大正5年に出た『文章日記』(新潮社)の扉に漱石が「則天去私」と揮毫しています.その解説に,こうあります. 「『天に則り私を去る』と訓む.天は自然である,自然に従うて,私,即ち小主観小技巧を去れといふ意で,文章はあくまで自然なれ,天真流露なれ,といふ意である.」 この解説が,漱石自身のものであるかどうかは分かりませんが,一番最初の解説です. 「則天去私」は更に弟子筋によって,我意に捉われない自然な生き方を理想とする人生観として解釈されていきます.