津島通信

JULY 2002
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◆CONTENTS◆

【広告】
【観劇評】
【きむたく日記】

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感想をお聞かせ下さい。
kimutaku@cc.okayama-u.ac.jp

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広 告(刊行より1年間)

 ¶ 小田切靖明氏・榊原貴教氏 『夏目漱石の研究と書誌』 ナダ出版センター,2002.7.10,本体6,000円(税別)

 ¶ 金 正勲氏 『漱石 男の言草・女の仕草』 和泉書院,2002.2.28,本体4,500円(税別)

    金氏は,韓国全南科学大学助教授(現在)

 ¶ 花田俊典氏 『清新な光景の軌跡--西日本戦後文学史』 西日本新聞社,2002.5.15,本体2,856円(税別)

 ¶ 佐藤 泉氏 『漱石 片付かない<近代>』 日本放送出版協会,2002.1.30,920円(税込)

 ¶ 『敍 説』 第2期第3号「特集・夢野久作―聖賤の交雑―」 花書院,2002.1.6,1,800円(税込)

 ¶ 于 耀明氏 『周 作人と日本近代文学』 翰林書房,2001.11.9,本体4,000円(税別)

 ¶ 菅 聡子氏 『メディアの時代--明治文学をめぐる状況』 双文社出版,2001.11.1,本体2,800円(税別)

   (近代文学成立期の一側面/<文士>の経済事情/初期硯友社と吉岡書籍店/『読者評判記』の周辺/百合とダイアモンド/小杉天外『魔風恋風』の戦略/<対話>の生成−−場所としての一葉身体/『通俗書簡文』の可能性/流通する<閨秀作家>)


観劇評@「この子たちの夏」(7.29)

     28日の日曜日14:00〜15:30過ぎまで,市民文化ホールで地人の会の朗読劇「この子たちの夏」を観た.
     客席のすすり泣く声を聞いていると皆一様に感動しているようだったのだが,僕は「悲劇」の共有ということをしきりに考えた.「悲劇」はここにだけあるのではない.世界には「悲劇」があふれており,大事なのは「悲劇」をもたらすものを対象化し検討することなのである.しかし,「この子の夏」は,「悲劇」を「悲劇」として投げ出して,喪失の重みで観客を打ち震わせ「感動」させて終わり,なのである.「それで,この原爆投下をどう考えるのか」という次の問題を提示することはない.
     この芝居は,失われたものの意味の大きさばかりを強調していて,それが誰によってもたらされているのかを考えさせない点で,「厄介な問題作」であるといえよう.
     1時間30分の上演後,朗読した女優さんたちとの集まりがあったので,この朗読劇を観客たちがどのように受け止めているのかを知りたくて,会場にのこった.
     発言者たちは,一様に「感動した」ことを口々に述べ,隣席の広島出身のおばあさんなどは,朗読された手記の中に自分の過去を重ねて涙をこらえきれなかったと感想をもらしていた.短歌の朗読に参加した女子学生は「親子のつながりの強さを改めて実感した」といって絶句していたが,その光景を見ながら暗然としていたのは僕一人のようなのだ.
     この芝居では,原爆の悲惨さを通して,戦争が親子の情愛を引き裂くようなひとつの「悲劇」として演出されていて,原爆投下はあたかも「運命」のようなものであり,天災のように見做されていた.朗読者も観客もその「物語」を受け入れてしまっている.老人たちにとって,戦争の悲劇はすでに懐旧そのものでさえある.
     そこからは,原爆投下をもたらした軍国主義・民衆の(無言の)協力・アメリカの非人道主義を観客に気づかせるものは生まれてこないように思われる.非戦闘員を巻き込むことを考慮した上での原爆投下という非人道的問題が問われることもなく,アメリカの投下に対する歴史的認識の姿勢が問題視されるわけでもない.原爆投下は事実としてすでに当たり前の事と見做され,「悲劇」として演出されることで,原爆は実に陳腐な「親子」をめぐる「物語」と変じていた.少ない若い観客層が「感動」し,老人層は懐旧するという構図こそ,戦争がひとつの世代を中心とする過去の「物語」になってしまっているからであろう.
     戦争を「悲劇」としてしか物語らず,したがって陳腐な感動体験に誘うだけで,投下された側の当の国民である観客に,原爆投下の「意味」について考えさせることをしてこなかった「文学」「演劇」の罪業を目の当たりにするように思った.戦争体験の風化が叫ばれて久しいが,戦後57年目の夏を迎え,その風化は戦争体験の風化を危惧する言説そのものにすでに表れていることを如実に感じるのであった.
     「今ここにある戦争」という現実に対処できるのは,決して「悲劇」への感動ではない.戦争と憎しみと悲しみを撒き散らす,強国の存在とその独善主義をしっかりと見据え批判することが必要なのである.

「きむたく日記」

7月31日水曜日晴

     9:00から11:00まで学部構内の清掃作業を行う.曇り空だが,サングラスや帽子,長袖のトレーニングウェアで重装備していると,汗が噴出す酷暑である.水分補給をしながら,草取りを行う.作業が終了してから,研究室で着替えをしたが,パ○ツまでぐしょぐしょであった.
     午後3年ゼミ.体がだるくて,意識が朦朧というか,眠気と戦う展開.採点もしなければならず,例年この日は辛い.
     生協で購入した「鳴雪自叙伝」(岩波文庫)を拾い読みする.明治時代の風俗がとても興味深い.

7月29日月曜日晴

     職員の健康診断.また身長が伸びて,176.3センチとなる(昨年比プラス0.3).誤差だという話もあるが.計測史上最高の身長となった.血圧は,最高115最低72を記録し,昨年度と全く同じ数字だということで,担当者が驚いていた.僕も驚いた.
     驚いたといえば,研究室で試験の採点をしていると,エアコンからいきなり水が噴出した.吉村善夫『夏目漱石』が水をかぶってしまった.
     実は,昨年も同様のことがあり,業者によると内部の排水パイプの接続が甘くて水漏れしたということだったのだが,その修理業者も「甘かった」らしい.その名前は,「ダスキン」と間違えて,しっかり訂正された某会社である.

     上の「この子たちの夏」の劇評について,早速反響をいただいた.ありがとうございます.機会があれば,見てください.福山でもやるそうです.

7月25日木曜日晴

     昨日から試験期間なのに,講義をしてしまった.学部・院とも少人数なので,ワガママを言ってしまったのだが,それも今日が最終講義.受講生の皆さん,お疲れ様でした.
     ゼミ生K,「紙袋をくれ」と来る.スタバの紙袋を持っていった.14:10に講義を終えてから,書類作成の仕事.気が付いたら,18:00だった.おかげで採点作業が出来なかった.採点票の提出締め切りまであと11日とPC上の付箋ソフトが表示している.明日こそ,採点日.
     しかし,『安部公房評伝年譜』の中身が気になったりする.採点さえ終えれば,本業(研究者)に戻れる〜.

7月24日水曜日晴

     暑中お見舞い申しあげます.
     一昨日,35.8.昨日36.そして今日は….考えるだけでも恐ろしい,岡山の夏.暑い!蝉さんも,6:00前からのモーニング・コールはやめてほしい.実にじつに,過酷な日々である.
     今日は,一般教養の試験日.会場を2つに分け,医学部から試験監督を招いて行う.内容の出来具合を案じていたが,結構読ませる内容で出来がよく一安心である.
     ところで,この教養棟への往復5分5分のわずか10分で,腕や目がひりひりと痛くなった.夏の日差しは,柔肌のオッサンには,大変よろしくないようである.

     北海道の小田切靖明氏より『夏目漱石の研究と書誌』(上の広告参照)が届く.小田切さん,ありがとうございました.
     この本の試みのユニークなところは,流布形態としての文庫本版「漱石本」にスポットをあてて,文献を蒐集してリストアップして見せたところであろう.初刊本に関するエピソードも記述されてあって興味深い.
     いろいろな形態をとっている漱石のテキスト群を眺めていると,漱石文学の受容の実態が具体的に浮かびが上がってくる.ここまで文献を集めるのに費やされた時間・労力の多大さを思うと頭が下がる.

7月19日金曜日曇のち晴

     昨日の努力の甲斐あって,今日は書類を「2件」も片付けた.妙な達成感(?)を覚えながら,メールチェックをすると,図書館から新たな書類作成の依頼が来ていた.私は,シジフォス(シーシュポス)の気持ちがよ〜く分かった(「ギリシア神話」参照).

     両親が中国土産の菓子やインスタントラーメンを送ってくれた.甘党なので早速菓子の包みを開けるとそれは中国製のクッキーだった.肝機能障害は起こさないだろうなぁと思いながら,早速一つ摘んで食べてみた.モグモグやってると,実に「妙な甘さ」が口中に広がった.包装を見ると,そこには茉莉花茶風味(!)と書いてあった.もう一種類は,烏龍茶風味だった.せ,せめて抹茶風味が.
     これは是非ゼミ生たちにも食べさせてあげないと!,と強く決心した.

7月18日木曜日曇のち雨

     19:00に10分前である.14:10に大学院の講義を終えてから,気が付くと今の時間になるまで書類書きをしていた自分がとても悲しい.
     ようやく帰る前に一息つけたのだが,今日はやっと第2次『漱石全集』4冊と『三島由紀夫全集』が一挙に入荷した.でも,支払いを考えるととても憂鬱になる.
     『漱石全集』の第4巻には「写真帖」が付いていたが,これって全集の中に入っているのをまとめたもの? 関心のある人は,ご確認ください.
     日本大学の「語文」を入手した.嗚呼,今日も「四季」のチケット(コンタクト)を郵便局に受け取りにいけなかった……(18:59)

7月17日水曜日晴

     教養の講義が終了.1回も休め……休まなかった自分を誉めてあげたい.受講生からも「おつかれさんでした」の言葉を貰った.
     受講生は,文・教・法・経・理・工・医・歯・農・環境理工と11分野に及んでいた(!).講義の最後に書いてもらったコメントカードには,講義への感想の他,異論反論,時には厳しい批判もあった.しかし,手ごたえをしっかり感じ取ることが出来,教える方も楽しい時間であった.ミュージカルに例えるなら,拙いダンスに手拍子を送ってくれる良い観客に恵まれたということになろうか.感謝している.雑談(市役所のゴキブリレースとか,「焼肉禁止」の掲示とか)を用意していくのだが,全く話せなかったのが,心残りである.
     紀伊國屋書店から,『漱石のリアル』とCD版『三島由紀夫 最後の言葉』が届く.6月25日に注文して22日も掛かった(図書館を経由したためというのもあるが).素敵に遅い.

7月16日火曜日晴 yakiniku.jpg (28285 バイト)

     昨夜デビル君から,また新しいウイルスメールを受信したという悪魔メールを貰った.大変だねと駆除方法を有料サービスで教えていたのだが,今日研究室でメールソフトを起動させると,いきなり5通もウイルスメールが入っていた.
     今話題の「Re;your password」である.しかも1通は,僕の名前で受信者(北海道の知人)の所へメールが飛んでいたいたらしく,「あなたのメールを削除したでおじゃる.だってウイルスが添付してあったんだよ〜ん」というメールサーバのものらしい英文のメッセージが記してあった(翻訳に用いたこの文体はKという友人がネット上で駆使するバーチャル文体である).勿論,僕はメールを出した覚えがない.このウイルスは,感染者のアドレス帳を読んで,その誰かになりすまして,他の人のところへ飛んでいくのである.事情を知らない人が受信したら,僕がウイルスメールを送信したか,ウイルスに感染したと思うだろう.その意味では,人間関係を壊しかねない悪質なものである.この知人の大学のように,メールサーバーのレベルで削除してくれると本当にありがたいのだが.
     ちなみに僕はワクチンソフトでPCをガードし,不審なメールも読まずに削除しているので,今のところウイルスに感染したことはない.わが学部の場合は,当人の自衛しか有効な対策がないのが現状である.
     おかげで,午前中本を読む予定だったのが,「ウイルスバスター」に変身する羽目になった.学部内をウイルス関係の対応で移動中,画像のような面白い掲示をみつけた.庶務係の作品らしい.

7月11日木曜日曇時々晴

    夜,新聞を読んでいると郷里の妹から電話があった.用件を聞いてみると,小6の息子(直也)の宿題を手伝えというのである.
     本人に出るようにいい話を聞いてみると,明日宮澤賢治の「雨ニモマケズ」を授業で暗唱したいので,今日中に覚えたいのだが,読めない字があるので教えてくれというのである.教科書に賢治の自筆で,しかもカタカナで掲載されているので良く読めないという.(そりゃ読めんわな)と思いながら,その分からないという字の前後を読んでくれと指示をするが,電話口で母&息子が「ニに読める」とかあれこれ言うのを聞いていて,チンプンカンプンで諦めた.「わからない」というと,「大学で教えているのに賢治の詩もわからんのか」と妹は逆ギレする始末である.(そりゃ,テキストが目の前にあれば分かるよ)
     結局,詩集が自宅にあったのを幸い,平仮名に直し解説もおまけしてFAXしてやった.電話をかけて「ちゃんと読めたかい?」と優しい伯父さんが訊ねると,甥は「うん.バイバイ」とアッサリ電話を切ったのであった.
     ウチのゼミ生にしても,デビル君にしても,こんなん馬鹿りです.

7月9日火曜日雨

     明日が卒論題目の締め切りということもあり,4年のゼミ生TとKが書類を提出にやってきた.さんざ迷ったあげく,Kは太宰で論文を書くことにしたのだが,彼奴は言った.
     「一番最後に作家を決めたわたしが,一番最初に題目を出しましたね」
     「…….?」
     愛媛県産天然素材.

7月8日月曜日曇

     外での仕事を終えて,16:00前に生協で遅い昼食(シゴナレンカルビ丼,味噌汁,にら玉)をとった.食事をしていると,前のテーブルに席を取った学生(男子)が,僕の前の椅子が彼のいる側にはみ出ていたのを直した.「ん?」と思って見ていると,彼はおもむろに,こちらのテーブルにある椅子で彼の位置に面している椅子を正しく直し始め,次に自分の側の椅子を直していくのであった.テーブルに,キチンと整えられた椅子という画然とした風景が出現したのはいうまでもない.
     そして,箸をとめて呆然と見やっている僕がいたことも…….
     ちなみに後ろの席では,別の大学生が家庭教師で女の子に「大化の改新」や「壬申の乱」を教えていた.恐るべし岡大生?
     生協で小森陽一氏の新刊を購入.

7月4日木曜日曇

     デビル君のPCがコンピュータウイルスに感染したそうで,眠りに就く前の静穏な時間はそのサポートで潰れてしまった.ウイルス付きメールをアウトルックエクスプレスで読んだために感染したものらしい.怒り狂った彼の八つ当たりは僕にまで及び.弩エライ迷惑であった.まさに「悪魔」の生み出す「地獄」(グチ地獄)そのものである.
     結局僕のアドヴァイスと「悪魔」の試行錯誤の結果,素人が出来る限りのことをやっても復旧ができないことが判明し,専門業者に相談することになった.
     アウトルックエクスプレスは初期設定では,起動時に添付ファイルを自動的に読み込んでしまう.ウイルスメールの場合は,一瞬で感染してしまうことになる.その設定のチェックを外しておく必要があるので,注意されたい.僕は,AL-MAILを薦めます(バージョンも1.13になりました).「悪魔」話休題(閑話休題)

     探していた「小島の春」の映画シナリオが掲載された雑誌を古書店から入手した.「日本映画」第5巻6号であるが,昭和15年の雑誌であるにもかかわらず,小口などが焼けているだけで,表紙も裏表紙もシミ一つない美麗本であった.裏表紙には,李香蘭と長谷川一夫の出演した映画「支那の夜」の広告が出ていて,劇団四季の「李香蘭」しか知らない僕は,うたた感慨にうたれるのであった(P・ヒューム『征服の修辞学』ではないが,植民地は女性として表象されとるなぁ.しかもその表象された女性(中国人)が実は日本人なのだから,帝国日本の植民地化政策が自作自演のヤラセであるということは明らかなのだ.植民地といえば,高崎宗司『植民地朝鮮の日本人』(岩波新書)は,国家レベルではなく民間レベルの植民地政策への関与の実態を個別調査で明らかにしている.当然といえば,当然なのだが,民間人の協力なしに植民地政策の実施は不可能であり,決して明らかではなかった実態が闡明されることは意義がある).
     チョット嬉しかったので,大学院の授業に持っていって上述の講釈を垂れた後,「幾らしたと思う」と聞いてみた.
     「1,000円ですかね〜」
     ほくそえみながら僕は,ゆっくりと「15,000円だよ」と言った.
     院生達がカナリ仰天してくれたので,所期の目的は達せられたのだが,次の瞬間その目は一様に物語っていた.
     「バカですね〜」

7月3日水曜日曇

     朝1の講義.昨日から岡山は大変に蒸し暑く,サウナの中で生活しているようだ.海の方では濃霧が発生して,船の航行が止まっていた程である.暑いのはまだ耐えられるが,蒸し暑いのはもう我慢できない(哭).
     10日に卒業研究題目の締め切りを迎えるので,4年のゼミ生Kが5限が終わってからやって来た.「太宰の『満願』をやろうと思うのですが」というので,内容を忘れていた僕は粗筋を言ってもらおうと思って「どんな作品?」と尋ねた.
     「短い作品です」
     (それは,選んだ理由(ホンネ)だろ〜)←心のツブヤキ.
     論文が50枚も書けそうにもないので,「却下」した.