人類は地球外知性の存在を知った。
地球外知性による太陽系改変。それは侵略でも、コンタクトですら無かった。水星を材料にその軌道の内側に建造されてゆくリングは、やがて地球から日照を削ってゆく。そのわずかな日照変化が人類文明を滅ぼそうとしていた。
リング、そしてやがて訪れる地球外知性に対して、人類の対応は否応無しに軍事的精彩を帯びてゆく。相手の意図、意図そのものの有無に関わらず。
ミサイルか、コンタクトか。断絶に橋掛けるものは……
文句無しにお薦めします。
”SFファンなら読め”と言って良い内容です。自分の評価は偏っているので、客観的にどのような評価がされるかは予想が付き難いのですが、傑作と呼んでも間違いではないでしょう。
アイディア、思弁、語り、全てが高い水準です。第1部にあたる部分が発表された当時に感じた疑問も解消されています。
野尻抱介作品には珍しい軍事ハードウェア描写も、読み応えのある内容が、コンタクトという主題に相応しい位置で扱われています。
異星知性のありかた、そして人工知性についての部分は、理解が難しい、描き方が不充分だと考える読者がいるかも知れません。私自身は、興味深い話題が数多く盛り込まれているお陰で、非常に楽しめました。
「太陽の簒奪者」で議論になるとすれば、やはり知性に関してでしょう。ネタバレは避けますが、やっぱ異論はあります。
知性とは。コミュニケーションとは。SFファンなら、こういう話題で議論したいものです。
全四巻。あう。
すらすらと読めました。戦時中と現在の二つの時間軸をいったりきたりしますが、混乱無く読めます。巧いとは思います。但し、ある程度の予備知識は必須でしょう。
まず、最低限の数学。数列と確率はある程度思い出しておいた方が良いでしょう。暗号に関しては、「踊る人形」か「黄金虫」読んでいるのが最低ライン、シーザー暗号といえば昔のNetscape Communicatorのメーラには無意味にrot13が実装されていたものです。出来ればRSAと落とし戸関数についての知識も。1巻目では出てきませんでしたが、どうせすぐ出て来ます。教養としてSSLとSSHについても知っておくと良いと思います。
情報源としては、大野典宏氏のページをお薦めします。パープル暗号にについては、以前アスキー誌にその詳細が載っていたと思うのですが、掘り出せませんでした。
コンピュータ史の知識がある程度あれば、主人公がアタナソフとベリーに出会うところでにんまりするでしょう。本文中では過小評価されていますが、1941年のアタナソフの機械は、立派なチューリングマシンです。
特殊部隊絡みの描写は、直前に「暗闇の戦士たち」マーティン・C・アロステギ 朝日文庫 を読んでいたので、違和感がありました。SASは創設最初の任務から1年足らず、この時期はまだゲリラ的攻撃任務以外の任務を想定していなかった筈です。OSSあたりと混同したものと思われます。
当然ですがキナクタ島もその王国も存在しません。外及び内クフルム島も存在しません。旧日本軍の大型防空壕については、実家の裏手に西部軍司令部壕跡なんてあったから一家言あります。例えば、戦後すぐ地元民によって銅線一本残さず略奪される筈だとか。
アスキー32バイトのパスフレーズを携帯で、音声モードで送るってのもどうかと。GSMは安全だとか思っているのでしょうか。アメリカ人は本当に、エシュロンについて何とも思っていないんだなぁ。あ、エシュロンは今後出てくるのか。
あと、聞き間違いに対処するために、フォネテッック・コードを用いるべきでしょう。暗号を扱いながら、誤り訂正について無頓着というのも変な話です。
自分だったら、絵葉書のようなつまらないやりとりに画像ファイルを添付して、そこに実際のメッセージを隠しますね。意図の秘匿が重要です。意図の秘匿というと、Wares絡みのファイル偽装技術なんかも面白いですね。
BeOSの名前が平気で出てくる癖に、IBMやLinuxという固有名詞を避けているのは、そのうち話の本筋に絡むからだと想像します。
「重力の虹」ほど読みづらい訳ではありませんが、なんとなく先が読める話です。暇つぶしにはお薦めかも知れません。
「ねぇ、美袋さんてミステリを書くんでしょう」
「そうだけど」
「読みたいな。なんてタイトルなの」
わたしはおそらくいちばん無難と思うタイトルを云った。祐美子はふぅんと頷いていたが、下山後も覚えているかどうかは怪しかった。
「それじゃ、実際の事件なんかも解決したりするの」
寝転がって本書を読んでいた男が、ここで上体を起こし、黙って片眉を吊り上げたまま、壁に勢い良く文庫本を叩きつけるところを想像して頂きたい。
ミステリ作家が事件を解決する、それはどこのファンタジーワールドの話ですか?
この程度で新本格ミステリというジャンルを個人的に断罪し、ミニ焚書に処すのもナンだ、と思い直します。有栖川何たらとかも読まないと駄目か。
「神は銃弾」再読直後に読む本じゃありませんでした。ゴールデンウィーク用に買い込んだブツでしたが、短編集ってことでチョイスした、いや本当は元長柾木繋がりでチョイスしたブツでしたが、大いに後悔しました。
でも、全部読みます。
一般的に、ミステリとは反社会的な、非道徳的な代物です。殺人は付き物ですし、評判が良いものではそれが連続して起こります。殺人に際して凝らされた趣向を読み解くことでクライマックスは訪れ、取って付けたような涙頂戴で幕が降ります。
大半のミステリでは、殺人を起こす原因となった真の問題から目を逸らし、殺人の趣向とその実行者の同定のみを問題とします。その”解決”は、真の解決では無いのに、逆にそこから逃げるために、真の問題にあたるものを薄っぺらくする、という逆転が存在しています。
真の問題から目を逸らし、問題を薄っぺらく誤魔化してしまう、現代の風潮の一端をミステリが担っているのではと、私は疑念を覚えます。
でも、私は何も、ミステリは存在してはならない、等と言う気はありません。ただ、「はじめてのおるすばん」程度には反社会的であると、そう思うのです。
こんなものが昼間っから映像化されて公共の電波に乗せて、娯楽として提供されていることには疑念を覚えます。そして、ここまであからさまに反社会的な代物が、平然と社会の中に溶け込んでいることに、その意味に強い興味を抱いています。
本書の内容ですが、個人的には酷いものだと思います。
相変わらずの内容は、温泉で殺人事件が勃発したり、鉄道で殺人事件が勃発したり、現実の探偵とは大違いの変人が偉いカオしたり、大体殺人犯が七面倒なトリックを施すという前提をどうかしてくれ、と思いますが、いきなり妹が12人できる設定よりかは幾分マシ、ママティーチャーとどっこいどっこいなので、許容しましょう。
著者はオッカムの剃刀という言葉をよく噛み締めて欲しい、そう思います。リアリティからかけ離れた”事実”に依存して出来るのは、不自然な物語です。あと、”ジェット・ストリーム・アタックのように”という形容はどうかと。”「死兆星とは風流ですね」”というセリフもどうかと。
でも、”チャンドラーの「簡単な殺人法」を般若心経みたく書き写せ”等とは主張しないでおこうと思います。猫耳好きやロリペド趣味と同じ、理解できないからといって否定しちゃいけないよな。
特集「2020:A SPACE ODYSSEY」現在から将来にかけての宇宙開発についての特集です。
非常によく纏められた内容で、色々とツッコみどころはあるものの、価格とあわせて、広く読むことを薦められる記事でした。
特集の軸は月面ツアーで、ルナクルーズプロジェクト(いかがわしいさ満点の謎団体)のものを叩き台にしているせいで、へんてこな月往復船が出てきたりしています。月ホテルも現実味が薄いですし、マスドライバでの月面移動手段あたりの内容も大嘘(ちょっと面白いが、加減速を考えていない)ですし、ゼネコンの月ホテル構想も、手垢でどす黒いものしかありません。
それ以外の内容は非常に面白く、特に宇宙遊泳、宇宙食、月面名所、景観、トイレ、デザイン、打ち上げ見物記と、ヴィジュアルとあわせて、素直でわかりやすいものになっています。どうもNASAの古いロゴが散在するのはご愛敬。
ふじ有人宇宙機計画も、小さいながら取り上げられています。内容はちゃんと伝えてはいるものの、同じページ、斜め上に大きく、翼付きが月まで変な軌道遷移しようとしている絵があるのが萎えます。ふじなら2010年には月周回へ人間を送りこめるのに、2020年の「本気で」というセリフは、その本気度を測りかねます。この2020年って、199X年とか1984年とか2001年とか、そういう架空指標なのでしょうか。現実の時間軸の一点を指しているとはとても思えません。
過去に関してはほとんど切り捨てています。実はこれ高く評価しています。
ダンヒルの革バッグを船外服の外に担ぐような、一連の記事はアホ丸出しで、面白いといえば面白かったです。
面白いのは、内容が、個人で買えること、個人で体験できることに絞りきってあることです。読者の関心を、消費という軸のみに纏めています。ちょいと新鮮でした。
もっとも、この雑誌そのものが、消費情報誌と形容するしか無い代物です。この雑誌の読者は、消費するものにしか趣味、娯楽の対象が存在しないようなタイプだと推定されます。自分の背中に”マーケティングターゲット”とボールド体で書かれていても気にしない、そういう読者が多いんだなぁ。
脈絡無く思ったのですが、理系が生産の技術だとすれば、文系は消費の技術ではないかと。消費の技術があることを否定はしません。生産側はもっと消費側に立ったものづくりをすべきだと思います。
でも、消費するだけの視点というのも、実態と遊離した薀蓄、グッズの羅列、受動的関心、どうにもイヤな感じがします。正直に言えば嫌悪の対象です。
生産側にコミットし、積極的関心を誘起する消費技術というのもあると思うのです。
特集「才能の殺し方生かし方」は非常に読む価値が高く、考えさせられました。
コピーコントロールCDの出てくる真の背景が明瞭になります。
単純にまとめれば、現在、音楽マーケットではお金を宣伝広告に注ぎ込み、短期的に大きな利益を得るビジネス手法しかありません。一般的なコミュニケーションでも、正論より大声をあげるものが勝ちやすいのと同じで、宣伝をジャンジャン流せば、内容がどんなものであろうと、消費者は買うのです。
宣伝に注ぎ込むお金は次第に大きくなってゆきます。これは人間が刺激的環境にいつかは慣れてしまう為です。同種同程度の対刺激反応を維持しようとすれば、刺激の大きさを対数的に増やさないといけません。
だから、元の取れそうなミュージシャンしかCDを出せません。特集の題はこの現象を指しています。多くのミュージシャンが作品を発表できないのです。記事では、新人デビューは10年間で1/4に減少しているといいます。
商品としてみた場合、ロックバンドはどんなに才能があっても、売れ始めるまで3年かかります。アイドルはそんなにお金が掛からないし、短期で利益がのぞめます。こんな事情が、現在の音楽シーンを形作っているのです。
これは憂うべき問題ですが、音楽業界の憂いは全く別の所が原因です。売上が落ちているのです。
広告費注ぎ込むだけで元を取ろうとする構図がおかしいのですが、CD-Rによるコピーに原因を求めてしまったのが、コピーコントロールCDの出現理由だった訳です。
これは、もうひとつの問題が存在していることを暗示しています。どんなに売れてもアーティストには8%程度しか利益は還元されません。著作権者の利益保護なんて、92%は嘘なんです。
記事では、インディースこそ問題への答えだとしています。これは大いに頷ける意見です。広告などなくても、聞きたい奴には音楽は届くのです。
しかし、更にその先の展望があります。CDを出すコストの3/4を占める宣伝と流通の費用をばっさり削るのです。
自分だったら、ネットラジオを使います。ターゲットは、可処分所得が多く、しかし音楽視聴から離れてしまった20代後半から30代です。まずは懐かしアニソンのチャンネルで引き寄せ、チャンネル内広告により、自分の好みのジャンルを再発見してもらいます。
低レートオーディオストリームに我慢ができなくなったら、アルバムをネット上から注文してもらいます。郵便なり宅配便を用いることで、流通のコストは大幅に減らせます。
コピーコントロールCDのやりかたとは逆に、番組では積極的に高音質に対する信仰を植えつけていきます。ピュアオーディオへのこだわりとか、良いヘッドフォン等を宣伝することで、低レートオーディオではない、アルバムの価値をつくりあげるのです。
一番効果が望めるのは、やはり自前レーベルのアーティストでしょう。ファンサイトのスペースを用意し、ファンとアーティストとの結びつき、コミュニティを形成することで著作権侵害への心理的障壁を形成します。また、コミュニティのメンバが自発的に友人に勧めていく、コミュニティマーケティングの効果が望めます。
アルバム出荷量が少ないならCD-Rで焼いて生産しても良いでしょう。売上が大きくなったらプレスに切りかえるのです。
コピー対策としてのCD-Rというのもあると思います。1枚づつに違うシリアルナンバーを焼き込むのです。通販オンリーなら、購入者とシリアルを一対一対応させる事ができます。
もっともお金がかかるのは、サーバの維持費でしょうが、2ちゃんねるの去年の夏時点での回線費用が月700万円、というあたりですから、これは見込みがあるのではないでしょうか。
他の記事も、わりと面白く読めました。底が浅いと感じる部分もありましたから、全般的に底が浅いのだと思いますが、その分客観性は高いと思います。
しかし、基本的にマーケティングが幅を利かせる世界で、しかも売り物がショボいと、猛烈に悲しいですね。
通巻300号ということで、別冊付録として1975年の記事「マイクロプロセッサのすべて」が、フォントもそのままに収録してあります。
「マイクロコンピュータの動向と展望」は8080までですが、普段なら単純なブロックで示されてしまうプロセッサの細部が、極めて細かい内容まで描かれています。4004のブロック図を見て、これなら作れると思った人も多いのではないでしょうか。
「マイクロコンピュータ・アーキテクチャの諸問題」は、諸問題というより、使い方の話ですが、シフトレジスタがROMやRAMと同列に並べられているのが歴史を感じさせます。
筆者も内容も、歴史的に非常に価値の高い内容です。
で、本特集の「これでわかる!マイクロプロセッサのしくみ」初学者向けですが、非常に良い内容です。
「試作評価用PCカードを使ったパラレルI/Oカードの設計/製作」コレ、是非とも使いたい逸品です。種子島でのノートパソコンペースでの衛星チェックアウトとかに使えたらなぁ。宇宙用機器に来栖川電工製品を使うのは、私の夢の一つですが、この辺りからコツコツと。
変なねーちゃんが変なコトに巻き込まれる、そういうお話。
そういう捉え方もできる。いや、そういうのが普通。でもさ、完璧フツー、ってのも、ちょっと怖い。私達はどこかしら変なんだけど、それを隠して生きている。
隠されたものから、目をそむけながら。
奥瀬サキの原作も、目黒三吉の絵も良い感じの第3巻です。収録2話目「ヒルガオ」など特に細部と見せ方が見事です。あと眼鏡っことか。
寝ているうちに、妖精さんが助けてくれないかなぁ。
疲れ果てた人々の、そんな夢うつつのうちに、奇跡は舞い降ります。
どんな、どんな人のもとにも……
かわいい小人さんが、どうしたことか邪悪なブツ製作に手を貸す羽目に、というお話なのですが、一度激漫誌上で円満連載終了したのを、現在アワーズ別冊で再び連載開始しての単行本です。
ですから、アワーズ別冊掲載のエピソードと、激漫掲載のエピソードがごっちゃになっています。でも違和感無し。局部描写の有無で見分けましょう。
内容についてはワンパターン、黒い小ネタが好きな人以外にはお薦めしません。私は、ラストをどうやって締めるのか、激漫版のラストを使うのかに興味が。
ワルドカップ開催を記念して、アディダス協賛、やたらと豪華な国際メンバーのアンソロジーです。あ、コレ「Error」別冊、あの雑誌まだ生きていたのか。
井上雄彦、松本大洋、大友克洋、谷口ジロー、寺田克也、安彦良和、岡野玲子、上條淳士、黒田硫黄、矢沢あい、D [di:]、吉野朔美、田島昭宇、小畑健、浅田弘幸、荒木飛呂彦、山田芳裕、西村しのぶ、横山宏、楠本まき、フランソワ・ブック、マックス・カバンヌ、ニコラ・ド・クレシー、フランソワ・シュイテン&ブノワ・ペータース、フレデリック・ボワレ、ペンソン、ヨンスン・ヤン。うわ。
それらしいのは、巻頭の井上雄彦、「三重県の少年」松本大洋、何か2chで見たネタのような気がする吉野朔美、そしてマックス・カバンヌ。なにぶんにも短いので、唸るような作品はありませんでした。
どう描いても荒木飛呂彦は荒木飛呂彦、山田芳裕は山田芳裕。逆に、田島昭宇と浅田弘幸と小畑健の合作があるのですが、絵柄に違和感が無さ過ぎます。最初、気がつきませんでした。
サッカーなんてちっとも関係無いのが、寺田克也、安彦良和、横山宏、黒田硫黄。私は横山宏目当てで買いました。「ロボットバトルV」ですが、昔の大判単行本のものと設定、筋は同じですが、昔の絵は二枚ほどしか見つけることができませんでした。新作と言って良いものです。
という訳で、サッカーとは全然関係ない言葉で締めようと思います。
やっぱ横山メカはかっちょえーなぁ。