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◆CONTENTS◆
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【きむたく日記】
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感想をお聞かせ下さい。
kimutaku@cc.okayama-u.ac.jp
¶ 花田俊典氏『清新な光景の軌跡--西日本戦後文学史』2002.5.15,西日本新聞社,2,856円(税別)
¶ 佐藤 泉氏『漱石 片付かない<近代>』02.1.30,日本放送出版協会,920円(税込)
¶ 『敍 説』第2期第3号「特集・夢野久作―聖賤の交雑―」2002.1.6,花書院,1,800円(税込)
¶ 于 耀明氏『周 作人と日本近代文学』翰林書房,2001.11.9,4,000円(税別)
¶ 菅 聡子氏『メディアの時代--明治文学をめぐる状況』双文社出版,2001.11.1,2,800円(税別)
(近代文学成立期の一側面/<文士>の経済事情/初期硯友社と吉岡書籍店/『読者評判記』の周辺/百合とダイアモンド/小杉天外『魔風恋風』の戦略/<対話>の生成−−場所としての一葉身体/『通俗書簡文』の可能性/流通する<閨秀作家>)
5月31日
金曜日晴 友人から薦められた蓮見圭一『水曜の朝,午前三時』(2001,新潮社)という作品がある.今から10年前に45歳で死亡した女性が,病床で録音したテープレコーダー4巻の内容が,物語の中心となっている.彼女は,32年前の大阪万博でコンパニオン(ホステス)を勤め,そこである男性と知り合い,恋に落ちる.しかし,その恋には思いもかけぬ悲劇が待っていた.
と,書くと陳腐な恋愛もののように思えるだろうが,当時の結婚事情を示すエピソードが盛り込まれていて,なかなか奥行きのある物語に仕上がっている.今恋愛することは,誰でも可能なことで障壁は低くなっているのだが,当時は見合いが主流だし,親の意向は大きいし,世間もそういうものだと思っているという3重の手かせ足かせがあった.その中で,1人のパートナーを自分の力で見出すことは,「宝探し」のような冒険だったのである.恋愛することが,ある意味では命がけであった時代の,キラキラと輝く青春の物語である.
病床で彼女は自分の娘にメッセージを残している.ホンの一部だけを抜粋するので,すべてを知りたい人は,書店に走るべし.
この人生に私が何を求めていたのか――ここまで根気よく付き合ってくれたなら,もう分かったでしょう.私は時間をかけて,どこかにあるはずの宝物を探し回っていたのです.ただ漫然と生きていては何も見つけることはできない.でも,耳を澄まし,目を見開いて注意深く進めば,きっと何かが見えてくるはずです.
今日の午前3時に読み終えたが,頁をめくるのが勿体無いと思う一方で,読み進めずにはいられない,そんな葛藤を味わわせてくれるニクイ作品だった.友人に感謝.でも,なんで「水曜の朝,午前三時」?
(注)その後寄せられた情報によると,サイモン&ガーファンクルのデビューアルバムに 「水曜の朝,午前三時」という曲があるそうです.
5月29日水曜日晴
昨夜飲んだコーヒーで目が冴えてしまい,結局一睡も出来なかった.朝日を浴びると,ドラキュラ伯の気分がよ〜く分かった.「太陽が眩しかったから」(カミュ「異邦人」)という迷台詞まで思い出してしまうと,さすがに頭に来たので,コーヒー豆はゴミ箱に捨ててしまう.
灰になりそうな体を必死で支えながら,1限の教養の講義を行った.賢治の「よだかの星」の朗読中,ふと意識が「あっちの世界」へ行ってしまうことがあったが,なんとか終了させる.自分で「ある」事が,自分を疎外する問題については,もう少し説明が必要だったかもしれないが,精神状態が悪く説明が通り一遍になってしまって受講生には申し訳なかった.フラフラ歩きながら,教養棟から学部に戻る.
ゼミもあるので,なんとかそれまでにエネルギーをチャージしなければ.講義前夜の体調管理は大切だと思う.反省.
3月以来探していた,映画「小島の春」(豊田四郎監督)のビデオを販売している業者(大阪キネマクラブ)をようやく発見し,購入手続きをする.6,500円もするが「名作」なので仕様がない.嬉しいというか,やれやれである.あとは,脚本だけだ.
5月23日木曜日晴
2限の講義教室に向かうため,講義棟のエレベーターの方に行ったところ,乗り口の前に2人の男女がいた.カップルのように見えたが,急いでいたので2人が乗り込んだ後から構わずに続いて乗り込んだ.
2人に背を向けていると,後ろの方から黄色い声が何度も上がる.後ろをふり返らずに,エレベーターの上昇階を示すサインボードを「ムッ」と見ていると,反射で後ろの光景が写っていた.なんと男が,女の子の背後から,その頬を突いていたのである!
僕が見ていないと思っての行為なのだが,それ以前に他人のいる空間で,「そういうこと」が出来るのかと,呆れ返ってしまった.「最近の若者は」というアリキタリの構文ではなく,他人を「背景化」し自分たちの世界を出現させる想像力欠落障害のヒトを,目の当たりにしたわけである.講義の冒頭にこの話を紹介して,爆笑を得たワタシであるのはいうまでもない(ツカミはOK).
大学院の講義を終えてから,3週間延滞していたビデオ「真空地帯」を図書館に返却に行く.休館日だったので,預かりボックスに入れて退散.戻る途中,生協で本を漁っていたら,文学部のM崎先生に肩を叩かれる.店内でPCの雑誌をみながら最新鋭機に関する雑談.話題のS藤氏やS田氏の「日本語」関連本を見て,M崎先生曰く.「不況時代は,お金が無いから言葉遊びの本が売れるんだよね〜」.鋭い指摘であった.
岩波が『世界名言辞典』(2,500円)を出していた.シューペンハウエルが,「やさしい言葉で,難しい内容を表現出来ている文章が優れた文章である」ということを言っていた.某学会誌の書き手たちに望むことは,こういうことである.指導者の責任だろうが,はじめと終わりを読んでも論旨が見つからない「迷文」「迷論文」は本当に困る.
5月21日火曜日曇
3限講義.講義後,アポ有りのゼミ生をはじめとして,アポなしの来客が数名続き,3時間を占領されてしまった.国技館ではないが,満員御礼である.書類書きの雑用を予定していたが,出来ずじまい….残業するしかなくなってしまった.水餃子パーティーに呼ばれていたのに,キャンセルせざるを得ない.
昨日「日本近代文学」66集が来ていた.太田登氏の文章を読む.未来社の編集者の方の寄稿も,専門書の中でもとりわけ厳しい文学関係の専門書の出版の状況をリポートされていて,唸るしかなかった.「日本文学」今月号ではないが,古代文学研究に限らずどこもかしこも危機的状況であるとの思いを新たにしただけであった.
大塚英志が述べるように,文学(研究)好きは文学コミケを開催するなどして,自分たちで市場を確保する努力をしなければいけないということなのだろう.具体的にどういう行動を起こすのか,問題はそのレベルに来てしまっているという印象を強く持った.象牙の塔も安住の地などではなくなっている.
5月16日木曜日曇
学部と大学院の講義の日.岡大は初めての大学院生を図書館に案内する.図書館旧館の雑誌庫に入ったときには,匂いと埃に眩暈がするようだったが,傍らの院生は「平気です」とのこと.しばらく書庫入りをしないうちに,僕の方が体がなまっていたらしい.
雑用の書類作成をする.先月から2ヶ月を費やした雑用の「大作」である.かかる雑用に想像力を空費しなければならないのは実に空しい.
香山リカ『若者の法則』(岩波新書)を斜め読みする.思い当たる事例がないのは,東京からの距離によるものであろうか.むしろ永田町のセンセイの方に「困ったヒト」が目立つので,彼らに取材した方がよほど売れるように思う.外務省編なんかでは,大使同士の「閣下」呼ばわりなどで一項目立てられる.「土下座外交」や「亡命」という項目も面白そうだ.……書いてて,情けなくなってくるのう.
5月15日水曜日雨
朝1で教養の講義.案の定というべきか,今日も雨である.レイン・マンの本領発揮である.しかも今日は,講義中に学生が貧血で床に倒れてしまい,びっくりした.
横たわっている学生を見下ろしておたおたしていると,教養科目だったことが幸いして,医学部の女性2人が手当てを担当してくれた.ゼミ生が機転を利かせてくれて,近くの保健管理センターへ医師を呼びに走ってくれもした.僕は学生を抱え上げて,教室の外のソファーに寝かせるぐらいしかできなかった.
教室内で,何が起こるかわからない事例の一つであるが,まぁ包丁を持った男が乱入してこなくて幸いであった.それにしても,貧血の対処法くらいは復習をしておかないといかんなぁ.横にならせて,血液を脳に回すために頭を低くさせて,ベルトを緩めるンでしたっけ?
5月14日火曜日晴
11日,12日の2日を大阪・京都で遊んできた.おかげで今は講義準備に追われているのだが,この2日は楽しかった.
11日は,大阪城公園内にある「キャッツシアター」で,劇団四季のミュージカル「CATS」を観てきた.踊り主体のミュージカルだったが,見事なダンスを十分堪能した.ファミリーミュージカルとは全然違う.岡山では,なぜこのレベルのミュージカルが見られないのだろう(泣).終演後に,客席にダンサー達がやってきて握手していくなど,観客を喜ばせるサービスもあった.主役級のメンバーに中国の人がいるのも,この世界のグローバル化を感じさせる.
夜は,大学院時代の友人たちと,師匠を囲んでの同窓会である.20代の前半だったのが,皆40近くなっている.独身も数少なくなっていて,話題がそちらに流れると思わず「悪い汗」が背中を流れるのであった.
翌日は,河原町今出川で大学院時代の先輩喧嘩小太郎氏と待ち合わせて,昼食を御車会館でとり,東寺(弘法大師)に連れて行ってもらった.宝物館・講堂・金堂・五重塔を修学旅行生や,団体の観光客の間をぬいながら見て回る.京都には12年間暮らしていたのだが,東寺までは行ったことがなかった.金堂の薬師如来像などはすばらしかったし,講堂の十二神将の造形などもリアリティを感じる程だった.
11日は今にも降りそうな曇り空だったが,12日には持ち直し,珍しく天候に恵まれた小旅行であった.
5月10日水曜日雨
大塚英志「不良債権としての『文学』」「群像」6を読む.大学の不良債権である「文学」系のリストラは大分進んでいるが,この文章では出版社における「文芸誌」の問題が取り上げられていた.不況期であるから,利益性の高いコミックスやアニメにシフトしていく出版社の事情もよく分かる.岩波文庫の売り上げの落ち込みにも言及されていて,「漱石全集」第2次の刊行の背景もなんとなく伺い知ることができたのであった..
5月8日水曜日雨のち曇
3年ゼミで,芥川の「鼻」で演習報告.今年の3年生は,教官の発言を押しのけてのしゃべりたがりが揃っていて,言葉のカーニバル状態である.今までのゼミ生とは,明らかにタイプが違う.一方の4年生はといえば「お通夜」状態で,こちらは口を開かせるのに苦労している.なぜこうも極端と極端が揃うのだろう.少なくとも指導教官には問題はないと,固く信じてはいるのだが,疑問だ.
5月7日火曜日曇のち雨
どうも雨の降る日は体調が悪い.低血圧で,空気が重く感じる.眠いし,頭が回転しないのである.周囲から言葉をかけられるので,ポカミス位で済んでいるが,調子の出ない一日だ.これは,連休中遊びまくった疲れでもないし,かといって積読書の解消につとめて神経衰弱気味になったというのでもない.
ただ,低血圧(男では珍しいらしい).早く横になりたいが,アポの入ったゼミ生の指導がある.4年生のゼミ生は奇襲をかけてくるし.
そうそう,GW中思い立って,話題のホラー映画「The Others」を見てきた.二コール・キッドマンが好演していた.ネタバレ禁止映画だが,最後のどんでん返しを楽しむべし.
5月2日木曜日曇
近所にある就実女子大学が,中国地方では不足している薬剤師養成をターゲットにして薬学部を設け共学化を目指す旨,今朝の朝日に書いてあった.しかし定員枠は変わらないようで,文学部と短大から削減した分を充てるということだ.文学部は,2003年から「人文科学部」と改称し,日本文学科は,「表現文化学科」になるようだ.自分が学んだ領域分野が,また一つ消え去ることになる.さびしいことだ.
今日は本来講義が2つある日だが,全学的に教務上の理由から月曜日の講義をすることになっている.そんなわけで,出来た空き時間を利用して,図書館で調べ物.今年度の研究テーマは,従来の「病と文学」の第2弾で,ハンセン氏病をめぐる言語空間である.秋口には,どこかで研究の成果?を公開する予定だ.…….多分できると思う.できるんじゃないかな.
それにしても久々に自分の研究が出来るので,「感動」してしまった.僕の場合,学生が文学好きというわけでもないので,もっぱら教材になるような「定番」を対象に取り上げざるを得ない.文学部のように自分の研究テーマで仕事が出来れば幸せだろうなぁと思う.
島田雅彦『フランシスコ・X』を読了.