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「転送と消去の物語」

story of transfar and delete

今日の転送は長かった。

「琥珀街物語」第105話。新クールの登場キャラは、光の具合では栗色にも見える流れるような髪、細い手足、そして涼しい笑顔の似合う少女。彼女はどこか、画期的に生き生きとして見えた。

安っぽい白プラスティックの台の上、スクリーンフィンのおぼろな幻の中でセットが組みあがっていく。何処か架空の渓谷アーコロジーの、蔦のはびこる煉鉄の手すり。磨いた大理石のベランダに水滴が跳ねる。しぶきがまるっきりピクセルで、自分のプロセッサが情けなくなる。

主人公はどうやら、アンティークショップの巨乳未亡人とラブラブ同棲&お引っ越しとしゃれ込んだらしい。手前勝手な憂いに沈んだ横顔を、年上の女の細く妖しい指がなぞる。

カメラ、わずかにパン。

そこで、横切ったのだ。少女が。

ホログラムの回り舞台で、彼女だけが浮き上がる。デザイン地衣類のはびこる偽物渓谷を、白く色褪せさせる。

彼女のまわりで、透明色の虹が掛かる。


バイト先の連中は、皆絶望的に退屈だし、馬鹿なのだが、少なくとも「琥珀街物語」は観ている。タダだし、奇麗だし、賞賛したくなるほど俗っぽいし。

狭い部屋に低いテーブルを挟んで、黄色のバイト制服姿が座るカウチは、座高が極端に低く、やわらかで、ほとんど膝を抱えるような格好になる。配達に出かける時は、さっきのH田のように、座る皆んなの膝を越えていかなくちゃならない。この姿勢は、中学時代の屈辱的な思い出を呼び起こすものであり、最近ではこれを、肉体と精神の両方から影響力を振るおうとする雇用側の、奇妙な戦術の一部とみなすようにもなっていた。

「昨日のさぁ、あの髪の長い女のコ、なんなんだろ」

「はぁ?」

とっておきの間抜け声で、返事してくれる。

「お前が30歳以上を女の子と定義していたとは知らんかったよ」

「ほら、15,6位でさ、白い服の」

「お前のプロセッサ、メモリがいかれてんだよ。チェッカかけてみ」

「いや、直前に転送されてきたキャラみたいでさ」

「はああ?」

F原はそこで、おのれの知識を披露にかかった。こいつはこういうチャンスを絶対に見逃さないタイプだ。

F原が言うには(ふんふん)最近では新しいキャラクターや舞台データなんかは、事前に細かく分割して、先に転送されているものなのだそうだ。

ホログラフィの大量のデータを生のまま転送すれば、回線はパンクしてしまう、と、まるで僕がおしゃぶりでもくわえているものと言わんばかりの、初歩からの講義。そう、誰のホロ機も、大した劇団を始めからデータに持っている。

「だから、回線では台本を送るだけ。プロセッサにモデリングさせた、バーチャルな人形、スプラインな俳優に演じさせる訳だ。だから」

ホロ番組は、随分とバーチャ人形の使い廻しをしていた。髪の、肌の、瞳の色を変え、髪型、服装を変え、なまりを切り替え、ボディランゲージを再編集するのだ。

普通、新クールに突入した位で、ニューモデルを投入したりはしない。そりゃ判っている。だからこそ好奇心を起こした訳で、でなきゃお前のだらだら蘊蓄を自分から誘発するような愚を犯すものか。

「いかれているのは、お前のプロセッサの方じゃ無いのか」

「何だと、てめ」

「信号欠落か何かで、新キャラ取り損ねたんだよ、お前」

そこで、PCM声が僕の番号を呼んだ。控室を出る。


またナビに騙された。

液晶に示されたコースは穴だらけの県道を巡り、目の前の橋を渡るよう、指示していた。通行止めなのに。

首に掛けたアクセサーが、僕の気分の変化を察知して、自動作曲のパラメータを変えた。コの字型をしたそれを首の後ろでいじり、ネットからの有料転送BGMに切り替える。プログラムなんかに落ち着かされたくない。

橋は落ちていた。かしいでいる立て札から判断すると、ここはもう、半年以上前から通れなかったらしい。最近はどこも通行止めのような気がする。このナビ、いつ位前からデータを更新していないのだろう。

ナビは、僕達に嘘をつき、指図しながら、こっちの辿った道筋を記録している。アルバイトがサボらない用心だ。ナビから外れた道を取っていると、会社の上の方がうるさいのだ。

仕方が無い。ベトナムホンダの逆輸入スクーターを廻し、荷台のビデオカメラに橋が映るよう、向きを変えた。会社がこっちをとことん信用していない証拠も、時には役に立つ。こんなビデオカメラ、付けてる金あるんなら、僕達の時給上げろよな。あっても、盗る奴はうまいこと工夫して、しっかり盗ってるんだし。

迂回路は遠く、だから焼きレンガと樹木、圧縮コンクリートと強化ガラスの高級集合住宅の真ん中を突っ切る。茶色にうねる歩道の入り口、車止めの黄色いポールのてっぺんで廻りだすパトライトと合成警告声を無視、優雅にわざとらしく込み入る建物の群れの、谷間を進む。

保安カメラの視野の外でスクーターを降り、押して進む。こうすれば犯罪じゃない。研修ビデオでそう教えられた。

ほんの3歳ほどの幼児が、樹の根元で奇声をあげながら土いじりをしている。母親の姿は見えない。傍らにはパステルカラーのナニーパックが転がり、ヘビーデューティ仕様センサ群が何気に幼児を見守っている。

おっそろしくムカついた。


「琥珀街物語」第106話。

舞台は再び琥珀街。夕日の似合う街角に噂が走る。花屋の店先から消えた娘に関する噂だ。心優しき住人たちは一様に憤る。

花売りのヒロイン、主人公の元恋人は妊娠していた。もちろん主人公の子供だ。当の本人は知っての通り、年上の愛人とどっかに行っちまっている。

「だってピルって、いけないんでしょ?」とは、彼女の言葉。なんとまぁ。

避妊対策を怠った恋人達にあまり同情はしないが、それでも堕胎のカンパがまわる。しかし彼女はどうやら産む気でいるらしい。

もし彼女が産むとしたら、と僕は考える。重大な問題が先に控えているぞ。

そこでだ。

あの少女だ。何やら白い、ふわふわしたものを一杯に抱えている。うちの解像度でははっきりしないが、後で知ったところでは、あれはカスミソウの花束だ。アパートの屋上、湿っぽく会話を交わすヒロインとその友人を尻目に、少女は端をかすめ、空に花束を抛り投げる。やがて白く小さなものが、世界を包んでゆく。


とうとうニューマシンを買った。パキスタン製無印フィンディスプレイにはほとほと愛想が尽きた。フィンの回転音にも、埃のつく結像面の手入れにも、レーザー光源の不安定さにも。

今度のやつは新品、小さいながら新型のレーザーホログラム型で、しかもインドの一流ブランド。インド製プロセッサの優秀さは言うまでもない。

癪だが、設定やら何やら、ごたごたとした部分でF原の手を借りた。

「その前にさ、メモリ覗かせろよ。例のブツ確かめてやるから」

こいつがそういう事ができると知っていたから、まあいいやと思う。F原の浅黄色のアクセサーで接続し、STMドライブに持ってきたディスクを差す。繊細な探針とピエゾ駆動を傷めまいとするその動作は恭しく、神妙だ。

「無いな。いや、あった。妙だな。人格統合ファイルにはそれらしいものは」

表示されたのは、少女、の部品。血無きスプラッタ。

「贅沢だよこいつ。キャラ二人分の資源を使ってる。しかも犬扱い。このコ、喋れないよ」

「何だよそりゃ」

「ヒト扱いだと、台本にバグを出すかもしれないだろ。考えてるな。こいつはちゃんとしたチャンネルからのモノじゃあ無いね。凝り凝りのハッカー仕事だ。何か目的があってやってんだろうな」

「ハッキングされちまった、のか・・・・」

「うーん、普通じゃないねこの手口。個人じゃないね。集団仕事、とにかくデカいトコがからんでる」

「何だよそりゃ」

「何かヤバそうな感じじゃん」

「てめえ、楽しんでるな」

「いやいや」 ひょほほほ


学校には、木曜に顔を出すだけ。あとはバイト。十月からこんな生活が続いている。優雅だなんて思ってくれては困る。今の稼ぎが、春からの楽園生活を、冬の日本海とモルディブほども分けるのだ。

僕は、今この時期を、来るべき4年間の天国生活の大いなるプロローグだと思っている。推薦をしりぞけ、旧世紀の悪夢である”受験”に挑む小数の物好きもいるが、ちょっと理解しがたい。

彼らは、自分の人生というものを、ちゃんと考えた事があるのだろうか。僕の人生はあとわずかだ。専門学校を卒業すれば、僕らは、就職という墓場に入るのだ。

とはいえ、一応、その先も最近考えるようになった。

もとは典型的な二階建てアパートだったのだろうが、少なくとも4種類のコンクリートブロックが年輪を刻む塀や、表面を白く風化させた大型パイロンや、灰色のエポキシで強化された安センサの群れが、異様な外観をつくっている。

鄭一家は、大昔にベトナムから亡命してきた人達の生き残りだ。日本経済の衰退と、東南アジアの発展という時代の流れを見誤り、どこかで帰るチャンスを失った一家は、同族をかき集め、工場と民家がのっぺりと広がるこの地に拠点を築いた。

安アパートふた棟を買い上げ、心の故郷である華南の民家をどこか思わせる、パラノイアじみた要塞を造ったのだ。今では彼らの気持ちはよくわかる。

葉じいさんは相変わらず寝ている。入り口のカギ手の塀を抜けてすぐの、いつものイチヂクの木の陰に、模型空気銃のM16を抱えて。銃は改造されてはいるものの、一見して偽物とわかってしまう。ストックは割れて、ガムテープで補強している。足元のコンプレッサーは落ち葉に埋もれ、果たして動くのかどうか。

いつもならじいさんの足元で寝ているバカ犬がいない。あいつを起こさないようにすり抜けるスリルは、今回はどうも無いらしい。

と思ったら、中庭にいた。A建も一緒だ。繋いだヒモをピンと張って、けたたましく吠えたてるのを、A建は蹴って黙らせる。

「おう、久しぶり」

「おう、あがれあがれ。姉貴もーすぐ帰ってくるから」

A建は高校へ進まなかった。できれば中学にも、小学校にも行きたくなかったろう。毎朝日の丸に敬礼し、月曜の朝礼には君が代を歌い、遠足で靖国神社に行き、美しい日本の心の何たるかを説教されるような所へは。

だからA建の勉強は独学だ。最近では、上海に留学してたお姉さんが教えてくれているようだ。僕も、広東語を習いにこうやって通っている。

くそったれ日本に未来なんて無い。僕らの同世代みんな、同じ事を感じているはずだ。クールな奴なら誰だって、ハノイやスラバヤでビックゲームを張りたいと思っている。

就職も親もくそくらえだ。僕はおとなしく墓場に入るつもりはない。


「琥珀街物語」第107話。

必要なお金は、堕胎に要る金のおよそ5倍。ヒロインは、おなかの子のDNAコピーを取る事を決意した。

そうだろうなと思う。親なら当然だろう。不死のカギを与えられなかったと知った時、我が子の嘆きはいかほどのものか。

当たり前だが、僕の生まれた時、まだ技術は無かった。だけど数年前にそれが可能になって、以来、あっという間にコピーは当たり前のものになった。少なくとも金持ちの間では。渓谷アーコロジーや高級集合住宅に住む、自分たちが中流だと信じている、おめでたい連中には。

僕のように、年をくうともう無理だ。遺伝情報は、細胞分化の未発達の胎児から採られる。サンプリングされたDNAは、アルゴリズムで胚状態に整復されて、ディスクにプレスされる。完全に分化した後では、胚状態を復元出来ない。情報が失われるとか何とか、そういう話だ。

不死の基本はDNAの修復だと、今では広く信じられている。今はまだ無理だが、人生は長い。半世紀後なら、医療用ウイルスや人工ウイルス擬似体がそれを可能にしてくれる。そう信じられている。そのために、汚れなき出発点を記録し、参照しようという訳だ。

もちろん信じない向きも多数ある。しかし、我が子の未来を好き好んで閉ざす親がいるだろうか。コピーの費用は年々安くなっているし。

しかし、僕は墓場行きなのだ。

そんな気持ちを見透かすように、少女の装いは喪服の黒。

いつもの白は、首や手首にしかない。路地の貸しディスク屋のカウンターにたむろし、深夜バイトに向かう前に、無責任な噂話で暇をつぶす連中を横目に、彼女は手のひらに・・・・・

あれは炎、だろうか。

ぼっ、と一面に火が着いた。薄暗い店内のグラデーションは焦げ茶から、暗い赤へ。古いプラスティック包装の上を炎が踊りまわる。

しおれたカラー印刷のラベルが色を失い、ちりちりと灰になる。火のついた紙片が影とともに踊る。

だが、男達は平気で駄弁っている。焦げてすらいない。炎に包まれたカウンターで、どこかに行った主人公の噂をしている。彼らはもちろん、焼け死ぬような、そんな凝ったデータを持っているはずもない。死体のデータが無いのに、死人が出るはずも無い。

男達の隠れた不死性が、無気味な光景のなかで明らかになる。

よく見れば、棚に並んだディスクたちも、燃えているわけじゃなく、上に被せられた、擬態した何かが燃えているだけだ。それが色を変え、黒く、白く、散り散りとなる。

やがて番組が終わり、次の番組のためにシステムが初期化されても、そのかけらたちは舞いつづけた。灰は白く、雪のように。

フランチャイズ元の<A−PORT>のネットワークは、さすがにセキュリティがしっかりしていて手が出せないが、末端ともなれば話は別。

アクセサーが、接続を知らせた。アプリを走らせる。

社長おやじが便所に行っている隙に盗んだスーパーユーザーの資格で、終業後に<倉持配送・北久留米中央店>の統合管理に忍び込む。アクセス痕跡を消去するデーモンをばら撒くと、ゆっくりとビデオデータの再生を始める。

配送に廻った高級集合住宅の一つ、玄関の映像。

ちゃんと玄関が、住人の手元が映っていて、肝心のオートロックのテンキーを打つ所が見える。配送受け取り用の、低級資格キィワードだ。そばで僕がだらしなく荷物を抱えている。僕から手元が見えないよう、住人は気を遣っているが、配送スクーターの荷台のカメラには気がついていない。

中小のビル管理企業は、セキュリティの基本パスワードを、納入時のそれから変更するのを怠る明白な傾向がある。要するに、悪党にはよく知られている3種類のうちのどれかのままなのだ。

そして、バイト先のここ、倉持運送が所持を許可された、もう一つのキィワードも、この管理ファイルの中にある。バイト中は、配送資格キィワードは暗号化され、ICカードに納められている。

受取人のキィワード、読取機に通したICカード、そして保安暗号の種となる基本パスワード、この3つが整合すれば、建物の中に入ってしまえば、後は容易なものだ。

貸しディスク屋の店内を舞った白い灰は、冗長圧縮形式のデータだった。中身は、ハッキングツール一式と近郊のちょっとしたデータ。上級セキュリティも騙せるデーモンが1ダースも入っていた。

そんなデータの入ったアクセサーに、パスワードを転送すると、首に掛けたそれが更に重くなるようだ。


ガン、と音がして、驚いて振り向くと、耐爆容器の受け取り側ハッチが開いていた。辺りに人がいなくて、助かった。ハッチを蹴り閉める。

デーモンのセキュリティ騙しが甘かったのだ。不審小包扱いされたという訳。ま、センサが働かなかった分だけマシ、か。

焦りつつ、次を試す。うまくいく。メカニカルロックが外れる音がする。

ドアの向こうは、短い暗い廊下で、そこを過ぎると、明るい屋内庭園に出た。集光装置で採光された陽光が、広葉の影を芝生と大理石の床に落とす。吹き抜けの空間を螺旋を描いて巡るエスカレーターに乗る。センサが、僕が車椅子や買物カートではない、と判断し、一段の広さを調節した。

4階南象限A”ほおずき通り”6番。念のため、架空アドレスから部屋をコール。留守番エキスパートには、アクセサーのPCM声で対応。オッケェ。誰もいない。

手に持つキィカードは、家族IDとして認識された。もちろん偽造、そこらの改変カードのIDを、セキュリティのデータベースに一時的に紛れ込ませたのだ。

僕は、今、マジによそン家に不法侵入している。痕は残らないはず。保安ログはすべてデーモンに監視させ、書き換えさせている。しかし、腹にずっしりとくる気分。少しめまいがする。

あった。居間の飾り食器棚の上、ニス塗りの木箱の中、ベルベット張りの仕切りの中に、小さい桐の箱、折り曲げた証明書類、それらと一緒に、古いコンパクトディスクが6枚。合わせておよそ、4ギガバイトちょっと。

不死のキーだ。


ずうっと後になって、およそ2年も後になって、僕はA建に打ち明ける事になる。

「最近でも、噂はあるよな。実際、去年だったかな、どっかの阿呆がウチんとこに遺伝子扱わんか、言ってきた奴がいたよ。勿論相手しなかったけどね」

「遺伝子の取引って、やっぱ流行ってるのかな」

「出廻ってるのは胚状態のデータだからな。余計な事無しで胎児くらいまで出来るって噂まであるし」

「マジ?」

「まさかな。ただの噂さ」

そこで僕は思う。臓器やホルモンの為に、生まれる前に殺される生命の事を。ティモールやミンダナオのどこか、日陰に並ぶ培養タンクのことを。

しかしさ、話は変わるけど、そらやっぱり、洗脳だと思う」

「洗脳?」

「人の心を変えるのは、ある程度まではテクニックの問題なんだ。サイケなCG万華鏡も、長たらしい呪文も要らない。人が望むものを与えて、ほんの僅か、気にならない程度の代償を求めるだけでいい。実社会では絶対に与えられないものを与えるか、もしくは、他人のものを奪わせるかだ」

「与えられなかったもの、か・・・・」

「でも、良かったよ」

あの日、僕はとうとう、何もしなかった。

多分、誰にも見つかることなく、誰にも見咎められる事無く、集合住宅を後にした。リサイクルショップで買った旧式ディスクドライブは、バックパックから出す事もしなかった。帰りにインターフェイスと一緒に、コンクリートの水路に捨てた。

以前の少女の、カスミソウの花束も、ハックデータだったに違いない。それが心の奥で判ると、きっぱりと、むかつく接続から縁を切るべきだと感じた。

きっと、少女のデータを先に作っておいて、うまくそのデータが影響力を与えそうな人間を後から選んで、送り付けたのだ。こっちの、遺伝子コピーへの嫌悪を何故か知り、それを煽ったのだ。

それをあの時知ったから、すべての始まりの、媚びた甘やかさを消去した。

すべて、消去した。


「琥珀街物語」第108話。

新しいキャラクターの、小さな転送があった。舞台データ欠如を訴えるエラーメッセージを無視して、スタート。

ヒロインの赤ん坊の、元気良い泣き声。

誰も、何もない純白の空間に、生まれたばかりの小さな姿が浮かんでいた。

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