的なのですが……。


このハイゲインアンテナが折り畳めるかどうかは不明。状況から見て折り畳めないとマズいと思うのですが、展開機構らしきものを確認できませんでした。

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ハイゲインアンテナ先端の地球センサ開口部です。

それぞれの間隔がすべて違うのに注目。

ハイゲインアンテナの上に駆動部が見えます。

1軸のギヤードモータです。あと、地球センサがアンテナの軸線と違う方向を指向していることに注目。恐らく地球の辺縁を検出するためでしょう。

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アンテナブームは、打ち上げ時には根元から機体に沿って横にたたまれていたようです。機体横側にそれらしき固定ブームが見えます。

さらにその手前に、奇妙な構造の突出部がありますが、何のためにあるものであるかは不明です。恐らく、ハイゲインアンテナの展開と折り畳みに関係するのではないか、と考えています。


機体中部、黒く機体を取り巻いている放熱版に、銀色の熱交換液体用の配管のうねが見えます。

機体上部には、青い部分が見えますが、これは姿勢制御用のコールドガスジェットスラスタの支持構造です。機体の周囲に4群のスラスタを持ちます。

オレンジの構造はセンサです。機体底部の太陽センサと同じものであるように思われます。

頂部にはヒドラジン系の軌道制御スラスタがあります。スラスタは穴が空いた円錐形の金属板で覆われています。

衛星の機体底部です。

底部には太陽電池パドルのヒンジ、ドーナッツ形をした太陽電池パネル、ロケットとのインタフェイス、そして太陽センサなどが集まっています。

太陽電池パドルのヒンジはドーナッツ形のパネルの裏に、距離を離して存在しています。太陽電池パドルとドーナッツ形のパネルとは構造的に分離されています。

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中央のセンサのうち、細長い開口部を持つものが太陽センサだと思われます。その他は不明。施設のガイドにはアーモンド形のレンズを持つと解説されていましたが、確認できませんでした。

太陽電池パドルの全景です。

パドルは肉抜きを施した枠に、太陽電池を貼る面に板を貼り付けて作られています。

パドルのヒンジにはパネが仕込んでありました。

太陽電池はダミーでした。予備機だとするとこういう点はどうなのでしょうか。というかこれ最初から展示用じゃあ……

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対称位置にあるパドル二枚にはそれぞれ、先端にこのようなものがありました。

普通に考えるとこれは円偏波アンテナですが、ロシアの一部の惑星探査機は、パドル先端に半球状の放熱板を持っていたことが知られています。

係員に頼んで照明を点けてもらいましたが、位置のために逆光になることが多く、あまり改善しませんでした。

モルニア目当ての人は別に強力なライトと、カメラは光学ズームのあるものを持っていくことをお勧めします。

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今回最大の収穫、ルナ24号予備機です。

ソヴィエト宇宙工学、自動制御工学の精華が目の前に!

最上段と帰還カプセル、そして土壌採取機構。ルナ24号の土壌採取機構はそれまでのアーム構造と違い、レールの上を上下に移動します。

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土壌採取機構を下から眺めたものです。

土壌採取機構とレールとの噛み合せがどうなっているかが判ります。打ち上げ及び飛行時には、どうやら土壌採取機構は最上部に固定されていたようです。固定機構らしきものが伺えます。

土壌採取機構の細部は判明しませんでした。

土壌採取機構のレールはこのように機体の側面に沿って配置されています、

レール間にあるスクリューねじで機構は上下移動するようなのですが、別にワイヤーによる駆動機構も存在しています。このあたりよく判りません。

写真下側、レールを保持するブームの下に、銀色のワイヤー駆動機構が見えます。

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レールは中実円柱で、長さ中央に折り畳み機構がありました。

レール最下部近くに、停止用のマイクロスイッチがありました。プーリーも見えます。

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ルナ24号は着陸船と帰還船の二段式で、最下部に着陸用のエンジンと推進剤タンク、その上、中央に見えるのがに気密になった着陸船ハードウェア格納容器、その上に帰還船が載っています。

着陸船にはペナントが付いていました。

読み取れた上二行には、СОЮЗ СОВЁТСКИХ、つまりソヴィエト連邦とありました。

ペナントの下に這っているハーネスの構造への固定方法にも注目。

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オムニアンテナを下から眺めたものです。こんなところにも展開機構が。あと、ドリル言うな。

着陸船の姿勢制御スラスタです。

このようなブームが二本、機体の対称位置にあります。スラスターは見てのとおり、贅沢に2液式です。

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これも着陸船の姿勢制御スラスタです。

短いブームの先に付いたスラスタという、この構成も二箇所にありました。水色の部分は恐らく電磁弁のソレノイドだろうと思われます。

細部はこのようになっています。

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ブームの根元はこのように機体構造に固定されています。

また、推進剤タンクと配管の接続も見えます。

接地脚です。

脚のチューブの中に何か白くて柔らかいものが詰まっているように見えます

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接地脚の基部です。

ばねを使っているのが目を引きます。

着陸船の底面です。

手前の、二つのドーム状のハードウェアは機体の逆の位置にもありました。気になります。

塗装のひび割れが進んでいます。

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電気インタフェイスコネクタです。着陸船には対称位置にもう一箇所、同じようなコネクタ群があります。

コネクタは例によってメス50ピンキャノンコネクタです。

2液推進材用のコネクタです。

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真空暴露された外部機器ボックスには、このようなコネクタとハーネスが接続していました。



あとは、その他もろもろを。

液酸液水エンジンRL-10、実機です。

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国産液酸液水エンジンLE-5Aの燃焼器が二基。こちらも実機。JAXAの貯蔵品の放出です。細部をじっくり観察したい方にお勧めします。

アポロ帰還カプセル。勿論実機ではありませんが、何らかのテストモデルではないかと思われます。由来を示すものは発見できませんでした。ハッチがあるので長岡のものとは別物です。

apollo
bion

マーキュリーカプセル。

こちらも実機ではなく、長岡にあったものとよく似ていますが、ペイントの一部などが違います。

ヴァイキング着陸船の、よくできた模型です。

しかし実機とは、どうしても雰囲気が違いますね。

vaiking
voyger

ヴォイジャー探査機の模型。でかいです。しかし模型。

ルナ/マーズローバーと称するブツ。

アメリカのどこかの物置から掘り出してきたもののようです。

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およそ二時間ほど滞在しましたが、暗い照明、拷問を思わせる酷い展示方法、そして真実の欠片も無い展示説明に、嫌というほど意気消沈させられました。

帰りの電車まで時間があるようでしたら、近くの浜で小さな貝を拾うのも良いでしょう。というか、期待しすぎた人には貝拾い推奨。あと自分探しも推奨。


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