津島通信

JULY 2001
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◆CONTENTS◆

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【きむたく日記】

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kimutaku@cc.okayama-u.ac.jp

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 ¶ 仲 秀和氏『漱石―『夢十夜』以後―』2001.3.30,和泉書院,2,500円+税

 ¶ 江種滿子・井上理恵編『20世紀のベストセラーを読み解く――女性・読者・社会の100年――』2001.3.29,学藝書林,2,500円(税別)

    (所収論文;菅聡子「吉屋信子『花物語』『女の友情』――〈花物語〉のゆくえ」,根岸泰子「太宰治『斜陽』――その揺籃期の物語」他9本.)

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「きむたく日記」

7月31日火曜日晴

     岡山は35℃.暑い,というのも嫌.明日は,学部の構内清掃作業が9:00から11:00まで行われる.熱中症で倒れる人間も出るのではないだろうか.僕も風邪で体調がよくないので,気をつけねば.
     午後論文の校正作業.お盆が近づいてきたせいであろうか.10日に来る予定が,昨日速攻で来たのでビックリする.おかげで,今日やろうと思っていた仕事の予定はキャンセルである.それにしても,久々に自分の文章を読み直してみると,「後悔先に立たず」という言葉を実感する.やれやれ,書き直したいな〜と思いながら,所々の字句の訂正を行う.
     カナダで医療用に限定してマリファナの栽培を認可する法律が成立したそうだ.民間で栽培することが可能になるが,横流しして儲けようという人間が絶対出てくるに違いないのに.
     28日に山田風太郎氏が亡くなっていたそうだ.合掌.

7月30日月曜日晴

     午前大学院の講義,午後学部.先週出張からもどってから,気が緩んだのか夏風邪をひいてしまった.咽喉がいがらっぽく,咳がでてしようがないのだが,前期最後の授業なので,頑張ってしゃべり倒す.
     昨日の参院選選挙の結果は,予想していたこととはいえ,自民党の圧勝で,NHKの深夜放送を見ていて,反自民の僕は本当に気分が悪かった.大衆がシシロー小泉氏に迎合していったという感の強い今度の選挙戦が,国の動向を誤るものにならないことだけを,僕の幸いをかけて祈る.それにしても自分の政治意識から,政治の動向がどんどん離れていくという感覚は愉快なものではない.というか,僕自身が浮世離れしているのだろうか?
     大学院のゼミ生が,教採の3連戦を終えて元気に返ってきた.手ごたえのあったような印象を受ける.しかしこの厳しい暑さの中,郷里をふくむ3県を1週間で移動して,並々ならぬ試験の緊張を経てきたというのは,想像してみるだに大変なことである.若くて元気があるというのは,すごい事だなぁとしみじみ思うのであった.本当にご苦労様.

7月20日金曜日晴

     来週から暫く出張するので,その前に仕事をしておくために出勤する.出張前とその後では,随分頭の中身が変質してしまうので,論文書きなどは特に影響を受けやすい.書くべきことをは,箇条書きにでもしてメモしておかないと大変なことになる.
     しかし偉そうなことを言いながら,折角の休日である.遊びに行きたくてウズウズしてしまう自分が哀しい.

7月19日木曜日晴

     今日,九州・四国地方と一緒に,中国地方が梅雨明けした.研究室の外でもセミの鳴く声が暑さを盛り上げてくれている.小学校も1学期の終業式ということだ.夏だなぁ.でも,講義やレポートの査読が終わらないと夏休みになった気がしない.つまり,僕たちの夏休みはお盆の頃になる.ま,10月まで休暇があるから,夏休み突入が遅れても良いのだけれど.
     大学院のゼミ生が,教採を受けるので受験地へ明日出発しますと挨拶にきた.「勝って帰って来い」と激励して送り出す.
     午後生協で本を漁る.「解釈と鑑賞」は宮沢賢治特集.我等がノブトキ氏も文語詩の項目を執筆担当している.村上龍『THE MASK CLUB』メディアファクトリーを購入.これは,「ダ・ヴィンチ」に連載されていたもの.江藤淳『妻と私 幼年時代』文春文庫,花田清輝『花田清輝評論集』岩波文庫など5冊の文庫本を買う.

     『沈黙の春』を貸した方からメールを貰った.合成界面活性剤が,皮脂を溶かして有害成分を侵入しやすくすることや,市販のシャンプーの成分はママレモンと同じであることなど,青ざめるような内容でショックを受けた.誰かとこのショックを分かち合いたいので,ここに書いておく(笑).僕まで沈黙してしまう.

7月18日水曜日曇

     今朝の朝日新聞の一面を読んでいたら,「オオマツヨイグサ」のことが出ていた.太宰治が,「富岳百景」で「富士には、月見草がよく似合ふ」と書いたが,実はマツヨイグサ(黄色い花)を月見草(白い花)と間違えていたらしい(笑).
     14:30〜18:00過ぎまで,3時間半の教授会.疲れきった.特に改組の話が紛糾して,ひさびさに出席した人間には,辛かった.今年度の予算配分案も提示され,かなりの減額幅を目の当たりにし,これも辛かった.
     紀伊國屋書店から浅井タケ口述『樺太アイヌの昔話』草風館が届く.10枚組みのCD集である.もちろん僕にアイヌ語は分からない(エッヘン).

7月17日火曜日雨時々曇

     朝方から雷雨である.暫く止んでは激しく降る.時折窓を震わすような振動を伴って,雷鳴が轟き,女子学生の悲鳴が遠くから聞こえてくる.僕は雷を聞くと昔から,なぜかワクワクして稲光を見物に行ってしまう方なのだが,これは気圧の変化と関係があるのだろうか.しかし,今日は大人しく研究室で,調べ物をする.祇園祭の宵山あたりで梅雨明けをすることが多いので,もうすぐ岡山の梅雨も終わりそうだ.しかし今年は炎暑になりそうで,閉口である.
     好物のスナック菓子「プリングルズ」の1部商品が,遺伝子組み替えのじゃがいもを使用していたと,ヤフーニュースで情報が流れた.じゃがいもやとうもろこしを使った菓子は,食べられないなぁ.待てよ,ケロッグのコーンフレーク(朝食)は大丈夫なんだろうか?買い置きしてるのに.

7月16日月曜日晴

     ハンズ・フリーというのがあるが,今日図書館に行くためにキャンパスを歩いていると,工学部前でおじさんが一人大きな声を出していた.話の内容からすると,何かの工事をしたのだが,契約係との間で施工内容をめぐってトラブルが発生したらしいのだ.しかし,携帯も持たずに話しているので,「大きな声の独り言」状態に見えて,いかにもヘンな人に見えてしまうのだ.僕や他の通行者が,ジロジロみるので,多少意識したようだったが,ヘンなおじさんの「独り言」はそれからも背後で続くのだった.
     前期の講義もあと,1回を残すだけになった.先は長いなぁと思ったが,ここまで来ると喋り足りないと思うのは,教官の哀しき習性であろうか.しかし,講義が終われば,自分の好きな研究に没入できるのだ.そう思って,夏休み用の本を押さえに図書館に向かうのである.借りたのは日野啓三の『断崖の年』(中央公論社)である.

7月13日金曜日晴

     午前中「近代女流文学」の講義.この名称の大時代さに違和感を覚え続けて,なんとか変更しようと思うのだが,上手いタイトルを思いつかない.結構学生の反応も良く楽しく話ができたこの講義は,今日で終了である.
     昼休み,「窓の杜」をうろついていて,車の免許試験問題の無料ソフトを見つけた.大分忘れているという自覚があるので,復習してみよう.
     図書担当の事務官が,購入雑誌関係の提出した書類を紛失したようなので,再調査をすることになる.僕も「日本児童文学」を新規購入しようかと迷う.研究費は少ないし,PCのFDドライブが妙な音を立てるのも気になる.昨年修理して6万も払ったのだゾ.
     学生から,「先生,おしゃれなメガネしてますねぇ」とおだてられ,「そうか〜」と満更でもないボク.9999(フォーナインズ)というブランドなんです.

7月12日木曜日曇のち雨

     昼休みに車で表町にめがねを取りに行く.慣れるために暫くかけて歩くが,違和感強し.紀伊國屋書店岡山クレド店に寄って『古本説話集』下を買う.『子規人生論集』(文芸文庫)もあったが,主に随筆のアンソロジーなので,岩波文庫の随筆集を揃えて持っているから不要と判断.古山高麗雄『プレオー8(ユイット)の夜明け』は購入.外に出たら,霧雨から雨に変わり,走って職場にもどるサラリーマン多数.
     明日の講義準備.『沈黙の春』を受け取りに来た人は,新調した眼鏡を見て笑いながら,「…ウルトラマン」といった.僕のは,どうも類型化しやすい顔立ちらしい.

7月11日水曜日曇

     昼休み,月3演習の報告者の指導.添削されて真っ赤になったレジュメの草稿を見て黙り込んでいた.
     12:40から3年生ゼミ.報告者のプリンターの調子が悪くなったとかで,間に合わないから親に送って来てもらうとかいうことで遅刻.ボクなら, 性格的に1日前にはプリントアウトしているので,当日にこういうことはありえない.
     終了後,生協で書籍を購入.欲しかった『古本説話集』下(講談社学術文庫)がなかったので,現代思想の臨時増刊号『戦後東アジアとアメリカの存在 <ポストコロニアル>状況を東アジアで考える』というやたら長いタイトルの雑誌を買う.波平恒男「大城立裕の文学にみる沖縄人の戦後」が読みたかった.ベラ・バラージュ『視覚的人間 映画のドラマツルギー』岩波文庫は,映像論では古典のようだが,文化研究をしている人には欠かせまい.竹内洋『大衆モダニズムの夢の跡』新曜社は,あちこちに書いたものをまとめたようだが,なかなか面白かった.「いかきょう」と呼ばれるのを恐れる京大生.下宿が本で埋まっていて,現代哲学などを話すような男子学生は,女子学生から「勉強からぬけられない人」と哀れまれるご時世なのだということを京大教育学部の先生が,紹介してくれる.岡大では,そのような学生は「絶滅」しているので,安心?だ.現代の京大生気質が少し分かった気になる1冊で,立読みするのは惜しい.他に村上龍やら中野重治の文庫を買う.
     しかし竹内氏の指摘を読んでいると,学歴貴族たちの形成する文化圏に加わるために必要とされた教養は,高等教育が大衆化して学歴貴族の文化圏がほぼ解体している現在において,存在価値がなくなってしまっていることを改めて気づかせてくれる.文学エリートなどという言葉が昔あったが,そのような存在を成り立たせる教養も文化圏もいまや存在しないから,文学の衰退―絶滅が現象するのであろうし,大学教育においても学生が,教養を身につけようとすることすらしないのは,そういう知識が現代社会において必要性のないことを知っているからで,案外世間的に不要なことを学べ,学べと我々教官が号令しているように思えて哀しくなってくるのであった.トホホ.

     ボーナスが出たこともあり,夜,実に7年ぶりにめがねを新調するため表町に出る.
     帰宅してからメールチェックすると,R・カーソン『沈黙の春』を貸せとのメール有り.
     郷里に電話すると,家の改修(トイレ・風呂)をするという.見積り額を聞いて,驚いた.450万するという.
     「年金暮らしの父さんに,そんな大金出せるの」
     「大学で稼いでいる,息子がいるんでね〜(はあと)」

7月10日火曜日晴

     14:20から4年生ゼミ.今日で一応前期の予定は終了.あと12日後に迫った教採の方のお勉強に勤しんでもらいたい.教採の定員枠も今年度から増加傾向に転じたので,教育学部も一息ついている.ただ,定員数が増えた(高校をのぞきほぼ2倍)にもかかわらず,応募者が増えないという話も聞いたが,どうなったのだろう.
     17:30から19:00近くまで,演習の報告者の指導.…腹が減った.

7月9日月曜日曇

     午前中大学院,午後学部の講義.終了後珍しい事に,指導のアポイントを3人から取られることになった.
     研究室で,論文よみや読書.土曜に読み終えた岩井志麻子の新作は,あまり面白くなかった.題材は新しいが,テーマの掘り下げ−−人間の怖さが十分でないので,消化不良の感じ.直木賞はまだ遠い.遠いといえば,宮部みゆきも直木賞後の決定打が出ないようだ.小野不由美も含めて,力はあるのに才能の開花とまではいかないようで,見ていていらいらする.

7月6日金曜日雨

     真夏日は昨日で終りを告げた.夕方から雨が降り始めて,ようやく一息ついた.
     午前中,学部の講義.「みだれ髪」の鑑賞.出席をとっているカードへの感想の書き込みを見ると,結構反発も多い.女子学生が多い事もあるが,セクシャルな内容が敬遠されたようだ.「乳房」「やわ肌」「黒髪」などの表現について,近代的身体観との関連で説明をしたが,時間切れ.来週,もう一度仕切り直すことになる.
     午後生協で,細馬宏通『浅草十二階 塔の眺めと<近代>のまなざし』青土社,岩井志麻子の新刊『夜啼きの森』角川書店を購入.後者は,週末の楽しみである.
     立読みしていると,『村上レシピ』という本を見つけた.村上春樹の小説の中に出てきた食べ物のレシピ集である.サンドイッチ関係は,確かにうまそうだなぁと思いながら読んだ覚えがあるので,こういうノリの本が出るのも面白い.谷崎あたりなら可能だと思うが,漱石の小説では出ないだろうなぁ.鴎外が好物だった?という,まんじゅう茶漬けの実物は見てみたい(笑).

7月5日木曜日晴

     岡山の昨日の最高気温は,36.9℃.微熱状態だ.真夏日は12日目に突入.
     講義に配布する資料の準備をする.論文のコピーを読む.上の甥っ子から,暑中見舞い来る.ただし,文面が縦書きのローマ字なので,判読にヒジョーに苦労する.2回読み返して理解できた.甥っ子の文章力も論文レベルである.返事を認めて,ローマ字書きするときは横書きするように指導する.
     注文していた冬敏之『ハンセン病療養所』壷中庵書房,2001.5が届く.
     ヤフーニュースで見たが,牛丼の吉野屋の並盛(現在400円)が,8月1日から280円に引き下げられるそうだ.ジャンクフード好きの学生や,1コイン亭主族にはありがたい話だ.更なるデフレ効果を生むか.

7月4日水曜日晴

     岡山の昨日の最高気温は35.6℃.昨夜は,とうとうスイカまで食った.そして今日で真夏日は11日連続.責任者でてこい〜!
     3年ゼミで「鼻」を読ませているのだが,参考文献である本がないというので,文学部の片山さんに芥川関係の研究書を研究室に持っていないか確認のメールを出す.「ないよ」との返事.しかたない,炎天下,5分歩いて,図書館に出動する.ついでに他の論文のコピーをする.コピー機の放熱のためにやたらと汗が流れる,というか噴き出す.あごまで滴ってくるのを,ハンカチでぬぐっていると,館内アナウンスが流れた.
     「契約電力をオーバーしたために,ただ今冷房を停止しています.今暫くご辛抱ください.」

     16:00から臨時教授会.出張で欠席が続き,久しぶりに出る.報告事項の中で,学部・大学院の将来構想の話が出た.文科省レベルや,各大学レベルでの水面下の慌しい動きを感じさせる報告があった.単科大学の動きが速いようだ.学部・大学レベルで考えなければならないことが多く,非常に難しい問題に直面させられていることを感じた.ただ,文科省の発言として教員養成系大学で入学定員を削ることは今後はないとのことで,将来的に明るい話題もあった.

7月3日火曜日晴

     朝日新聞の記事によると,昨日自民党鈴木宗男代議士(比例区)が,日本外国特派員協会における講演で,日本が「一国家、一言語、一民族。アイヌ民族は今はまったく同化された」などと発言したそうだ.地元選出の代議士ということもあって「北海道ウタリ(同胞の意)協会」が反発している.
     また同日,平沼赳夫経済産業相も,札幌市内のホテルで開催された自民党の政経セミナーで講演し,「日本ほどレベルの高い単一民族で詰まっている国はない」と述べた。これにもウタリ協会が反発している.ご当地での発言だけになかなか平沼氏も勇気があるが,内容レベルでいうと鈴木氏の方が問題である.アイヌ新法が制定され,民族保護の立場が確認されている行政上の認識をなんと心得ているのか.見識が問われる発言である.大体,今日本にどれくらいの民族がいると思っているのか.国際化の時代の政治家の発言とは思えない,70年代レベルの内容だ.
     それにしても,中曽根さん(「単一民族発言」の最初の人)をはじめ,なぜ自民党代議士は,「単一民族」説を好むのだろう.学生にはよく講義で話すのだが,日本人のミトコンドリアDNAを解析すれば,大陸系(上海経由で来たのかな),朝鮮半島系,東南アジア系,和人系,その他に分かれるようで,つまり日本人は多様な民族の混交の上で成り立っている事が分かる.その「民族性」を皇国皇民化政策によって「単一化」していったのが,近代日本の歴史なのである.大体古代天皇家も朝鮮半島からヨメさんを迎えている歴史があるのだから,単一民族説は「神話」にすぎない.そもそも,物事を単一化しようとする思考ほど,面白くないことはないのではないか.それは,端的にいって「ユニクロ」化なのである.
     僕は,ブルックス・ブラザーズが最近好きだが,ユニクロは好きではない.あれ,何の話だ?(すぐに脱線する)
     4年ゼミの後,締め切りの近づいた書評原稿を完成させる.送ろうと思って,再度原稿枚数を依頼状で確認すると,なんと600字もオーバーしていることが分かり大ショック.泣く泣く斧鑿の作業に入る.

7月2日月曜日

     岡山の最高気温は昨日34度.今日は35度の予想である.梅雨も明けていないのに,夏本番の気温だ.やれやれ.
     1日は映画が1,000円で見れる日だったので.スピルバーグ監督の話題の映画「A.T.」を観て来た.故キューブリック監督の原案に基づくものらしく,「2001年宇宙の旅」の不可解さに魅せられたものとしては,この映画に無関心でいられるわけがない.
     テーマは簡単にいうと,「人間の条件」(H・アーレントではないが)であろうか.冒頭部分で,「ロボットが愛情を持つようになると,人間もその愛情に応えなければならないのではないか」という科学者による問題提起があった.愛情とは,一方的でプログラムされる機械的なものではなく,関係的なものなのだが,それは同時に非対称的である.この映画は,人間の愛情を求めて彷徨する,愛情をプログラムされた子供ロボット/デイビッドの物語である.彼は,貰われた家庭から捨てられてしまい(愛情に応えてもらえなかった),人間になれば愛してもらえると考えて,人間になる方法を探して世界を旅していく.プログラムされた愛情に応えてもらえなくて葛藤するデイビッドに,女の子に振られ続ける自分が重なり,「いとあはれ」であった.ラスト(内緒)がとても切なくて啜り上げている観客が多かった.その献身一方の愛情の描かれ方に僕は満足できたが,さて興行としてはどうなのかな?現代版ピノキオ.