わかばだい天文同好会

スマートライト事務局
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グローブ型水銀灯は本当に適切な屋外照明であろうか?


グローブ型の水銀灯は、屋外の夜間照明として広く利用されている。(写真1、2参照)その大きな理由には、安価であること(灯具のみで3万円前後の価格で販売されている)、そして円形のガラス球の外観が美しい事にあるようだ。同型の照明は、ほとんどの照明器具メーカから販売されており、製品の種類も豊富である。

大変残念なことに、上のような利点に反して、グローブ型の照明は、屋外照明の欠点のほとんどを代表している。照明器具の欠点について一般には詳しく理解されていないこともあり、上記のような経済的な理由と外観の良さから、その問題の大きさにも関わらず多く利用されてきているようだ。

このグローブ型の照明が夜間に必要な場所を照明するという本来の役割以上に、グレア(まぶしさ)、迷光(不要な場所を照らすこと)、エネルギーの無駄そして景観をだいなしにしていることを知っている人は少ない。また、グローブ型の照明に限らず、ほとんどの屋外照明がもつ同様の問題が、利用者の間で議論されることは少ない。

写真−1写真−2

グローブ型の照明具とは?

写真2にあるのがグローブ型照明の代表的な実例だ。直径35cmから50cmのガラス又はアクリル製の球の中に水銀ランプを置き、球の上半分に光を反射するアルミ蒸着を内部から施している。この写真の例の他にアルミの反射膜の無い透明ガラス(写真−1)、すりガラス、乳白色のアクリル等を使用した種類がある。ランプの種類は水銀ランプを使用しているものがほとんどで、ナトリウムランプ等の効率の良いものは少ない。

写真3が実際に夜間、この照明具が点灯されているのを撮影したものだ。これらの写真の実例を参考にしながら、このごく一般的な照明具の問題を検討してみよう。

照明の持つエネルギーの無駄とグレア(眩しさ)

「エネルギーの無駄」「グレア」に付いて検討してみよう。まず、照明の専門家の間では、ランプから出る光の方向を次のように表現する:

  • 0度  :ランプからまっすぐ下方向に出る角度
  • 90度 :地表に平行に横向きの角度
  • 180度:ランプからまっすぐ上方向に出る角度
  • (エネルギーの無駄)
    ここでランプから出る光の内、地上を照らすのに全く役に立たない光は、90度から180度の範囲に出る光となる。この角度でランプから出る光は、本来照明が必要な地上に到達することは無く、役に立たないまま夜空を無駄に照明しているに過ぎない。これは当然、ランプに使われている電気エネルギーの無駄となっている。

    (眩しさ)
    次に照明はその使い方次第では、眩しさの原因となり、夜間の視認性を阻害する場合がある。これは、発光するランプそのものが通行人に直接見えるような構造を持つ照明具が原因となる。70度(又は75度)から90度の角度はグレアゾーンと呼ばれ、この角度で出る光が遮蔽されていない場合、眩しさの原因となり、夜間の視認性を阻害する。

    グローブ型照明具の持つ問題点

    写真2のグローブ型の照明具は、ガラス球の中にある水銀ランプが上下に細長い形をしているため、かなりの光が水平以上の角度で出る。この角度は135度以上でも出ており、本来の照明の役には立っていない。また、グレアについても70度から90度の角度で出る光は全く遮蔽されておらず、近くを通る人間に眩しさを与えている。この70度から90度の角度で出る光は、視認性を阻害していることから本来の役に立たない無駄な光にもなっている。

    両者を合わせると、少なく見積もっても30%以上の光が無駄になっている。これは当然使われている電気エネルギーの30%以上を無駄にしている訳だ。

    同じように見てみると、写真−1の例はもっとひどい、実に60%以上のエネルギーを無駄にしている。

    グレアの実例

    写真3がそのグレアの実例の一つだ。歩行者からも、車を運転している人からも、強い光をだしているランプが何十メートルも離れた所から良く見える。

    これは、見ている人の目をくらまし、極端に視認性を低下させている。

    写真-3の中で一番よく見えている物は、ランプそのものだ。照明は、道路上をもっとも明るくし、人や車の安全に貢献するべきではないだろうか?

    グレアは誰にとっても不要であり、特に視力が多少とも低下している高齢者にとっては、グレアに対する順応がむずかしい場合もあり、危険でもある。絶対的な明るさよりもグレアが視認性により影響している事を裏付けている報告もある。

    無駄になっている電気エネルギーの費用

    電気エネルギー費用を見てみよう。写真−2の例では、200ワットの水銀ランプが使用されている。200ワットのランプは、効率を考えると約220ワットを使う。220ワットに一年間の点灯時間4,100時間をかける事でこのランプの消費電力が求められる。つまり、一年間に220x4,100=902kwhのエネルギーを使う。だいたい1kwh当たり25円が平均的なコスト(平成9年5月現在)であることから、この照明を使用するのに年間約2万2千5百円かかることになる。

    同じ様な照明は、約2万人が住んでいる住宅地で約500本使われている例がある。年間で約1,125万円の費用を使っている事になる。この費用の内30%が無駄になっているとしたら、その費用は338万円となる。これを日本の人口一億二千万に換算すれば、約200億円になる。この数字はたった一種類の照明具が持っている無駄であり、実際には同じ様な照明具が優にこの十倍は使われているはずだ。一年間で少なく見積もっても二千億円相当のエネルギーの無駄を作り出していることになる。

    これだけの無駄を私達は、許しておいても良いのだろうか。

    環境への影響

    照明の問題は、エネルギーと眩しさの問題だけでも、屋外照明だけの問題でもない。屋内で使われる照明でも同じ様な問題を抱え、そして同時に環境の大きな問題の一つでもある。電気エネルギーを作り出すためには発電所で原子力エネルギーを使い、石油を燃やしている。 米国EPA環境保全局の統計によると、照明に使われている電気エネルギーの50%が節減可能だ。そのデータによると年間で次に示す費用と排気ガスの削減が可能だ;
    1. 費用の削減:186億ドル(約2兆円)
    2. 二酸化炭素の削減:232百万トン(車に換算し42百万台)
    3. 二酸化硫黄の削減:120万トン
    4. 二酸化窒素の削減:100万トン
    注:このデータは屋内照明も考慮した値なので注意。

    我が国の統計が公表されていないが、米国に比べて、電力コストが約三倍、総人口が約三分の一であることを考えれば、同様の費用を無駄にし、排気ガスもその約三分の一を送り出していることは容易に想像がつく。2兆円といえば、日本の国家予算の約3%に相当する。これだけの膨大な費用を無駄にし、環境の劣化を促進していることを誰も気付いていないのが現実だ。

    また、夜間の景観にふれるならば、照明器具から出るギラギラした光が夜間の景観を台無しにしている。照明はランプそのものを演出するために設置されることは、特別の場合と考えて良い。グローブ型の照明具が街灯、夜間灯、防犯灯を目的として使われるなら、照明される対象をより良く見えるようにすることが大切で、眩しさもギラギラも防ぐべきであろう。

    水銀灯の効率

    屋外照明に使われているランプの大半が水銀灯を使っている。現在では、水銀灯より効率のよいランプの選択が可能になっている。あまり耳にしない名前かもしれないが、メタルハライドランプ(効率約2倍)、高圧ナトリウムランプ(効率2.5倍)、低圧ナトリウムランプ(効率3倍)等がある。
    それぞれ価格、寿命が違うので単純な比較は出来ないのは勿論である。ここでは最後に効率の良いランプを使った照明具が手に入る事を想定して、どれだけのメリットがあるかを最後に検討してみたい。

    照明の改善の提案

    写真−2に見られるグローブ型の照明を適切な傘を取り付けたもので置き換えるとすると必要なワット数はそれだけで約3割小さくできる。適切な傘を付け、照明が本来求められている地上を明るく照らし、グレアゾーン(70-90度)の光を遮蔽する事は技術的に難しい事ではないし、器具のコストを上昇させることもない。そのような製品は、フルカットオフの照明として市場に出ているがまだ多くは普及していない。

    同時にもし効率が二倍良いメタルハライドランプを使うなら200ワットx0.7 x 0.5=70ワットのランプを使うことで水銀灯と同じだけの光量を確保し、グレアのない質の良い照明を実現できる。もっと効率の良い低圧ナトリウムランプを使えるなら、50ワットのランプで充分となる。

    以上を工夫するだけで、消費電力は1/3〜1/4となる。これを日本全国に展開することが出来れば、それだけで屋外照明にかかる4千億円以上の費用を削減できることになる。また、環境に対する影響も同様に1/3〜1/4となる。屋内照明についても同様な改善が可能だ。

    誰もが利を得る改善ではないだろうか。

    最後に残念ながら、この条件に合う照明器具は大変少ない。照明器具メーカーの積極的な改善と、正しい照明の知識を持った上での照明の設置と管理が望まれる。


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