津島通信

 July '99
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◆CONTENTS◆


【きむたく日記】

(暇を見つけて更新しております。)

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「きむたく日記」

 

7月30日金曜日曇り

     成績票を教務学生係に提出して,一応の苦役からは開放される。その足で図書館で,調べ物をして研究室に戻る。INETで,紀伊國屋のBook Web Proから発注していた,フーコーの本がようやく品切れであるという掲示を確認する。あほらしい話だが,発注してから生協ブックセンターに1冊あるのに気がついたので,生協で早速購入しよう。
     INETブームで,書籍の入手も便利になると思ったが,これは大きな誤解である。小売にとっては,店舗を持たなくていいぶん,人件費・賃借料の削減になるので,メリットは大であろう。しかし購入者にとっては,小売店経由の入手の速度と殆ど変化がない。いやむしろ遅いかもしれない。部数の少ない書籍にいたっては在庫の確認が遅れる分だけ,INETの方に問題があるのではないか。ともあれ,紀伊國屋のBook Web Proは4月から利用しているが,急ぎでない本の入手だけに利用を限定した方がよさそうだ。

7月29日木曜日曇り

     岡大は試験期間中である。ここのところ,レポート読みで疲れ果て,更新する気力が出なかった。レポートを読むと書いたが,正確にはまず文章の解読をしなければいけない作業がある。その上で,レポートの査読ができるのである。よく書けているレポートは,文章も論旨もすっきりしていて,秋の澄んだ空気を呼吸するようである。そうでないレポートは,青木ヶ原の樹海の中を迷走しているようなもので,僕はここで幾度となく遭難し,死にかけたことさえある(共感する先生も多いだろう)。今日は,やっとその樹海を抜けて娑婆に戻れた日である。しかし残念ながら,樹海の中で遭難者が出たことに,教官として哀悼の意を表さねばならない。「不徳であった!」
     午後,教育学部教職員の健康診断があった。昨年僕は,ドクターに腹をつかまれて「だいぶついてきたねー」と言われるという屈辱を受けた。今日は雪辱を期して臨んだが,去年のドクターはいなかった。身長が175.4cmから175.7cmにまた伸び(大学時代は,175無かった),体重は2kg増えていたのに体脂肪率が17%から13%に減っていた。心電図検査では係員に,「ここは30歳以上ですよ」といわれてちょっと嬉しかった(僕のオヤジは,オマエは苦労が足りんという)。
     しかし,良い事ばかりではない。検尿の時,トイレの中で教務のT氏が「先生,書くものをもっていませんか」と言われるので,ボールペンをお貸しした。そしてT氏は,用紙に名前を書き終えて検尿の「中身入りコップ」をもって受付に歩いて行かれた。一方僕は返されたボールペンを見つめながら,凝固していた。「手は,洗ったのかあぁぁぁ」

     山大の石川さんとメールを交わしていて,東京の友人に「子供が生まれる」と連絡をしたら,何人かが「きむたく日記」を読んで知っていたと返答してきたと書いておられた。石川さんの,友人を驚かせる楽しみを奪ってしまったことに,申し訳ないと思う(東京の友人の方々も,そこは驚いて上げたらいいのにねぇ)

7月26日月曜日晴れ

     大学。教育TVの深夜映画で「ベン・ハー」をやっていたので,終わりまで観てしまって,眠い。何度見ても馬車レースのシーンは凄かった。
     図書館で,戦時中の教育史の資料を借りて来る。インターネットでニュースを読んでいると,「結核緊急事態宣言」が出たという報道があった。2週間以上痰や咳が続くようであれば,病院で検査することをお勧めする。

7月24日土曜日曇り

     休日の土曜日なのに出勤。図書館で調べ物をするが,空振り。徒労感甚だし。
     帰宅する前に食料を購入しようと近所のスーパーに向けて車を走らせていると,前方に黒々とした塊がある。「なんやろう?」とよく見ると,それは全焼した1軒家であった。「ヒエー,アパートの近所やないかぁ」と肝を冷やす。大学に行っている間に,火事が起こっているなんて,起こりえないことではないのだが,いざこうやって起こってみると実に恐ろしいことである。

7月22日木曜日晴

     梅雨明けしたようだ。今朝,僕は八甲田山で雪中行軍していて,凍死寸前になる夢を見て目が覚めた。気がつくと冷房がガンガン効いていて(冷房を入れた記憶がない),体が見事に冷え切っていた。
     「自分で自分を殺すところだった」と呟きがら,朝刊を見ると1面に江藤淳氏の写真が載っていた。「なんじゃ」と思って眼鏡をかけて読むと,訃報なので,驚いた。死因は不明とあったが,出勤してからインターネットで詳細な報道に接して今度は絶句した。ご冥福をお祈りするしかないが,「漱石とその時代」第5部の途絶は大変残念だ。江藤氏の「夏目漱石」で,漱石文学と評論の面白さを教えられた人も多いのではないだろうか。65歳という若さが,大変惜しまれる。

7月21日水曜日晴

     先輩からのメールで,日記が更新されてないぞと指摘されてしまった。なんと1週間近くサボっていたのである。
     今日は教官会議。10:00前には図書館に入って調べ物をしていたのだが,その後はあれやこれやの雑用に追われて,結局気がついたら今の時間(19:23)である。今私が抱えている雑用は大分類して,13件。小分類は,したくない。ヒラの教官でこれである。あとは推して知るべし。もう教官か事務官か分からない。夏休みが間近になって研究が出来ると思っていたが,甘かった。
     あ,レポート読みと採点票の入力を忘れていた。……15件。

     帰宅間際,Y先生が研究室に見えられて,「木村さん,方言に関心持っているんだって。磯貝(英夫)先生の「日本近代文学と方言」という論文があるから,読みなさいよ」と1冊本を置いて行かれた。
     ……愛されてる?

7月14日水曜日晴

     中国地方の梅雨は明けたのではないだろうか。「アチー」と飛び起きて,シャワーを浴びて汗を流してから出勤。講義のあと教室会議。会議後稲田先生に頼まれて,学部のHPを御覧にいれる。南本先生もHPというものはどんなものか見たいといわれてついてこられた。教育学部や各学科のHPを見て,稲田先生曰く「わしら,ピテカントロプスじゃ」

     今日のメールには面白い情報が2つあった。1つは,僕がHPに掲載している「坊っちやん」のテキストデータを利用した,文章解析のHPの案内である。作者は平林純さんという方で,ソフトも無料でダウンロードできる。早速僕もダウンロードして,太宰の「男女同権」を読み込ませてみた。キーワードを「女」にして,解析してみると文章中での使用頻度が,グラフで示された。しかし,この数字の意味が解釈できず,統計学を勉強しないと「猫に小判」状態であることも判明した。作者には対処をお願いする。こうして,国文学研究も徐々に変動しつつあるようである。
     今ひとつは,洛星時代の教え子である青野クン(岡大医学部)が,第37回岡山芸術祭の「イメージイラストコンテスト」に応募した結果、一般の部で入選するという見事な結果を出したという連絡である。坪田譲治の作品をイメージした作品を描く企画だそうで,努力が結実して本当によかったと思う。青野君おめでとうござりまする(初日にファントムメナスも観てしまったようだけど,勉強もしろよ!)。

7月13日火曜日曇

     午後講義。移動時間が,4名の質問者に費やされてしまい,休む暇もなく次の講義で話さなければならず,酸欠で頭痛がした。あまつさえ,講義終了時間を10分オーバーした挙句,面会者に呼びにこられるわで,気ぜわしかった。12:40から16:30まで喋っていたことになる。とても前期最後の講義の週には思えない。しかし,今週を乗り切ればと思うと,光明が見えるような気もする。
     紀伊國屋書店の三宅さんと廊下で出会って,BOOK WEB PROで発注した書物の遅配について苦情を伝える。「川端康成全集」(セット価格18万円也)のパンフを置いて行かれたが,研究費をはや使い果たして買えない状況の私であった。
     明日の講義準備のために図書館で調べ物をし,講義ノートにまとめるため残業を決意。18:00過ぎに生協で夕食をとる。Y先生が夕食を食べておられて,手招きまでされたので相席させていただく。  話しているときにお金が落ちる音がするので,なんでかなあと思っていたが,ふと見るとY先生のズボンのポケットから小銭が落ちているのだった。夕食代金のお釣をいれていたのが,だんだんせり上がってきて,ついには落下運動をはじめたものらしい。なぜ小銭がせりあがったのかよくわからないが,学生たちの白い目の中で,ばら撒かれた小銭を教官2人が集めるのは格好悪かった。しかも,慌てたY先生は,回収したばかりの100円玉をまた落としてしまったのである。100円は,ゆっくりとテーブルの下をくぐってスカートをはいた女の子の足元へと転がっていった……。

7月9日金曜日晴

     今日は,オフィス2000の発売日である。生協でプロのアカデミック版を,23,800円で購入する。研究室に戻って,早速インストールしてみる。ソフトだけでCDが2枚に増えていたが,これはパブリッシャーや顧客管理のソフトが入ったためである。気になっていたのは,IME(日本語入力ソフト)で,ジャストシステムのATOK12で揶揄されていた「ベートーベンの大工」は,残念ながら直っていなかった。しかし,全体的に入力していて誤変換は減ったような印象を受けた。変換のしなおし作業が,ここまで入力していても一度もないのである。これはストレスが減殺される点で,大変ありがたい事である。ソフト自体の出来具合はまだよくわからない。ただソフトがどんどん巨大化していることは,インストール時間の長さで実感できた。バージョンアップは,ここまででいいかなという感を抱きつつある。
     あの名曲「アランフェス協奏曲」の作曲者ロドリーゴが亡くなった。ジフテリアのために3歳で失明した盲目の作曲家だった。ご冥福を祈りたい。  

7月7日水曜日晴

     睡眠不足で(「ラリー・フリント」のせいではない),ハイテンションのまま,小学国語Uの演習。小川未明の「なくなった人形」について報告し,学生の意見を求めた。「乞食の子」への差別性を指摘して,批判的に取り上げたのだが,学生からは「乞食の子」の「さびしさ」に注目して,彼女が人形を「友達」として発見していく点を考慮すべきだという意見が出て,これは一本取られた。
    12:40から「フレンドシップ体験学習」の説明会。学生の一人が,部活の大事な試合を優先したいので,登録をやめたいと申し出てきて,もう一人の担当者ともども唖然とする。授業より,部活を優先するという,この本末転倒ぶり。昨夜風呂上りに,プリンを食べながら見ていた,「ニュース23」を思い出す。
     TVで放映されてい学生達は,「マナーって,分らない」とうそぶき,キャンパスの近隣にゴミを撒き散らし,公園では宴会をする。講義中は,喋るのは当然で,歩き回ったり,飲食,化粧,電話をする。この「学級崩壊」大学生版を見るような学生達の姿は,実は岡大教育学部でも珍しくはない。僕も着任早々,講義中に携帯を持って出ていった学生に,仰天させられた記憶があるし(普通は講義中は電源を切るのが他の学生や教官へのマナーである),メール機能でメッセージをやり取りしたり(論外),飲食をしている学生(食堂に行け!)は経験している。しかも腹が立つのは,注意をしようと思って,次に喋ることに気がいってしまい,注意し忘れたことに後で気がつくことだ(ワシのアホ)。
     今や高校卒業生の2人に1人は大学・短大に進学し,高等教育の存在意義(エリート意識)も変質したと,Nさんの好きな竹内洋氏(京大)は述べていたが,そのことと学生の質の低下はイコールではない。もっと社会的なレベルでの地盤沈下が生じているのだ。今年4月の新設大学の学長は,大学生ではなくて,「高校4年生」を受け入れたのだとインタビューの中で話していたが,これは蓋し卓見である。大学生と思うから腹もたつので,小学13年生と考えれば,なんとなく分ったような気がする。つまり「マナー」や「常識」を家庭教育で躾られなかった,気の毒な存在が多いのである。ちなみに僕の知る限りでは,小学16年生というのが存在する。
     研究室で伊波普猷の本を読んでいたら,南本先生が話をしに来られたので,お相手申す。
     今日は七夕。「愛が欲しい」と書く自分が哀しい。

7月6日火曜日晴

     活水女子大の上出先生から,URLの連絡が来たので,講義後HPに反映させる。大学院研究生から「ラリー・フリント」というビデオを借りた。
     「ラリー・フリントって,誰」と聞く僕に,彼女は「アメリカのアダルト雑誌「ハスラー」のオーナーです」と教えてくれた。
     「是非貸してくれたまえ!」

7月5日月曜日晴

     ネコ系AB型と向島のNさん来室。Nさんが社会学のレポートを書くので,「ジェンダー」関係の本を貸してくれという。持っている本を並べてあげると,「どれも分厚いですね。他の社会学の本は無いんですか」というので,教育社会学関係の本を出す。ためつすがめつして,彼女がこれにしますと選んだのは,一番薄い『立身・苦学・出世』(?)講談社現代新書だった。
     実に,あからさまなほど省エネ型の勉強家ぶりに,呆然と後姿を見送ったワタシであった。

     昨日放映のNHKスペシャルで,「薬害エイズ16年目の真実ーー川田龍平,郡司元課長に聞く」という対談番組があった。僕は録画しながら見ていた。3日には「読売新聞」の報道で郡司氏がNHKの放映を中止するよう裁判所に仮処分を申請したという記事があったので,余計に関心をそそられていたのである。
     まず,川田氏のT4細胞数値が低下して,エイズ発症を薬でとめている段階まで来ていることにビックリした。しかしHIV感染から十年以上経過しているのだから,臨床的にこの事態は起こりうることなのだ。体が薬に耐えられなくなったら,大変危険な状態に突入することはいうまでもない。彼の健康を強く願わないではいられない。
     郡司氏は,国会喚問での答弁に劣らず,官僚の体質を見事に体現していたと思う。役人として厚生省の論理に従った,歯車には医薬行政を変えることはできなかった,医療技術に問題があったという見解に終始していて,国民あっての国家という認識がないのかと嘆息するばかりであった。医薬品メーカーが,厚生官僚の天下り先である事情を考えれば,医薬品メーカーの損に繋がる判断は出来ないというウラの理由もあるのだろうが,そこには国民の生活を守るという当たり前の職務義務とは決定的に乖離したエゴしか存在していないようなのだ。最近話題の「遺伝子組替え食品」についても,イギリスなどでは地方自治体が安全性が完全に証明されるまで5年間使用をしないという方策を打ち出したように,安全性には疑問があるにもかかわらず,農水省や厚生省は,検査体制も確立しないまま輸入や販売を行っている。ここでも業界団体の利益が優先されていて,その圧力のもと国民生活の安全性は省みられていないのである。国民への生命軽視・無関心の姿勢は,全く変わっていないのである。
     その意味で,郡司氏の「医学界は全然反省してませんよ,また起こりますね」という責任転嫁型の放言にはゾッとさせられた。自分だけではなくて,他もまた同様だというのである。彼は,問題は複雑だと言っていたが,厚生省(役人)・医学界(医者)・医薬品メーカー(業者)の3者3様の「無責任」「利益重視」が構造的に引き起こした「事件」・「人災」だったということを改めて再確認させられた次第である。そして当事者達がまったく反省していないことも。
     最後に,郡司氏の「又次の機会を作りましょう」という呼びかけに,川田氏は「(次は)ないかもしれませんね」と言っていた。それは,「あなたと話しても無駄だ」といいたかったのか,「それまで自分の健康に自信がない」という意味なのか,わからなかったが,彼が徒労感に打ちひしがれていたのは確かであった。彼の1回きりの人生は,ああいう連中に弄ばれてしまったのである。怒りを覚えた。
     僕達が,あるいはその子供や孫の人生が,かかる「無責任」連中の欲望(出世欲・名声欲・金銭欲)の代償に供せられていていいのだろうか。

7月1日木曜日曇り時々晴

     10時過ぎに生協ブックセンターに行く。注文書を受け取るついでに,「現代思想」の新刊と,ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル』(青土社),稲本正『ソローと漱石の森』(NHK出版),柏木博『日用品の文化誌』(岩波新書)を購入。隣のPCコーナーで,オフィス2000プロのアカデミック版を注文する。「当日7月9日は10本入荷予定ですが,お渡しできると思います。25,800円ですが,オープンプライスですから他店との関係で多少安くなる可能性もあります」と,担当者は言ってくれたが,それを聞くと急に25,800円で買いたくはなくなるのだ,猛烈に。……校費だけどねぇ。
     半年ぶりにPCの専門雑誌を買った。夏休みに,実家においてある486DXマシーンにLinuxを入れて見ようかと思ったのだが,内容を良く読んだら,1GBは必要と書いてあってガッカリする。4年前のマシーンでは540MBが標準で,1GBが出だしたのはその年末である。あのPCの用途が見出せない。雑誌のおまけCD-ROMに入っているIE5.0をノートPCにインストールしたら,いきなりハングした。頭に来てIEを削除する。コミュニケーターの,4.6は問題無かった。IEとは,とにかく相性が悪い。
     花田先生からメールを戴いた。あるHPの隠しページに,先生が書かれた「追悼文」が掲載されているということだ。