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January,23,2000

「終わりなき平和」
著者:
ジョー・ホールドマン
出版社:
東京創元社
分類:
SF,文庫

中盤までは平坦ですがまぁ良いかな、と思っていたのですが、後半でなんと言うか、何故か「火星の虹」思い出してしまいました。かなり駄目っス。ナノマシンの扱いは単なる万能加工機械ですし。

また、”生産コストが下がって労働の必要性が薄れた社会”を描くのも、失敗していると思います。既に同様の社会状態に日本は片足突っ込んでいると思うので、もーちょっと示唆的な描写が欲しかったです。


結局、戦争も含めてヤバめの巨大科学の危険に対して、極端かつ空想的な解を提示した話だと思うのですが、今や巨大科学なんてロケットも含めて個人に手が届きそうだし、結局鉄砲の所持、更には小学生にナイフを持たせて良いのか、という話に収斂するのではないでしょうか。

多分、テクノロジーの応用に際して、手順と倫理を満足しなければ使えないように実装する、というのがよさげな方向だと思うのですが、そんな実装、可能なのでしょうか…

「ネットの中の島々 上下巻」
著者:
ブルース・スターリング
出版社:
早川書房
分類:
SF,文庫

「終わり無き平和」を読みながら、うんざりしながら、再び、何度となく、私の思いは一つのところへと戻ってゆきます。未来とはなんだろう。

2023年。2000年まで来てしまった我々にとって、それはもう”未来”ではないほどに近い。実際、作品中ではテクノロジーの驚異は薄いものです。

我々の現実認識は、最低限の未来予測を含んでいます。次の一瞬もこの世界が存在すること。明日が来ること。明日も会社に席があること。アニメがタイマー録画できること。半年後には倍の速さのCPUが出ること。歳を取ること。

そこから、SFの”未来”とは絶望的な断絶があります。この断絶は埋めようがないのでしょうか。その試みの数少ない成果が、この作品だと思っています。

断絶を埋めることを私は望みます。我々はもちょっと、長期的視野を持っていいと思うのです。宇宙開発に燃えるタイプの人間と、夢を聞かれて大きな液晶テレビとプレステ2が欲しいという人間とでは、その行動には大きな差が出ます。

SFが影響力を振るえるのは、ひとえに読者の将来計画にどのような影響を与えられるかによります。また、将来計画に影響を与えられないような代物の内容は、ファンタジーに近いことでしょう。

十年から三十年後。そこは可能性で溢れ、しかも予測可能であるのに見放されている地平です。そして、今すぐにでも物事を根本から覆せる技術がゴロゴロしているのです。

「猫の地球儀-焔の章-」
著者:
秋山瑞人
出版社:
メディアワークス
分類:
SF,文庫

滅多やたらとさりげなく濃いです。萌え抜き、泣き抜きなんですけど、ちょっとした離れ業です。

舞台は人間が死に絶えて700年後の地球周回軌道上のコロニー。コリオリ力に直接言及せず、その影響をさりげなく、きっちり描写するような、そういうスタイルと、妙なこだわりと、こっそり張り巡らされた伏線。風洞実験によさげな場面がありましたが、気がつきましたか?

文体は凝りすぎの感はあるものの、間違い無く巧く、設定は当初ウケを意識したにもかかわらず拘りが暴走したような、しかし隅々まで神経が行き届いています。

文句無しに、続編が楽しみなオススメです。

「報復兵器V2」
著者:
野木恵一
出版社:
光人社
分類:
ノンフィクション,文庫

燃えます。技術史、プレ宇宙開発史において極めて重要な、その後の世界をそっくり変えてしまったテクノロジーの誕生を描きます。

視点の確かさも有って読みどころの多い本ですが、特筆すべきは、”造りたくなる”点でしょう。実際、私は正月の間、エンジンの図面なんぞひいていました。

戦記ものと見えてその実は、宇宙開発本として一級の読み物です。お薦めします。

「SFマガジン2000年2月号」
出版社:
早川書房
分類:
SF,雑誌

贅沢な内容の号です。毎月、このボリュームの半分で良いから、カス無くまとめてくれれば、毎号買うのですが…

日本作家特集、まずメインは野尻抱介「蒼白の黒体輻射(前)」

「太陽の簒奪者」の続編です。私は万能機械としてのナノマシンは嫌いなのですが、今回のナノマシン描写には引き込まれるものがありました。但し、ディティール過剰という気も。思弁的な部分ももっと欲しい、と思いましたが、その辺は後編に期待。

林譲二「ウロボロスの波動(前)」は、描写は文句無しにハード。但し、AIに関しては非常に後ろ向きな描写です。

森岡浩之「牢獄」は、丁寧な”被験者”描写と平行に、レム的な思弁、それも議論されているものより大きな問題のフレームが存在している辺りなど、読み解くと、面白い点が色々あります。題名が2重に効いた、良い作品だと思います。

さて、60年代SF特集ですが、やっぱハーラン・エリスンはイイッス。昔、「悔い改めよチクタクマン、とハークレインは言った」を立ち読みで済ませたことを、今再び後悔しています。

「死亡した宇宙飛行士」「フロストとベータ」は再読なので、衝撃はありませんが、何度読んでも鋭さは変わりません。しかし「たんぽぽ娘」名作…なんですか?

「エーアイ・ジャパン Vol,1」
出版社:
白夜書房
分類:
技術,ムック

「しかし、P-2とAIBOはショックだったなぁ。あれで家庭にロボットが入ってくるのも近いなぁって思ったね」

「いや、全然。

P-2はそれなりに感動したけど、AIBOはたかがサーボつきのファービーじゃん」

「そうかなぁ」

「家庭で仕事ができるロボットは、ものを壊さない能力が必要なんだ。壊せる力を持ちながら、状況を判断して、傷つけないよう行動を組み立てなきゃいけない。

工場と違って、人がいて、恐ろしい勢いで環境が変わる家庭では、動的に周辺の状況を検知しなくちゃいけない。逆にいえば、それさえ満たしていれば、ただの動力付きカートでも、面白い使い方ができると思うよ」

「うーん、つまんないなぁ」

「その辺りが、メイドロボとペットロボの違いだろうなぁ。AIBOは人を傷つけ得ないから成り立つんだ。待てよ…人型ペットロボ…あうっヤバすぎるぞ」

人工知能、ロボ、ポリゴンフィギュアと、わかるようでわからないくくりのムックです。どんな層をターゲットとしているのかはやはり謎。


”エネルギー自給型自律移動ロボット”は何と言うか、太陽電池で動くブランデンブルグの車です。更にもっと単純化できます。Cdsを使わず、太陽電池を別々の方向に向けて配置すれば、発生電流を見れば太陽方向はわかりますし、その電流センサ読み出しは充電制御に有効に使うことができます。大体、構体設計で最適太陽入射角を確保するという設計そのものが、移動するという大前提と基本的に相反しています。

モータ制御は定番のTA7291。ここ自作すれば、効率上がるのになぁ。あと、キャタピラは文句無しにペケ。至る所でせっかく稼いだ貴重な電力をザルのように漏らしていて、設計をもちょっと考えるべきでしょう。


「ギャルゲーにみるAIとフレーム問題」は、私の考え方と一致する部分もあって興味深かったです。但し、フレーム問題は結局、ライブラリ構築の問題であり、面白いものの、現実に構築する前から空論吐いているとしか思えません。ゲーム内のような完璧な閉空間でこそ、初期のAIの産業的応用が見こめると、私は思っているので、フレーム問題は問題じゃないんです。世界構築そのものが恐らく、AIの構築とは等価なのです。


いわゆるデジタルフィギュアでは、野田さんのHumanMDLの影響がまだ見られない記事だなぁ、そう感じました。デジタルフィギュアは、静的なビューアで見て満足している限り、発展はありません。可能性は”動き”です。

HUmanMDLの利点は、高速で適切な補完のおかげで、ポーズ入力点の数を大幅に減らしている点です。これがジェスチャデータの作りやすさ、小ささに繋がっています。

こないだ野田さんと話していたのですが、秋月で売っている加速度センサで、モーションキャプチャできないものでしょうか。ポーズ入力は大抵モーションの頂点で、そこでは加速度が発生します。必要な分だけセンサを身体に配置し、単純な産業用シリアルバスで接続します。多分、頻繁な基準点出しが必要となりますが、この手法の有効性を削ぐものではないでしょう。こうして作ったジェスチャデータはメールに添付しても楽しいでしょう。HumanMDLデータの大半はサンプルデータと同じ構造を今でも持っており、同じ動きを違うモデルで共有可能です。

これまで、モーションキャプチャのコストは高く、そのため、格ゲーやムービーのポーズ採集にしか使われてきませんでした。しかし、これを劇的にコストを下げる(五万円以内で出来ると思う)ことにより、例えば、ツッコミのような、しょうもないモーションを採集することも経済的に可能となります。コストダウンは、デジタルフィギュアの表現の可能性を大幅に広げるでしょう。


それと、乳揺れでボーンを使うのは誤った手法です。こういう場合、有限要素法を使いましょう。そうすれば、間違いであるばかりか、必要以上に複雑な手法を使うこともありません。また、せっかくOpenGLを使うのなら、NURBSを使いましょう。NURBSをサポートしたモデラは産業用途の他にはまだ無いですが、テクノロジー自体は、ずっとすぐそばに転がっているのです。


このように、わりと底の浅い記事が目立ちますが、アタマのモノクロページ34Pまでは非常に良いまとめ方しています。面白いので、続いて欲しいものです。

「プラニバース」
著者:
A・K・デュードニー
出版社:
工作舎
分類:
趣味,ハードカバー

「順列都市」読んで、また読みたくなりました。

二次元世界ものの最高峰です。始祖アボットの「フラットランド」は勿論必読なのですが、それを超えてきっちりした考察を積めていくことで、設定をシミュレーションの域にまで高めることによって、独自の地位を築いている本です。

「順列都市」で連想したのは、原子レベルからシミュレーションを始めている点でしょうか。二次元世界でも質量と万有引力の逆二乗則が成り立つなら、物質は空間内で、円形に固まるでしょう。それが惑星であり、地表は、我々の地図が二次元で記述されるように、一次元の長さをもって連なるでしょう。

そこに住む知的存在は、身体の両側に二本ずつの計4本の腕、そしてファスナーのように綴じる腹腔を持つ、われわれと同じような、だが二次元世界の制約を持つ家族、文化、科学技術を持った、アルデ人。我々は彼等の生活を、文字通り側面から眺めてゆきます。

さて、二次元があるなら一次元もあるのでは、と思ったヒト、貴方は鋭い。勿論、ありえるでしょう。しかしそれは文字通り、絵になりません。でも、コンピュータでシミュレートするなら、単純な方が良いでしょう。だからそう、「順列都市」では、一次元でシミュレーションすべきだったのではないでしょうか。…でも絵にならないからなぁ。

「新教養主義宣言」
著者:
山形浩生
出版社:
晶文社
分類:
趣味,ハードカバー

十年経つと、この本の内容のかなりの部分が意味を失うのではないかと思われます。特に情報処理とかネットとかの辺り。書評や金融関連はなんとなく、持ちそうな気もしますが、それも私に金融に関する知識の持ち合わせが無いからだし。

情報処理に関する文章で、生産性イコール意思決定の速さ、としているのが何とも。シミュレーションの質というものを無視するとそういう話になります。私は本気でGHzマシンを欲しがっているのですが、それは今よりふたケタ以上規模の大きいロジックのシミュレーションに投入したいからです。

また、民主主義に関する論には根拠と目的がいづれも欠如しています。政治というものに関してはっきりした定義を持たないため、その提案は面白いものの場当たりの域を出ません。ま、私の提案もどっこいどっこいなのですが…

根拠が示されていないのは、読者の共感をあてにしているからで、文学や雑誌掲載のコラムの手法としては問題は無いのですが、十年後の読者の共感はあてにはできません。

あと、なんかしているとコンピュータが直る、というのは大抵、接地の取り方が甘いからで、触った身体をアースにさらっと放電したのです。ロジックの動作電圧が低下し、速度が向上するほど、この傾向は増大するでしょう。ブラックボックスを良しとするのは、無教養の始まりです。

私のページを読むような変人にはお薦めしません。代わりに、周りの、まるでわかっていない奴等に読ませましょう。読みやすく、文句無しに面白い(内容については別)ので、贈答品としても喜ばれるでしょう。

「P.G.CHRONICLE」
著者:
CHOCO
分類:
画集,同人誌

デザインとしてトータルに造り込まれた、完成度が読むものを圧倒する同人誌です。

「PureGirl」誌の表紙を飾ったイラスト群は素晴らしく、しかし、物足りなさを覚えるのは何故かと思ったとき、表紙としての完成イメージ優先の絵なのだと気づきました。

そこまで表紙は造り込まれています。ポップカルチャーの知られざる金字塔の一つと評価して良いと思います。

その評価の際に、忘れられることの絶対に無いキィワードが一つあることでしょう。

「ハイエンド」それは多分、意味を問われたとき、旧「PureGirl」誌の表紙を指せば事足りる、例えるならサイバーパンクとニューロマンサーの関係のような、そんな概念です。

現代の大抵のスタイルが、テクノロジーの進歩によって起こるように、ハイエンドもDTP技術と密接な関連を持っています。最終アウトプットに近いものをデザイン可能となったとき、高度なデザインが可能な能力に到達したとき、高いレベルの評価者を意識したデザイン。私のハイエンドの定義はそんなものです。

私がそれを知ったときには、それは終わっていました。大抵のことはそんなもの。でも、いや、だから、勝手に論じます。忘れられないものが、ここにあるから。


あと、やっぱ有人宇宙機バンザーイ!!

「AXIS vol,83」
出版社:
アクシスパブリッシング
分類:
趣味,雑誌

私が去年買った電動髭剃りは、清潔感の有るアルミニウムシルバーと透明感の有る、だが遠目には艶消しの紺色を組み合わせた、デザイン優先のものでしたが、ウリはもう一つありました。刃の部分をワンタッチで開いて、そのまま水洗いできたのです。

この”ワンタッチ”が曲者でした。髭剃りに加わる衝撃の大きさと角度によっては、そう、床に不用意に転がしただけで刃が開き、剃った毛が塵のように散らばるのです。これでは鞄に入れることすら出来ません。これは明らかに欠陥デザインです。


特集は日本のデザインプロトタイピングです。

しかし、実際のところプロトタイプのデザインは、素材の加工しやすさによって相当のところ決まってくるように思えます。例え製品では合金ダイキャストが使われるとしても、アクリルの平面やエッジがデザインを支配しているし、ハーネスが中を通らないようなスイングアームが鎌首をもたげています。それ以前に、この手の雑誌でしかもはや見かけないような、専門学校生の卒業製作のような、市場価値の無いデザインラインが必ず顔を出すのは何故でしょう。最悪なのがNEC。売る気あるのでしょうか?

機能を持たないプロトタイプは、時としてあまりにアホな代物になります。使い勝手とは、手に持ったときの指の位置より、ずっと測りづらいものです。見栄えだけでデザインを測ると、痛い目をみます。

日本のインハウスデザインは、未だあまりに低いレベルにあるのです。

あと、ソニーデザインは、レベルは高いのですが、思想がなんかヤです。連中に兵器をデザインさせたら、ソニーロゴ付きの零戦と一式陸攻を造ってくるでしょう。ワンショットライターを。

「日経サイエンス2000年1月号」
出版社:
日経サイエンス社
分類:
科学,雑誌

特集はエウロパの海。厚さ10kmの氷の下の、膨大な液体の水。即ちそこは氷点より暖かい、生命を宿す条件のうち、最大のものを幾つかクリアした場所だ。しかし、どうやって探査したものか。どんな探査機を作ったものか。”海”には到達したいなぁ。

「空飛ぶ自動車」はどうも駄目らしい。「回避された地球の破滅」面白いです。「進む超小型ロケット」はかなり悔しかったです。15ニュートンかぁ。ピクルス瓶ほどのエンジンなら、自分も図面を引いてみたけど、実際に作りたいなぁ。このサイズなら、改善のために多数を作ることも容易で、本気でかかれば本当に良いものが出来ると思うのです。

「電波オデッセイ #4」
著者:
永野のりこ
出版社:
アスペクト
分類:
漫画,単行本

季節は変わり、いろんなことが起きた。あの季節のさまざまなものが遠くに去り、少年の自意識は青春のなかに飛び込んでいた。ところでそんな服がカッコイイと思うのかい、キタモリ君?

でもね、制服を着替えただけじゃ、実は一歩も進んでいないんだよ。だから、少年達の傍らを、一人の少女が走っていく。ちいさな灯り目指して、物語は最後に駆け出す。


傷ついた、あまりにも若い旅人達の放浪は、まだ続きます。

「アワーズ2000」
出版社:
少年画報社
分類:
漫画,雑誌

クリスマス物の漫画を集めた特別編集誌です。次号は二月、勿論バレンタイン物で一杯です。表紙が安森然。巧いけど、雑誌のカラー考えると、明らかに間違っているのでは。しかしアワーズの増刊とは。出世したなぁ。

中身はその手で一杯です。うっ、うわぁーん、みんなしてボクをいじめるぅ。

…えーと、読みどころはまず伊藤明弘「流れ星凶状旅」紅の流れ星外伝その二、というところ。この短い(8p)作品は、単純な筋ながら凝った絵作りをしていて、なかなか読ませます。

会話のテンポ(「紅の流れ星ッ!」「何でぃッ!」「死ねやぁぁッッ!」)、構図(銃を構える男達、梅崎、効果線が増えていって、そして次の見開き2ページはセリフ無し、銃声で溢れて)、そして、流れ星的な結構しょうもないオチ。

犬上すくね「愛しのリボンちゃん」は凶悪。破壊力大。ぐはぁ。そして掘り出し物はおがきちか「仔羊は迷わない」目の描写以外は全てかなり良し。アホくさい虚構を心地よい説得力で包む腕は買いです。今後の期待大。

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