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Kとふすま

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上野から帰った番に,Kが襖を開けて声をかけてきたのは,お嬢さんを断念する「覚悟」をきめつつあった,という解釈もありうるだろうと思います.Kはそれについて,「先生」の意見を聞こうとしたのだと.Kにとって,先生とはそのような真剣な話の出来る「友人」であり,また心を通わせられると信じた唯一の友だったと思います.
 では,2回目に襖を開けた時,Kはなぜその「先生」に声をかけなかったのか?
 そこには,先生とKとの間に横たわる「お嬢さん問題」という断絶があり,Kは自分の「寂しさ」を語りかけることが出来ないという事を通じて,あらためて自分が理想を失ったこと,その代償物である恋も失い,さらには唯一の友すら失ってしまった事を,まざまざと悟ったからではないでしょうか.
 Kは,先生と話そうとしてできなかったその時,もう何も「ない」自分に気づいたのだと思います.そうして淋しくなったのだと思います.
 03/12/5(加筆)


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