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September,10,2003

「しあわせの理由」
著者:
グレッグ・イーガン
出版社:
早川書房
分類:
SF,文庫

今読む価値のある、将来において再読の価値のある短編集です。

ここしばらくSFを読んでないなぁ、等と思っているなら、イーガンだけ読んでおけば問題ありません。人にSFを勧めるときにイーガンのみを薦めたとしても全く問題が無いと、私は思っています。

結論へと短絡せずきっちりと描写していく、そしてなおかつ、結論へ辿りつく筆力を賞賛します。……しかし、量子サッカーの描写に代表されるような馬鹿がつくほど丁寧な描写、もしかしてイーガン、やりたいからやってるのかなぁ。

表題作「しあわせの理由」や「適切な愛」では、クール過ぎて腹の底まで冷たく重いものが沈み込むような、過激な、しかし丁寧な描写によって読者のすぐ手元にまで引き寄せられた視点があります。愛や幸せのような、根源的とみなされてきた価値を読者のすぐ背後で揺るがしながら、更に高い視野を与える内容は、傑作と呼ぶに相応しいでしょう。

「道徳的ウイルス学者」や「血をわけた姉妹」、「チェルノブイリの聖母」のような、メッセージと主張が込められた作品には、その誠実さに心を打たれないわけにはいきません。「闇の中へ」「愛撫」「移相夢」……実は解釈に迷う部分があります。しかし、結局、自分で解釈して、そして好き勝手に自分の主張をすれば良いんだ、と考えることにしました。

例えば宗教。自分には要らないもの、酒や煙草のようなもの、そうあっさり考える事は簡単ですが、人は弱く、支えを必要としています。

しかし、万能の、しかも存在を証明できそうもない代物に頼って良いのでしょうか。宗教にはより優れた代替物が必要ではないでしょうか。

……ここまでは皆んな聞いてくれるんです。でも、いざ”脳内メイドさんの実装による人間の精神的増強”のアイディアを持ち出すと、力一杯スルーされてしまうのは何故でしょうか。細部まで聞いてくださいよぉ。良いアイディアなんですよぉ。

「LAコンフィデンシャル 上下巻」
著者:
ジェイムズ・エルロイ
出版社:
株式会社文藝春秋
分類:
ミステリ,文庫

1950年クリスマス、女に暴力を振るう奴に容赦しないバド、タブロイド誌とつるんで得点を稼ぐジャック、有力者の父を持つ計算高くやわなエド、彼ら三人の警官はその晩に居合せた。拘置中の犯罪者に暴行が加えられたクリスマスに。

1953年4月。三人の立場は一変していた。深夜のコーヒーショップでの大量殺人。強姦。ポルノ。冤罪。麻薬。買収。スキャンダル。容赦なき暴力。裏切り。そして隠された過去の罪。

三人の罪、愛情、憎しみ、そして執念が、やがて真相に辿りつく。

1950年代ロサンジェルスを舞台に、警察と犯罪、暴力の世界を素晴らしい筆力で描いたノワールノヴェルの傑作です。

エルロイの筆力には最初から引き込まれるものがありました。上下巻で、登場人物が大量に(途中、度を越していると思ったほど)出てくるにも関わらず、登場人物たちは非常に印象的です。猥雑で生気のある登場人物たち。陰のある、どこか得体の知れない連中。生々しい独白。

ミステリとして読んでも良作ですが、登場人物の情念を追うだけで満足の行く作品だと思います。あけすけに言えば、犯罪者たちの暴力と陰謀、犯罪の物語ですが、読後にはなんらかの清々しい感興をもたらすことでしょう。力強い傑作です。


そいえば読みながら思ったのですが、「ドラゴンフライ」をエルロイがフィクションに翻案したら凄いものが出来るだろうなぁ、と。

宇宙局を陰で牛耳るミッションプランナー、売名や商業活動に汲々とし、宇宙に行くために全てを犠牲にしてミッションプランナーに絶対服従する宇宙飛行士。握り潰されるレポート。宇宙開発の理想、宇宙へ行く夢、ロケットの眩しい光。そして光がつくりだす深い闇。

軌道上のあばら屋の三人の男たち。でたらめな運用と保守に忙殺される日々。地上への敵意。心理的、そして物理的な衝突。宇宙飛行士たちはそれぞれの心の闇を秘めて、危機に立ち向かう……

読みたいです。はい。

「第六大陸 #2」
著者:
小川一水
出版社:
早川書房
分類:
SF,文庫

幾つもの危機を危うい綱渡りで凌いでいく”第六大陸”。プロジェクト主導者、妙の手腕は素晴らしかったが、彼女の強引とも言えるやりかたに、理解できないものを感じるのも事実だった。

何故始めたのか。何故月なのか。何故孤独なのか。

遙か彼方、過酷な真空の大地に築かれる、幸せのための小さな世界。そのための悲劇と軋轢。幸せへと至る、ただ一つの遙かな廻り道。

待望の完結篇です。

描写は素晴らしいです。例えば「宇宙に暮らす 宇宙旅行から長期滞在へ」で感じた、宇宙居住環境の建築と運用に関してのディティールの甘さは、本書の精緻な描写にはありません。

……でもやっぱ水、勿体無いなぁ。

物語の進み方が強引に感じられる箇所があるのが残念です。桃園寺妙の内面についても、もっと激しく濃密な描写があればと感じました。

お薦めできるかというと、ちょっと微妙です。但し、読んでみて欲しい、とは思います。読後感は保証できません。

でも、月を見上げて、あの大地を踏むことが可能なのか確かなものが欲しければ、是非読んでみて下さい。

「堕落論」
著者:
坂口安吾
出版社:
集英社
分類:
一般,文庫

表題作「堕落論」は圧巻。読むべし。

「日本文化私論」内容は散漫ですが、冒頭において提示される結論に、私は激しく同意します。もし身近な美に気付けないのなら、日本伝統の美なぞ糞食らえ。鉄骨建築の美、コンクリート建築の美、プレハブ建築の美を評価できない人間が寺社建築の美を評すのは欺瞞です。ふと見まわす景色に心打たれた一瞬、その価値こそ日本の美です。

「恋愛論」はグッサリ来ました。

後は大した事はありません。まぁ、アレですね。太宰読んどけ。安吾読んどけ。

「撲殺天使ドクロちゃん」
著者:
おかゆまさき
出版社:
メディアワークス
分類:
FT,文庫

よんぢまいました。

現在錯乱中。どの位かというと、一丁誉めてみようか、等と思うほど。

どの位かというと、こんな光景を想像してしまうほど。

鎌倉の静かな路地。雑草が伸び放題の庭に向かって開け放たれた硝子戸の奥。木造平屋建ての居間で、キモノ姿の文学者が一冊の文庫本を手に取る。何を間違ったのか献呈本。

小説家というより文学者。文豪と呼ばれるほど読まれておらず、しかし地味な私小説の題名は国語の教科書の片隅に載っていて、最近は文壇の付き合いも希で、ワープロという器械がもう何処にも売っていないことを聞いて驚くような、静かな生活。文学者は未だに20世紀、いや、昭和に生きていた。

虫の声。細い路地を軽自動車が一台通った他は何も無し。

薄い本はあっというまに読めてしまう。本を閉じた文学者は、何かを呟く。聞こえない。虫の声。しかし暫くして、今度ははっきりとした文学者の声が、聞こえた。


「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪」

「ドクロちゃん」をヤングアダルトで論じても何も面白くありませんが、文学の中に定位すると、途端に凄いことになります。

「イリヤの空、UFOの夏 その4」
著者:
秋山瑞人
出版社:
メディアワークス
分類:
SF,文庫

この世で最強のドリルは、歯医者の使うヤツです。

第4巻は、最初から苦痛でした。中学生の少年が少女の手を引いて逃避行。情景は美しいけれども終末は見えています。特に秋山瑞人作品では。

中学にもなると、どんなに鈍い奴でも自分の愚かさが判り始めるものです。あの頃というのは愚かな事をやった記憶しか無い気がします。自分が精一杯だったかも思い出せません。何に懸命だったかも忘れてしまい、

だから美しかったのか。

巧過ぎます。こんなに力一杯抉らなくても良いだろうに。脳味噌の一部を殺して文体を検証して、やはり巧いと思いました。あざといし。

ただ、世界を敵に廻すなら、今度はでかい得物が欲しいものです。ハードコアな大仕掛けが。歯科医が使うちっちゃなドリルみたいな奴じゃなくて、馬鹿みたいに巨大な、派手な。

「結晶世界」
著者:
J.G.バラード
出版社:
東京創元社
分類:
SF,文庫

記憶の中の、中学校の図書館には、カヴァーを剥いだSFやミステリの文庫本がごちゃっと寄贈されていて、その中に「沈んだ世界」が混じっていました。

クラークとハインライン(何故かアシモフは無かった)から順に読破していた私は、やがてバラードが”ニューウェーヴ”であることを知りました。要するに、面白くなさそうだと。しかしいつか読む本も尽き、「沈んだ世界」に手を出す日がやってきます。

……思い出しました。

読み手としてのキャリアを積んだおかげか、結構面白く読めました。ただ、結晶が綺麗なのもだという認識、キラキラすれば美しいという考え方が無いもんで、描写を審美的に読むことが出来なかったのは残念かも知れません。

「見えない都市」
著者:
イタノ・カルヴィーノ
出版社:
河出書房新社
分類:
FT,文庫

偉大なる帝国をたばねる汗は、マルコ・ポーロに問う。我が帝国の版図の様相を。巨大な帝国の果ての有様を。存在するかも判らぬ都市たちの幻影を。

構成は考えられているようですが、似たような感じの描写ばかりでだらだらした印象を受けました。インパクトが薄く、本来の寓意がちっとも旨みが感じられなく思うのは、ひねくれたSFばっか読んでいるからだろうなぁ。

しかし「イーガン読め」で済みそうな感想を書くのもなんなので、結論を。

ボルヘスやレムが好きで、最近レム分が足りないと思う向きにはお勧めです。寓意が屁理屈っぽく感じられたので、あんまりお勧めしたくないというのが本音ですが。

「西瓜糖の日々」
著者:
リチャード・ブローティガン
出版社:
河出書房新社
分類:
FT,文庫

静かな小川の中の墓標。小さくあたたかなランタンと小道。死者。甘い匂い。落ちついた世界。

ユートピアともディストピアともつかないそれは、死の静謐をあたたかく肯定するような、奇妙な静かさに満ちています。そして魅力も。

「われらの有人宇宙船」
著者:
松浦晋也
出版社:
裳華房
分類:
技術,単行本

2001年4月、たぶん1日。

野田さんの肩書きが変わった("グレー・レンズマン"になった、と)その日、これから何をしようかと問われて、”有人宇宙船、どうですか”と言った事を憶えています。野田さん、新部署で三機関統合後の日本の宇宙開発の基幹となるプロジェクトを求められていたのです。

しかし自分にとってのはじまりはもっと前、1999年7月、ある作家さんに有人再突入について問われて、対気断面積があれば問題ナシ、と吹いたところからです。アポロ風のカプセルの落書きもしました。やがて書店の棚の前で、やべえ、嘘ついちゃった、と青くなったりするのですが、それはその時のやりとりが気になって、有人宇宙船について調べ始めたからです。

当然調べるのはソユーズで。成果は最初の”宇宙の傑作機・ソユーズ宇宙船”という同人誌。今読み返すと酷い内容ですが、実はこれ、読者はただ一人を念頭に置いて書いたものです。つまり、野田篤司氏。

2001年4月以降、野田さんは炎のようにままたく間に構想をまとめ、検討し、7月には今の構想ほぼそのままのものが完成していました。

三機関統合後の日本の宇宙開発の基幹となるプロジェクト、きっと当たり障りの無い代物が望まれていたのでしょう。環境保護に役立って国際協力で民間でITな奴とか。しかしど真ん中直球”日本独自の有人宇宙船構想”なんて代物が投げ込まれたのです。

その年末には宇宙開発委員会の発言力は大幅に低下し、調整機関である筈の事務局、つまり文部科学省研究開発局宇宙政策課(……)が宇宙開発の方向性を牛耳るようになりました。そして、厄介な有人宇宙船構想は葬り去られたのです。役人の頭からは。

代わりに出てきたのは高速インターネット衛星、大気中の二酸化炭素を観測する衛星、準天頂に東大阪。利得を計算するとADSLとどっこいどっこいとか、軌道と波長を考えると、ある程度の速度で動くと測位できない、とか、そもそも誰に何を売るつもりなのか、とか、ニーズも技術的成立性も薄い、政策の要請だけで生き延びているような代物ばかり。そういう代物は、結局最後には実力のある人が尻拭いする羽目になるのです。つまり、最近野田さんが忙しいのはそのせいです。

事務局の発想が判り易いのは再使用打ち上げ機のプランです。NALのスクラムジェット、宇宙研のATREX、事業団のロケット、三つを仲良く合体させて実現、これぞ三機関統合、って感じのプランです。しかしこれ、成功すると思いますか?技術的問題(山のようにあります)以前に、プロジェクトの体をなしていませんし、成すことも出来ないでしょう。J-Iから何も学んでいない、始まる前から失敗しているプロジェクトの典型でしょう。

そういう訳で有人宇宙船には予算がありません。将来方針からは抹殺されています。つまりやるなと。野田さん、無茶なもの押し付けられて忙しいです。

現状はつまりそういう訳で……


本書は、現実的な有人宇宙船を建造し運用する、利点、問題点、コスト等を明らかにし、これまでに挙げられた多くの疑問に答えると共に、読者自身が判断できるだけの情報を与える内容を持っています。

文章は冒頭から本題に入りストレートで読みやすく、図表等も豊富です。数式も結構出てきますが決して難しいものではなく、好感が持てます。

自信を持ってお薦めできる内容です。

本書を読まずして、今後の宇宙開発政策を論じるべきではないと警告します。本書中の論点を見落としている可能性があります。賛成派も反対派も、本書の内容は論争の基点として適当でないかと考えます。

論点は出揃っている筈です。本書に無い疑問点があるという方……何故さっさと早く言わなかったのですか!

本書には書かれていませんが、本音を言えば、打ち上げ機も野田さんに作らせれば良いんです。劇的に安い使い捨て打ち上げ機が出来ますよ。実はアイディアがあるんです。


宇宙開発やるのなら、宇宙に行きたい。自分の宇宙船が欲しい。自分は、抱いた夢を、未来永劫夢のままにするなんて事には耐えられませんでした。

宇宙開発なんて、限られた予算、パイの配分という見方からは決して認められない代物でしょう。しかし私は、閉じた世界の中で完結し、かけがえのないちっちゃな地球に永劫に囚われる事には耐えられません。宇宙開発は、世界の境界を物理的に切り開く、究極の手段です。

そして、有人宇宙船の話に限って言えば、外野も内野も無いんです。みんな外野みたいなものです。本を書き、論じ、話すことがチカラになります。誰かの動きを待つのは、そこで世界を区切り、閉ざしているのです。

だから、世界の境界を越えましょう。踏み出せるのなら、自分の足で。

「日経サイエンス 2003年9月号」
出版社:
日経サイエンス社
分類:
科学,雑誌

特集は「自らを修復するコンピュータ」大した事無し。つうか、うちの衛星の運用システムで今度やろうと言ってた内容そのもの。問題はそういうセンスのあるソフトウェアハウスと仕事できるか、なのですが。ま、できなくても最悪自作すりゃいいし。

「クローンベビーはパンドラの箱か?」勇気ある記事だと思います。言ってみれば一卵性双生児を生む技術、それを”人間の尊厳をおびやかす技術”とは。そういう事を言う人間は、実際に人間の尊厳がおびやかされている事態に注視したことがあるのだろうか。

出生の経緯などに関係無く、人の尊厳は容易に踏みにじられます。

興味深かったのは「スケールフリーネットワーク」よく読むことが必要です。関連する情報がもっと知りたいです。あと「疾走する中国の頭脳」日本は、あと5年くらいしたら、幾つもの分野で中国に追い越されていることをようやく悟って大騒ぎすることになるでしょう。しかし、それからでは遅いのです。いや、既に手遅れくさいのですが。問題は義務教育なのですから。

しかし本当に面白かったのは「幸福の手紙に潜む進化のルール」実際にやった人、いたんだ。

「モノ・マガジン 2003年8-16/9-2合併号」
出版社:
ワールドフォトプレス
分類:
趣味,雑誌

もうこの手の雑誌にも、慣れた気がします。

"こりゃ、超便利モノだね。ドライバー価格1040〜1830円。レンチセット価格9150円"

こんなセリフ、UNIX USERやInterfaceやBSD Magazineでは絶対に読めません。勿論DesignWaveMagazineや日経エレクトロニクスでも。普段読んでいる雑誌がこんな風だから気がつかないけど、コンビニに行けば、この手の、何にでもコメントの後ろに値段がついているような雑誌の群が、クルマやパチスロの情報誌と場所を競い合っているのです。

その中ではモノ・マガジンは古参の余裕を感じさせる、まだマシ(書き手のアタマがそれほど極端に悪くない)な方だと思います。

自分のような、コンプリートする粘着性の意思に欠ける人間が対象の雑誌では無いと思います。それでも買ったのは、例のオマケ目当て。

<王立科学博物館 collection X1 Apollo11>

出来は素晴らしいです。ちっちぇー。個人的には宇宙機がアメリカ機(アポロもシャトルもダセェデザインだと思う)で、宇宙機そのものがちっちゃいことが不満でしたが。ま、とにかく今後はルノホードを集めまくろうと思っています。

でも、インジェクションのおっきな宇宙機のキットが欲しいよぅ。

「relax 2003年09月号」
出版社:
マガジンハウス
分類:
趣味,雑誌

特集に釣られてこの手の雑誌をまた……と思いましたが、この雑誌、悪くありません。記事が充実し、筆者の署名があって、アホみたいな商品陳列が無い、それだけで随分と違います。何より伊藤ガビンが書いていたし。

特集のほうは、ロシア宇宙開発。というか”バイコヌールに行ってきました”みたいな内容ですが、写真は見ごたえあり。あぁバイコヌール。

「コードコンプリート」
著者:
STEVE McCONNELL
出版社:
アスキー出版局
分類:
技術,単行本

分厚く重いです。紙が厚めでページを開いたままにするのが少々難しく、読むのに苦労する本です。

ソフトウェアコードの品質は、継続して関心を持っている話題なので、どこかでお勧めされていたのを期に購入しました。高価い本ですが、ちょっと懐に余裕があったのが運の尽き。


本書はソフトウェアコードの品質を良くするための様々な手法を取り上げたものです。一読の価値はあると思います。ただ、二度は読む必要は無いでしょう。文章は散漫で文字は大きく、スリムになって半分の厚みになってから出直してきて欲しいと思いました。

この本を買おうと思う程度にソフトウェアの品質に興味を持っている方なら、内容のほとんどは既知のものでしょう。ところどころ、そっか、と思える個所はありましたから、一読の価値はあったとは思っています。

著者のオブジェクト指向の理解は危なっかしく思えました。推奨する手法についても、根拠を理詰めで説明せず、どっかの研究の成果だとかの数字を根拠としており、これも危うい気がします。内容も古いように思えます。

正直言って、お勧めしません。読ませるなら「プログラム作法」を勧めるべきです。また、「文芸的プログラミング」の内容やLinuxのコーディングスタイルに親しんでおくことをお勧めします。

「ゲーム開発のための物理シミュレーション入門」
著者:
David M.Bourg
出版社:
オーム社
分類:
技術,単行本

内容は丁寧かつ実践的で、力学一般の勉強、再勉強に最適でしょう。自分でコードに起こすのも難しくないため、認識を自作のシミュレーションのかたちで確認できます。

接触も最後のほうで取り上げられています。出来の悪い物理シミュレータだと、床に転げ落ちた物体はブルブルと震えながら、やがてズブズブと床の中に沈んでしまったりします。ここで扱っている手法は最低限のものですが、入門には充分過ぎる内容です。

という訳で自分も物理シミュレーションの再勉強です。ここで中断した内容の再開です。まぁ自分の場合は行列と四元数の……という事になりますが、ちゃんと付録の章が立っています。

この手の本には大抵サンプルプログラムを収録したCD-ROMが付いてくるものですが、本書には付属しません。私は付属しないことを評価したいと思います。だってアレ、ページ繰る邪魔だし。

お薦めできる内容だと思います。力学の教科書としてもオススメ。

「ユビキタス無線工学と微細RFID」
著者:
根日屋英之,植竹古都美
出版社:
東京電機大学出版局
分類:
技術,単行本

最近話題のRFIDの本、しかも実物のオマケ付きです。

ただ、期待していた電源やプロトコルの話題は無くガッカリです。RFIDは結局、アンテナで受信したパワーで電力を得ているので、具体的なそのあたりの手法が知りたかったのです。あと、応答器とのやりとりの具体的なメッセージの内容だとか。

オマケにつられるとバカを見る内容です。が、無線技術の初歩学習書としてはお薦めできると思います。あと、パッチアンテナについて扱っている本は比較的少ないように思えたので、そういう方面にはお薦めできる本かも知れません。

オマケのRFID、デカイです。ほとんどがアンテナの面積です。

要するに、現在の技術で実現するいわば第一世代の実用型RFIDは、UHF帯のようなラクな周波数帯を用い、数メートルの距離からシンプルな問いかけに対してある程度の長さのシンプルな応答を返す、そういうものになるようです。


RFIDといえばプライバシーの問題ですが、これは極めて深刻な問題でしょう。我々のプライバシーというのは、ある程度まで、名前が信用できないこと、名前が一意でないことに依存しています。”名無しさん”や”通りすがり”を特定するのは困難ですが、他人が持たないユニークな情報は、それがユニークであればあるほど、保持者を特定することが簡単になります。固有IDはユニークなIDを持っている、という時点でアウトなのです。

剥き出しの固有IDというのは、いわばグローバル変数のようなものです。プライバシーの問題に対してまずやるべきは、固有IDに対して有効範囲を持つようにすることです。RFIDは、レジで破壊すべきです。

破壊といっても、要するに電力変換系の一番細くて弱いところを短絡するコマンドを用意しておいて、コマンドのあと強電界に晒してやればいいだけです。

将来的に、RFIDがもっとずっと賢くなって、自分の居場所が確実に間違い無く理解出来る様になったら、情報の出し方を制御して、信頼の置ける相手のみに開示するようにできればいいのですが、RFIDが騙される可能性を考えると、あんまりお薦めはできません。

……思うのですが、固有IDの問題がわかっていない人はきっと、スコープの概念を理解していない年寄りの組込み屋のような、汚いコードを書くのだろうなぁ。

「折りたたみ自転車・スモールバイクを楽しむ!」
出版社:
辰巳出版
分類:
趣味,ムック

そろそろ愛車ALALAもガタが酷いので、新しい自転車を物色している今日この頃。

長く乗りたかったのですが、ぶつけてひん曲がったフレームを叩いて直ったと思ったら、妙な感じで捻れてしまったようでちと不安定なんです。

つくば暮らしの交通手段は自動車がデフォルトです。でも自転車に乗りたい、そういう場合には車に積める折り畳み式が便利です。あと電車に持ち込むにも。ALALAを買ったのは実家暮らしだった10年近い昔でしたが、西鉄に持ち込む為にカンバス地を買って自分で輪行袋を作ったりもしました。高架の駅を上り下りするのは大変でしたが。

と、長く乗っているので要求事項は明確です。重量、価格、デザイン、この順でチェックします。

デザインではブロンプトン、しかしどうしても軽いのが欲しいのでトレンクル7500に惹かれます。写真ではデザインがイマイチかと思われましたが、実物を見ると、悪くないです。

ただ、やっぱ目移りするし、いまいちピンとくる機種もありません。実物に触ってみたいです。

「攻殻機動隊 #1.5」
著者:
士郎正宗
出版社:
講談社
分類:
漫画,単行本

SF大会の夜。ふと見掛けた「サイバーパンクふたたび」なる部屋に入り、そして数分後には逃げ出していました。

そこでは流しっぱなしのアニマトリックスと黒服のスミスもどき、あとそう、小谷真理がなにか喋っていました。メディア・ハラスメントとでも言うのでしょうか。サイバーパンクは墓場から引きずり出されて、おぞましい仕打ちを受けていました。

”時代が追いついた”とか”メタファ”とか”電脳空間”とか。何の咎でこのような酷い仕打ちをするのでしょうか。


まだ1992年辺りまでなら良かったと思います。”ネットにダイブする”なんて台詞が素面で吐けたのは1995年まで、そこから時代は大きく変わりました。ネットダイブ系の幻想を21世紀まで引きずっていたような夢見がちな連中も滅びました。

また、本書に収録されているのは9.11以前の作品でもあります。テロリスト対公安という単純な構図。9課をアメリカと見なし、物語の視点をアメリカの視点と見なすと分かり易いでしょう。

私はテロリズムを、人権を抑圧されたと感じた人間が、他の人間の人権を蹂躙するシステムだと考えています。感じ方は人それぞれですから、人間としての尊厳も生命そのものも侵されている環境から、小遣いが減らされたと憤慨するガキまで、テロリストは様々です。しかしテロリズムが組織化されるのは、共通認識と共感が存在するときだけです。そこには、小規模ながらも第三者による人権蹂躙の認定があるのです。

そこの認識が存在しないから、テロは無くなりません。

(余談ですが私は、少年犯罪等で被害者の親類などが、加害者を死刑にすべしと叫ぶのも、テロリズムの論理によるものと考えています。相手の生命の価値を無視する、無法の論理がそこにはあります。そして報復の延長線上には、虐殺があります)


今時のテロリストならアナデバのマイクロマシンジャイロとGPSで巡航ミサイルを作るでしょう。エンジン付きラジコンを改造します。爆発物を積まなくても、胴体に残った燃料が火炎瓶と同じ役目を果たします。組織化されたテロリストなら巡航ミサイル100発を同時発射する飽和攻撃を仕掛けるようになるでしょう。

将来的には、無職のひきこもりが中学の頃のいじめの復讐に弾道ミサイルを使うようになるでしょう。


だからもう、私はこの作品に未来を感じることはありません。いろいろと面白い描写はあるし、やっぱCGよりも手描きの方がシロマサメカに艶があって良いのですが、ロボットもP2,P3ショック以前のものだし、奇妙なピロピロで人が操られるというのも興醒めな描写です。

値段の高い本を買っておいてこんな文句をぶちぶちとつけるのも厭なモノですが、感じるモノは仕方ありません。余計なオマケ(CD-ROM。e-manga、だそうな)は物凄く要らないので、この商法を含めて色々と考え直して欲しいものです。

「ハチミツとクローバー #5」
著者:
羽海野チカ
出版社:
集英社
分類:
漫画,単行本

非常に面白い。巧い。切ない。

切なくてたまりません。竹本くん。うわぁ。


本当に切ないのは、何か頑張ってどうこうなる種類のものでないということ。糞ッ畜生ッと歯を食いしばって耐えて希望を繋げるしかない、そういった切なさのほうがまだマシだ。

幸せになって欲しいヤツらっているよね。あぁ畜生。

「トリコロ #1」
著者:
海藍
出版社:
芳文社
分類:
漫画,単行本

福岡天神の福屋書店レジ前カウンターに二段の平積み。ついでに「まんがタイムきらら」本誌って初めて見ました。

母子二人暮らしの家に、娘と同じ年のコが二人、下宿することになります。そんなにぎやかな四人の暮らしを描いていく4コマ漫画です。

萌え4コマの新星としてにわかに注目される本作品ですが、うーん、ツボでは無いのでチェックはこれっきりでしょう。でも「まんがタイムきらら」はチェック続行です。

「ラブやん #2」
著者:
田丸浩史
出版社:
講談社
分類:
漫画,単行本

いい歳のロリペドの無職のオタの引きこもりパラサイト、こんなよくいる(……)駄目人間のカズフサの為にラヴの天使降臨!

でもラヴの天使様、ラヴの前にやることが随分とあるようですが。ほら、キメポーズの練習とか。いろいろやって2巻目なのです。

……しかし、駄目人間とは言っても、まだ随分と救いがある話です。だってまずラブやん居るし。人づきあいあるし。要するにイタいだけだし。……猛烈にイタいけどさ。

「最強伝説黒沢 #1」
著者:
福本伸行
出版社:
小学館
分類:
漫画,単行本

駄目さが、イタさが、切なさを越えて哀切にまで高められた傑作です。

泣きそうです。いや、泣きました。

”人に認められたい”それは、モテたいとか偉くなりたいとか、そんな欲求より遥かに根源的です。自分の属する社会に認められたい、自分の属する社会が欲しい。

更に主人公黒沢は、自分の力で自分の人生を価値のあるものにしようと、感動を手に入れようとします。44歳という年齢は関係ありません。立派です。44歳だからこそ、切なくて泣けます。そして努力します。

しかし、ああ畜生、彼の努力は全て裏目に出ます。


時々思うのです。ある時気がつくと、自分は独りなのではなかろうかと。自分の人生が暗黒の中にあることに気がつく日がくのではなかろうかと。

だからこそ、主人公黒沢の足掻きは貴く、そして悲しく感じられるのです。

「GALLOP」
著者:
伊藤明弘
出版社:
大都社
分類:
漫画,単行本

伊藤明弘の初期作品単行本のうちの一つが復刻です。

技法、構成、丁寧さ、そして密度、全てにおいて現在の水準に遥かに及ばない内容ですが、今日の萌芽は感じられるように思えました。

お薦めしません。けど、読めて嬉しかったです。

もう一方も凄く読みたいのですが……

「ジオブリーダーズ #9」
著者:
伊藤明弘
出版社:
少年画報社
分類:
漫画,単行本

赤いの青いの、そして黒いの。拳銃使いたちが雁首揃えて星を追う。

深夜の港で取引されるのは、お宝と誇り、鉛ダマと過去。

流れ星のハジキが火を吹く。

俺が一番だ!

三重県は火の海です!!

珍銃(スゴイデス)使いたちやら実銃武装サバゲチームやら香港国際警察(ジャッキー・チェンの映画ですか……)やら、そりゃもう凄い数の阿呆が入り乱れての乱痴気騒ぎがまるまる1巻。凄いです。

小気味良いアクション、テンポ良く頻発するネタ、そして派手な爆発!

セリフとコマの繋ぎ方、コマを越えて絡む視線、銃火の中の一瞬の緊張。自分は実はストーリィ展開なんてあんまし気にせず、毎月の連載を楽しく読めればそれで満足というか、毎月キッチリと纏めるスタイルにメロメロだった訳ですが、単行本になると、1巻まるごと港の銃撃戦だったのかと、改めて驚かされます。こんなアホな展開だったっけ。

連載をワクワクしながら毎月舐めるように読むのがジオブリの正しい読み方だと思います。実は自分、読み始めた最初のアワーズから全て、取って置いています。衣装ケース二つがパンパンです。

……しかしまた、加筆箇所多いなぁ。

凄い漫画です。

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