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Kの自殺

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 Kの自殺の理由には,失恋というより,恋をして自分の欲望に捕われ,自分の理想(精神的にエライ人になる)から堕落したことへの自己嫌悪・自己処罰があると思います.
 そもそも明治時代に女性に「恋」をするということは,今とは異なって精神的な堕落と見做す人も多かった時代です.女とは,子どもを生むための道具的存在であり,自分の人生のパートナーと見做すような「先生」の見方は新しいものであったのです(キリスト教の影響→「恋愛」の発生).Kには,伝統的な女性蔑視と,先生のような新しい女性観の混在が認められるように思います.
 さて,物語の設定は,明治30年代なのですが,当時の大学生とはほぼ東京帝国大学の学生を意味しています.帝大は,国家を運営する官僚(当時は大変な高給取り)を生み出す機関であったわけですが,明治の30年代頃から,供給過剰状態となり,大学を出るメリットが無くなって,大学生たちの目標が失われた時代であるといわれています.その青年層の中には,精神的なものに価値を見出して,宗教に走ったものもいました(このあたり某宗教団体を彷彿しますが).
 僕は,そんな青年層の中を象徴する存在が,Kであると思っています.Kは,「立身出世」に代る新しい目標を持ったのですが,それを完遂するには自分が非力であることを悟り(経済的には先生に依存する自分,恋をしてしまう克己心のない自分),絶望して死んだのだと考えています.03/02/22


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