打上げは、構造重量比と排気速度という、二つのパラメータに、最終的には集約されます。そしてこの二つのパラメータを適切なものにしなければ、必要なデルタVを得ることはできません。
構造重量比とは、打上げ機の初期重量、つまり推進剤を満杯にした時の重さと、軌道上での最終的な質量の比です。
排気速度とは、エンジンから排出されるガスの速度です。推進剤の組み合わせで、以下の表のように変わってきます。
そしてデルタV、機体の速度増分が、第一宇宙速度(7.8km/s)に達しない場合、打上げは失敗します。
酸化剤 | 燃料 | 特性排気速度(m/sec) | 有効排気速度(m/sec) |
---|---|---|---|
酸素 | ヒドラジン | 1992 | / |
水素 | 2432 | 4410 | |
ケロシン | 1804 | 3300 | |
UDMH | 1864 | 3400 | |
四酸化二窒素 | ヒドラジン | 1782 | 3000 |
A-50 | 1745 | 2900 |
そして、デルタVは以下の式で求めることができます。
デルタV = 排気速度 × loge(初期重量/最終重量)
この数字には、大気抵抗も、大気圧による排気速度低下の影響も、重力の引きも考慮に入っていません。ですから、あとコレに大体1.5km/sはデルタVが必要となります。
タンクの容積は、
球の場合:容積 = (4/3)×π×半径3
円筒+球の場合:容積 = (π×半径2×高さ) + (4/3)×π×半径3
となります。そしてタンクの面積は、
球の場合:表面積 = 4×π×半径2
円筒+球の場合:表面積 = (2×π×半径×高さ) + 4×π×半径2
となります。構造の重さは、タンクの表面積におよそ比例します。そしてそこから、構造重量比が割り出せます。
物質 | 密度(g/cm2) |
---|---|
液体酸素/液体水素 | 0.32 |
液体酸素/ケロシン | 1.03 |
液体酸素/メタン | 0.83 |
四酸化二窒素/ヒドラジン | 1.22 |
アルミニウム | 2.69 |
鉄 | 7.86 |
チタン | 4.54 |
マグネシウム | 1.74 |
ベリリウム | 1.84 |
炭素繊維強化プラスティック | 1.60 |
上で求めた構造質量比は、ペイロードやエンジンの重さを考えに入れていません。そこで、その辺りを決めうちして、打上げ機の規模を出してみましょう。
エンジン | LE-7 | RD-170 | F-1 | SSME | Vulcan | NK-33 |
---|---|---|---|---|---|---|
重量(kg) | 1720 | 10663 | 7860 | 3177 | 1300 | 1408 |
有効排気速度(m/s) | 4370 | 3292 | 2979 | 4439 | 4214 | 3244 |
推力(ton) | 110 | 806 | 689 | 213 | 105 | 154 |
ここで、2段式にして、どの程度性能に改善がみられるか、みてみましょう。
打上げにおいて、最も加速度がかかるのは、一段目の燃焼が終わる(MECO:Main Engine Cut Off)直前です。一段目の強力なエンジンの推力が、一段目の推進剤を使いきって軽くなった機体を押し上げていきます。
そのときの加速度は、運動方程式ma=Fから求められます。
最大加速度 = エンジン推力 ÷ そのときの機体重量
飛行のどの時点においても、加速度が1gを超えていないと、落っこちる羽目になります。
軌道に乗ったところで、今度は月を目指してみましょう。
月の軌道に乗りかえる為には、円軌道である今の低軌道に外接し、円軌道である月の軌道に内接する、楕円の軌道に乗る必要があります。
そして、そのための軌道変更は、その楕円軌道に乗るときと、そして降りるとき、合計2回行わなくてはなりません。
このときに必要なデルタVは、以下の式から求めることができます。
楕円軌道に乗るときのデルタV = V1 × ((√((2 × 月の軌道半径)/(低軌道の軌道半径 + 月の軌道半径))) - 1)
楕円軌道から降りるときのデルタV = V2 × (√(1+((2 × 低軌道の軌道半径)/(低軌道の軌道半径 + 月の軌道半径)))
ただし、
G = 万有引力定数 = 6.672e-11
M = 地球の質量 = 5.974e24
V1 = √((GM)/低軌道の軌道半径)
V2 = √((GM)/月の軌道半径)
低軌道の高度は大体200km、地球の半径は6378km、そして月の軌道半径は384400km