館長 穐葉昭江より


 アンティークジュウリーの魅力を、一人でも多くの皆様に知っていただきたいという 思いから、この仕事をはじめ16年の月日が経ちました。今ではアンティークとは....などという 説明をすることもなく、すっかり日本に定着している現状に、嬉しく思うと同時にはじめた 頃が懐しく思いおこされます。
 アンティークジュウリーとの衝撃的な出会いをして20年以上が経ちますが、昨年の夏、私は 再びその時に似た感動を味わうことになりました。それは「わが心の旅」というあるテレビ 番組の中で紹介されたロビーナケイドの生き方でした。舞台美術を勉強したイギリス人女性が、 コーンウオールズ半島の岬の断崖に、60年以上もの歳月をかけ野外劇場を作ったのです。 ケルト文化が色濃く残る異郷の地で、崖下の砂浜から砂を運びセメントと混ぜ、 ひとつひとつ椅子を作り素晴らしい劇場に仕上げたのです。イギリス人の気質を象徴する ようなロビーナケイドの姿に強く打たれ、このような姿勢で物事に取り組めば何でもできるのでは、 という思いにかられてしまいました。
 アンティークジュウリーを紹介することを一生の仕事とし、またジュウリーを後世に残していきたい と思っていた私にとって、今後の指針を与えられたような気が致しました。そして遠い夢と思っていた 美術館を、時期そうしょうにもかかわらず敢て開館することにしたのです。内容的にもまだまだ不十分 であり、美術館の名をつけるのも恥ずかしいのですが、今後、時間の中で少しずつ積み重ね、次の世代の 人々に受け継いでもらえるような基礎ができればと思っております。純然たる美術品とは異なり、幅広く 人々の生活の中へ浸透している装身具ですので、学問的に体系づけることは難しいジャンルですが、 時代を映し人々に親しまれた装身具を私なりにつきつめていきたいと思います。
 このような形で夢の一歩を踏み出すことができましたのも、アンティークジュウリーを愛して下さる 多くの皆様のご支援の賜物と、心より御礼申し上げます。またアンティークジュウリーの魅力に引かれ共に 仕事をして参りましたスタッフの方々と、幸運にもこの世界に入るきっかけを作ってくれましたロンドンの兄 、そして仕事を続けることへの理解と環境を与えてくれました主人へ、この場を借りまして、 日頃の感謝の気持ちを伝えさせていただきたいと思います。
 最後に日本ではもちろんのこと世界的にも極めて珍しい装身具の美術館を通して、 一人でも多くの皆様に、魅力あるアンティークジュウリーの世界にふれていただければ幸いと思います。
1995年7月


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