津島通信

NOVEMBER 2001
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◆CONTENTS◆

【広告】
【きむたく日記】

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kimutaku@cc.okayama-u.ac.jp

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広 告(刊行より1年間)

 ¶ 于 耀明氏『周 作人と日本近代文学』翰林書房,2001.11.9,4,000円(税別)

 ¶ 菅 聡子氏『メディアの時代--明治文学をめぐる状況』双文社出版,2001.11.1,2,800円(税別)

   (近代文学成立期の一側面/<文士>の経済事情/初期硯友社と吉岡書籍店/『読者評判記』の周辺/百合とダイアモンド/小杉天外『魔風恋風』の戦略/<対話>の生成−−場所としての一葉身体/『通俗書簡文』の可能性/流通する<閨秀作家>)

 ¶ 『敍説』第2期第2号「特集・nagasaki」1,800円(税込)

 ¶ 仲 秀和氏『漱石―『夢十夜』以後―』2001.3.30,和泉書院,2,500円+税

 ¶ 江種滿子・井上理恵編『20世紀のベストセラーを読み解く――女性・読者・社会の100年――』2001.3.29,学藝書林,2,500円(税別)

    (所収論文;菅聡子「吉屋信子『花物語』『女の友情』――〈花物語〉のゆくえ」,根岸泰子「太宰治『斜陽』――その揺籃期の物語」他9本.)

 ¶ 花田俊典氏『太宰治のレクチュール』2001.3.10,双文社出版,5,600円

 ¶ 木村小夜氏『太宰治 翻案作品論』2001.2.25,和泉書院,4,800円


「きむたく日記」

 

11月30日木曜日晴

     前住んでいたアパートに忘れ物を取りに行った.2階の部屋だったので,階段を上ろうとしてふと足もとをみて,仰天した.鴨の屍骸がキチンと置いてあったのである.
     いつもクール&せくしぃといわれている僕だが,この時ばかりは「ぎょえええぇぇぇ」である.階段の下に普通鴨はいないし,ましてや屍骸など論外である.しかも僕は「テロすずめ事件」(10.22)以来「鳥さん」は大の苦手だ.七面鳥が並ぶクリスマスシーズンなど,悪夢の到来以外の何ものでもない.いやそれでもなくても,シングルベルをからかわれるので大嫌いだ.
     ま,話をもどすと僕はそれから行儀よく横たえられている鴨をおそるおそる避けて,2階で用件をすませてから,車に舞い戻った.そして車中で考えた.猫や犬の仕業なら,そこに「キチンとおいて置く」ことなどしないだろう.というか食べちゃうだろう.少なくとも僕が猫ならそうする.となるとこれは人間がおいた事になる.アパートには,もう1軒だけ入居者が残っているので,かかる行為の対象は彼等以外に考えられない.追い出そうというイヤガラセなのか.
     はっきりいって,僕の入居していたアパートは大家・管理会社が「悪徳」の名を冠せられる連中だったらしく,9月に債務物件になってから大家は逃げ回り,敷金が返却されないという意味では,僕も死に体のカモにされた一人なのである(計画倒産かも).このアパートには様々な悪意が張り巡らされており,それを思うと暖房の効いた車の中でも悪寒が走るほどとても怖かった.僕は,このアパートの虎口から本当に逃れられたのだろうか.

     それにしても,鴨の屍骸はショックだった.死の異質性が,僕の肌を固くした.死は鳥肌のたつような違和感で,僕の肌の表面に衝突してきた.小さな鴨の死の発散するものに,生きている僕は心から怯え,恐怖した.死は,かくも生から遠い.しかし,この生はいずれその死に同化していく.恐ろしい事だ.
     かくして今までの人生の中でもっとも多忙で最悪の11月が,終了した.やれやれ. →TOP

11月29日木曜日曇りのち雨

     引越しは無事終了.越した一番の感想は,モノとモノの距離が遠くなったので,移動が面倒に感じることだ.運動量が飛躍的に増えるのは,健康に良いはずだと自分に言い聞かせよう.
     今日は,越した関係で事務上の書類を作成しなければならない.講義の資料準備もしなければならず,19:00からは「市民の童話賞」の審査委員会に出なければならない.しかし,これで今月の全てのお役目はすべて終了…と,思っていたら,福岡の印刷会社から,「校正があがりましたので,転居先を教えてください」と電話・FAX・メールの3重攻撃を受けて面食らう.一月早い「師走」状態である.
     『三島由紀夫全集』12が漸く届けられた.柴田勝二氏の『三島由紀夫論 魅せられる精神』(おうふう)も届いたので登録に回す.ようやくお勉強ができる環境に戻りつつある.本当にありがたいことだ.

11月27日火曜日晴風強し

     本日も自宅からの更新.
     引越しの準備のため年休をとって大学を休む.前回の引越しは本に苦しめられたが,図書は研究室に移してあるので,ダンボールは25箱位になった.これは楽であった.TVのリモコンをうっかりパッキングしてしまったらしく,見つからないので往生する.洗剤とビニールの紐を研究室まで取りに行く破目になった.ついでに生協に立ち寄って維新期の外国人の在日日記(人文書院)を立読みをしていると,数学教室のS方先生が覗き込んでこられた.曰く「ハリー・ポッターはすごいベストセラーじゃないか」
     目当ての新刊福田眞人『結核の文化史』(中公新書)を購入.彼の著書によって病と人間の関係に対する文化研究の分野を知り,もともと医科学などの歴史も好きな僕は興味を覚えて,「エイズ」と文学の研究をするようになったのである.お勧めの本である.単行本はともかく,新書版くらいは読むべし.特に医学系分野で学んでいる教え子達よ,読みなさい.
     帰途,デオデオ東川原店でガスレンジを購入し,仲介の不動産業者に敷金・仲介手数料保険料を支払い,鍵を受け取る.大家さんが奮発してくれて,ピッキング防止の鍵に付け替えてくれたのは良いが,複製代が3,000円もかかる代物らしい(泣).購入したガスレンジを搬入しようと家へいくと,掃除中の大家さんの一族と遭遇した.大家さんのお母さん・奥さん・大家さんの姉妹である.持ち家であるこの物件を紹介してくれた事務官の方も知っているので,女三代を頭の中で並べてみると壮観であった.でも,誰も似ていないのがとても意外だった.ハピータウンで,挨拶まわりで近所に配るタオルを購入し,ツイードジャケットと綿パンをクリーニングに出して帰宅する.
     それから,僕がアパートから一軒家に移るので,「いわゆる新居」(by夢象先生@長崎大)とご期待の向きもあるようだが,残念ながら閑静な読書空間を求めてのことである.無念.

11月26日月曜日晴

     いよいよ引越しが2日後に迫ってきた.土曜日に物件を決め,昨日は審査員になっている「市民の童話賞」(岡山市)の応募作品の査読を進めた.
     ゲームのやりすぎだという作品もあったが,うならされるようなプロ級の作品もあったりして,なかなか貴重な経験をさせてもらっている.この文学賞は,岡山に在住か,通勤している人に限定しているために応募数は決して多くない.全国的にすれば,岡山発の文化事業として有力なものになるだろうにと思う.文化立国を唱えるのは,たしか平田オリザだったと思うが,そういう立国事業に地方自治体が名乗りを上げてもよいのではないか.そして大学などの機関がそれに提携するという共同プロジェクトがあっても良いと思う.
     岡山出身の作家は元気がよい.重松清しかり,岩井志麻子しかり.彼らの力を個人レベルに留めておくのはいかにも勿体無い.日曜夕方のNHKの番組「ようこそ先輩」の重松清の姿を見ていて,その感を強くした.ところで,重松清が「みかんジュース」が苦手だというのを知っておかしかった.肥満すると酸っぱいものが苦手になるのだ.でも,なぜ?(自宅にて)

 

11月19日月曜日晴

     ようやく白ワニを退治した.辛かった,この一週間.皆さんはいかがお過ごしだったのでしょうか.これでようやく読みたい本が読める生活にもどれます.ただし,僕はこれから出張→大学院修士論文中間発表会→アパート退去&引越し(メインイベント)→岡山市民文学賞選考会が,この10日間にギッチリ詰まっています.
     立花 隆『東大生はバカになったか』を読む.明治期の文部省主導のキャッチアップ型から中央管理型の教育施策を,現代に引き継ぐ同省のアナクロニズムを突いていて痛快である.一円玉の直径を5センチと答える東大生がいることは笑えるが,その意味を考えると実に背筋が寒くなる.

11月12日月曜日晴

     先日来,僕にはのどの奥に刺さった魚の小骨のように引っかかっていたことがあった.ショーペンハウエルが記した「笑い」に関する文章の,引用文献が分からなかったのだ.今日,ふと思いついてたまたま生協にあった『中公バックス世界の名著』のショーペンハウエルの本を取り上げてみた.これには「意志と表象としての世界」が入っている.索引で,「笑い」の項目があったので,そこを見てみると,ビンゴであった.あまりヒラメク人間ではないのだが,今日は調子が良い(ウム).
     「国文学」12月号の書評で,学芸大の関谷一郎氏が,「走れシュンテン」なる文章を書かれていた(我々の業界で,シュンテンで誰のことか分かるのだから恐ろしい方だ.).これは破格の爆笑ものであった.太宰研究者ならずとも一読すべきだろう.しかし,なんで「走れシュンテン」なのだか?岩波文庫の復刊シリーズ「経国美談」・「真景累ヶ淵」を買う.多分持っていたと思うのだが…….ピーター・ゲイ『快楽戦争』(青土社)が届く.
     昨夜,朝日新聞のサイトをうろついていて,池澤夏樹のデイリー・コラム「新世紀へようこそ」のページがあるのを知った.バックナンバーもあるので,関心のある方は,御覧いただきたい.現在池澤氏はアイヌ民族と入植者の交流の歴史を描いた「静かな大地」を紙上に連載されている.それから,村上春樹の公式サイト「村上朝日堂」は閉鎖されていた.知らなかった.

11月9日金曜日晴

     更新をサボっている間に「立冬」を迎えてしまった.紅葉狩りにも行けないうちにもう冬である.
     講義ではコピーの反故紙のB6用紙に名前を書いてもらい出席カードに代用しているのだが,空欄に講義に関するコメントを書いてもらうこともある.オムニバス(分担)形式で1年生の講義をしてきたのだが,5分ほど時間をさいて「テクスト」概念について説明し,「解釈」の闘争の場が生まれるので,読者の解釈の説得力が大切である事を説明したことがあった.で,コメントを読んでいると,以下のような書き込みがあった.

       昨年,センターの国語の過去問を授業中にとき,先生に答えの解説をしてもらっても,どうにも納得がいかず,その先生の所にききにいくと,先生も私と同じ考えで,どうしてここがこの答えになるのか分からないと言われました.「センターの過去問」という全国版の答えは,説徳(得)力がある答えのはずなのになあ,と思いました.

     そう来たか!ウーン,センター試験の解答例ほど,通用性が求められるものはないと思うのだが,いやはや国語は難しい.ま,センター試験の正解を作っている人たちに聞かせたい話では,ある.
     それにしても黒板に「説得力」と書いていたのに,「説徳力」はないよなぁ.
     この講義の時間中,女子の学生が前の席で騒いでいるので,なんだ〜?と思ったら,カメムシ(臭いやつ)に「キャーキャー」騒いでいるのである(フン).で,一人の学生が机のカメムシをルーズリーフに乗せて,おそるおそる窓の方へ出そうとするのを,皆が注視しはじめた.仕方がないので講義を中断して,僕がそのノートのカメムシを受け取って外に出そうとしたら,途端にカメムシが舞い上がった.そして,学生たちの視線は僕に…….
     「先生,背中!」
     「キャーッ」

     全国大学高専教職員組合のパンフがメールボックスに入っていたので,斜め読みしていると,独立行政法人化した場合の学生の授業料はどうなるのかという試算数値が紹介されていた.49.6万円/年が,一挙に133万〜233万円になるという.独法化した時には,学部別授業料になるし,理工系や人気の高い学部,経営効率の悪い赤字学部の授業料は跳ね上がるということだ.それでも効率重視で,独法化するんですよねぇ.

11月6日火曜日晴,風強し

     「広告」にも記したが,お茶の局@菅 聡子氏が,『メディアの時代』を上梓された.おめでとう.内容もスッゴク面白いのだが,価格も今時信じられない安価に設定してある.良心的だ.是非買ってあげて欲しいでおじゃる.

     ゼミの大学院生(男性)の就職が決まる.広島県福山市にある中高一貫のカソリック系の進学校である.おめでとう!
     しかもお嬢様学校と聞いて,カナリ羨ましかった.僕も私立のお嬢様学校の教員になれていれば,グレて岡大に勤めるようなことはなかっただろう(笑).僕が道を踏み外したのは,中高一貫のカソリック系の進学校で,「男子校」だったことが大きい.チクショー!.
     あ,みんな退かないで…….

     そういえば,「昭和文学会」の研究会の案内が来ていたが,手塚治虫の「リボンの騎士」についての研究報告があるようだ.僕は,寡聞にして知らないが,文学関係の学会で漫画が取り上げられたのは,これが始めてではないだろうか.時代もここまで来たのうと,オジサンは感慨にふけるのであった.「昭和文学研究」も「昭和文化研究」に誌名を変える時期を迎えつつあるということなのだろう.おめでたい?.

11月5日月曜日曇

     今朝はエライ寒かった.研究室もそろそろ暖房を入れねばしのげなくなってきつつある.秋も終りである.弘前大に10月に着任した山本欣司さんからは,ストーブをガンガン焚いているとのメール.厳冬期には,1日で18Lもの灯油を使い果たす日もあるそうだ.すごく寒そうで,京都から出たことのなかった彼とその家族が越冬できるのか心配である.
     大学院と学部の講義.その後,返却したレポートに指導をしてくれと言ってきた3年ゼミ生を指導する(奇特な人だ).ほぼ制圧した白ワニ(論文)の引用箇所を,もとの論文と照合する作業をする.去年と今年の違いは,相手の文章を「改変する」傾向が顕著に表れていることだ.我ながら自分の大胆さ&イカゲンサに呆れてしまう.そういえば,最近人の話を聞かなくなっているような気もする.老化かもしれないので気をつけよう.
     図書館に本を返却しがてら,カール・ケレーニイ『神話学入門』を借りる.生協にも立ち寄ると,鷲田清一の書評集が出ていたので確保.猪瀬直樹著作集の第2巻「ペルソナ」や江種さんの大庭みな子論,D・キーン『明治天皇』上・下(新潮社),塩野七生著作集を買う.『明治天皇』はキワモノではないのかという「期待」もあっての購入である.勿論,校費で.松岡正剛の編集工学の本が朝日から出ていたはずだが見当たらなかった.論文を仕上げて引越しが済んだら,ようやく読書ができる.

11月2日金曜日晴

     午前と午後講義2つをこなす.午前中の方は,高梁高校(ってどこにあるのかしらないのだけど)の生徒(高一)が大学の授業の参観に来た.これは大学と県内の高校の交流事業として実施しているもので,大学側からも高校の授業を参観することになっている.折悪しく,「おろおろ草子」(三浦哲郎)をやっていて,これが天明の飢饉の時の八戸藩(青森県)の「共食い」をめぐる話なので,退かれていたのではないかと思う(食事前だし).引率の先生までいたので,夏季講習の「悪夢」が蘇り,ウカツな冗談もいえなかったため,至極マジメな講義に終始してしまった.

     今週に入ってから,名古屋での学会情報が入ってくる.初日にあったらしい「私のホンを読んでない」発言や(これは去年もあった),エピゴーネン呼ばわりに近い批判もあったとか.笑ったのは,九州のさるお方らしいが,名古屋古本屋ツアーだけをして帰ってきたという「告白」である.それ以外に一体何をやっていたのか.「彼」の「伝説」は始まったばかりだ(プロジェクト・H).

     国文学研究資料館の「国文学論文目録データ―ベース」の情報がようやく更新されたが,データは2000年12月までしかカバーしてないようだ.それにしても,僕の名前(たくみ)が「いさお」で登録されているのは,何か別人のような気がしてとてもイヤだ.それから,「書評」は一体論文なのか?ウチでは,業績にもカウントされないぞ.

11月1日木曜日晴

     11月に突入である.年賀状の発売のニュースを見ると,もう今年もカウントダウンだなぁとなんとなくせわしい気分になる.
     郵便物といえば,アメリカの炭ソ菌事件で,郵便物への観念が変わるのではないかと僕は考えている.郵便物が,テロの道具になるのであれば,メールの方が安全ではないかと判断されて,一挙に通信手段が変わっていくのではないかということだ.
     日本ではまだ,テロ用郵便物に入れるものはカミソリの刃位だろうが,しかし薬学系をはじめとして理化学系・農学系の知識をもっている人は多く,今回の事件はその中の憤懣を抱いている人たちに「ヒント」を与えているだろう.ウチのオヤジですら,農薬を大量に保有している.人間関係上のトラブルを抱えている人などは郵便物の開封に気をつける必要があるかもしれない.
     今月僕は,引越しと論文の締め切りがあって,少々気ぜわしい.引越しは9月に決心していたが,もう11月の予定月になってしまった.引越し先はまだ決めていないし,論文にいたっては,「白い空白」(白ワニ)が埋められない……嗚呼.

     白ワニと格闘中,紀伊國屋書店のMさん来る.本だけではなく,ゴダール『映画史』のDVDの案内があった.映画や演劇が好きだということを告白すると,紀伊國屋から出ている映像関係のパンフをくれた.おまけに今度岡山のシネマクレールで上映される「みすゞ」(金子みすず)のチケットまで「どうですか」.紀伊國屋書店も後援しているらしいのだ.
     ゴダールの代わりに,「ゴッド・ファーザーDVDコレクション」を注文してしまった.なぜ,「ゴッド・ファーザー」なのか.「そこには人生のいろんな知恵があるから」(「ユー・ガッタメール」のフォックス氏(トム・ハンクス)の発言).ちなみに,再生機はまだ買っていない(笑).