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September,27,2004

「ケルベロス第五の首」
著者:
ジーン・ウルフ
出版社:
国書刊行会
分類:
SF,ハードカバー

いわば伝説的な存在だった作品です。神田三省堂にてようやく入手。

本書には”新しい太陽の書”四部作のような華麗な幻想性はありません。練り込まれた描写と視点のコントロールは素晴らしいものの、一読して高い評価を与える内容ではありません。本書は再読しなければその価値の大半を失います。

……さて、もう大体ネタバレいいよね……

以下にはネタバレを含みますが、実際のところ自分の読み解いたネタはごく限られたものであると推測されます。また、推測にすぎないことを強調しておきます。

  • 扉の上の隠し場所にあったのは、第五号らのものだけでなく、先代、先々代が置いていったものを含んでいる。それらの記憶が思い出せないのは当然である。
  • アボとはどういう種族なのか。基本的に人間であり、サント・アンヌの土着植物による薬物作用の影響の度合いによって分化した。
  • 第五号の”父”が殺されたとき、マーシュはどこに居たか。「ケルベロス第五の首」によれば殺害の前にそこを訪れているし、「V.R.T」によれば、訪れていない。訪れる前に逮捕されている。「V.R.T」のマーシュはV.R.Tであることは間違いないと思われる。しかし殺害前の会談に居合わせたマーシュは第五号からアボであるとみなされている。
  • しかし「ケルベロス第五の首」のマーシュはその後何処に行ったのか。物語終わりの時点の第五号はアボである可能性がある。第五号の刑期の環境は「V.R.T」で描かれた成り代わりのプロセスに似ている。V.R.Tとマーシュは自己を区別できないまま二人ともサント・クロアにやってきたのだろうか。
  • サント・クロアの支配層がアボである可能性について。士官は奴隷にナイフを使わせて梱包を解いた。テープの再生は自分で行なったが。
  • 奴隷制は、アボが道具を使わなくても問題が無いようにするために存続している可能性がある。

……とまぁ、こんな感じで、いくらでも遊べます。

「SFマガジン 2004年10月号」
出版社:
早川書房
分類:
SF,雑誌

わーい、ジーン・ウルフが一杯!!

……いきなりこんなに一杯出てきても、困ってしまいます。

「SFマガジン 2004年11月号」
出版社:
早川書房
分類:
SF,雑誌

マイクル・スワンウィックの作品が載ってるよ!

……2ページに満たないや。

「象られた力」
著者:
飛浩隆
出版社:
早川書房
分類:
SF,文庫

うまい。

飛浩隆という名前は、「デュオ」という作品の名前と共に心のどこかにありました。こういう作品だったとは。他の作品も秀逸。ディティールと物語展開との噛み合わせ方が抜群です。序盤は冴えないのですが、物語中盤でさらりと違う視点を提示するのが巧い。巧い作品はそこから更に視点をひっくり返します。

読んでいる間は繰り出される多彩なイメージの提示で息継ぐ暇を与えません。ただ、物語はどれも終盤あたりで合理的整合性を失いがちなので、そこで醒めてしまうかもしれません。

とにかく巧い。お勧めです。

「食卓にビールを」
著者:
小林めぐみ
出版社:
富士見書房
分類:
SF,文庫

ネットで気になる書評を見て、何故かふらりと。

現役女子高生で人妻で作家の主人公が、ビールを飲んだり飲まなかったりします。物語は主人公の周囲で展開されますが、主人公はそれら物語の内容に一切関知しません。それはもうきっちりとスルー。

内容はとにかくのほほんと宇宙人がわらわらと。不条理に近い内容で、雰囲気は良いです。ただ、やっぱ未成年がビールたらふく飲んでいるのは気になります。太るぞ。

「計算機プログラムの構造と解釈 第二版」
著者:
ジェラルド・ジェイ・サスマン&ハロルド・エイブルソン&ジュリー・サスマン
出版社:
株式会社ピアソン・エデュケーション
分類:
コンピュータ,単行本

名著と伝え聞く本書をようやく購入。

本書はLisp方言の一種、Schemeを用いて、ソフトウェアがどのように動作するのかを説明する、MITの学生向け教材を一般向けに販売したものです。本書はScheme/lispの学習書としても第一級の評判を持っています。

例によって流し読みできない、精読必須の一冊です。序文がなんだか妙な塩梅だったのですが、あれは原文からそうだったのでしょうか。それとも訳のせいでしょうか。変です。

本書は、読者に一定のレベルを要求しますが、凄く良いです。強力過ぎる位。弊害有るんじゃなかろうかって位。しかしそれでもお勧めです。

「コンピュータの発明」
著者:
能澤徹
出版社:
テクノレヴュー社
分類:
コンピュータ,ハードカバー

旧ソ連のコンピュータ史、とてもとても面白いのですが、まあ最初から系統立てて整理していこうかと。「誰がコンピュータを発明したか」を読んで、著者の意見とは違う”条件分岐を発行した最初の機械が最初のコンピュータ”という結論に到達したのですが、本書でもほぼ同一の結論のようです。

本書は星野力「誰がコンピュータを創ったか」等の既出本に反駁し、正確な認識を広めることを意図したものであり、前コンピュータ期から初期のものまで、多くの機械のアーキテクチャについて踏み込んだ記述があり、命令体系についても、条件分岐を持つかどうか、全ての機械について調査が行なわれています。

本書は、最初のコンピュータは何かなんて議論とは別に、コンピュータとは何か、何がコンピュータたらしめているのか、そういう興味に非常に大きな示唆を与える一冊でしょう。コンピュータのアーキテクチャについて興味を持つ人には強くお勧めできる一冊です。

しかし、著者もしかしてハーバードアーキテクチャを知らないなんて、そんな訳が無いですよね……いや、著者経歴からすると汎用機人生だったらしいから、DSPとかについては詳しくないのかも。

あと、ハーバードアーキテクチャが実はバベッジの解析機関に祖を持つというのも収穫でした。ハーバードアーキテクチャの語源であるハーバード・マークIはバベッジの研究を参考にしたらしいです。つまり、解析機関はハーバード・アーキテクチャでした。

機械式コンピュータ作るなら、数値は歯車にデータを持たせるけど、命令は歯車である必要ないから分離してプーリーで、とか考えていたので、色々と頷けました。


本書のカバーする範囲の後の歴史にも興味があります。IBM704、7030、そして360。割り込みやキャッシュや仮想記憶の発明される経緯も面白いです。

「技術の文化史」
出版社:
株式会社アグネ
分類:
技術,ハードカバー

主に近代日本の技術史について、様々なトピック別に記事をまとめた、豊富な知見とバランスに富んだ好著です。高炉や織機はもちろん、工作機械や北海道の農業教育、鉄道トラス橋など、実にバラエティに富んだ内容です。

たたら炉の構造や幕末の電気技術も興味深かったのですが、特に興味深かったのが、昭和初期に日本の数箇所で使用された、農業用水の揚水用風車です。揚水用風車は昭和30年代まで、諏訪湖南、堺市、知多半島と渥美半島、千葉館山、そして茨城県土浦近郊、というか、つくばで使用されました。どれも木金混合で四角平板のブレードを持ち、諏訪湖南のものを除いて風向調整ができ、地元で生産されたものです。

つくばのものはほぼ全て木製で、増山式と呼ばれていました。最盛期には全部で一千台存在していたそうです。

また、北海道を中心に、発電用の小型風車”山田風車”が一万台存在したそうです。しかし現存するのはわずか1台程度だとか。ネットではどのような姿をしていたか、すら判りません。非常に残念です。


あと、こちらにも、日本のコンピュータ史についての記載がありました。日本の初期のコンピュータ史というと焦点は勿論パラメトロン。

パラメトロン、コモンモードチョークコイル使えば自作できそうです。まだ素子一つでしか試験していないので、入出力はちゃんとできるかわかりませんが。

そういえば、「計算機プログラムの構造と解釈 第二版」の訳者は、パラメトロン開発史に名前を残す一人、和田英一氏です。どっかで読んだのですが、バックスラッシュに円記号を割り当てた諸悪の根源だとか。

ソフトウェア史もきちんと調べないと、そろそろマズいでしょう。海外ではUnix史や言語史などよく整理されているようですが、日本ではどうでしょうか。……ソ連のソフトウェア史、資料無さ過ぎます。

「日本の宇宙開発への直言」
著者:
木全幹雄
出版社:
東京図書出版会
分類:
技術,単行本

数ページめくるだけで、中冨信夫著「日本の衛星はなぜ落ちるのか」を誉めている個所にぶつかり、それだけでマトモな本では無いと判るのですが、宇宙開発関係の邦書は出来る限り買うようにしているので、まあネタにと購入。

凄いです。中冨信夫に勝てる逸材です。

功を焦り、あるいはLaunching-windowの設定時間に追い立てられて、心ならずも十分に環境試験、耐久試験等を繰り返せなかったのではないか?

とか、

そもそもロケット、ミサイル、人工衛星という構造物は、非常に類似した複合体であり、むしろ飛翔体と一括呼称するのが適切である。

……ランチウンドウに追いたてられて試験ですか、衛星は飛翔体ですか……

1ページにこれだけ繰り出すのは反則です。ページをめくる度に、落ちたアゴを拾って嵌め直さないといけません。この調子で延々と珍説を開陳して頂けるのですが、これがもう、論旨不明というか、論旨が存在しません。ただ結論だけが存在しています。太字強調と感嘆符をたっぷり使った代物を最後まで読み通すのは骨でした。

その上、最後の「ズバリ!結論」なる項目(うわぁ……)には何も存在していません。検討が斜め下に45度ほど違う方向を向いています。


この調子でツッコんでいたら顎が持たないので、一般的な教訓を取り出してみましょう。

本書では、かいつまんで言えば、現場にスーパーマンを要求しています。トップにスーパ指導者を、現場にスーパー技能者を。

しかし、管理すべき範囲が半世紀前とは数桁違う現在の工学では、たとえスーパーマンでも不具合は無くなりません。判り易く言えば、”Lunuxをアセンブラで書け”と言っているようなものです。アセンブラ大好きライナス君だけでLinuxが出来ると思われちゃ困ります。こういう人物の要求は次第につり上がりますから、最後には現場に目からビームを出す事を要求しかねません。現場に霊感を要求しちゃお終いです。

あと、”魔性の領域”と呼称するものを根絶する事を要求しています。要するにチェック漏れなのですが、具体的手法に関する記述が無いので、与太に過ぎません。そして、他は全部まるごと与太でした。

現場に名職人、スーパープロフェッショナルを!というのはそれっぽく聞こえますが、こういう事を言う人間が品質管理に忍び込むだけで品質は破綻します。要するにそれは現場の95パーセントを放棄するに等しいのです。

本書の教訓とは、”品質、信頼性に関しても正しい教育が必要”だという点ですね。


信頼性とは試験です。試験しかありません。それだけなんです。

「プリント基板CAD EAGLE活用入門」
著者:
今野邦彦
出版社:
CQ出版
分類:
技術,単行本

最近プリント基板自作を始めて、丁度いいタイミングで本書が出ました。内容はトラ技の再録なのですが、トラ技は仕事場に置きっぱなしなので、自宅で手元に置いておくために買いました。

やってみると以外に難しくないものです。具体的にはココに書いたような手順で作業しました。その後開発した手法としては、パットを同じモノを二枚重ねて、上にエッチング液、下にお湯を入れて温度調節をやり易くする、というものがあります。最近はまたFoxを弄っています。

しかし、プリントパターンのデザインをアートワークとはよく言ったものです。

アートワーク、非常に面白いです。スルーホールをできるだけ無くすように、ベタアースを広く取るように、パスコンの配置に注意しながら、エッチングが綺麗に出来るよう配線間隔に注意しながら、綺麗に配線の位置を揃えて取り回します。アートと知的パズルの両側面を持ち、しかも作ったものが動くんです。

老後には是非、盆栽弄りなんかよりもアートワークやっていたいですね。知的な趣味として強く推奨します。

「AXIS 2004年10月号」
出版社:
株式会社アクシス
分類:
趣味,雑誌

特集「デザインに必要なもの」これで、デザイナー二人の対話形式の文章があるのですが、これがもう、読んでいて激しくもにょる代物でした。


バイオライトEON、という名前の卓上ランプについての記事がありました。バイオライトと言っても生物発光な訳ではありません。ただのハロゲンランプです。どうやら、蛍光灯と違ってちらつかず、目に優しいからエコロジーで、だからバイオだそうです。ふざけるな。

プラスチック外装の優美なデザインの卓上ランプですが、白色LEDの照明への可能性、特にデザインの自由についての可能性を知っている人間には、市場に出る前に骨董品となったモノへの哀しみしか見えません。今時の技術知ってる人間がどっかでブレーキ をかけていれば。

……ま、デザイナーが白色LEDのデザインを熟知するまで猶予があるのかも知れませんが。


極論ですが、良いデザインが欲しければ、産業デザインの現場から専業デザイナーを排除すべきです。そして技術者にしっかりとしたデザイン教育を施すべきです。

デザインは、テクノロジーの従属物です。デザインは、テクノロジーをいかに使うかについて、それを規定します。

デザインは、テクノロジーのインタフェイスです。デザインは、テクノロジーに対する理解抜きには成立しません。

理解が無いから、古いテクノロジーの既存のデザインフォームを無理やり適用し、運用しようとするのです。これはディジタル著作物の扱いから、デジカメのインタフェイスに至るまで共通の現象です。

デザインとは、製品の外側にしか存在しない訳ではありません。内側に、ソフトウェアに、製造工程に、そして素材から廃棄まで、全てにデザインは有らなければなりません。専業デザイナーにそれが可能でしょうか。

製品に関わるもの、全員がデザインをするべきなのです。そして、使い手も。


良い物は、実際のモノと作り手は、やはり素晴らしいです。Suica改札機アンテナ、ダイソン・サイクロン掃除機、そしてHHK。

本誌の記事は、それ以外はなんというか、テクノロジー寄りのものと、それ以外のデザインの扱いに断絶を感じます。

「カラフルピュアガール 2004年10月号」
出版社:
株式会社ビブロス
分類:
趣味,雑誌

今号で休刊です。

えろげ誌ですが、コラム目当てで時々買っていました。旧ピュアガール誌は一冊を除いてフルコンプだったりします。

AXIS誌と一緒に購入。えらく久々に買いましたが、色々と変わっていました。所々にログイン系(テックジャイアン誌の影響か?)の雰囲気が見られますし、コラムには旧日の面影は無し。最後くらい暴走して欲しかったなぁ。

肝心の内容であるえろげ情報のほうは、実にどーでもいいモノになっていました。これなら休刊は必然でしょうか。

でも、これだけは言っておかないと。ハイエンド万歳。

「野蛮の園 #2」
著者:
西川魯介
出版社:
白泉社
分類:
漫画,単行本

もうなんだか高専ネタから遊離してます。

実際の高専には(ほとんど)おなごいねぇよ!おなご教官はもっといねぇよ!

ネタももう尽きてきた感があります。でも、教官をネタにすればもっといけるのでは。どの高専にも変人教官の10人や20人は居ると思うのですが……

「かるき戦線#1」
著者:
太田虎一郎
出版社:
芳文社
分類:
漫画,単行本

ありがち設定が恥ずかしい主人公の親戚で下宿屋の娘の風紀委員、すばらしー。

いや違う、主人公っぽい設定だけどそいつは只の脇役、主役は宇宙人。アニメ見たさに耳飾りの変なアンテナ没収されて平気な程度の。こいつの地球征服がうやむやになったもんで高校生として転入してきたエスパー(スプーン曲げやスプーンを先割れスプーンにするのが得意)やサイボーグ、特にエスパーの眼鏡っ娘が主人公だったりすると嬉しいのだが、別に風紀委員も眼鏡っ娘なので、こちらが主人公でも問題無し。

中身は要するにドキドキ対決の無い太田虎一郎。職がんばれ。仕事がんばれ。

「ジオブリーダーズ #10」
著者:
伊藤明弘
出版社:
少年画報社
分類:
漫画,単行本

探していた筈の答は、鉛玉として返ってきた。

別の闇では、銃を向けると、答が返ってきた。


大体1年に一冊の割で出ている単行本、第十巻です。

これまでのパターンが決定的に崩れる、その崩壊の始まりです。平和な風景の裏側で、酷薄なストーリーが動いていきます。……高見ちゃんには、幸せになってもらいたいものです。がんばれ高見ちゃん。色々と負けるな高見ちゃん。

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