津島通信

JULY 2000
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◆CONTENTS◆


【きむたく日記】

(暇な時に更新しております。)

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 ¶ 西田谷洋氏『語り 寓意 イデオロギー』2000.3.15,翰林書房より刊行,4500円也!

 ¶ 真杉秀樹氏『反世界の夢 日本幻想文学論』1999.12.10,沖積舎,3500円

     T部は,夏目漱石「夢十夜」,泉鏡花・谷崎潤一郎・横光利一・梶井基次郎・中島敦・山川方夫の論考,U部は中井英夫論,V部は平野啓一郎「日蝕」評などがあります。

 ¶ 玉井敬之監修『漱石から漱石へ』2000.5,翰林書房より,刊行中。お値段,8,000円(税別)


「きむたく日記」

7月31日月曜日曇りのち晴

     今日,ようやく「白いワニ」2匹を退治した。郵便局のお姉さんに,原稿の入った封筒を手渡したときの「解放感」といったら!これでようやく夏休みが来るワイと,いい気分で研究室に戻っていったら,4年のゼミ生がレポートを持ってきた。教採のために提出期限を延ばしていたのだ。すっかり忘れていた。
     夏休みが遠くなった気がして,チョッピリ涙が出た。

     教採の話を聞いてみると,広島県(小学校)を受験した彼女等は,130分で10枚に及ぶ問題に解答していかなければならなかったようだ。僕がビックリしていると,「1枚に設問は3題くらいですけど,全部記述式なんです。算数の分数問題を,分かりやすくどのように教えるのかを答えなければいけない問題が,難しかった」「私は,白紙で出そうかとおもったけど,1行だけ書いておいた」ということであった。
     実に大変である。

     生協のブックセンターで,注文書を受け取る。「ユリイカ」が与謝野晶子の特集をしていたので,これも購入する。

7月29日土曜日晴

     きむたくが遠いところから帰ってくると,郵便物・書類の山と伝言(留守電)が待っていた。午前中,書類整理をする。午後から仕事,というか締め切り前の原稿を前に青息吐息。昔漫画家の江口寿史は,「締め切り前になると白いワニが来る」(原稿真っ白状態)と,その強烈なストレスを表現していたものだ。そう,僕も今「白いワニ」(7月31日締切)2匹と格闘している……。
     押野武志『宮沢賢治の美学』(翰林書房)を読む。286頁,287頁は必読であろう。ただし,立読みはイケナイ。
     しかし,今日は恒例の花火大会がある日だというのに,今年も一人で,おまけに論文作成かい!

7月21日金曜日晴

     炎暑である。しかし冷え性の女子学生がカーディガンをはおってこっちを睨んでいるので,冷房の温度を下げるわけにも行かない。講義をしていると,汗じみがポロシャツにみるみるひろがり,グレーのポロシャツは黒く変色したのだった(汗臭そうな話ですいません)。研究室で,ぐしょぐしょにぬれたハンカチを洗って絞って乾かした。
     ともかくも,前期の講義は終わった!でも,講義終了=夏休みを意味しないところが,辛いところだ。いろんな御用が待っている。とりあえず月末までは,原稿の締め切りと前期試験のレポート読みですわナ。……ああ,小学生に戻りたい。

7月17日月曜日曇り時々雨

     夏休みまであと5日である。月曜日の講義・演習は今日が最後であった。来週に教採を控えているのに,ちゃんと最後まで出席してくれた4年生のみんな,頑張って下さいませ。
     給料が出たので,午後演習を終えてからブックセンターに注文書の受け出しに行く。

     この数日BBSとメールが活性化しているので,忙しく返事を書いていると,4年生が差し入れを持ってきてくれた。中国に留学している学生の一時帰国土産なのだそうだが,葱風味の「リッツ」である。リッツに青い葱の断片が含まれている。おそるおそる口に運ぶと,結構おいしい。しかし食後の口中には,焼いた葱のような風味がしっかり残った。
     「び,美味?」というと,
     「みんなー,食べ(ら)れるみたいよー」

7月10日月曜日曇り時々晴

     「ごんきつね」の演習。例の「報告者」はあのシクシクメソメソは何だったのだというくらい,ハキハキ発表し,質疑にも臆せず堂々と答えていた。
     ラストの6章,「ごん」(ゴン中山ではない)と兵十(ひょうじゅう)が理解し合えたのかどうなのかで,案の定議論になる。昨年度附属で教育実習をした3人の4年生は,2人が「理解し合えた」と解釈して授業をまとめたようだ。
     いたずらの動機である「孤独感」と,それに結びついている一人ぼっちの兵十への共感(→仲良くなりたい)→「つぐない」(これで,兵十認知してもらう)は,結局兵十に狙撃されることで,水泡に帰す。兵十は「ごん」が,栗やまつたけを持って来てくれたのは認知した。しかし,ごんがなぜそのような行為に及んだのかは想像できない。「ごん」の抱えていた「孤独」感と「つぐない」は,宙吊りになったまま,霧消していくしかないのである。
     「ごん」が栗・松茸を持ってきたことを兵十に認知してもらっただけでも,「ごん」はうれしかったのではないかという意見も出た。しかし,それも自分の「死」と引き換えでなければ手に入れられないものであった点で,「ごん」と兵十を隔てる距離は大きいといえるだろう。
     ちなみに僕は,「ごん」「求愛者」に置き換えて読むと,この物語の悲劇性がよーく理解できると説いた。意を尽くしてアプローチしても,好きな人に理解されない悲しさ。そしてトドメの一言……。
    「え,私のこと好きだったの。」
    〇〇は,ぐったりとなってうなづきました。
     この説明は,爆笑で報いられた。「キ,キサマら,身に覚えはないのかあ!」(森田健作調)

     ふてくされて,生協のブックセンターで買い物。浅田彰『20世紀文化の臨界』青土社が,ようやく入荷した。スピヴァック『文化としての他者』紀伊國屋書店は復刊である。ありがたい。夢象先生お勧めのベルンハルト・シュリンク『朗読者』新潮社は,かなり面白い。真保裕一『ホワイトアウト』は暫くベッドサイドに放っておく事にする。

7月4日火曜日曇

     研究室のPCで書類を作成中に雷が鳴りだした。「まあ大丈夫だろう」と思って,そのまま作業を続けていたら,凄い雷鳴がとどろき,パソコンが「キューン」という哀し気な音を上げ,画面がブラックアウトした。僕の頭も一瞬ホワイトアウト。
     頭をよぎったのは,「ノブトキの悲劇」(PCへ落雷による過電流がながれてデータが消失した)であった。しかし,僕はその教訓を活かすために,過電流が流れた場合,ブロックしてくれる機器をコンセントのところに取り付けていたのだった。案の定,過電流が流れたことを示すように機器の表示ランプが赤に変っていた。
     パソコンも再起動出来て,データにも問題は無かった。寿命が縮まる思いをしたのと作成中の文書が消失したのは痛かったが,パソコンが壊れる被害に比べれば何ほどのことでもない。
     とにかく大事なのは,雷がなり始めたら,パソコンの電源を落とすことである。あと臍を隠すことかな(笑)。各々方,ゆめゆめご油断召さるな。

7月3日月曜日晴

     今朝新聞をよんで,昨日の岡山が35度を記録していたのを知り,ビックリした。暑いのは苦手である。
     今日は講義と演習の日。17:30過ぎにゼミ生(4年男子)が来て,卒論題目の話が出たが,まだ作品を絞り込んでいないというので驚く。題目提出の締め切りは1週間後なのに!一喝。遠藤周作の「深い河」を読んだというので,小田島先生の「深い河」論の話をする。
     この後来週の演習(「ごんぎつね」)の報告者(女子)がやってきて,報告事項の内容を聞いていたのだが,「なぜごんはイタズラをするのか」と質問していたら突然しゃくりあげ始めたので,M6レベル(神津島)でビックリした。
     泣きじゃくりながら「ハンカチを取りに行ってきます」と腰を上げかけたので,慌ててテッシュを袋ごと渡す。研究室から泣きながら出て行かれたら,「あらぬ嫌疑」(内容はご想像にお任せします)を受けるのではないかと考えたからである。このあたりに人格が出ている(笑)。
     聞いてみると,昔から先生と2人きりになると「泣く」のだそうで,ストレス性の反応だと解釈した。それから1時間近く彼女は泣きじゃくりながら報告内容について話した。「キー」と叫びたかった。
     「過去にトラウマになるような出来事があったんじゃないの」というと,「トラウマって何ですか,分かりません」といわれた。
     指導の後次回の指導日を決めたが,去り際に彼女は呟いた。「また,泣きますよ」
     僕が女ギライ(→独身)になるのは,こういうのがいるからなんですけど。女性は「他者」です。

7月2日日曜日晴

    今朝の「朝日」の書評にも紹介されていた府川源一郎『「ごんぎつね」をめぐる謎』(教育出版,2000.5)を読んだ。受容史・教材史は文学専門の人間としては大変有益で勉強になった。6章のテクスト解釈では,ごんのいる<あな>の意味の考察が展開されているのだが,表=兵十,裏=ごんという2つの世界像と,この<あな>がどう関わるのかイマイチ理解できない。そもそも<あな>にそれほど重要な意味があるのだろうか。かなり疑問だった。でも学生には,一応紹介しようっと。