「2002〜日本プロ野球概想」

野球評論家・堀内一三

 まず冒頭からお詫びしたい。本頁では99年00年と「今シーズンを振り返る」と題して、本紙専属野球評論家の皆様による座談会を開催しており、昨01年も2年連続新橋の中華料理店にて、新たに迎えた清原大輔氏と常連の遠藤明夫氏による熱き高校野球談義なども繰り広げられた(右写真)のだが、中華料理の円卓に録音機をセットしたため、著しく録音状況が悪く、かつ一昨年はテープ起し・編集に痔疾入院中の膨大な時間を利用した経験を甘く見て、作業日程を確保しなかった編者・堀内の怠慢もあり、結局お蔵入りとして仕舞った。ご参加戴いた遠藤、清原、更には山口久志、夢眠、こたろ各氏には、この場を借りて改めて深く陳謝の意を表したい。

 而して本年は不肖・堀内一三による単独概括と諦念していたところ、幸運にも10/5西武球場最終戦の観戦の機会に与り、遠藤明夫氏御夫妻と席を同ぢゅうすることとなったため、本稿は遠藤氏の指摘も踏まえ、堀内の文責にて筆を進めることとさせて戴く。


 まず今シーズンを一口で言えば、極めて順当な展開、順当な結末と概括出来る。 中でも巨西両球団の優勝は、方や清原・高橋由ら打の主力、方や松坂という投の主力の故障にも拘わらず、 地力に勝るのみならず、両新人監督の実にオーソドックスな采配が功を奏した結果と言えよう。
 早くも夏場の段階で、堤・西武オーナーが「伊原は選手の好き嫌いが無い」と珍しく鋭い野球評を 見せていたが、裏返せば前監督が如何に選り好み激しく、持てる戦力を浪費していたかの証明であり、 巨人にも同様の指摘は当てはまる。加えて原監督は、斉藤・川中ら埋もれていた人材を、 各人の旬の時期に活用し、一方投手陣は、言う迄もなく河原の守護神抜擢は大きな決断だったが、 長嶋時代の「好調な救援投手を使い潰す」愚策を改め、恐らく鹿取コーチに全面的に委ねたのであろう、 豊富な駒をローテーションを頑なに回す妥当な判断によって勝利を重ねた。
 また伊原監督もカブレラの2年目の爆発という好材料こそ望外ではあったが、 宮地、犬伏といった無名の逸材を三番に日替り起用する大胆な布陣を取ったほかは、 博打を打たない野球に徹し、早々に独走した。

 それでもセ・リーグは、前半は前監督の夫人逮捕による解任の衝撃を星野移入、片岡・アリアスの 獲得でプラス材料に転換させた阪神が開幕11連勝と突っ走った。来期は愈々内閣改造で星野一家を揃え、 揮わなかった前パの両打者の教訓に鑑み、リーグ内補強を狙うとのことであり、 そのカリスマ性と併せ、一定の期待が持てよう。更に中〜後半はヤクルトが健闘。ペタジーニが死球問題から意気消沈し、時を同じゅうして チームも退潮していったが、前年の覇者として巨人への抵抗は評価出来る。 また投手陣の故障者続出でもAクラス入りした中日も、終わってみれば福留の首位打者獲得が唯一の 話題性ではあったが、新人監督としては健闘したと言えよう。惜しむらくは球団が星野政権時以外には 補強の金銭を渋るという姿勢か。広島も監督の資質に鑑みれば合格点ではあるが、 もうそろそろ野村・前田の勤続疲労幹部に拘って、金本を売って食べていく様な真似は 球界のために控えた方が良いだろう。

 他方、パ・リーグは極めて不安である。ダイエーの経営不安、運営費を年々切り詰める オリックス、堅実ではあるが成績の向上が見られないにも拘わらず、 恐らく金銭的理由から山本監督続投を決めたロッテに加え、 本土離れで新機軸を図る腹積もりが牛肉騒動で屋台骨が揺るぎ、大社オーナー辞任に至った日ハム。 中では母体の安定している近鉄も運営会社名を「大阪バッファローズ」に変更し、何時でも市民化という名の 身売りに対応出来る様準備を進め、同時に中村、大塚も売却予定で 愈々リーグ破綻の足音が近付いている感がある。
 加えてこの日本シリーズの結果である。個人的にも筆者の富士学校滞在中に日本一が決まって仕舞うとはよもや思いもしなかった。 DH制のパの野球は、セに比べて打撃偏重で大雑把になりがちで、

評論家遠藤氏と愛息健太氏(10/5)
それは総じてパからセに移籍した打者の方が、逆のケースに比して期待を裏切ることが多い、 という形で裏打ちされているとの指摘はかねてからあった。1990年代こそ森政権下の西武の 対巨人4連勝もあり「実力のパ」復興ムードだったものの、今般の4連勝により 再びセパ格差論が頭を擡げてくることは疑いない。
 カブレラは55号タイ記録後に「ストライクを投げてほしい」と要望を続け、 パ投手陣はこれを受け入れ予想以上に多くのストライクを投じたが、 この怪力カリブ人はシリーズを迎えるに当たっても巨人投手陣に「ストライクを」 と唱えていた。確かに、巨人投手陣もカブレラに打たれたのは事実だが、 この発言こそ、好球を待つ打者に力と力の勝負を挑み、特大の一発を浴びるリスクを抱えながらも 派手に三振も取るというパ野球の象徴であり、苦肉の営業政策であることは認めても、 如何にボール球を巧みに扱うかこそが、米大リーグよりも日本野球の投手が優れている根拠とする 立場からは、「大味なパ野球」という有り難くないレッテルを貼られることになる。
 勿論今シリーズは伊原監督が必要以上に巨人を意識し動き過ぎたきらいはあったものの、 もとより故障の癒えぬままの堤オーナーの偏愛する投手の登板で当初から2敗を計算せざる を得ない大きなハンデを抱えた西武に不利であり、一概にパの覇者も 大味と決め付けることは出来ないやも知れないが、4連敗という結果を突き付けられては、 それを否定する材料に乏しかろう。

 既に昭和期に比べ観客動員数のセパ格差は少なくなっており、この上パ復興策を挙げるとすれば 放映権収入拡大のため、セパ交流試合(巨人戦のセパ分散)以外、めぼしい策が無いというのも寂しい話だが、 これすらセ各球団の理解を得るのは容易でない。
 当面は、西武の札幌進出の尖兵(=完全移転なし)を嫌い、東京ドームの高い賃貸料に悩む 日ハムを誘致した札幌市の手腕にパの運命は委ねられることとなる。北海道出身の著名野球人が若松以外見当たらないこともあってか史上4人目の外国人監督の招聘に落ち着いたが、 再来年の移転に向け期待感を煽ることが出来るかが来期の鍵だろう。
 同時に「短期間でこんなに弱くなるのか」とのたまった 宮内オーナーの勇断も待たれる。自身草野球チームの投手も務める宮内氏だが、 無契約金新人を採用し1年で解雇するといった無定見な経費節減方式を改め 補強に金銭を投入するか、或いは早急に優良売却先を選定することが望まれる。 勿論、ダイエー二軍監督の際、唐突な感情的行動と、不可解な采配放棄等により一年で解任された人物を 知名度優先で監督に招聘する様な無駄使いを改めるのが先決だが。

西武ドームのオーナーズシートで優雅
に。 堀内一三(8/21)
 オリックスとは別の観点から経営姿勢が問われたのは横浜である。そもそも開幕前の親会社異動騒動の遠因は横浜スタヂアム建設時に遡る。 大洋ホエールズは1950年に大洋漁業(現・マルハ)の出資で設立。70年代に横浜平和球場跡地に老巧化した川崎球場に代わる新本拠地建設が市主導で持ち上がった際、 横浜進出を狙う西武鉄道が第三者割当でホエールズ株の約46%を取得、これを球場建設費に充てた経緯がある。
 ところが78年末に西武はライオンズを買収することとなり、野球協約上複数球団の株保有が認められないため、ホエールズ株を手放す。大洋漁業の買取りが既定路線だったが、両社間で行き違いがあり、 株は巨人戦の中継権を狙うフジ・サンケイ(ニッポン放送)、TBSの両メディア企業が手に入れた。
 この第二位株主であるニッポン放送がマルハ所有株を取得するというのが、今回の球団買収劇のシナリオだった訳だが、 一方でフジ・サンケイグループは嘗て産経新聞が所有していたスワローズ株の8%を78年より所有しており、折しも昨年2月にこれを20%に引き上げたばかりだった。 更に球団首脳がヤクルト・横浜両球団の提携とも取れる発言をしたことから、かつて自らがホエールズ株を売却させられた西武・堤オーナーが読売・渡辺オーナーと結んで 反対姿勢を明確にし、最終的に白紙撤回、年明け漸く第三位株主のTBSによる経営権取得のどんでん返しで落着した。
 本件の問題点は少なくない。川島コミッショナーは当初、フジ・サンケイグループの複数球団経営を「問題なし」と断言した後に、協約に照らしてこれを不可とする不手際の上、ニッポン放送・フジテレビで 両球団の株を取得していることには変わりはないが、これは不問に付した。そもそもフジ・サンケイの両球団株所有は78年から続いていた訳であり、 これに一切の疑問を抱いていなかった球界首脳の責任は否定出来ない。球団運営会社は全て非上場株式会社であり、親会社構成が明らかにされないことも、 拍車を掛けていたと言えよう。筆頭株主として経営権を握らなければ良いというのは詭弁であり、両球団へのフジ・サンケイグループの影響力の大きさは、 監督・コーチらと専属解説者の人事の連動を見ても明らかだろう。逆にやむを得ず親会社になったTBSが今後もベイスターズ経営の意志、長期展望を持ち続けるかも不安だ。
 新生TBSベイスターズの誕生で立場が微妙になったマルハ出身の大堀球団社長は自ら三顧の礼で前年迎えた森監督と結託し、巨人・清原獲得に執心し、失敗に終わると前ロッテの石井を獲得。 中日・山崎のFA獲りを狙った野口取締役以下フロント編成部との二頭政治の挙句、シーズン半ばにTBSの意向という形で森を斬首。遠藤明夫氏が再三述べる様、ベイスターズと森のカラーが余りに 違い過ぎたこと、若手主導を掲げながら金城を使わず、小川はレギュラーといった好悪の激しい選手起用など解任は正解とは思うが、 育成よりも持てる戦力の活用に秀でる森の資質を把握していたのかが疑問視される。秋山・土井・近藤昭に次ぐ史上4人目の球団生え抜き山下新監督は、 生え抜けて仕舞った後という冗句はさておき、建て直しに尽力願いたい。

 個人タイトルに目を向けるとこちらも優勝した両球団の主砲、松井・カブレラが三冠王目前に迫り、共に惜しくも逃したことが話題を席巻した。松井は巨人では77年王以来の50本塁打、一方のカブレラも55号以降精彩を欠き、王と昨年のローズに並ぶタイ記録に留まったのは、 ご愛敬だったが、揃ってMVPを受賞したのは異論の無いところ。その松井が渡米を決めたのは 寂しい限りだが、イチローの如く米人には愛想を振りまき日本記者を唾棄する様な真似だけはしないで欲しいと願う。 他には小笠原が大島
97年の清原(左)と松井。両者とも今より痩せて見えるが。
監督解任の日ハムで一人気を吐き首位打者、カブレラとともに同タイトルを 争った谷が田村選手ならず塁を盗んで栄誉を得た。また西武・松井は 一番打者にして3割30本30盗塁を達成、和田と併せて30本塁打者3人は 西武打線の強さが伺えよう。
 セで特筆すべきは松井に競り勝った福留の漸くの開花もあったが、矢張り桑田の復活だろう。15年振りの防御率1位のみならず、入団時に目標として掲げた 20勝3割5盗塁にこの年になって現実味を抱かせると誰が予想し得ただろうか。

 また本年も多くの選手がユニフォームを脱いだ。幸運にもこの10/5は西武−ダイエーの最終戦となり、本拠地福岡を前に秋山のプレ引退試合となり、試合後には嘗て在籍した西武ナインの 手により胴上げされた(左写真)。最後の阪急世代となった藤井も満塁本塁打14本で王に後1本と迫りながら身を引き、41最年長の長富、ブンブン丸池山、元首位打者の平井、まだ33歳で堀内・遠藤両評論家より年下の野村らも 現役を終えた。
 中でも石井(浜)、武田(巨)はともに最終球団は在籍1年ながら引退試合を用意し送られた。球界の功労者には球団を問わず労を労うというのは悪い趣向ではあるまい。勿論、星野阪神を始め道半ばにして後ろ髪引かれながら球界を去る 選手も少なくない。昨今は頓に自由契約後の移籍が活発化しており、2年目を迎える合同トライアウトを始め、埋もれた逸材の発掘も戦力向上の大きな鍵になり得ることは言う迄もない。 なお「引退試合」とは本来、オープン戦を以て充て、当該試合の収益等を引退選手に 功労金として拠出するものを指す用語だったが、昨今はシーズン終幕間際に行われる試合を言うケースが多いのでこれに従った。

 最後に気は早いが来期の展望を述べて稿を締めたい。セは松井なき後なお巨人に利があると思われるが、原監督の真価が問われる年になろう。 願わくは安易に外国人打者に頼らぬ様希望したい。対抗馬はペタジーニの去就先に左右されるが、 金本とともに獲得出来れば阪神は台風の目となろうし、故障者が戻れば中日の戦力も侮り難い。 パは近鉄の大幅戦力ダウンが予想されているため西武有利は動かず、ダイエーは若田部遁走は痛いが、 FAでの戦力ダウンには慣れているため、ペトラザの後任外国人含め投手力、就中年老いた中継陣を 整備出来ればチャンスはあろう。王ファンとしてはもう一度美酒を味わってほしい。 好漢・山本功率いるロッテには例年期待しているのだが、 醍醐ら旧オリオンズ時代からのコーチ陣が一層され法大の後輩、高代がヘッドに就くなど山本色を強めて背水の陣とはいえ、 国籍を問わず大砲なしでは話になるまい。
 いずれにしろ、日本球界にはサッカーという国際性豊かな、愛国心向上に資する対抗馬の出現、米大リーグへの選手の流出、更にはFA、改正ドラフト施行による一部球団の 経営不安等、行く末に大きな問題が待ち受けている。メディア企業と個別球団の結び付きの強い日本球界では放映権収入のプール制等は 難しかろうが、コミッショナー事務局の利潤をオールスター、日本シリーズ以外にも確保し、ある程度球団収益の平準化を図ることは必要だろう。 独禁法不適用のプロ野球が過当競争を繰り広げても意味はないという指摘と同時に、 経営努力の足りない球団の商品の売り食いの様な醜い真似を許してはならぬという双方を満足させるのは至難ではあるが。 同時に、選手の対米流出を如何に防ぐか、翻って韓台中の亜細亜籍選手枠の拡大など、 わが国労働事情と同様の問題も眼前にある。 またアマ球界、取り分け硬直化した高野連との連携もサッカーとの対抗に置いても欠かせないのではないか。 選手諸兄のみならず、経営陣の奮起を期待したい。 2002.11.1


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