もう一つの照明の問題に、眩しさがあります。車を運転している時、道を歩いているとき、照明による光が直接目に入り、眩しさをつくり気が付かない内に視認性を悪くしています。照明は本来夜間の便利な生活を助ける役割を持っているはずですが、多くの照明はこの眩しさの原因にもなり、視認性を阻害しています。
ここで、照明を眩しさの問題とエネルギーの浪費、炭酸ガスの排出等の環境の具体的な問題として、幾つかの例を借りながら見てみましょう。
膨大な光が宇宙に向けられていると言っても、具体的にどのくらいのエネルギーとお金が無駄になっているか分かりません。二つの具体例を見てみましょう。
戸数6千戸、人口約2万4千人の横浜市旭区にある若葉台団地の照明の実体調査例では、街灯と駐車場の照明に使われている電気エネルギーの約60%が無駄になり、年間約3百万円の費用が浪費されています。電気量では、12万KWHに相当します。
ここで注目したいのは、役に立っている光は、わずか全体の40%しかないことです。残り60%は、地上を照らす為ではなく、空中へ放出されるか、直接人の目に入り眩しさを作り出しているのです。
この団地では、このほかにも沢山の夜間灯や商店街の照明があります。これらも考慮に入れれば優に数倍の費用が無駄になっていることが予測出来ます。
米国での屋外照明の無駄を試算した具体例(国際ダークスカイ協会IDA)では、年間20億ドル(約2千2百億円に相当)、屋外照明の約30%が無駄に使われていると言われています。これは、米国の安い電気料金(約8円/kwh)を使った時の値です。もしこれが電力コストの高い日本の例であればその費用は約三倍にふくれあがる事になります。
気付かない内に、莫大なコストを無駄にしていることを教えられる例です。以上の二つの例は、水銀灯を主な光源としている場合ですが、高圧ナトリウム、低圧ナトリウム灯など最近の新しいランプを使えばコストの削減は、それだけで半分以下に出来る事を知る人は少ないのです。
ほとんどの屋外照明を見ればすぐ分かるように最も明るく良く見えるものは、照明の光源−つまりランプそのものです。光源からの光が直接目に入ることで、眩しさを作り、視認性を阻害しています。残念なことに、現在ある照明のほとんどがこの眩しさの原因を作り出し、気付かない内に快適であるはずの夜間生活を脅かしています。眩しさの為に、物陰やコントラストの低い物が見え難くなり、時には安全を脅かしさえしています。
眩しさのない優秀な照明の下では、人間の目は、驚く程良く見える素晴らしい視覚器官なのです。光源が直接目に入る場合は、照明の力を100%発揮出来ない事を意味しています。
電気の多くが化石燃料を燃やすことによるエネルギーを元にしています。そしてこれは、大きな問題となっている地球温暖化に貢献していると言われる炭酸ガス等の排出に直接影響しています。国際的に、炭酸ガスの排出量を西暦2000年までに1990年のレベルに戻す事が約定されていますが、外国ではその具体的な対策が始まっています。二つの例をここに上げてみます。
米国EPAは、グリーンライトプログラムという照明に使われる電気料を大幅に削減するプログラムを打ち出しています。その削減目標は、少なくとも照明に使うエネルギーの50%以上の削減を目標にしています。詳細の情報は、 EPAのホームページからも入手可能ですが、費用にして年間一兆3千2百億円の節約、炭酸ガス等の汚染を5%削減出来るとしています。自主参加のこのプログラムは既に2、200以上の団体の参加を数え具体的な「実績」を出しているのです。
1993年4月の地球デーの際にクリントン大統領は、米国政府が今後購入するコンピュータは全て「エネルギースター」の規格を満足するものでなければならないと言う大統領令を出しました。コンピュータの使用する電力を75%削減する施策が「エネルギースター」です。2000年までに、年間2千百億円の電気と5百万台の車に相当する排ガスを削減する事が出来るというこれもまた画期的な計画です。
以上の2例からだけでも分かるとおり、外国では、照明の問題に対して具体的な施策が実行に移され、既に実績を上げている反面、わが国のエネルギーと環境に対する危機意識は非常に低いことが調査で分かっています。評論家立花隆氏の資料 によると世界で2番目に環境に対する危機意識の低いのが日本人です。
危機感が少ない大きな理由の一つは、照明がエネルギーの無駄、環境の問題と直接つながっている事があまりにも知られていない、あるいは知らされていない事にあるのでしょう。立花氏が言うように政府の腰が重いだけでなく、行政機関、民間企業、照明器具メーカ等のエネルギーに対する正しい知識が欠如しているのです。
正しい照明の知識さえあれば、具体的な施策につなげる事は、決して難しい事ではありません。事実、米国では、例に上げた様に既に多くの実績を上げているのです。特に、屋外照明については、明確に対策も分かっているし、後は誰もがそれを実行するだけです。
眩しさについても、ハッキリとした対策があります。やはり、米国のLighting Research Instituteの資料によると、駐車場の照明には、グレアゾーンと呼ばれる75〜90度(光源より真下の方向を0度とします)の範囲に出る光の量を4%以下に押さえることを提案しています。
わが国でも環境庁がライトダウンを呼びかけ、横須賀市の照明の改善の例があるなど大きな声があがり始めています。誰もがこの正しい照明の知識を知り、そしてそれを具体的な対策につなげることが大切です。そしてその効果は、照明の改善のみだけではなく、米国だけで年間一兆3千2百億円の節約を可能にするものなのです。一人当たり約6千円、四人家族であれば2万4千円、日本での3倍の電気コストを考えれば約7万円の節約が可能になるのです。
大きな利を生むのが照明の改善だと言うことがお分かり頂けるでしょう。