先日、九州から上京してきた友人と、秋葉原を歩いた。目当ては、カッコイイPCケース。
しかし並ぶのは、白クリーム色の、前面に無意味なカーブがあしらわれた、統一感の無いディティールで飾られたケースばかり。足取りも絶望に重くなってゆく。
メーカー製品の格好も、個性と呼ぶにはあまりに悲しいものばかりだ。最悪なのは、丸みを帯びたタワーケース。大きい図体を曲面で膨らませ、上に物は置けないし、CD-ROMを使うのにいちいちプラスティックのシャッターを動かさないといけない。
そういう筐体設計は、大いなる勘違いの産物である。広い部屋の机の上で存在感を主張するスケッチは、プレゼンテーションの段階では確かに良い感じだったのだろうが、現実の光景、雑然とした部屋に妙な格好の異物がゴロンと転がる様は、全く棘でも生えていた方がマシなほどの邪魔物ぶりだ。
また、拡張部隠しのシャッターは、人が何故タワーケースを買うのか、理解していないことを意味している。DOS/Vタワーケース型PCの個性とは即ち、拡張性に他ならない。タワーケースは暗に、拡張空間の大きさと、それによる、ユーザーの手によって変化し、ゆらぐ、動的なイメージを表しているのだ。だから、前面デザインは、拡張性の大きさを誇示するものでなくてはならない。
一例を示そう。
このデザインは、CD-ROMドライブやDVD-ROMドライブ、ZipドライブやMOドライブといった、デザインも様々な機器を収納しながら、デザインに統一性を持たせ、同時に拡張性を誇示することを狙ったものである。
5インチベイを収納するサイズで統一し、各ベイをそれぞれ、フタで覆う。こういう、フタで隠すデザインはG3 Macで先行されてしまったので、仕方なく、このデザインでは横開きにした。フタ横のボタンを押すことで、バネと、微摺動軸受の組み合わせで、抑制の効いた速度でフタが開く。
良いデザインの機器があれば、フタなど要らないのだが、世間の機器は大体、デザインなどお構い無しだし、良いデザインの機器でも複数組み合わせれば、統一感が無ければ逆効果だし、大体、お買い得のナイス機器は、デザインもヘッタクレも無いのが普通である。
横開きフタの細部は、大体このようなものだろうか。
しかし、デザインと一般的に言う時、マルやサンカク、土饅頭のようだったり逆ピラミッドにしてみたり、というような極端なものを連想しがちであり、上のようなものは、前面だけの小手先のデザインであり、トータルなものでは無い、という意見があると思う。全く、そのとおりである。
だが、これは、ATXという基板規格を受け入れる以上、仕方の無いものである。デザインは小手先だけのものになってしまうのだ。
ATXは実装の位置を規定し、空間を予約する。それを仮に”ATX空間”と呼ぼう。
ATX空間は、ケースの後端に接し、拡張カードの幅を確実に占め、ケース上方に電源の位置を予約する。また、コネクタI/Oの並びと位置を規定しているため、床から高い位置のケース後端に、ある程度の広がりを予約することになる。
どんなケースも、この腰高で奇妙なカタチをしたATX空間を内包しなければならない。マルやサンカクでは、収まりが悪いどころではない。
ATX基板を使う限り、良いデザインのPCは存在しえないだろう。
ATX基板を使わない基板としては、小型のデスクトップPC、ブックサイズPCにノートパソコン用の基板が転用される事がある。
ノートパソコン用の基板も例に漏れず、各パーツの配置とその空間を予約してしまうのだが、空間効率を重視するノートパソコンのパーツをそのまま転用する限りは、中核部分を非常にコンパクトに納めることが出来る。妙な張り出しの無い予約空間は、デザインの自由度を大きく高める。
しかし、ノートパソコンのパーツの転用は、拡張性の放棄を意味することが多い。拡張性の放棄は、コンセプトイメージ重視でデザインを詰める上では絶対に欠かせない要素である。
だが、そこまでやっても、良いデザインのモノは、あまりに少ない。拡張性を無視すれば、PCデザインに対する制約は半分は消えるのだが、代わりに考慮しなくてはならなくなる要素が揃って無視されている。
例えば、背面に対する配慮が施されたPCは驚くほど少ない。また、持ち運びに対する配慮も、ボタンの押す向きやコネクタの位置も、もう少し考えて欲しい場合が多い。
液晶一体型デスクトップマシンを例に、具体的にどういうデザイン上の配慮が必要であるか、下に示そう。
金属(5mm径スチール丸棒)製の取っ手。握りは、刻み入りの黒ゴムパイプで覆う。ノートパソコンをベースにするなら、是非バッテリーを内蔵すべきだ。持ち運びが簡便になることのメリットは大きい。また、本体とディスプレイを一体とするのも、同一のメリットを狙ったものだ。
CD-ROMドライブの取り出しボタン。スチール板を曲げたレバーを上方から押す。ストロークは多少大きく、操作感のあるもの。横に押すボタンでは、こういう小さな機械だと、機械ごと動かしてしまうことがある。
I/Oポート。ターゲットユーザにもよるが、USBとIEEE1394しか無くとも問題は生じないだろう。キーボードもここを経由する。コストダウンよりも、取り廻しを重視すべきだ。
デスクトップと割り切れば、幅はある程度、A4ファイルサイズ級はあっても構わないだろう。3.5インチHDDが内蔵できるサイズだと、様々な点で便利かもしれない。
肝心なのは、背面デザインへの配慮である。こういう小さなデスクトップ機は、部屋の端に置くような使い方はしない。テーブル中央に置いて、周囲からじろじろ見られるような環境を想定すべきだ。
金属(5mm径スチール丸棒)製のスタンドと、スタンド角度固定用のスライダクランプ。すっきりしない、プラスチック製のスタンドは願い下げだ。
これも(2)番と同様の理由から、押し下げ式レバーのリリースボタンを持つ、PCカードスロット。位置は低め、電源コネクタのすぐ上である。
さて、基板が部品位置を決定し、同時にデザインの概略を決定するということを述べてきた訳だが、部品位置を縛らない基板というものは可能であろうか。基板と各部品をケーブルで繋ぐ、という答えもあるかもしれない。しかし、今以上にハーネスでぐちゃぐちゃにするのは願い下げにしたいものだ。
もうひとつの答えは、部品に基板を従属させる、というものだ。今後、動作クロックの向上に従って、基板中枢部の面積は小さくなっていく。この先、基板で一番大きな部品はコネクタという事になっていくだろう。こうなると中央に基板を置くより、複数の基板を分散した方が良いだろう。
例えば、各ドライブはディスクサーバのような形で、カードサイズPCにコントロールさせ、PCIバスコネクタもカードサイズPCの元に統合する。本当に速度が必要なデバイスは、演算中枢のある基板に密接させるしか無いのだから、どちらにせよ、すっきりした構成になる。機能毎に構成されたシステムは、ATXのように奇妙なパズルを組む必要が無い。
さて、次回(…)は、この線に沿って、真にカッコイイデザインを追求したいと思う。